蜘蛛の毒②
「良いですか? 聞いても我を忘れたり、自殺しようとしたりしませんね?」
「お、おう」
起きてしまった事は仕方ない。今回は全部私の責任だ。私は彼に初めて真剣な顔をした。それにビビッたのか彼は思わず口を開いた。
「ひっひゃっ、早く話せよ!」
うわぁー、最後までかっこ悪いなぁ~この人間。そのおびえる顔はまるで女の子がオオカミに出くわした時のようだった。どんだけ私の顔にビビッてるんだ?
あの子とちょっと似てるかもなぁ。こーゆーとこ。
こんなこと言わなくちゃいけないのは、これで2回目だ。
辛いが、言おう。
隠さず。
「この毒針に刺された者は、筋肉がどんどん弱って動けなくなります。そして解毒剤を使わなければあなたは今日を入れて3日で死にます。ごめんなさい。ごめん。ごめん。ごめn……」
私の中で思い出したくなかったあの時の光景が脳内に映し出される。
私の友達も、私の所為で死んだのだ。
何とかその時の事を考えないようにしようと、彼から目を逸らした途端、意外な言葉が私の耳に入った。
「んで解毒剤ってどこにあんの?」
「え?」
諦めていない。この人間は諦めるそぶりを全く見せず、私に解毒剤の在りかを尋ねてきた。
正直驚いた。普通ならこんなこと聞いたら人間なら泣くと思っていたが……。
「ようは手遅れにならないうちに解毒剤飲めば助かるんだろ? なら早く解毒剤の場所教えてくれよ」
あれ? なんかめちゃくちゃ焦ってないか? 額から汗が流れてるのが見えるような……。
「早く行こうぜ?」
「分かりましたからちょっと待ってください」
間違いなく焦ってるなこの人。
解毒剤のある場所で私が知っている場所は一つしかない。絶対あるだろうが果たしてこの人に譲ってくれるだろうか。とりあえずしつこいから教えよう。
「私の故郷です。譲ってくれるかは分かりませんが絶対あります」
「よしゃぁ! 早く行こうぜ! んで場所は?」
「ベイル草原のはずれにある山岳地帯です。今からだと間に合わ……!?」
急に私の目の前が真っ暗になったかと思うと、体が握り潰されそうになった。
そしてドタドタと周りが揺れ始めたかと思うと、何かの中に押し込められた。
「捕まってろよ! 死ぬ気で走る!!」
そう聞こえた途端、揺れはさらに激しさを増し、吐き気までしてきた。死に物狂いで何かの中から顔を出した。見えたのは夕日の差し掛かった空と汗だくになりながら全力疾走する男。
私は彼の胸ポケットに無理矢理押し込まれたらしい。揺れまくっている所為でなかなか外に出られない。
何より、臭い。
「ナナシさん出してください! 臭いです! 私飛べるんですからこんなとこに入ってる必要ありません! うぅぉぇ」
「あ! ハァそうだな、ハァハァ」
ようやく出してもらった私は深呼吸した。外の空気がこんなにもおいしく感じるなんて初めてと思うくらい臭かった。
私と彼は大急ぎでとりあえず村に戻った。
だがその頃にはもう日は落ち、筋肉が弱り始めた彼は走れなくなっていた。




