表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
日常系ファンタジー  作者: 青井渦巻
運命の章
99/171

ヒマク

レイン姫のおはなしです。

彼女に双子の姫はいません。

 王国の姫であるレインは、まだ幼い頃、父の書斎に忍び込んだことがある。


 一国の王の本棚に知的なコーキシンが働いて、つい魔が差したのだ。


 それが幸か不幸か、世界を疑うような事実を知ってしまったという……


~~~~~~~~~~


「レイン姫。パルル殿をお呼びしやした」




 レインの部屋に、騎士団長のニコルソンがやって来た。


 彼は傍らに錬金術師の少女を連れ、ヘコヘコ頭を下げる。




「ご苦労ね、ニコルソン。下がりなさい」


「へい」




 子分のような仕草の騎士団長を下がらせ、レインは客人を見る。


 その怜悧な眼線は、容易に人を受け入れない彼女の用心を表していた。




「本日は私の身勝手なお招きにお付き合いくださり、心よりお礼を申し上げます」




 そんな目つきの鋭さと裏腹に、彼女は礼儀正しく頭を下げる。


 上品な挨拶に相応しい、うるわしい挨拶を知らないパルルは、お嬢様っぽい口調に努めた。




「えーと、パルルでございますよ……あ、これ、お姫様にする挨拶じゃないよ」


「まあ、お気になさらないで。挨拶など些末な事でございますわ」


「あ、そうなんだ……そうでございますよ?でよ」


「さあ、どうぞ。是非お寛ぎになって」




 姫はお客をテーブルに着かせ、召使いに「お茶をお入れして」と命じる。


 淑女の気品と堂々とした立ち振る舞いを演じつつ、さっそく本題に移った。




「パルル様は“ヒマク”について、なにかご存知でいらっしゃいませんこと?」




 パルルは首を傾げる。




「ヒマク?知らないよ」


「……そうですか」




 “ヒマク”についての情報は、彼女が最も渇望しているものだった。


 父の書斎にてその存在を知り、それ以降ずっと、“ヒマク”に憑りつかれて生きてきたのである。


 高名な冒険者であるパルルであれば、なにか知っているかと期待した。しかし、実際にはカラブリのようだ。




 一方のパルルは、“ヒマク”についてなにも知らない。


 姫に負けず劣らず、コーキシンに溢れる彼女は、すぐに質問を返した。




「レイン様。ヒマクってなにか気になるよ」


「ええ、お話し致します。一方的な質問にお答えして頂くのでは失礼ですもの」




 レインは彫刻のような微笑を浮かべると、小さく頷いて話を始める。




「“ヒマク”とは、私が幼い頃に読んだ書物に記されていた……『アナザーワールド』と呼ばれる領域と現世の中間に存在する、世界の果てを覆う壁の名称です」


「――アナザーワールド……」


「書物によれば、ヒマクは現世とアナザーワールドを遮断しているのですわ。ヒマクを壊すことは、内側からでは不可能といいます」


「へー」


「ですが、もしも破壊し、アナザーワールドへ踏み込んだなら――人はどんな願いも、好きなだけ叶えられるそうです」




 そこまで説明して、レインは鋭い視線をパルルへ向ける。


 姫に睨まれた少女は、少しだけ身を引いて、思わず構えた。


 レインは物々しげに口を開く。




「パルル様。ヒマクを破壊するために、どうか私にご助力をお願いいたしますわ」




 本題はこれだった。


 彼女はヒマクを自らの手で破壊し、アナザーワールドへ突入しようと考えていたのだ。




 まるでデキの悪い妄想のような話を聞いて、パルルはにこっと笑う。




「そんなの、根拠もなく信じられないよ。きっとどこかの噂話だよ」




 しかし、レインは不満げな表情だ。




「……そうでございましょうか」




 作り話と一蹴されるのは、あまり快くないことだった。


 ヒマクの存在に焦がれ、幼い頃から夢に見て、それに辿り着こうと今まで苦心してきたために。


 とはいえ、実際にあの本を見ていない人からすれば、こんなのはオトギバナシに過ぎないのだろう。彼女もそれは分かっている。




 だが今回、自室にパルルを呼んだ目的を果たすため、彼女は目力を強くして言った。




「どうかお信じくださいませ。私は一国の姫として、醜い嘘なんて吐きませんことよ」


「姫様が嘘を言っているなんて、パルルは思ってないよ」


「ではパルル様は、私が妄想趣味の無知な小娘だとおっしゃりたいのですか」


「ううん。でも、噂好きのお姫様なんだなぁと思ってるよ」




 姫君の言葉を、パルルはなかなか信じない。


 錬金術師の彼女は、物事に判然としたセイゴウセイを求める。それゆえ、噂話には興も乗らない。




 レインは冷静に、パルルの納得のいくまで、興の乗らないであろう話を続けた。




「ヒマクは存在しますわ。それをここで、今すぐ証明することはできませんが……もし私にご協力してくださるなら、必ず証明してみせます」


「姫様……申し訳ないけど、パルルはあまり気が乗らないよ」


「ええ。けれど、パルル様のおチカラが必要不可欠なのですわ。もしご承諾くださるなら、私はどんなことでもいたします。『死ね』とおっしゃるなら死にま――」


「ちょ、ちょっと待ってよ!そんなこと言うワケないよ!?」




 いくら姫の覚悟が強かろうが、一国の姫に『死ね』と言ったなどと噂になれば、パルルが殺されてもおかしくない。


 レインは献身を約束するふうに見せかけ、実はパルルをキョウハクしていた。




「いい?死んだらダメだよ」


「はい。パルル様がご承諾くださるなら、ですわ……」


「分かったよ……とにかく、自分を大切にしてよ」




 パルルは根負けして、仕方なく姫に協力することになった。




 どうせ、上流階級特有の壮大な暇つぶしだ。


 そう考えている錬金術師の少女は、おてんばな姫のお守りをするつもりでいる。


 対して、レインの眼におてんばらしい煌めきはない。




「感謝いたしますわ、パルル様」




 その瞳に移るのは、秘められた野望のフレイムランプだけであった。

漢字ばっかり使うのはやめ〼。ガンバルゾ!

また、BUSUUがなガ~くなるdeath.

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ