乙女ゲー 序章 ①
淑女教育が遅れてるからって、城住まいになった。最悪、街へ遊びに行けないし、リフリード様にも会えない。
後、街で治癒魔法を使ったことをめちゃくちゃ怒られた。簡単に治癒魔法使ったらダメなんだって!でも、治癒魔法使ってなかったら、あの子死んでた。だから、治癒魔法使ったことに後悔はしてない。
この前、やっと、侍女から合格が出て、デビュタントとして陛下へ挨拶をすることができそうだ。
良かった、お父さんも喜んでくれた。これでストーリーに入れる。後は、魔法学園へ入学してゲームの通りに進めば大丈夫。きっと、上手くいく、だって一度は攻略したんだもん。ただ、今回はリセットが出来ない、慎重に進めなきゃ!
デビュタントのエスコートは基本的には、婚約者か家族がすると侍女に教えて貰った。フリードリッヒ様に頼もうと思って、近衛兵の待機場所に行ったけど見つけることが出来ない。最悪!
「ジュリェッタ、陛下からデビュタントの時に着るドレスを賜ったぞ!」
お父さんが嬉しそうに、ドレスを持って部屋へ入って来た。この部屋は、私達親子の為に陛下が用意してくれたもの。でも、陛下や殿下、騎士達が使う棟とは別の場所にあるの、どちらかと言えば、侍女や使用人が使う建物。そりゃぁ、侍女だってどこかの貴族の娘だけど…。それに喜ぶお父さんもなんか納得行かない。だって、お父さん勇者なんだよ?
でも、お父さん、ドレスを嬉しそうに貰ってきたから喜ばなきゃ!
「わぁ、嬉しい。見てもいい?」
「ああ、当然じゃないか!」
箱を開けると、純白の絹のレースをたっぷり贅沢に使ったドレスが入っていた。リフリード様が買って下さったのよりだいぶ高いわよね?別の箱には、ドレスと同じ生地で作られたリボン。隣の箱は、綺麗な真っ白のヒールが入っている。一番小さな箱には、クリスタルのイヤリングと、ネックレス。
すっごい豪華な贈り物。
女の子として本当は嬉しいはずなのに全く嬉しくないのは何故?
そう、だってコレ全部税金で作ったんでしょう?
税金のせいで、王都のスラム街で苦しんでいる人、沢山いるんだよ?
貴族がこんなに贅沢するなら、こんなドレスを作るくらいなら、スラム街のみんなに住む場所と、仕事を用意してあげたらいいじゃん。そう考えると、日本はまだマシ?だったかな?あっ、でも、浮浪者とかいたから変わんないかな?
「すっごい豪華だね。」
「そうだろ、ジュリェッタはお母さんに似て美人だから絶対に似合うぞ」
「うん。ありがとう、お父さん」
今日は皇后陛下の誕生日なんだって、そこで社交界デビューをすることになった。いゃぁ、魔法学園の入学ギリギリじゃん!明後日だよ入学式!社交界デビューしないと入学出来ないなんてビックリだよ。そう考えると、城へ連れて来られての淑女教育はヒロイン補正がかかったってことかな?だって、そのお陰でギリギリ入学式に間に合ったもん。カーテシーも、口上の挨拶もダンスも出来るようになったし!やっぱり、私、この世界のヒロインだね。
朝から、侍女さん達がドレスを着せてくれる。お父さんいわく、彼女達の方が身分が上らしい。それなのに私の手伝いをしてくれるんだよ。なんか、凄くない?
化粧をして貰って、髪を結ってリボンで留めてくれた。ずっと、マナーを教えてくれた侍女さんに口上の言葉を復唱させられている。そうだね、間違って社交界デビュー取り消しになったら大変だもん。しっかりと練習しなきゃ。
「ジュリェッタ嬢、最初からこれくらい真面目に取り組んでくだされば、私も楽だったのに」
「ごめんなさい。」
ここは素直に謝っておこう、きついことを言われたけど社交界デビューできるようにしてくれたもんね。
「さ、バルク男爵がいらっしゃいました。会場へ向かわれて下さい。」
お父さんが着替えて来た。軍の正装らしい。胸元に勲章が一つ付いている。
「ジュリェッタ、よく似合う。お母さんに見せてやりたかった。」
涙ぐんでるよ。
「ありがとう。お父様もよく似合うよ。」
「ああ、さっ、行こう。陛下もお待ちだ。」
「うん。」
玉座の横の通路を使えば早いのにわざわざ回って、正面から入る。玉座の横の通路は今日は王室の人間しか使えないんだって。みんなが私に注目している。そうだよね、私、この中で一番可愛いもん!悪口言ってる人がいるけど、多分、私が可愛いから嫉妬してるんだよ。
お父さんと侍女さんに習った通りに、玉座の前まで進みでカーテシーをする。陛下から言葉を頂いたら、侍女さんに習った口上を述べる。よし、完璧、これで終わり。良かった!
ほっとしたら、喉が渇いた。壁際に移動して飲み物を貰うと、どこぞの貴族に声を掛けられた。
「ジュリェッタ嬢、宜しければ私と一曲踊って頂けないだろうか?」
「喜んで」
本当はフリードリッヒ様と踊りたかったな。でも、近衛騎士だから今日は仕事かな。
うそ、ひっきりなしにダンスのお誘いがある。やっぱり、私、可愛いんだ!
「ジュリェッタ嬢、私ともダンスを…」
「ごめんなさい。少し疲れたの、後、お腹も空いたし。」
「ああ、ならこっちへ来て座るといいよ」
ああ、楽ちん。席確保してくれるし、料理もとってきてくれた。
ふと横を見ると、フリードリッヒ様が目に入った。
なんだ、フリードリッヒ様いらしてたんだ。あれは、正装だ、画面で見るより、実物の方が数倍素敵!そうだ、ダンスのお誘いに行こう。皆んな誘ってくれるんだもん、そんな私から誘われたら嬉しいよね。きっと。
「こんばんは、フリードリッヒ様。お久しぶりです。最近、近衛兵団にお邪魔してもいらっしゃらないんですもの!」
ジュリェッタはにこにこと、フリードリッヒに話しかけた。
しかし、フリードリッヒはジュリェッタに全く目を合わせる気配すらない。
あれ?気が付いてない?
「ねえ、フリードリッヒ様。私、ダンスを踊れるようになったんですよ。一緒に踊って下さい。」
なんで無視するかな?
「そこの貴女、婦女子から話しかけるのはマナーに反しますわよ。」
不意にジュリェッタは注意を受けた。その声の主は悪役令嬢であるマリアンヌだ。
「あっ、悪役令嬢」
ジュリェッタは小さく呟く。
マリアンヌの怪訝そうな顔にハッとする。
やばーっ。
「これは、失礼しました。えーっと、マリアンヌ様。私、ジュリェッタ・バルクと申します。」
城の侍女さんに習った通りカーテシーをして挨拶する。
「あら、ジュリェッタ嬢、私の名前をご存知ですの?」
わっ。そうだよ、知らないはずなんだよ。
「はい、えーっと、ゲームじゃなかった、えーっと、そう、有名ですので!後、リフリード様に聞きました。」
あー、もう。てんぱっちゃったじゃん。そう、リフリード様に聞いたってことにしちゃえ!
「そう、勇者様の娘であられる貴女に顔を覚えていただけていたなんて、光栄ですわ。では、失礼致しますわね、ジュリェッタ嬢。シードル様がいらっしゃいましたわ、行きましょう、兄様。」
えっ、嘘。フリードリッヒ様も連れて行っちゃうの?全く話してないよ。慌てて、フリードリッヒ様の腕を掴もうとすると、サラリと躱されてしまい、マリアンヌ様のドレスをふんで転けてしまった。
あっ、こんなイベントあったよね。学園に入学してから発生するジョゼフ殿下との出会いイベント。実際には、足を引っ掛けられて転ぶんだけど…。
「なんてことをするんだ、マリアンヌ!」
後ろから、怒気を孕んだ声がする。後ろを見ると、眉を吊り上げたジョゼフ殿下がいらっしゃいました。
わぁ、本当に出会いイベント発生した!
ジョゼフ殿下がジュリェッタに手を差し伸べる。
ストーリー通りだね。ここはゲームのジュリェッタと同じようにと。
「大丈夫です、ジョゼフ殿下。ジュリェッタが勝手に転んだだけですわ。マリアンヌ様は悪くありませんわ。」
ジュリェッタはうるうると瞳に涙を浮かべて、マリアンヌを見る。
「ジュリェッタ、本当のことを言うんだ。マリアンヌ嬢に足を引っ掛けられたのだろう?」
わぁー、一語一句ゲームの通りだ。
「あっ、でも…。」
「やはり、そうか。マリアンヌ嬢、ジュリェッタ嬢に謝りなさい。」
ジョゼフ殿下はマリアンヌを睨み付けて謝罪を要求した。
「ジョゼフ殿下、私はジュリェッタ嬢に足を引っ掛けてなどおりませんわ。ジュリェッタ嬢にドレスの裾を踏みつけられは致しましたが。ドレスのブラックダイヤを踏まれて、滑って転ばれたみたいですわよ。お陰で、ドレスが破れてしまいましたわ。」
ジョゼフ殿下は瞳に涙を浮かべているジュリェッタ嬢を引き寄せ、マリアンヌのドレスの裾に目をやる。マリアンヌのドレスは無残にも裾が破れていた。
「目下の者にそのような物言いは、良くないぞ。マリアンヌ嬢」
「事実を申し上げたまでですわ、ジュリェッタ嬢にではなく、私のことをお疑いのジョゼフ殿下に!なにをジュリェッタ嬢に言っているなどと勘違いなさっていますの?ジュリェッタ嬢は先程から、私が足を引っ掛けたなどと一度も仰ってませんわよ。ご自分で転んだとおっしゃられたではありませんか。」
そうなのよね、事実、私が勝手に転んだから、マリアンヌは悪くないんだよね、今回は。
「くそ。マリアンヌ嬢、これから気を付けるように。」
澄ました声で、マリアンヌがジョゼフ殿下に答える。
「何に気を付ければ良いのでしょう?」
「うるさいな。行こう、ジュリェッタ嬢。」
あれ、立ち去るのはマリアンヌじゃなかった?あっ、学園じゃないからかな?
まっ、いいか、ゲームスタートってことだよね?




