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戦闘力ゼロから始める曲がり曲がったVRMMO 。生産をしつつテイマーと弓の両立は欲張りすぎ……?  作者: kanaria
3章.VRMMOを遊びつくせ

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39.いやー、壮観

 現実は残酷なことに良い予定は思い浮かばず、ゲテモノ早食い競争の会場までたどり着いてしまった。

 さらに運が悪いことに参加者の募集を締め切る直前だったようだ。


「はいはーい!! 2人参加お願いします!」


「いや、参加はルリだけで……」


 手を上げて元気よく主催者の人に話しかけに行くルリの手を外そうともがく。参加するなんてとんでもなかった。


「おー! 女性の参加は珍しいね。1人? 2人?」


「ルリだけでお願いします」


 明るく聞いてくるお兄さんにルリを押しやる。


 参加したところで食べられる気がしない。

 すでに顔色が青くなっている私に主催者の男性は苦笑した。


「おっけー! 参加一人追加ー! もういないかな? そろそろ締め切りでーす!!」


 私に押しやられたルリは驚いた顔で振り返る。

 私も参加するものだと思っていたのだろう。


「……頑張って」


 青い顔のまま手を振ると、ルリが大きく手を振り返してきた。


「頑張るよー!!」


 きっとルリに悪気はない。

 私も昆虫が食べられると勘違いしたから誘ってくれたのだろう。少しおバカっぽいところが本当にルリっぽい。


 ゲテモノ早食い競争なんて絶対に出ないけどね!!


 心の中でそう宣言しながら、ラテたちを確認する。

 急に腕を掴まれて走ってしまったので、乱暴に抱えてしまったのだ。釣具も【空間収納】の中でぐちゃぐちゃになっている。


「ラテ、岩凪、薬草丸、全員いる?」


 一番重みを感じない頭の上に手をやると、元気よく薬草丸が手を上げた。

 他の2匹も元気そうだ。


「……」


「…………ぷぅ」


 少しだけラテが不機嫌そうなので三つ葉に似たごはんをあげていると、背後から声をかけられた。


「シオン、この前ぶり」


「アシュラ!」


 この前と言ってもしばらく会っていなかったアシュラが居る。相変わらず黒猫の耳と尻尾が良く似合っていた。


 周りがざわざわしていたのはアシュラが居たかららしい。有名な『もうぼっちとは言わせない』のギルマスが居ればそれは騒がしくもなる。

 てっきりゲテモノ早食い競争のせいだと思っていた。


「シオンもアレに出るの?」


 じっと私を見つめてくるアシュラの尻尾はピンと立っている。

 アレとはゲテモノ早食い競争のことだろう。


「出ないよ。アシュラこそどうしてここに?」


 まさかアシュラも参加するのだろうか。

 それにしては参加者の控室の方に行っていない。


「みんみんの応援」


「え、みんみんが出るの!?」


 『もうぼっちとは言わせない』の拠点に引きこもっているみんみんが第2の街にいることすら驚きだ。しかもゲテモノ早食い競争に参加するなんて……。

 そういうのに興味があるから【調合】ばかりやっているのだろうか。


 若干引き気味で控室の方を見ても参加者の姿を見ることはできない。


「どうしてみんみんが?」


 ハルカほどではないものの、単語で話がちなアシュラから望みの答えを得る為にはしっかりと聞くしかない。

 どこかご機嫌なアシュラに視線を戻すと、アシュラがにんまりと笑った。


「賭けに負けたから」


「みんみんって賭け事をするんだ」


 そういう印象はなかったので驚きだ。でも、賭けに負けてゲテモノ早食い競争というのも中々厳しい。

 アシュラに撫でてもらう権利でもかけたのだろうか。


 アシュララブなみんみんを思い浮かべると何とも言えない気持ちになる。一歩間違えれば気持ち悪い域なのに、なぜかみんみんからはおぞましさを感じない。とても不思議なキャラクターだ。

 勝手な想像だけれど、賭けの内容も当たらずとも遠からずに違いない。


「ん。2時間でポーションを200本作れたらご褒美をあげるって言った」


「うわー…………」


 1時間で作るポーションは60本が限界だ。みんみんならもう少し作れるかもしれないが、かなりきついだろう。

 ご褒美というのも抽象的で良く分からない。


 うーん、大きな鍋があればもう少し作れるかな。

 設備にもよるけれど、それでも200本は厳しい気がする。みんみんがそこまでして欲しいご褒美も気になるなぁ。


 その話を持ち掛けるアシュラもアシュラだけど、乗るみんみんもみんみんだと思う。


 自分なら絶対に乗らない賭けに口元がひきつる。

 アシュラもみんみんができない前提で持ち出している気がした。


「結構奮闘した。160本も作れると思わなかった。これからも期待」


「おぉ……」


 鼻歌でも歌いだしそうなアシュラはみんみんの能力を高く買っている。

 今回の賭けも一種のご褒美なのかもしれない。


 そうじゃなかったら忙しいアシュラがこんなところにいないよね。

 ひとりで居るところも初めて見たし。


 なんだかんだみんみんをからかって息抜きをしているのだろう。最前線で戦っているアシュラはギルマスということもあってかなり忙しそうだ。

 エンジョイギルドと謳っているけれどアシュラ本人はガチ勢だし、幹部もガチ勢が多い。間違いなくみんみんもガチ勢だろう。そんなギルドで唯一の【調合】持ちとしてみんみんは頼られているに違いない。変態だけど。


「さーて、皆様!! お待ちかねのゲテモノ早食い競争の時間だー!! 待ってたかい? 待ってたよなあ! 選手たちのご登場だー!!」


 アシュラに気を取られているうちに準備が終わったらしい。大会の主催者が壇上で司会を始める。

 他にもスタッフは居るようだけれど、裏方に回っているようだ。


「うおおおお!! 待ってました!!」

「ミチル、絶対優勝よー!!」

「アルル! アルル!」


 舞台に近いだけあって周りの熱気が凄い。

 みんな拳を振り上げて応援しているので、私とアシュラが周りから浮いていた。


「えーっと、ルリー! がんばれー!」


 これだけ声援が飛び交う中、名前が呼ばれないのは悲しいだろう。

 そう思ってルリの名前を叫ぶとルリが嬉しそうに私を見て、急に真顔になった。


 あれ?

 呼ばない方が良かった?


 ルリの反応が良く分からず、首をかしげると口パクで何かを訴えている。


 あ、うえ?

 どんした? 


 読唇術なんてやったことがないので何を言っているのか良く分からない。ただ、視線がアシュラを向いているような気がする。


 ああ、隣に有名人がいるから心配してくれているのかな?

 アシュラは好き嫌いが激しいことで有名みたいだし、レイと違ってとっつきにくいもんね。


「大丈夫! 大会に集中してー!」


 私が気になってパフォーマンスが発揮できないなんて残念過ぎる。競争に集中するように促すと、ルリが微妙な表情で頷いた。


「アシュラはみんみんを応援しないの?」


「ん、今は良い」


 立っているだけで一言も声援を発しないアシュラに少し戸惑う。

 見に来たのなら応援をすれば良いのに、アシュラは黙ってみんみんを見ている。ふふんと言いたげな顔をしているので何か企んでいるのかもしれない。


「だんちょー!!」


 逆にみんみんが壇上から叫んで司会者に注意されていた。


 なんだかみんみんぽいなぁ。

 アシュラを見つけてすごく嬉しそうだ。


 隣に私が居ることも気づいているのだろうか。

 いや、妬むような視線が突き刺さってるから気づいているのだろう。


 何だか残念な気持ちになって私は視線をルリに戻した。


「今回のお題はなんとー、パラライズバタフライ! ほぼ最前線に近い素材だー!!」


 司会者の叫びと同時にフライになったパラライズバタフライが次々と運ばれてくる。姿揚げにしているので蛾の形が綺麗に保たれている。

 最近はポイズンスネークを攻略したようで、第3の街が見えるくらいまで攻略が進んでいるらしい。だからこそ手に入ったパラライズバタフライなのだろう。


 …………おぇ。


 見ているだけで気分が悪くなりそうで、そっと視線を逸らす。

 元気のよかったみんみんも青ざめた顔になっていた。


 逆に瞳が輝いたのがルリだ。他の参加者も様々な顔色になっている中、ルリだけがキラキラと輝いている。パラライズバタフライは高級な素材だから食べたことがなかったのだろう。

 期待に満ちた表情を浮かべている。


「……シオンの友達、凄い」


 じっと壇上を見つめるアシュラはみんみんよりもルリを見ているようだ。もしかしたらアシュラも昆虫食にあまり抵抗がないのかもしれない。


「…………ギブ」


 壇上から近いだけあって大きな蛾のフライが良く見える。

 これから食べ始めるのだと思うと、限界だった。


 壇上に背を向け、その場から立ち去ろうとする私をアシュラが止める。鬼のような所業だ。


「アシュラぁ」


 半泣きでアシュラを見ると、アシュラはゆらゆらと尻尾を揺らした。


「後ろ向きで良いからそこに居る。きっと楽しい」


「……どういうこと?」


 確かに先ほどから凄いヤジが飛んでいる。

 この声を聞いているだけでも楽しめるだろう。でも、前を向かないのにここに居るのは良くない気がした。


「これ、つけると良い」


 そう言ってアシュラが手渡してきたのはアイマスクだ。確かにこれなら視界が遮られる。


「いや、そこまでして見たい訳じゃないんだけど……」


「……ん!」


 アシュラはどうしても私を離してくれないらしい。押し付けられたアイマスクを装着して壇上の方を向く。

 歓声からするともう食べ始めているようだ。


「マシュー! 吐くんじゃねぇよ! 汚いだろ!」

「アルルー! アルルー!!」

「ネェチャン凄い食べっぷりだなー!!」


 まだ始まって間もないのにすさまじい様相なのだろう。

 野次を聞くだけでも惨状が浮かぶようだ。


「みんみんも食べてるの?」


 アイマスクをする直前に見たみんみんの表情は酷かった。ぶっちゃけ、なぜ参加したと聞きたくなるくらい苦手そうだ。

 まあ、他にも吐いてる人がいるようだから良いのかもしれないけど。


 現実ではもったいないと思うのかもしれないけれど、ここはゲームだ。

 バカなことをして楽しむのも醍醐味だろう。


 私は絶対に食べたくないが。


「みんみんも食べてる。3口くらい。しかも小さい」


 そういうアシュラは不満そうだ。

 優勝とまではいかなくてももっと頑張ると思ったのかもしれない。


「3口でも凄いよ」


 私が出場したら1口食べられたかも分からない。1メートル近いパラライズバタフライだと大半を残すことになってしまう。

 食べきれる人は中々の強者だ。


「みんみん、もっと食べる!」


 あまり大きくないけれど、不思議と通るアシュラの声が会場に響く。

 もちろんみんみんにも届いたらしい。満足そうなアシュラの鼻息が聞こえてくる。


「やっぱり、やればできる」


 アシュラに応援されて死に物狂いで食べているのだろう。

 目隠しをしていても必死に食べるみんみんの姿が浮かんでくる。


 そういうところがアシュラに好かれてるんだろうなぁ。

 本当に憎めないキャラだ。


 私はみんみんを思い浮かべ、くすりと笑った。


「おおおお!! ラストスパートだ!!」

「すげぇな姉ちゃん!!」

「負けるなマシュー!」


 終盤に差し掛かったような声援を聞いて、私もアイマスクを外す。

 まだ直視する覚悟はないけれど、最後くらいは見たい。


 覚悟を決めて壇上を見ると、丁度ルリが最後の一口を食べたところだった。


「おお……」


 周りの人は酷い顔色をしている中で、生き生きとしている。

 早食い競争の結果だけでなく、パラライズバタフライを食べられたことにも喜んでいそうだ。


「むぅ、みんみんが負けた」


 アシュラの視線の先にいるみんみんは3分の1ほどパラライズバタフライを食べていた。

 他の参加者は数口しか食べられていない人が多いので、頑張った方だろう。顔色が変わってなさそうなのはルリと半分以上食べた人くらいだ。


「相手が悪いよ」


 昆虫食に抵抗がない人と戦っただけみんみんは凄い。

 私ではそもそも参加したいと思わなかっただろう。


「でも、お仕置きする」


 むすーっと口を結んだアシュラに苦笑しているうちに表彰も終わったらしい。

 ルリとみんみんが壇上から降りてきた。


「やるなぁ! よくあんなのを食べられるもんだ」

「すごいわねぇ」

「次の大会にも出てよ」


 ファンを獲得したらしいルリが手を振りながら歩いてくる。まるでスターにでもなったかのような様子だ。

 私はそんなルリを眺めながらのんびりと待っていた。

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