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戦闘力ゼロから始める曲がりまがったVRMMO 。普通に遊んでるつもりが何故か変な方に……?(旧題:戦闘力ゼロから始めるやりたい放題のVRMMO)  作者: kanaria
VRMMOを遊びつくせ

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18.街落ちしパーティ

 床に倒れた後の記憶が曖昧だけれど、どうやらそのままログアウトしてしまったらしい。仮眠をとってからログインすると『もうぼっちとは言わせない』の調合室にいた。


 このままあまり面識のないギルドの拠点にいるのも気が引けるので、誰かに声をかけてから外に出ようと部屋の扉を開けるとクラッカーの音が響く。


「なっ、何?」


「ぷぅ、ぷ?」


 ラテと2人でぽかんと口を開けて左右を見ると、どこかで見たプレイヤー2人が私にクラッカーを向けている。


 誰だろう?

 見覚えがあるようなないような……。


 クラッカーを持つ男女のステータスを確認すると『もうぼっちとは言わせない』のメンバーだった。街落としでぼろぼろになった防具は脱いでいるのか、簡易的なシャツとズボンを身につけている。

 見覚えがあるように感じたのは街落としの時にポーションを取りに来たからだろう。


「シオンさん、街落としのご協力ありがとうございました!」


「今、お祝いのパーティをやってるので、良かったらシオンさんも参加してください!」


「良いの?」


 反射的に聞いたものの、私が入っているギルドは『暇人の集い』だ。『もうぼっちとは言わせない』だけのパーティなら参加しにくい。どうしようか。

 悩みながらラテと顔を見合わせている隙に2人に手を取られてしまった。


「悪いわけないじゃないですか! シオンさんは街落としの立役者ですよ」


「みんな待ってます。うちのギルドはみんみんのポーションだけじゃ足りなかったので、シオンさんが来てくれなかったら前線が崩壊してました」


 2人はにこにこしながらも私の手を強く引く。これでは帰りたいと言っても離してくれないだろう。なんだか2人とも興奮している。


「……少しでも役に立てたのなら良かったけど。でも、私は他のギルドの人間だよ?」


 暗にギルドの拠点の中をウロウロされたくないだろうと含めたけれど、2人には伝わらなかったようだ。


「他のギルドと言っても『暇人の集い』ですよね? いつもお世話になってます! 街落としの時はレイさんの武器が買えなくてがっかりしたんですよ。ジローさんの防具は何とか手に入れましたけど」


「それに、歓迎してなかったらわざわざクラッカーを持って迎えに行きません。みんな待ってます」


「そ、そう。……ありがとう?」


 ラテを抱え上げ、元気の良い2人に絆されて先導されるままについて行くと、中庭に出た。『もうぼっちとは言わせない』の拠点はロの字になっているらしい。


 随分と豪勢な拠点だなぁ。

 10億Gと言われた家と同じくらいの広さがありそうだ。生産設備も揃っているのなら一体いくらかけたのか……。


 計算するのが怖くなって中庭に意識を戻す。中庭は建物に囲まれた場所のはずなのに60人が騒いでいても狭く感じない。

 これが大手ギルド。資金力も人数も桁違いだ。


「みんな注目ー!! 本日のゲスト、シオンさんがログインしたよ!!」


「えっ、ちょっ!?」


 突然大声で叫んだ女性プレイヤーの腕を掴んだけれど時既に遅し。中庭に居た人たちの視線が私に突き刺さる。

 どうしようかと慌てていると、人の間からまったりと猫の尻尾を動かしながら『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターが現れた。


「…………君がシオン?」


 観察するように私の周りを一周した後、顔をぐっと近づけてくる様子はとても猫っぽい。


「はっ、はい。素材の提供ありがとうございました!」


 会ったら文句のひとつやふたつ言ってやろうと思っていたのに口から出たのは御礼だった。一度ログアウトして怒りや疲れがなくなっているとは言え、大手のギルドマスターらしいカリスマ性を前に口をつぐむ。


「良い瞳をしてるね。うさぎ型のテイムモンスも可愛い。『暇人の集い』のメンバーじゃなきゃ勧誘してたよ」


「ぷぅ!」


 褒められたとわかったのかラテがドヤ顔を披露する。それをなだめて、『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターに向き直った。


「『もうぼっちとは言わせない』は満員だと聞いてますが?」


「君が手に入るなら多少無茶をしてギルドランクを上げるのも楽しそう。【調合】も喉から手が出るくらい欲しいし、君もなんだか面白そう」


「……ごめんなさい、今は『暇人の集い』で満足してるので」


「そう。もしギルドを移動したくなったら相談して。今回はポーションをありがとう。とても助かった」


「少しでも役に立てたのなら良かったです」


 たいして会話をした訳ではなかったのに空気に飲まれてしまった。ラテが居なかったらうまく言葉を交わせなかったかもしれない。


 これが大手のギルドマスターか……。

 いつか対等に話せるくらいになりたいな。


 去り際に軽く叩かれた肩に手をやったあと、所持金が10万G増えていることに気づいた。


「ちょっ、報酬の渡し方さり気な!?」


 恐らく肩を叩いたタイミングで私に報酬を渡したのだろう。何回もしたい経験とは言えないけれど、素材も用意してもらって技術料のみと考えれば破格だ。


 すごいなぁ。

 ほんと、人気があるプレイヤーなのが分かる。同性の私まで惚れそうだ。


 再度『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターの方に目を向けると、彼女は既に幹部と思われる人たちとの歓談に戻っている。時折動く耳と尻尾が魅力的だ。黒猫というのもとても彼女らしい。


「良いなぁ。団長に肩をぽんぽんされて。羨ましい」


 近くから嫉妬を孕んだ声が聞こえてぎょっとすると、私を睨みつつ『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターに熱い視線を送る人がいた。

 他を見てもギルドマスターに注目する人が多い。


「ほんまに慕われてるギルマスやんな。強さもあるし、あれぞ大手のギルマスって感じや」


 いつの間にか隣にいたナツミがによによと口を押さえている。同じく『暇人の集い』から派遣された割に私より元気だ。


「ナツミも居たんだ。街落としお疲れ」


「シオンもおつー! 私は戦場にばらまく罠を作ってただけだからそこまでだったけど、シオンはやばかったんやって?」


 ナツミの言葉で地獄のポーション作りを思い出し遠い目になる。あれはあまり経験したい体験ではない。


「やばいなんてものじゃなかったよ。別の戦場だった」


 『もうぼっちとは言わせない』は絶対【調合】を増やすべきだと思う。今後も街落としの度に地獄を見るのならみんみんも逃げそうだ。いや、みんみんなら何だかんだ喜んでポーションを作り続けるかも。


 彼もまた『もうぼっちとは言わせない』のギルドマスターに魅せられていたようだし。声をかけてもらっただけでまた頑張るとか言いそうだ。


「ほんと、なんであんなに人気があるんだろ?」


 ぼそっと呟いただけだったのに、声がナツミまで届いてしまったようだ。


「あのキャラクターと強さやろうな。うちも何となく惹かれるわ」


「ナツミも? 私も良いなと思っちゃったんだよね。レイも魅力があるけど、なんかレベルが違う気がする」


「あー、レイはレイで別の層から人気があるんやで。ただ、彼女は正規版から新しくギルドを設立して大手まで登った実力者だからか別格やわ」


「そうだよねぇ。ポーションを作ってた時は文句を言ってやろうと思ってたのに全然言えなかった。確か、アシュラって名前なんだっけ?」


 本人からそう名乗られた訳じゃない。でもまとめサイトに情報が載っていた。βからのプレイヤーで身長が低く、黒猫の獣人で名前はアシュラと。


「そうそう。ムービーではボスを殴ってたけど、本来は大鎌使いやねん」


「あの体格でよく大鎌なんて振り回せるよね。身体強化系のスキルを取ってるのかな」


 ゲームなので体格と火力は関係ない。けれど、余りに武器が大きすぎると武器に振り回されてしまうことがある。だから大きな武器を使えば最強とはならない。体が小さいほど大きな武器を扱うのに技術が要るらしい。


「んー、大きな武器を使うのに身体強化は必須じゃないんよ。必要なのはDEXやな。器用であれば武器の扱いにも長けてるってことや。レイも武器は大きなハンマーやし」


「そうなんだ。適当に武器を使ってたら強くなれないんだね」


 私はテイマーをやりたかったので武器を使った戦いはあまり調べていない。でも戦闘職を極めるのもスキルのやりくりが大変そうだ。


「どの職でもそうやって! このゲームはかなりとんがってるさかい。そこが面白いんやけどな」


 ナツミがにやりと笑った瞬間、ラテがもぞもぞと動き出す。


「ぷぅぷぅ」


 どうやら話に飽きてしまったらしい。地面に下ろせと訴えている。


「えぇ? ごめん、ナツミ」


「ええねんええねん。つまらん話をしててごめんなー、ラテ」


 ナツミが少し乱暴にラテの頭を撫でる。ラテは撫でてもらえて嬉しいのか、鼻をひくひくさせていた。


「せや、ラテと料理でも食べてきたらどうや? このギルドは【料理】持ちもいるから中々美味しかったで。まぁ、ハルカほどじゃないけど」


「ハルカの料理ってそんなに美味しいんだ。今度食べてみたいな」


「お願してみたらええんやない? 普通にくれると思うで」


 まだ『暇人の集い』に入ったばかりだから誰がどんなものを作るのかよく分からない。けれど話の端々から『暇人の集い』は生産職のトッププレイヤーばかりということは分かった。


 よくそんなギルドに入れたよなぁ。

 少人数のギルドなので、考え方によっては大手ギルドより入りにくそうだし。


 レイは身内のギルドなんて言っていたけれど、みんなログイン時間が長くてスキルの成長も速そうだ。胸を張って『暇人の集い』所属と言えるように頑張らないと。


 そう考えながらナツミと別れてビュッフェスタイルの料理をとりわける。胸に抱えていたラテは肩に移ってもらった。まだラテが小さいからこそできる芸当だろう。


「あ、シオン。やっと話せましたー」


 ラテが手で指す料理を取っていると、みんみんが話しかけてきた。彼は今回の街落としの生産部門1位だけあってあっちこっちで揉まれたらしい。服も髪型もぐちゃぐちゃだ。


「ランキング1位おめでとう。ゾンビになりながらポーションを作っていただけあるね。でも、休んでなくて大丈夫?」


 仮眠を取ったとは言え、私もそれ程長くログアウトしていた訳ではない。それなのに私より早くログインしているということは再ログインできるギリギリの時間だけしか休んでいないに違いない。


「団長に褒めてもらえる機会は逃せないので当然ですぅ。シオンさんも生産部門26位おめでとうございます」


「あ、ありがとう」


 みんみんはなんか妙にキリっとしているけれど、そんな顔をしながら言う言葉じゃない。でもアシュラと話したから何となくアシュラに褒められたいというみんみんの気持ちも分かる。


「良いギルマスだね。でもどうして団長なの?」


 このゲームでは一般的にギルドマスターをギルマスと呼んでいる。それなのに『もうぼっちとは言わせない』ではアシュラを団長と呼んでいた。


「あー、それは団長たちがβの時、『暁の光』にいたからです。『もうぼっちとは言わせない』の幹部も『暁の光』にいた人が多いのでギルマスというとザックさんを思い浮かべちゃうみたいで団長が嫌がったんです」


「『暁の光』っていうと確かナックルを光らせてた、あの?」


 脳筋という言葉が出かけて慌てて飲み込む。確かにあのギルドのギルマスと同じは嫌かもしれない。


「うちも脳筋が多いですけど『暁の光』はレベルが違うというか……。まぁ、あそこの脳筋っぷりについていけなくなって別れたのがうちなんですよぉ。新しく入った方も多いですけどね」


「そうだったんだ」


 結構複雑な関係だ。その割には『暁の光』との仲も悪そうに見えない。

 普通、分裂したのなら仲が悪くなるはずなんだけど……。


「あー、うちと『暁の光』は仲良しですよ。団長たちも未だにやり取りをしているみたいで、今回の街落としにうちを誘ってくれたのもザックさんです」


「へぇ、いい関係が続いてるんだね」


 今回の街落としはトップ争いをしている4ギルドのうちの3ギルドと大手の『もうぼっちとは言わせない』と『朝からお茶会』が主導していた。『朝からお茶会』もどこかのギルドと仲が良くて誘われたのかもしれない。


「そうですねぇ。でも『最強の一閃』には気をつけてください。あそこもトップ争いをしているギルドですけど、力こそ全てを素で行ってて恐喝から殴り合いまでなんでも有りなギルドなんで」


「それは中々ヤバイギルドじゃん。でもまだPKは解禁されてないはずだけど?」


 PKができないのならプレイヤー同士での殴り合いなんて出来ない。やろうとしてもセーフティに引っかかって殴った方がペナルティを食らうはずだ。


「PVP機能を使ってるんですよ。ギルド内で1番強い人がギルマスになるのがルールみたいでギルメン同士で殴り合ってます。今回の街落としを大々的に周知しなかったのも『最強の一閃』を関わらせない為と言われてますね」


「そんな裏事情が……」


 声を潜めたみんみんに合わせて私も声を小さくする。あまり聞かれたくない話のようだ。


「あのギルドを街落としに関わらせたら味方同士で足の引っ張り合いをしそうだという話になって、関わらせないで済むなら信頼できるギルドだけで倒しちゃおうということになったみたいですよぉ。最初の街くらいならルール化されてないのが悪いと言い張ってギルドの評判をそこまで落とさないで済みますから」


「思ったより色々考えられてたんだ。でも良くそんなことをみんみんが知ってるね」


 知ってたとしても話さないほうが良いのではと思いながらみんみんを見ると、みんみんが頼りなさげな顔でにへらと笑った。


「こう見えてもボク、このギルドの幹部です」


「まじか!?」


 大手ギルドの幹部にしては威厳がないな!

 アシュラとは大違いだ。


 びっくりして目を大きくすると、再びみんみんが声を潜めた。


「シオンさんには街落としでとてもお世話になりましたから。『暇人の集い』にいるのなら『最強の一閃』と関わる機会も多いと思いますし、知っておいた方が後々為になるでしょう?」


「そうかも。ありがとね」


 わざわざ教えてくれたみんみんに感謝を告げると、みんみんは満足げに頷いてアシュラの方へ向かっていく。みんみんに気づいたアシュラの眉が片方器用に上がったのがなんだか面白かった。

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