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異世界で現実的に生活する彼  作者: レノン
妖精の国① 獣人の村へ
31/42

蜘蛛の毒①

なんとピル視点です!

夢にまで見たピル視点です!

そしてお待たせし過ぎました。毎回読んでくれる方々本当にありがとうございます。

 私です。

 ピルです。

 今蜘蛛の糸と格闘している真っ最中です。先ほど私が引っ張った蜘蛛の糸が体に巻きついて離れないのです。粘着性はあまり無いものの、やはり取るのに時間が掛かってしまう。そこで私は考えたのです。隣でもがく私をマヌケそうな顔で見ているこの男に、代わりに蜘蛛の巣から糸を採ってもらおうと。

「あ、あの~、出来れば蜘蛛の巣から糸を1本採ってくれませんか?」

「はいはい」

 こういう時は便利な人間だなぁ。弓が完成した暁には敬語なんてやめて私の奴隷にしてやろう。

 

 ナナシが蜘蛛の糸を採取している間に私は体に巻きついた糸を少しずつ丁寧に解いていった。なぁ~に、焦らなければこんなの私の敵じゃない。


 この蜘蛛の糸はお湯に漬けるととても頑丈になる。私の故郷でも弓にはこのような蜘蛛の糸をよく使っていた。私が壊した弓も蜘蛛の糸を使った物であった。あの時は傷の手当をしてもらったという恩があったから道案内的な事をしていたが、流石にもう良いのではないか?

 私には故郷に帰りやらねばやらない事がある。


 私はあの時、誰かに……誰かに撃たれて……。


「何か蜘蛛で出来たんだけどさ、近くにいて取りづらいんだけど」

 蜘蛛という言葉を聞いて嫌な予感がした私はとっさに彼の方に顔を向けた。彼は糸を蜘蛛の巣から一本取り終えようとしていた。だが、巣の主である蜘蛛が近くにいた。

 

「早く離れてッ! 毒針が!」

 迂闊だった。私が声をかけた時には既に蜘蛛は毒針を彼に向けて今にも発射しようとしていた。

 まずい。あの蜘蛛の毒にやられたら人間なんて一溜まりもない。

 運良く糸が解けた。大急ぎで火の玉を蜘蛛に向けて放った。


「痛っ!? っておまっ!? ピル! いきなり危ねぇじゃねーか!」

 私の放った火の玉は蜘蛛に直撃した。もちろん蜘蛛は灰になったが、果たして間に合ったのだろうか。

 確か私の放った火の玉が蜘蛛に当たる前に「痛っ!?」と言った。まさか……。

「針は!? 毒針は刺さってませんか!?」

 私はすぐに彼の右手に向かって飛んだ。

 あの針は人に毛のように細く、勢い良く発射されるため、皮膚に刺さると見つけるのが困難だ。私が子供のころ、同じように蜘蛛に毒針で死んでしまった者がいた。

 駄目だ。指にも手の平にも無い。

 私が真剣に毒針を探していると彼が口を開いた。

「毒針? 刺さってないと思うぞ?」

「でもさっき痛いって」

「あれは口の中切れただけだよ……ってあんぐぁぁいあんあお」

「動かないでくださいよ。汚いなぁ」

 私は彼の口の中を無理矢理調べた。思ったより清潔だったその口の中で私は、できれば見つけたくなかったモノを見つけてしまった。


「あっ……た……」

「ぁあ? あいあ?」

 私は見つけたモノを彼の舌から引っこ抜き、口から出て彼に見せた。

「毒針です……」

「えっ……」


 彼は一瞬何を言われたのか分からなかったのか、固まった。彼はおそらくこの毒針の威力を知らないのだろう。最初から言っておけばよかった。後悔の念で胸が張り裂けそうになった。だが毒針が刺さった後ではもう遅い。薬さえあれば何とかなるが、このままでは彼は3日も持たない。

「毒針って何だ? まさか刺さったら死ぬとかじゃないよな?」

「そのまさかです……」

 起こってしまった事は仕方がない。私は地面に降り彼の方を向く。彼も何かまずい自体だと理解したのか、地面に座って私の話を聞こうとする。

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