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リマンド侯爵の執務室

 夕食の後、お約束通りお父様の部屋へ向かいます。昨日、言われていた治癒魔法について説明して頂く為です。


 ノックをし部屋へ入るとお父様はいつも通り、執務をこなしてらっしゃいました。その傍らには、お兄様の姿があります。机上の紙の山がいつもよりだいぶ少ない気がします。


 書類から目を離し、侯爵はマリアンヌに声を掛けた。


「マリー、そこへ座りなさい。」


「はい。」


 マリアンヌが素直に指された椅子に腰を下ろすと、侯爵は羽ペンをペン立てに立て、マリアンヌに視線を合わせた。


「宰相、俺は退出していましょうか?」


 フリードリッヒが纏めていた書類を袋に入れてから宰相に伺う。


「いや、君もそこにいてくれ、君は特別な血を引く者だ。それに、魔法学園の卒業生でもある。聞いていても問題はあるまい。」

 

「わかりました。」


 フリードリッヒはそう返事をし、自分の椅子に座り直した。


「では、何から話そう。治癒魔法は学園を卒業するまで決して使ってはならないということは話したね。そして、お前が治療魔法を使えることを公言することも。」


「はい」


「治癒魔法は皇太子でない限り、魔法学園で取得することになっておる。それが魔法学園を卒業するまで治癒魔法を使ってはならないこれが表向きの理由だ。だが、お前は不思議に思ったことはないか?文官である私もスミス卿も治癒魔法が使えないが武官であるソコロフ卿やヴルグランデ卿が使えることに対して、スミス家のお嬢さんに聞いたのだろう?治癒魔法の習得方法について。お前が考えている通りだ、私はヴルグランデ卿と競った、魔法能力だけではなく武人としての能力を攻撃魔法と戦術はヴルグランデ卿に勝っていたのだが、お前も知っておる通り馬術がね。剣術はからっきしでもどうにかなるが、大将が早駆けができないと軍として致命的と言われてヴルグランデ卿に治癒魔法を譲ることになったわけだ。」


 お父様、馬術が原因で武官を諦められたとは初耳です。そもそも、武官を目指してらっしゃったことに驚きです。


「では、スミス侯爵も?」


「ああ、相手はソコロフ家の長男だ。スミス卿はもとより、皇后やスタージャ嬢より魔力が低いのも敗因だろう。剣の腕前は私と違ってなかなかだからね。話が逸れたね。スタージャ嬢と皇后のように例外もある。皇后はマリーと同じく学園に入る前に治癒魔法を習得された。皇后になる為により自分に近い能力のスタージャ嬢と鍛錬に励まれ、そして皇后になられた。皇后が治癒魔法の能力を習得された時はまだ、その時の皇后陛下が聖女として君臨されている。しかし、習得した治癒魔法能力はそれを上回る可能性がある。そうなると、その時の皇后陛下は御実家に戻されることになる。だから、治癒魔法が使えても伏せておくんだ。学園で使えるようになるのはちゃんと、調整のされたものだからね。」


 学園を卒業するまで、治癒魔法を使ってはならない理由はわかりました。


「でも、お母様がマリーは治癒魔法が使えるって言いふらしてるのもいけないのでは?」


「エカチェリーナがマリーが治癒魔法を使えると言いふらしているのは、ジョゼフ殿下と上皇陛下への牽制だよ。上皇陛下は次の皇太子をジョゼフ殿下にしたいとお考えだ。しかし、皇太子になる条件は治癒魔法が使えること。その為には相手が必要だ、それで目を付けたのがマリー、君だったわけだ。だが、君が治癒魔法を使えるとなるとその相手は務まらない。そもそも、君が治癒魔法を使えるようになるのはエカチェリーナの悲願だからね。彼女の希望を言ってるだけだと周りは思っている。それに、治癒魔法は使わない限り、使えるかどうか分からないからね?お前が、治癒魔法を使えると公言したり、使わなければ大丈夫だ。」


 そういえは、昔、ジョゼフ殿下と一緒にお爺様に言われて魔法の学習をしたことがありましたわね。ジョゼフ殿下がすぐにやる気を失くされて、この学習会は取り止めになったんですよね。もしかしてジョゼフ殿下が意欲的だったら治癒魔法を…。騙し討ちじゃないですか…。恐ろしい。お母様が一生懸命牽制なさっている理由がわかりました。


「わかりましたわ、お父様。」


「ここからは、魔法学園の話に戻そう。魔法学園の校則の話だ。魔法学園の校則についてはフリードリッヒも知っている通り、治癒魔法についても触れている。治癒魔法は、陛下の許可を得てのみ使用することができると。そして、校則違反は学園退学か修道院で一生を過ごす。それは、罪の重さによってとある。」


 フリードリッヒは侯爵の言葉に頷く。


「治癒魔法使用は修道院で過ごすことになる。治癒魔法を使えるほどの能力を持つ貴族は皆、学園へ通う。学園でそのことを学び誓約書を書き卒業する。言いたいことはわかったかね?」


 治癒魔法は陛下の許可なく使用してはならない、と言うことですわね。日頃、治癒魔法について厳しく言われていた原因がわかりました。


「はい、肝に銘じます。」


 リマンド侯爵はマリアンヌの返事に満足そうに頷くと、再び口を開いた。


「ルーキン家のことで、お前達の耳に入れておくことがある。今日、ルーキン伯爵とハンソンと話をしてな、ハンソンが正式に爵位を継ぐこととなった。それにあたり、ハンソンはアーバン辺境伯の娘であるニキータ嬢と、婚姻する運びとなった。」


「また、急ですね。まさか今日申し込みをして、すぐに承諾を得たのですか?」


 フリードリッヒは立ち上がらんばかりに身を乗り出し、目を見開いてリマンド侯爵をみる。


「そうだ、私がルーキン伯爵の代わりにハンソンがアーバン辺境伯のところへ行くのに付き添ったのだからな。」


 まあ、ハンソン様、あんなに私との婚約に一生懸命だったのに?ニキータ嬢、気になりますわ。


「ニキータ嬢とはどんな方ですの?」


「ニキータ嬢はハンソンと同じメープル騎士団に所属しているので旧知の仲らしい。剣術の腕前はそこら辺の騎士顔負けで勇猛な女性騎士だと聞いておる。今年21歳になられるので、結婚を諦められていたアーバン辺境伯にとってはまたとない話だったのだろう。涙ながらに喜んでおられた。」


 女性騎士ですか…。実は、ハンソン様とニキータ嬢はお互いに惹かれあっていたが、ルーキン伯爵がどうしてもハンソン様を私と結婚させたかっただけとか?それで、ルーキン伯爵に逆らえないハンソン様が私を形式的に口説いていた?うん、絶対そうですわ。ですから、ニキータ嬢もその歳になられるまで婚約されなかったんですわ。なんてロマンティックなんでしょう。

 

「妻帯しなければ爵位は継げないからね。で、ルーキン家の借金はどうなったのですか?あれほどの借金があれば婚姻に差し支えるでしょう?」


 勝手に盛り上がっているマリアンヌを他所にフリードリッヒは冷静にリマンド侯爵に尋ねた。


「ああそれか、それは我が家からの報償金で返済の目処がたつと思うぞ。なにせ、ルーキン伯爵が自分の身を挺して私を守ってくれたのだからそれなりの金額を支払ったよ。まだ、犯人も捕まってないし、ハンソンには引き続き頑張って貰わねばならないからね。エカチェリーナがそれにイロまでつけていたからかなりの金額になったのではないだろうか。珍しく、セルロスがそのお金をケチらなかったからな。クシュナ夫人もルーキン伯爵と無事別れられたみたいだし、これから、ルーキン家の借金が増えることは無かろう。」


 あはは、いったいルーキン家にいくら支払ったのでしょう。兄様も私と同じことを考えてらっしゃるみたい、顔が引きつってらっしゃいます。


 お父様の報償金より、お母様のイロの金額が気になります。


「クシュナ夫人の新たなお相手は、どのような方ですか?」


 だって、あのクシュナ夫人ですよ。凄く気になるじゃないですか?


「それが、まだわからんのだよ。珍しく、皇后陛下の誕生日の夜会に顔をだされなかったしな。そのような噂は耳にしておらん。」


 フリードリッヒも頷く。


「クシュナ夫人の新たなパトロンであれば、社交界では噂になるはずですが、昨日は聞きませんでしたね。それどころか、あれほど沢山いたパトロンと関係を切っているとさえ聞きました。どこかへ後妻にでも入られるのでしょうか?」


 なるほど、どんなに妖艶とはいえ、人間歳には勝てませんわよね。兄様の仰る通り、あの美貌を武器にして大金持ちの後妻にはいれば、クシュナ夫人だって安心なはずです。


「わからん、一応調べさせるか。」


 リマンド侯爵は席を立つと、隣の部屋へと継ぐドアを開け、その部屋に待機している者へクシュナ夫人について調べるように命を出した。


 席へ戻ったリマンド侯爵に対して、フリードリッヒが質問する。


「ジュリェッタ嬢への礼はどういたしますか?」


「そうだな…。ジュリェッタ嬢がこのことをフリードリッヒに伝えなければ、私は死んでいたのだから、何かしら礼はしなければならないな…。彼女が、私にしてくれたのは忠告だ。そう言えば、ルーキン伯爵から彼女の後見人になりたいと相談されていた、目の色が同じなのがどうしても気になるそうだ。よし、2人への礼として、陛下へルーキン伯爵がジュリェッタ嬢の後見人になれるように進言してやるか。」


 あの、お父様、すっごく悪い顔されているんですけど、本当に礼だと思ってらっしゃいます?


「スミス侯爵にも、貸しを作れますしよいお考えです。」


 フリードリッヒはそう言うとニッコリと笑った。


「フリードリッヒ、今日はもういい。マリーも市井へ足を運ぶことが増えた、店も持ったし今後はもっと増えるだろう。マリーにスラム街のことを教えてやってくれ。私の口からはどうもね。」

 

 リマンド侯爵は苦笑いしつつ、フリードリッヒにそう告げた。

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