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第47話:もたらされた不穏

 仕立屋での仕事を終え、シオン達4人がお店から出ようとした時、ヴィマがシオンに綻んだ表情で訊ねた。


 「ねぇ、シオンちゃん?お屋敷で何かあった?」


 唐突な質問にシオンが首を傾げ訊ねる。


 「何か、とは何ですか?別段、問題は起きていませんが?」


 「ああ、ごめんなさい。詳しく訊けば良かったわね。いやね、シオンちゃん。今日、タスキちゃんに注文を受けたじゃない。その時に、いつもとは違う感じがしたの。なんて言えばいいのかしら?・・・そう!声が違ったのよね!随分と弾けるように楽しく語る声が聞こえてね。何か、いい事でもあったのかと、つい思っちゃったのよ!それで、シオンちゃん。何かあったの?」


 そうヴィマに語られ、シオンは思考を巡らす前に、直ぐにその要因に思い至った。

 すると、自分も口元を軽く上げた微笑んだ表情になった。

 シオンは、ヴィマを見つめ久しぶりの心からの晴れやかな表情で答えた。


 「ええ、とっても良いことがありました!」


 明るい声色がシオンの口から紡がれた。

 ヴィマがそれに眉を大きく上げて、嬉しそうに答えた。


 「あら!本当に!シオンちゃんも随分と、とげとげしさが無くなって、ゆとりが出来ていたものね!それに、笑顔がとってもキュートになったわ!それで何があったの?」


 「はい!それはですね・・・」


 シオンはヴィマの前で華やかに笑み、嬉しそうに、楽しげに、アリアの心の氷が解けた事を語っていった。

 ヴィマは、そんなシオンの雰囲気に引かれるように朗らかに微笑んで、「あら」や「本当に!」と驚きと喜びを持って相槌を打ちながら、シオンの話に耳を傾けていった。

 シオンからアリアの変化を全て聞き終えたヴィマは、表情に大輪の花を咲かせた。






 ヴィマもアリアの何かに悩み、諦めたような暗く塞いだ気持ちをずっと気に掛けていた。

 ヴィマは、アリアに避けられていたこともあって、お屋敷ではほとんど顔を合わせることがなかった。だが、たまに会う度に凍えるような瞳を向けて来るアリアに恐怖よりも、悲しさをずっと感じていた。

 恐ろしい程に孤独に満ちた瞳だったことをヴィマは覚えている。

 お屋敷はそんなアリアの雰囲気からずっと重く沈んだ空気に包まれ、会う使用人達も皆、表情が消え失せ、暗い雰囲気を纏っていたことをヴィマは見てきた。シオンもタスキも、ヴィマが昔から知る者達も、暗い表情を浮かべ、ただ仕事をこなす機械のような有様だったことを記憶していた。

 そんな記憶の中、今朝タスキから連絡が入ったのだ。

 ヴィマはまた無理難題の注文をされるのかと、いつの間にか、お屋敷の暗く重い空気に侵されたのか嫌気が差した気持ちで、通信機に出た。


 「はいはい、こちら仕立屋サンジェル。ご注文は何ですか?」


 投げやりな口調で、応えた。

 タスキはそんなヴィマの露骨な嫌気に怯むことなく、いや、気にならないぐらいの明るく弾んだ声音で通信機越しに、シオンから頼まれたアリアの運動に適した至高の逸品を注文していった。

 ヴィマは、通信機から聞こえる声が最初、誰のモノか分からなかった。だが、聞いていく内にそれがタスキのモノであると気づいた。ヴィマは、驚愕した。それほどまでに以前とは、タスキの声音が違っていたのだ。

 明るく弾むタスキの声を聞いたヴィマは、久しぶりにチェイサー家からの仕立ての依頼に、快く頷くことが出来た。

 アリアの明るくなった雰囲気がシオンを、タスキを、スイを、お屋敷で働く者達を明るくしていった。それは、お屋敷の空気をも変え、アン、ソウシ、ローズと普段お屋敷にいない者達の気持ちも華やかにしていった。更に、通信機越しにヴィマも明るくし、服を仕立てる意欲を取り戻させたのであった。

 ヴィマは久しく湧き起らなかった意欲を湧き起こし、タスキの熱の入った言葉に耳を傾けた。タスキの夢の詰まったアリアの運動に適した至高の逸品に熱弁を振るうタスキの意見をくみ取り、頭の中で大まかなデザインを作成していった。

 そして、そのデザインから実物を仕立て上げて、50着をシオン達と共に仕立て上げ終える頃には、楽しさでヴィマの心は溢れていた。

 ヴィマはお手伝いが終わり、シオン達がお店から出ていこうとした時、思い切ってなぜ雰囲気があそこまで変わったのかを訊ねてみた。勿論、訊ねる対象は、タスキだけでなくシオンも含めてだ。






 シオンから聞かされたアリアの変化。

 良い方向に変わっていったアリアにヴィマは、ぜひ会いたいと思えてきた。

 しかし、今すぐにお屋敷に向かう訳にはいかなかった。

 こちらも、他のご贔屓にしてくれている馴染み客の注文が残っている。更に、突然向かう事は礼節を欠く行為であり、いくら御用達の仕立屋でも、公爵家のお屋敷においそれと、入ることは出来なかった。

 ヴィマは、久しぶりに楽しく仕立て上げた娘達をどの様にアリアが着ているかを見に行こうと決めた。それは、唯、貰われていった娘達を見に行く母親としての思いだけではなく、ここまで自分に仕立てへのやりがいを思い出させてくれた、アリアの表情の変化を見に行きたいとの思いも詰まっていた。

 あれこれと、お屋敷に向かう為の手順に思考を巡らし、近いうちに許可が下り次第、向かう事を決意し、シオンに口を開いた。


 「ふふふ。本当にアリアお嬢様はお変わりになられたのね。シオンちゃんのアリアお嬢様を語る姿に、嬉しさが溢れていたわ。良かったわね、シオンちゃん!!」


 辛さを知っている者同士、万感の思いを込めてシオンに言葉を送った。


 「ありがとうございます。マスターのお気持ちに深く感謝いたします」


 シオンはヴィマの思いやりに満ちた言葉に、深く感謝した。

 しかし、ヴィマはシオンの感謝に恥じらいを覚え、慌てたように口を開いた。


 「感謝なんていいのよ!ヴァタシも、素晴らしいものをタスキちゃんとシオンちゃん、それに、・・・。お名前、まだ窺っていなかったわね」


 途中まで良い感じで語っていたが、まだ名前を聞いていなかった見習いメイドの3人に視線を向けた途端、思わず言葉が詰まってしまった。

 ヴィマは本当に申し訳ない気持ちで3人に名前を訊ねた。


 「ナルです」

 「メルです」

 「グリムです」


 見習いメイド達の3人は名前が分からず困り顔のヴィマに、自然な笑みを浮かべて、名前を告げていった。

 その時の3人がヴィマに抱いていた気持ちは、服を仕立てる時の真剣な表情と雰囲気から、いつの間にかヴィマへの恐怖心を消した、尊敬の念を抱いていた。

 なんだかんだ風変りな姿だが、心の根の誠実さがいつの間にか、皆に浸透していき受け入れられるヴィマに、彼女達も心を開いたのであった。

 ヴィマは、笑顔で彼女達の紹介を受け止めると、途中で止まっていた続きを話していった。


 「そう、ありがとう~!それでは、気を取り直して最初から行くわよ!シオンちゃん、感謝なんいいわよ~。ヴァタシもシオンちゃんと新しくこのお店に来てくれたナルちゃんに、メルちゃんに、グリムちゃんに素敵な元気を贈られたもの~。ああ~もう~、やっぱり、ヴァタシは、つまらない表情よりも楽しく綻ばせた表情の方が好きよ!」


 そう言い終わると盛大に屈託のない晴れやかな笑顔を浮かべた。

 そして、シオン達に今日のお手伝いのお礼の為に、ヴィマのキラキラお目めを見開いてからの特別ウィンクを2度プレゼントした。更に、ヴィマのお礼は続き、久しぶりに楽しさを運んできてくれたシオン達に、ヴィマ史上最高の唇を限界まで突き出した投げキッスと贈った。

 シオンは、冷静に片手を振るってその両方を打ち落とした。

 見習いメイド達の3人はお礼をもろに食らってしまい、悪寒に全身をガクガクと震わせ、シオンに縋りついた。その上更に、ギュッとシオンのメイド服の裾を掴み、この店を無事に出られるまで離さないと心に強く決めた。

 こうして、折角心を開いてくれた彼女達に天岩戸並みの強固な扉を閉ざされて、ヴィマとの彼女達の邂逅は幕を閉じた。

 見習いメイド達の3人に縋りつかれ少し身体を重たくしつつ、シオンはヴィマに仕上がった服についての扱いをヴィマに頼んでいった。


 「ヴァダンがいる馬車まで運んで置いてください」

 「分かったわ、シオンちゃん。送料は無料のおまけよ」

 「はいはい。では、私達はこの後も大事な用事がありますので、失礼いたします」


 そう答え一度シオンは頭を下げた。が、言い忘れていた事をすぐに思い出したシオンは、本題の前にワンクッションを挟んで、照れくさそうに語っていった。


 「ヴァダンに丁重に扱うように言っておいてくださいね。それと、・・・私も久しく感じなかった楽しさとお嬢様のお召し物を作れた喜びを共有できたので、一応お礼は申し上げておきます。マダム=ヴィマ、楽しかったですよ。次回もお嬢様のお召し物などをよろしくお願いしますね」


 そうヴィマに伝え、シオンは素早く頭を下げお辞儀をした。

 ヴィマはシオンの言葉の中にマダム=ヴィマと、呼んで欲しかった呼び名が含まれていたことに気付き、喜びがありありと浮かぶ顔でシオンにお礼を言った。


 「・・・シオンちゃん!やっと呼んでくれたのね!ありがとう~!!ヴァタシも楽しかったわ。これからも、うちをご贔屓にね」


 シオンはヴィマの言葉に深々と頭を下げ、顔を隠した。

 そして、頭を上げると、シオンは何事もなかった表情で、見習いメイド達の3人と共に店を後にしようとした。

 シオンがヴィマに背を向けた瞬間、ヴィマのシオンを呼ぶ声が唐突に背後から掛かった。


 「ねぇ、シオンちゃん?」


 シオンの記憶にないトーンの下がった緊張を含む声であった。

 シオンはゆっくりと振る返り、真剣な表情を浮かべた。鋭い視線をヴィマに向けて、静かな声で訊ねた。


 「どうしました、マスター?」


 一応の為、見習いメイドの3人を背後に隠した。

 シオンの視線と声を受け、ヴィマはしっかりとした口調で静かに聞き洩らしがないように丁寧さを心掛けながら口を開いた。


 「知ってる、シオンちゃん?この頃から、増えてきた事件の事?」

 「事件ですか?」


 油断ない真剣な表情でシオンが問いかけ返す。


 「ええ。ついこの前までは、遠くの地方でのみのそこまで目立たない事件だったんだけれど、段々とこの国中に全体に広がっていってる事件」


 「何ですか?それは?」

 「誘拐事件よ」


 ヴィマが、真剣な眼差しでシオンを見つめて、はっきりと告げた。

 更に、シオンを見つめたまま重苦しい空気を纏ってシオンに続きを語った。


 「一月に何人か、女の子達が街から消えていってるの?」

 「消える?どういう事ですか?」


 「それはね、ふと目を離した隙に、女の子達が消えていくの?例えば、最近の事例では、

人通りの多い通りで、隣を歩いていた娘を、一瞬目を離した隙に攫われたらしいの」


 「それは、攫われたが正しいのでは?」


 「そうなんだけど、攫われた女の子達を警備兵が懸命に探し回っているんだけど、一向に手掛かりも監禁場所も見つからないらしいの。誘拐された女の子の中には、貴族の娘も混じっていて、貴族が探偵や私兵を動かして探したらしいけど、それでも監禁場所も手掛かりも見つからない。だから、巷では神隠しに遭って女の子達が消えたって広がっているわ」


 真剣な表情で話すヴィマを見据え、シオンが眉間に皺を寄せ難しい顔をする。

 数秒、思案するとシオンがヴィマに声を掛けた。


 「どれくらいの年齢の少女が狙われているのですか?」

 「15歳位までの少女らしいわ」


 険しく表情を顰めたシオンは、思案しつつ訊ねた。


 「奴隷、愛玩などとして、売られた可能性は?」


 ヴィマは憤りを少し浮かべた表情で答えた。


 「それは、今の所ないわね。警備兵や密偵が密かに闇オークションなどを摘発しているらしいんだけど、どれも外れらしいの。もしかしたら、この国では売らないで、隣の帝国に連れて行かれているのかも」


 シオンの表情が更に険しくなっていく。


 「国境の検問でも引っ掛からないんでしょうね。見つからないという事は。・・・この国の上層部が絡んでいる可能性がありますね」


 「ヴァタシもそう思うわ」


 ヴィマは、そう言い抑えていた憤りを露わにした。

 シオンは、自分の推測とヴィマの同意を受け、心の中が冷めていく。


 「腐ってますね」


 無感情で呟いた。


 「ええ、腐りきっているわ、シオンちゃん!!」


 ヴィマが怒りの感情を露わにシオンに同意した。

 そして、シオンにヴィマが頷いた時、もう1つ言い忘れていた事を思い出して、シオンに語り掛けた。


 「それとね。多分同じ事件の系列だと思うんだけどね。この間、貴族のご令嬢が乗っていた馬車が襲われたわ。この地方とは大分離れた地区で、パーティー帰りの馬車が狙われたの。乗っていたお供の従者と警護の者は皆殺し。一緒に乗っていたはずのご令嬢は行方不明。恐らく、攫われたんでしょうね」


 ヴィマは攫われた少女の事を思うと、心が痛くなり辛そうな表情を浮かべる。

 シオンも同じように、痛ましい様子で顔を顰めた。

 そして、先程からずっと黙って2人の話を聞いていた見習いメイドの3人は、蒼ざめた表情を浮かべ、シオンとヴィマを見つめていた。

 ヴィマは、思わず下げていた顔を上げて、シオンを見据え口を開いた。


 「それとこれには続きがあって、まだ公にはなっていないのだけれど、他にも何件か襲撃を受けた馬車があるの。その尽くが、貴族の馬車で皆殺しにされていたの。ご令嬢が乗っていれば行方不明に、ご令息だった場合は殺されていたらしいわ」


 はぁ、と辛そうに息を吐くと、ヴィマは再びシオンを見据えた。

 そして、シオン達を心配する表情になると、重苦しく口を開けた。


 「シオンちゃん、ナルちゃん、メルちゃん、グリムちゃん、貴方達、帰り道は注意してね。相手が何者かも分からないの。無理に戦わず、逃げなさい!」


 心の底からシオン達4人を案じて、ヴィマがそう警告する。

 シオンはその警告に、何かを抑えるように小さく笑って答えた。


 「ふふ。そうしますね」


 ヴィマはシオンの小さく零した笑いを聞いた途端に、背筋が震えた。

 しかし、すぐに顔を振って気を取り直すと、最後に言おうと思っていたことをシオンに真剣な表情でゆっくりと伝えた。


「シオンちゃん、しつこいかもしれないけど、狙われている女の子は殆どが15歳以下。今お屋敷にいるアリアちゃん、フウちゃん、セツちゃんの3人がこの年齢の条件に当てはまるわ。だからね、シオンちゃん!絶対に外出する際は、この3人から目を離さないようにして!それと、手口が暴力的になってきているから、相応の警護を付けて頂戴!」


 「はい、喫緊の課題として警護の強化を進めます。それと、警護の者に命を賭してでも、彼女達を護るように心掛けさせます。私も、全身全霊でお嬢様と、フウとセツを御護り致します」


 シオンはヴィマに答え後、暫しの間思考を巡らし、帰り次第すぐに進めようと考え付いた対策を口にしていった。


 「外出の際、アリアお嬢様の護衛には私の他にタスキを付け、ヴァダンにはお屋敷の方でフウとセツを護らせるように変更いたします。まぁ、お屋敷まで乗り込んでくる馬鹿はいないと思いたいですが、今後の状況次第ではあり得る恐れがありますからね」


 そこまで述べると、シオンはヴィマに顔を向けた。


 「それではマスター、私達は早めに用事を済ませて帰りますので、この辺りで失礼します。情報、ありがとうございました」


 深く頭を下げヴィマに感謝を示した。

 ヴィマはシオン達に何処か不安の浮かぶ顔を向け、そっと口を開いた。


 「気を付けてね」


 それだけを口にした。他にも、シオン達に伝えたい事はあったが、口を噤んだ。無闇に伝えて、それが本当になってしまったらヴィマ自身が後悔すると口を噤んだのであった。

 ヴィマの言葉から気持ちを察して、シオンと見習いメイド達の3人も唯、一度頭を下げるだけで何も口にせず、仕立屋サンジェルを後にした。

 シオンは先ほど聞いたヴィマからの警告を心に刻み込むと、見習いメイドの3人の不安そうに沈んだ様子を目にし、明るく声を掛けた。


 「さぁ、ナル、メル、グリム、仕事も終わりましたよ!やはり、仕事終わりは街でパーっと息抜きをしましょう!あ、そういえば!特別手当が出ていましたっけ!」


 シオンはさも今思い出した風を装い、元々用意しておいた見習いメイド達へのシオンからのお小遣いを外套の懐から徐に取り出した。

 逃げることなく、真面目に仕立屋でのお仕事を頑張った暁に、研修の合格の証と称して渡そうと考えて、シオンが準備したものだ。

 やはりシオンにとって部下は皆可愛いので、余程の事がない限りは甘やかしたくなってしまうのだ。

 今はそれを別の意味の、少しでも不安から解放されることを願い、手渡そうと考えた。

 シオンはにこりと笑って、不安な表情の見習いメイドの3人に、優しく手渡した。


 『ありがとうございます』


 3人は願いが叶って、笑顔を浮かべてシオンからご褒美を受け取った。

 シオンは、3人に気付かれないようにホッと一息吐き、微笑みを浮かべて3人を見つめた。

 受け取った3人は、結構な厚みのある封筒に驚き、顔を上げてシオンを見つめた。


 「こんなにたくさんもらってもいいのですか?」

 「メイド長、これ本当に特別手当なんですか?」

 「私達の為に、メイド長ご自身が出したお金ではないんですよね?」


 怪訝な表情で、シオンに訊ねた。


 「そんなことはありませんよ。さぁ、いつまでも表に出していないで、盗まれないようにさっさと仕舞いなさい」


 『はい、メイド長』


 まだ何処か腑に落ちない様子で、3人が大切に仕舞った。

 シオンはそんな3人を穏やかな面持ちで見つめてから、口を開いた。


 「さぁ、折角特別手当が出たんですよ、時間が許すまで街を存分に散策しましょう。スイーツ、新作のお洋服、アクセサリー、何でも好きな物を買って楽しみましょう」


 『はい!!』


 そう3人が答えた後、その内の1人、メガネ姿が可愛らしいグリムが、躊躇い気味にシオンに訊ねた。


 「メイド長は、この後どの様なお店を回るのですか?」


 尋ねられたシオンは、数秒悩んでから行きたいと考えていたお店などを浮かべて、グリムに答えた。


 「私は、最初にランジェリーショップに行こうと考えています。そろそろ胸元もきつくなってきましたし、お嬢様もそろそろ必要になるお年頃ですから、店員さんに色々と聞きに行きたいと考えていました」


 「そうなのですね」


 そうグリムが返して、視線を自然な風に装いシオンに、特に胸に向けた。残りの2人もその会話を聞いて、シオンの胸元に視線を向けた。

 ご立派なお胸様が威風堂々と聳え立ち、その貫録を3人に見せつけた。

 3人はその荘厳なお姿に見惚れつつも、ここまで違うのかと大きなショックも受けていた。視線を無意識に自身の胸元に落として項垂れる3人。

 3人が落ち込んでいるとは気づかずに、シオンが声を掛けた。


 「ちゃんと仕舞ったのならそう簡単に盗まれませんよ。では、時間ももったいないですし、仕事終わりのストレス発散と行きましょう!」


 『はい、メイド長』


 シオンの明るい声とは対照的に、格差で打ちのめされた3人は若干声のトーンを落とした沈んだ趣で、街の散策へと向かって行った。

 3人はシオンと共に歩き、少しでもお恵みを頂こうと傍にぴったりとくっ付いていった。

 もう3人に、先程までの事件に対する不安は見受けられなかった。

 シオンは小さく微笑むと、見習いメイド達と時間が許す限り街を散策することを決めた。




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