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戦闘力ゼロから始める曲がりまがったVRMMO 。普通に遊んでるつもりが何故か変な方に……?(旧題:戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO)  作者: kanaria
VRMMOを遊びつくせ

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31.薬草ダンジョン

 アシュラからもらったモンスターの【解体】はうまく進み、【解体】だけでなく【調合】も行ってから一度ログアウトする。色々あったので、結構時間が経っていた。


 小休止がてら情報を集めて再びログインした後、ナツミから弓などを受け取る。ナツミは木のみの矢と青銅の鏃の矢をそれぞれ100本ほど用意してくれた。

 かなりの量になったけれど、【空間収納】から直に矢を出すことができるので、そのまま全て【空間収納】にしまう。メンテナンスを頼んでいた弓とパチンコもなんだか見た目がグレードアップしていた。


 色々買ったのでお金はたくさん飛んで行ったが、強くなる為なら必要経費だ。第二の街に来る途中で倒したモンスターも【解体】して素材に変えたので、最前線の素材と共にギルドチャットで欲しい人がいるか聞いておく。

 今度ルリに会った時、お金を渡さなければ。


 私はラテと岩凪を抱えて、アヒル型のギルド拠点を後にした。


「何度見ても見事なアヒルだなぁ。見慣れてきたせいか可愛い気がする」


 遠くからでも目立つアヒルを眺めながら目的地に向かう。

 たくさん【調合】をしたので、もう薬草がなかった。


 薬草と言えば新しいダンジョンだよね。

 楽しみだなー!


 ログインしたら薬草ダンジョンに挑もうと思ってログアウトしている間にしっかりと情報収集をしてきたのだ。【採取】に使うナイフもしっかり研いである。

 ログアウト前の壁をやってくれるモンスターを探すという考えは頭から抜け落ちていた。


 私はスキップをしながら第二の街を進む。

 腕に抱えたラテと肩に乗っている岩凪はなんだか嫌そうだった。


「……ぷぅぷぅ」


 我慢できなくなったのかラテが嫌そうに鳴いた頃、ようやくダンジョンに辿り着く。街から少し距離があったけれど、特にモンスターに遭遇しなかった。プレイヤーの数もそれ程多くない。

 第二の街周辺のダンジョンは戦闘職に人気がないのだろう。


「ここが薬草ダンジョンか〜」


 洞窟のような入口の前にいるだけでも薬草の香りがする気がする。ツタに覆われた入口はとても薬草ダンジョンらしい。


「いざ!」


 気合を入れてダンジョンに足を踏み入れる。すると一気に視界が開け、草原のような場所に出た。


 おおー、洞窟の中なのに空がある。

 遠くには大きな湖もあるような?


 薬草ダンジョンは地下2階までの小さなダンジョン。そう聞いていたのに一階一階がとても広そうだ。


「全部見るのは骨が折れそうだね」


「ぷぅ」


 きっと端から端まで調べるように出来ていないのだろう。

 個人的には全て確認したいけれど、そこまでするメリットは薄そうだ。宝箱のようなものや罠もないらしい。


 もっと先のダンジョンなら宝箱もあるのかな。

 罠がないのは良いことだけど。


 罠があったら解除する方法を考えなければならない。罠を解除するスキルを持っているモンスターはいるのだろうか。

 全くいないということはない気がする。


 スキル枠が限られているので全てを一人でやることができない。不便だけれど補ってくれるモンスターを探すのも楽しい。


 岩凪のように種族が良く分からないモンスターもいるのだ。

 罠解除ができるモンスターはどんな姿なんだろう。


 私は期待に胸を膨らませ、歩を進めた。


 ステテテテ

 テテテテテ


 目的なく歩いていく間も目の前を薬草が走り抜けていく。目がないからか、敵味方の判別が出来ていないらしい。

 とりあえず近くを走る薬草に狙いを定め、ナイフを使って【採取】していく。たったそれだけでダンジョンの外より薬草が採れそうだ。


「これは良いね。すぐに薬草がたまりそう。【調合】に使う他の植物もあるのかな」


 今のところ出てきているのは全て薬草だ。地下に潜ればもっと良い植物がいるらしい。

 満足するまで薬草を採ったら地下に潜ってみたい。


 心配していた戦闘もナイフで一撃だった。弓を構えてすらいない。

 【採取】が攻撃になるというのは本当のようだ。


 とても楽な戦闘に笑みがこぼれる。

 命のやり取りをするような臨場感もワクワクするけれど、のんびり薬草を採るのも良い。現実でやったら腰が痛くなりそうな姿勢もゲームなら普通にできるのが魅力だ。


 興が乗ってきたので自分の周りを走る薬草だけでなく、自分からも薬草を探していく。【観察】を使えば薬草と雑草の見分けも簡単だ。

 ラテの好きな草も同時に【採取】できてとても良い。


 地面におろしたラテと岩凪ものびのびとしている。


「これだよこれ! これが憧れの【採取】だよ!」


 青い空に広い草原。人の多すぎない狩場で思う存分【採取】をする。

 やりたかったゲームそのものだった。


 すごい、すごく良い!

 気温も丁度いいし、そよ風も吹いている。

 現実じゃないけどスローライフにピッタリだ。


 私は【採取】した薬草や雑草をまとめて束にし、ごろんと原っぱに寝転がる。とても清々しい気持ちだった。


 さすがに薬草が走り回っているのは普通ではないかもしれない。それでもかわいいテイムモンスターが居て、ゆっくりと【採取】ができる。

 私はいつの間にか笑みが零れていた。


「そうだ。動き回ってるけど、この薬草は【テイム】できるのかな?」


 もし【テイム】できて永遠に薬草として使えるのなら最高だ。今流行りのSDGsというやつだろう。


 いや、ポーションは根っこ以外全部使うから難しいのかな。

 根っこから永遠に再生できたら最高だけど。


 【テイム】した薬草が死んでしまうのは流石にショックだ。どうなるのか慎重に考える必要がある。


 そのまま少しの間悩んでいたけれど、結論はでなかった。一度挑戦しないと分からないだろう。


「そもそも薬草が【テイム】できるのか分からないし」


 私のテイム可能数には空きがある。ただ、薬草がモンスターと同じ扱いなのかが分からない。

 とりあえず薬草を【テイム】しようと辺りを見まわす。すると、あれ程居た薬草が居なくなっていた。


 くっ、薬草め。

 どこに行った。


 私の鼻息が荒いのがいけないのか、変なオーラが漏れているのか薬草の姿が見えない。

 それどころか私から逃げる方向に薬草が走って行っているようだ。薬草より背の高い雑草が離れる方へ揺れている。


「なんでだー!」


 別に変なことをしていないはずなのにおかしい。これが野生のカンなのだろうか。

 何か警報音でも発しているのかと思うくらい一斉に逃げていく。


 やっぱり走る薬草はモンスターなのかな。

 警報音が出せるのなら【テイム】もできる気がする。

 走るだけあって何らかのスキルも持っていそうだ。


 揺れる雑草を眺めながら私はニヤリと笑う。

 そのせいで更に凶悪な顔になっていると気づいていなかった。


「…………」


「……ぷぅ」


 少し離れた場所で思い思いにゆっくりしていた岩凪とラテが私を見て微妙な表情を浮かべる。2匹も少し腰が引けていた。


 けれど私はそんな2匹の様子には気づかず、束にした薬草やラテのご飯を【空間収納】にしまう。束にすると【空間収納】の消費MPが減るのだ。


 その頃には近くの雑草の揺れさえ無くなっていた。それでも雑草の歩みは私より遅い。


「待てー!!」


 薬草が通ることによって揺れる雑草を目指して走る。それだけで薬草に近寄ることはできた。


「なんか、凄く【テイム】しにくいな……」


 ただ近付いただけなのに薬草がカタカタ震えている。【採取】をした時よりも怖がられているのは何故だろう。


 私はなんとも言えない気持ちになって薬草から少し離れる。その隙を逃さず、追い詰めた薬草が逃げ出した。

 足は遅いものの必死なことが伝わってくる。


「【採取】より【テイム】が苦手? それとも人に近寄られるのが怖いとか?」


 もし人に近寄られるのが怖いのならさっきまで近くを走っていたのは変だ。

 急に逃げて行ったのもよく分からない。


 悩み込む私は自分から不穏なオーラが出ていることに気付いていなかった。


「怖くない、怖くないよ〜」


 逃げられないように笑いかけると余計に薬草が逃げていく。仕方がないのでもう一度一体の薬草に狙いを定めることにした。


 どの子が良いかな。


 全力で逃げていく薬草たちを見回す。

 同じ薬草なのに足が早い子や遅い子、よく分からないところで転んでいる子、アクロバティックな逃げ方をする子など個性的だ。捕まえやすいのは鈍臭い子だろうか。


 そう思ったけれど、何故か1体の薬草が近寄ってくる。

 枯葉を帽子のように被っているのでオシャレさんなのかもしれない。


 私は無言で薬草を見つめた。


「ササッ」


 鳴き声なのか何なのか分からない音を出し、薬草がお辞儀をする。枯葉の帽子もくるりと取って優雅に茎を折る様子は紳士のようだ。

 他の薬草と違って手のような細い茎が生えているのも変わっている。


「こんにちは」


 とりあえず挨拶をしてみると、薬草が枯葉の帽子を胸元に抱えて姿勢を正した。


「ササッ」


 先ほどと同じような音を出しているので、おそらく挨拶をされているのだろう。

 他の薬草に逃げられている中、どうしてこの薬草だけ私の前に現れたのか分からない。でも、絶好のチャンスだ。


「君を【テイム】しても良い?」


「サササ!」


 是非是非と言うように頷いているので、一応【テイム】をしてみた。相手が許可をしているのなら必ず成功する。

 良く分からない状況ではあるものの、これで走る薬草が【テイム】できるか判明するはずだ。


「【テイム】」


 私がスキルを使っても特に変化がない。一応ステータスを確認すると、テイムモンスターの欄に薬草が増えていた。


「そういえば、【テイム】できたかって凄く分かりにくいんだった」


 【テイム】に成功しても特に何かが起きるわけではない。ただ私のステータスのテイムモンスターの欄に増えるだけだ。


 可能なら光るとか特別な演出が欲しいなあ。

 今度運営に要望を出してみるか……。


 【テイム】できていないのに近づいたらとても危ない。HPもDEFも低い私にとっては死亡フラグだ。

 ぜひとも改善して欲しい。


 一瞬薬草から意識が逸れたが、視線を薬草に戻すと薬草は嬉しそうだ。


「サササ!」


 ご機嫌そうにくるくると枯草の帽子を回転させる薬草は何だか可愛らしい。でも、どうしても確認しないといけないことがあった。


「君、種族名が変な薬草になってるんだけど、合ってる?」


 確かに変わってる薬草ではあるけれど、変な薬草とは失礼ではないだろうか。川に煮干しを泳がせる運営だから適当に種族名をつけているのかもしれないが。


「ササ」


「そうなんだ……」


 肯定するように頷く薬草になんとも言えない気持ちになる。それでも薬草を【テイム】できたことは嬉しい。

 これでダンジョンに居る走るシリーズもモンスターだということも分かった。この薬草を【調合】に使うかはおいおい考えるとして、とりあえず【調合】用の素材集めをしなければならない。


 私は新たに仲間に加わった薬草を頭に乗せ、再び薬草の【採取】に戻った。

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薬草ってテイムできるんだ……
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