この世にいちゃいけない人なんて、きっといないよね
「ねぇ、アリエル」
「ん?」
ダンジョンの探索を終えた後の、緩やかなひと時のこと。
宿屋の一室で、アーチャーのエリンと呪術師のアリエルは話していた。
「この世にいちゃいけない人なんて、きっといないよね」
「……エリン、どうしたの?どこか熱でもあるんじゃ……」
「な、ないよ!今日はそういう気持ちなの!」
普段は物事をあまり深く考えないエリンが、今日は珍しくそんなことを言う。
アリエルの心配は、半分は冗談だが、もう半分は本気だった。
「うーん、いたらいけない人……」
アリエルは少し考えて、いたらいけない人物を想像してみる。
その間、エリンは必死に力説する。
「私ね。どんな人にだって、誰かを喜ばせる力があると思うんだ。だからきっと、いちゃいけないなんてありえない!」
「うん……そこにいちゃダメな人なら、いるかもしれないよ?」
「――えっっ!?だれッ!?」
アリエルの言葉は、エリンにとって予想外の返事だったようだ。
彼女はひどく驚いている。
ただ、アリエルの考えは極端なものではなかった。
「私もエリンの言うことには賛成だけど、その人の境遇によっては、喜ばせる人さえ周りにいないかもしれないでしょ」
「そ……そうなの、かなぁ……で、でも!ゼッタイどこかに、その人がいて喜んでくれる人がいるよねっ!」
「うん。だから、その人はそこにいたらいけないんだと思う。喜んでくれる人のところに、はやく行かなきゃいけないんだよ」
この世に存在してはならない人物などいない。そこに変わりはないが、世界という語より範囲を狭めた限定的な環境であれば、存在する可能性もある。
世界は広大で、心を開いて笑い合えるような関係を、誰しもが構築できるとは限らない。出会える他者には限りがある。
そういった彼女の意見には、エリンも納得を示した。
「私にとってのアリエルみたいに、みんなそれぞれ大切に想う人がいるんだよね。その人を見つけないとダメってことだよね!」
「うん。それともし、エリンがその手助けをしたいなら、一緒に探してあげればと良いと思うな」
付け加えて彼女が言うと、エリンは驚く。
「えっ?な、なんで私がアイクさんのこと考えてるって分かったの?」
「ふふ、アイクさんのことは知らないけど……エリンが誰かのことを考えてるのは、すぐに分かったよ?」
エリンが一言も伝えなかったアイクの存在を、彼女は会話の始めから看破していたのだ。
幼馴染の勘は鋭く、ちょっと隠したくらいのことは、見破るつもりがなくても発見してしまう。
アーチャーの少女はアワアワして、親友のテレパシー能力にうろたえた。
「もしかして、新しい呪術!?」
「ううん、ぜんぜん新しくないよ。もしかしたら一番古いかも」
「えぇ~~っ!?」
本当は呪術でもなんでもなく――ただ、アリエルがエリンにだけ使える魔法。
新鮮に驚くエリンの方だって、実は意識せず使っている魔法である。
お互いに魔法をかけあう2人は、今日も親密に寄り添いあっていた。




