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宰相閣下

「宰相閣下ご報告です。」


「申せ。」


「はい、クシュナ夫人ですが最近、異国の者と通じていることがわかりました。屋敷に、褐色の肌の者が出入りしているのを確認致しました。ただ今、その者がどこの国の者か調査中です。」


 異国の者…。


 王都は塀で囲まれている、どうやって中に入った?正式な手順であれば記録があるはずだ。門は四つ、東西南北に一つずつある。そこで身分証の確認と記録をする。しかし、北門ここは貴族専用となっていて、代表者のみを確認すると従者一人一人を確認することはない。もし、記録がなければ積み荷に紛れ込んだか、従者として紛れていたか、誰か貴族の手引きがあったかだな。


「門番達へ連絡しろ。褐色の肌の者がこの王都へ入った記録がないか調べろと。」


「はっ。」


 先程、報告に来た兵士は短い返事をすると足早に部屋を出て行った。


「クシュナ夫人の動きが怪しいな、どう思う?」


 リマンド侯爵は側で書類に目を通しているフリードリッヒに声を掛ける。


「はい、確かに、宰相が襲われた日から夜会に姿を現していません。王都中の夜会全てといっていいほど参加されていた方です。病気でなければ何かあると考えるのが普通かと。私は、ハンソン様に違和感を覚えていまして…。」


ハンソンについて、奥歯にモノが詰まった話し方が気になるな。


「ほう、何故だ。」


「はい、あまりにもハンソン様の都合の良いように物事が進んでいる気が致します。ハンソン様は本当は次期侯爵よりルーキン伯爵家を継がれたいとお考えだったとか。後は、結婚適齢期を逃していたとはいえ、あの辺境伯父の一人娘との婚姻がすんなりいったことです。彼女は魔法ならず武芸にも秀でた人物です。メープル騎士団ならず、他の騎士達にも人気がありました。今まで好条件の婚姻の申し込みが無かった方が不思議です。」


 ほお、あの者がそれ程人気だったとは、辺境伯父の話とは全く違うな。会う度に、男勝りで男より強いから嫁の貰い手がないと嘆いていたぞ。


「ハンソンの都合のよいように進みすぎているか…。借金しかり、クシュナ夫人しかりか。ハンソンとニキータ嬢が恋仲であればそれもそうだな。」


 フリードリッヒの話が本当なら、あまりにもハンソンに都合が良すぎるか…。だが、私にはマリアンヌの婿になりたいと再三アピールしていたはずだが…。


「はい。」


「ハンソンはルーキン伯爵の亡き最初の妻の子だ。後は、後妻に産ませた子達だ。その後妻も死亡している。その後、婚姻が決まっていた妻がルーキン領へ行く途中に行方不明になった。盗賊にでも襲われたのだろう。それ以来ルーキン伯爵は妻を娶っていない。彼はルーキン伯爵家で孤立しているという話だ。ゆえにルーキン伯爵はマリアンヌとの結婚を後押ししていた可能性があるか。」


 ハンソンが絡んでいる?だが、ルーキン家でのハンソンの味方はルーキン伯爵一人だ。その人物を死に追いやるか?ハンソンとクシュナ夫人の関係が気になる所だが…。あれ程、ルーキン家でクシュナ夫人が見掛けられたのだ。面識がないことなど有り得ない。では、なぜ私が狙われる?この二人は私が殺されて直接得をする者ではない。


「ルーキン伯爵の行方不明になった妻とは?」


「ああ、公にはなっておらんがシュトラウス子爵令嬢、ミハイロビッチの腹違いの姉だ。この婚姻でルーキン家からシュトラウス家に多額の金が流れたと聞いている。」


 本来ならハンソンの妻にと考えていたらしいが、確か、シュトラウス家の財政状態が悪く、ハンソンの成人までの2年間を持ち堪えられないということで、ルーキン伯爵の後妻として嫁ぐことになったと聞いている。ルーキン伯爵はどんな形であれ特別な家の血筋である彼女がどうしても欲しかったのだろう。


「ミハイロビッチに姉がいたとは初耳です。」


 フリードリッヒは凄く驚いた様子だった。


「ああ、彼女は身体が弱く殆ど社交の場に姿を見せることがなかったからな。」


「では、もし彼女が生きていたなら、そして、ジュリェッタ嬢の師として治癒魔法の鍛錬に付き合っていたなら、ジュリェッタ嬢が治癒魔法を使えるようになった謎は解決致します。」


 リマンド侯爵はフリードリッヒの言葉に首を横に振った。


「とても美しい女性だ、生きていたなら噂ぐらいは耳に入るであろう。それに、治癒魔法の鍛錬に付き合えるほどの体力が彼女にあるとは思えんな。取り敢えず、ハンソンとクシュナ夫人の関係を私の方で調べてみよう。」


「わかりました。」


「フリードリッヒ、昨日のマリアンヌの様子はどうであった?話したのだろう?」


 リマンド侯爵は父親の顔になりフリードリッヒに問う。フリードリッヒはその問いに顔を曇らせる。


「はい、マリーには耐え得る話ではありませんでした。それで、最後までは…。」


「そうか、私が冒険者の数の調整を竜討伐に乗じて行っているとは言えなかったか。」


「はい。マリーには到底受け入れることは…。ですが、それにより治安が維持されているのも事実です。」


 竜討伐参加者には資格がいる。35歳以上であること、Bランクまでであるということの2点だ。理由としては、駆け出しの冒険者は足手纏いになるためベテランのみで討伐を行う、また、Aランク以上が参戦するとその者が貴族となることが確定する。チャンスは平等であるべきだ。その上、竜討伐中に他の災害級のモンスターが出没した場合に対応する人物がいなくなるというのが理由だ。


 最もらしく言っているが、35歳以上の成長の止まった冒険者を一掃したいという狙いがある。彼らは、この先、問題を起こす傾向にあるからだ。クエストに成功する確率が減り、食うに困る。行き着く先は野垂れ死にか、スラム街、それか野盗だ。そもそも、それほど実力が無く堅実に生きている者は、冒険者時代に稼いだ金を元手に30歳を過ぎた頃から第二の職業へ転向しはじめるからだ。


「スラム街の浄化を始めるつもりだが、この様子だとマリアンヌの魔法学園入学まで待つべきかもしれんな。」


 今回、襲撃されて確信したが、やはりあそこが治安悪化の原因であることは間違いない。さて、どのような理由をつけて立ち退かせるかが問題だ。働く意欲のある者達の救済も必要だ。


 マリーが私の跡を継ぎ政策を行うことは難しいか。なら、フリードリッヒを育てるのが近道か…。それとも…。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 各話タイトル部分の宰相の敬称が陛下のままになっています 本文書き出し部分は宰相閣下になっているので各話のタイトルも修正したほうが良いかと
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