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戦闘力ゼロから始める曲がりまがったVRMMO 。普通に遊んでるつもりが何故か変な方に……?(旧題:戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO)  作者: kanaria
VRMMOを遊びつくせ

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32.薬草ダンジョンの地下

 満足するまで薬草を採り、私は薬草ダンジョンの地下に潜ることにした。

 ラテや岩凪、薬草丸(やくそうまる)も問題なくついてきている。


「君、本当に名前が薬草丸で良いの?」


 自分でつけた名前だけれど、絶対に選ばないと思って上げた名前だった。それでも薬草丸はその名前が気に入ったようで、コクリと頷く。


「うーん、良いんなら良いけど……。いや、良いのかな……?」


 傍から見たらテイムモンスへの虐待と思われないだろうか。

 ネーミングセンスが壊滅的なのは自覚しているけれど、その名前に満足されると複雑な気持ちになる。


 まあ、【調合】の材料にしようと企んでいる時点で酷い虐待か。

 さすがにテイムモンスを使って【調合】をするのはやめた方がいい。私はわずかに残っている良心に則って薬草丸を使う【調合】はやめることにした。


 名前に関してもどうしようか考えて、考えるのをやめた。


 本人が良いと言うのなら名前はこのままで良いだろう。選ばれないと思っていたにせよ、候補として口に出してしまったのは私だ。

 今更別の名前を提案しても受け入れてくれない気がするし。


 一種、あきらめの境地に達しながら私は地下に向かう階段を下る。

 非戦闘職でも行くだけなら最下層までたどり着けるダンジョンなだけあって、階段も明るい。罠もないので安心しながら下りることができる。手すりまでついていて非常に配慮されているダンジョンだ。


 でも、手すりがツタなんだよね。

 ごつごつしていて非常に触り心地が悪いんだけど。


 たまに瘤のある手すりを撫で、天井を見上げる。

 階段の天井にもツタがはびこっていた。


「これは趣があると言えば良いのか、気持ち悪いと言えば良いのか……」


 あまり上を見てしまうと薬草丸が落ちてしまうので、前に向き直る。

 私がくだらないことを考えている間も3匹のテイムモンスは交流を深めているらしい。


「ぷぅぷぅ」


「…………」


「ササッ」


 良く分からない会話をしている3匹に意識を向け、同行者が増えたものだと実感する。変わった鳴き声が多いけれど、にぎやかになったものだ。


 このままだと増やせて後1匹かな。

 それ以上増えてしまうと運べないので、そろそろ真剣に運び方を考えた方がいいだろう。良い感じのカバンがあると良いんだけど……。


 私は【弓】を選択してしまったので背中にテイムモンスを背負うことができない。そうなると斜めかけのカバンになるのだろうか。【空間収納】はあるけれど、モンスターが出てくる場所では弓を背負うことが多い。複数の斜めかけカバンをかける自分を想像し、あまりのダサさに吹き出す。

 できれば斜めかけのカバンはひとつに収めたい。


 ギルドの誰かにお願いしようかと考え、ふと連れているテイムモンスのスキルを思い出した。

 よく考えれば私のテイムモンスは戦えない子が多い。


 ラテは非戦闘要員だし、薬草丸も【光合成】と【栽培】のスキルだけだ。どう考えても戦闘に向いていない。今まで拠点がなかったので、つい癖で連れてきてしまったけれど、ラテと薬草丸は拠点にいる方が安全だろう。


 そう考えると空きばっかりなのかな。

 岩凪しか戦えないもんね。


 岩凪だけなら腕に抱えれば良い。外の敵が強くなることを考えたら非戦闘要員を連れまわすのも危険だった。


 私が少し寂しい気持ちになった時、ダンジョンの地下1階に辿り着く。


 薬草ダンジョンの地下1階は【調合】に使える植物の種類が多い。反撃もしてくるらしく、舐めてかかって死に戻りをしたプレイヤーも居るらしい。

 ここからは気を引き締めたい。


「みんな、気を付けるよ」


 ラテと岩凪には事前に気を付けるように言っていた。

 薬草丸は新たに加わった仲間だけれど、ダンジョンで暮らしていただけあって地下の危険性を承知していたようだ。私の頭の上で必死に頷いている。もしかしたら危険な目にあったことがあるのかもしれない。


 地下1階では1階にいた薬草も含め、4種類の植物が採れる。もし薬草丸がこの階に来たことがあるのなら、この階にいる薬草は上から降りてきた可能性がある。上に登るのは難しそうだが、落ちるだけなら簡単だろう。

 それが正しい推測かは分からないけれど、階段付近にも2種類の走る植物がいた。


「おお、鎮静草に魔力草がいる。遠くに見えるのは薬草かな?」


「…………ササッ」


 鎮静草は初心者用痺れ取り薬に、魔力草は初心者用マナポーションに使える。下級ポーションの材料が初心者用ポーションと同じだったことを考えれば、下級マナポーションや下級痺れ取り薬にも使えるだろう。

 私は岩凪を地面におろした。


「……シャ」


 岩凪なら戦えると思ってのことだけれど、のほほんと辺りを見まわしている様子を見ると肩に戻したくなる。

 あまりの落ち着き具合に不安が芽生えてきた。


 でも、戦わないと強くならないんだよなぁ。

 一応【タンク】も持ってるし、すぐにやられることはない……よね?


 全く自信がないけれど、今は岩凪のことを信じるしかない。

 なんだかんだテイムモンスターを戦わせるのが初めてなので、ラテを抱える手に力がこもる。


 初めから複数の敵を相手にさせたくないので、近くを走る魔力草は私が【採取】する。私のスキルレベルが上がっているおかげか一撃で【採取】できた。

 岩凪もまた、近くの鎮静草に攻撃を仕掛けたらしい。【土魔法】で走る鎮静草のHPを削っている。


「…………」


「キシャー!」


 怒る鎮静草に対して無言で【土魔法】連発している岩凪はなんだか怖い。目の前のモンスターに全く興味を示していなさそうだ。


 負けはしないと思うけど、独特な戦い方だなぁ。

 【土魔法】は亀の方が使っているみたい。


 プレイヤーが魔法を使うときに必要な詠唱もしていない。ただ走る鎮静草を眺めているだけに見えるのに土の礫が飛んでいく。おそらく最も簡単な【土魔法】の技を無詠唱で使っているのだろう。

 最後は蛇が【水魔法】を放って仕留める。水の礫が走る鎮静草を引き裂いていた。


「シャ」


 どう?と言うように岩凪に見られたので、とりあえず褒めておく。【土魔法】を3発と【水魔法】を1発くらった走る鎮静草は倒れると同時に綺麗な形の鎮静草に戻っていた。

 その鎮静草を拾い上げ、岩凪の様子も確認する。


「これなら安心かな」


 岩凪のレベルが低いからか倒すのに時間がかかっていた。それでも不意打ちをされない限り大丈夫だろう。

 私は岩凪をおろしたままにして魔力草と鎮静草の【採取】に戻った。


 たくさん魔力草と鎮静草を【採取】し、そろそろ最後の1種類を採りに行くかと腰を上げる。

 既に薬草ダンジョンに入ってから結構時間が経っていた。


「……シャ」


 岩凪は途中でMPが切れたので私の肩に戻っている。途中、走る鎮静草や魔力草の反撃も何回かくらっていた。

 それでもHPの方は問題なさそうだ。ほとんど減っておらず、走る鎮静草や魔力草では岩凪を倒すことは厳しように思える。これなら壁としても活躍してくれるかもしれない。


 岩凪は大きさが小さくて前に出すのが怖いんだけど、私よりDEFが高いんだよなぁ。

 私だったら魔力草や鎮静草の反撃でも命取りになるかも。


 【タンク】を持っているからか、岩凪は小さな体に似合わないくらい硬い。ATKの低い私では倒すことが厳しいだろう。傷つけることすらできるか分からない。フィールドで出会っていたら【テイム】できなかったはずだ。


 岩凪の卵をくれたリルモに感謝をし、私は最後の1種類の植物が生えているという場所を目指す。道中で出てきた走る鎮静草と魔力草ももちろん【採取】する。【調合】の材料になる植物はいくらあってもいい。


「最後の1種類は初心者用毒消しの材料なんだよね! 楽しみ」


 毒消しはまだ作ったことがない。最前線のポイズンスネークが毒を使うため、需要が高いらしい。

 作り手も少ない為、材料さえ持っていけばみんみんが教えてくれることになっている。本当に『もうぼっちとは言わせない』さまさまだ。


 私は毒消しの材料になる植物の近くに岩凪とラテ、薬草丸をおろす。大きい岩があったのでその上に3匹を置き、ご飯とお水を渡した。ここなら走る植物に攻撃される心配もないだろう。そもそも走る植物はノンアクティブだ。こちらから攻撃をしなければ攻撃をしてこない。

 私も水を飲み、小休憩をはさむ。


 しっかりと休まなければこの後が辛い。

 一撃で仕留められるとはいえ、長時間におよぶ【採取】は集中力を削っていた。


 草を食べるラテに魚や肉を食べる岩凪。薬草丸はスキルにもあった通り、光合成だけで良いらしい。水は3匹とも飲んでいるが、薬草丸は日光浴しかしていない。


 ずいぶん変わったスキルだと思ったけど、植物だから?

 ご飯が要らないのは助かるけど……。

 一応、肥料も買っておいた方がいいかな。


 今何も食べていないのは好みの食べ物がないからかもしれない。

 私は街に戻ったら肥料を買うことを決意した。


「さて、毒消しの素材さんは……」


 呟きながらダンジョン唯一の小さな森に入る。毒消しの素材は向こうから攻撃をしかけてくるアクティブなモンスターだ。

 ラテや薬草丸を連れているので不安だけれど、今更どうしようもない。とりあえず気をつけるしかないだろう。


 木の陰や葉の陰を重点的に探すと、毒消しの素材はすぐに見つかった。ここにしか生息していない代わりに密度が高いらしい。

 気を付けないと攻撃をくらいそうだ。


 テテテテ

 ステテテ


 ナイフを抜いている間に走る魔力草たちが目の前を駆け抜けていく。次の瞬間、ハエトリソウによく似た植物が走る魔力草に嚙みついた。


「サササ! ササ!」


 噛みつかれた魔力草は足をバタつかせて逃げようとする。それでもハエトリソウに似た植物から逃れることはできなそうだ。


 うわー、食虫植物みたいな植物とは聞いてたけど、走る魔力草を食べるんだ……。

 おなじ薬効のある植物なのに。


 おそらく走り回っている植物とこの毒消し草では仲間意識がないのだろう。それどころか捕食関係のように見える。一部始終を見てしまった薬草丸は頭の上で震えていた。


 消化のスピードも実際のハエトリソウより桁違いに早い。

 捕まった魔力草はすでに消え失せている。


「植物同士だからグロくないのは良いけど、気持ちのいいものでもないなぁ」


 私は魔力草を捕食した直後の毒消し草を【採取】する。捕食シーンを見てしまったせいか、採取用のナイフに力が籠る。

 けれど今までと違って一度で仕留めることができなかった。


 硬い!

 ナイフの方がダメになりそう。


 口をパクパクさせて反撃を試みる毒消し草から距離を取り、ナイフを替える。さすがに銅のナイフでは火力が足りないようだ。

 青銅のナイフに持ち替えて再度【採取】を試みる。それでも1度では仕留められなかった。


「2回【採取】をしないと倒せないのか……。結構強いモンスターだね」


 【採取】で倒す場合はATKが関係ないらしい。情報まとめサイトが正しいのなら【採取】のスキルレベルに依存する。私の【採取】のレベルはそこそこなので、ATKが関係ないのなら倒しにくい植物なのだろう。

 もしATKが関わっていたのなら倒せなくても納得だけど。


 私は倒した毒消し草を拾い、近くにある他の毒消し草も【採取】していく。

 毒消しは第三の街の街落としでも必ず必要になる。あればあるだけ良い。


 蛇の毒に対してこの毒消しが効くと聞いてるけど、血清も探した方が良いのかな?

 普通、蛇毒は血清だよね。


 あまり詳しくないけれど、そんな雑学をどこかで聞いた気がする。まぁ、効くのならどちらでも良いか。今は毒消し草を少しでも多く集めたい。

 そんなことを考えていると、意識が逸れてしまったせいか毒消し草の噛みつきが掠る。


「危な!」


 1撃で倒せないので、どうしても反撃を受ける危険がある。毒消し草の攻撃をなんとか避けながらラテと薬草丸の心配をする。まだ岩凪がいるので何とかなっているけれど、走り回られたら強敵だろう。

 運が良いことに毒消し草は動けないので、周囲に気を付ければなんとか倒せる。


 急なリポップにさえ気を付ければ死ぬことはない。そのことに安堵しながら私は毒消し草の【採取】を続けた。

 この後、地下2階で酷い目に合うと気づかないままに。

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