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【完結】『平民の血』と蔑まれた令嬢は、真実に守られる  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


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婚約パーティ当日の朝。


アデルは父とともに、公爵家からの迎えの馬車に乗り込んだ。

継母とマリエルは支度に時間がかかるらしく、後から会場へ向かうという。

馬車の中で、ランベール侯爵は娘の首元に輝くネックレスをじっと見つめた。


「アデル、本当によく似合っている」


そう口にすると、今日にも嫁に出す父親のように目を潤ませ、言葉を詰まらせた。

アデルも返す言葉を見つけられず、ただ互いに微笑み合う。

二人を乗せた馬車は、静かに石畳の道を進んでいった。


やがて馬車はエナン家の屋敷に到着した。

アデルは少し緊張しながら馬車を降り、玄関へと歩を進める。

そこには、リオンとジョセフィーヌ夫人が笑顔で出迎えていた。


「アデル、待ってたよ」


リオンの笑顔にアデルの緊張が少しだけ緩む。

父はジョセフィーヌ夫人に挨拶を済ませると、公爵の部屋へと向かっていった。

残されたアデルは、目の前にいるリオンがあきらかにそわそわしていることに気付く。


「アデル、今日の君は本当に綺麗だ、あっ! いつも素敵だよ。そのネックレスと瞳が同じ色で……いや、このドレスの色もとてもよく似合ってる! あ、それから――」

「はい、もう十分よリオン。落ち着いて。会場では大勢のお客様が待っているわ」


ジョセフィーヌ夫人が、くすくすと笑いながら息子の言葉を遮った。

リオンは照れくさそうに肩をあげ、アデルも恥ずかしそうに微笑んだ。

そんな二人の様子を夫人は満足そうに眺めている。


「えーっと、じゃあ行こうか」

「はい」


リオンが腕を差し出すと、アデルはそっと自分の手を組んだ。

幸せでどうにかなってしまいそうな気持を押さえ、二人で廊下を進む。

大広間の前まで行くと、そこにいた執事が恭しく一礼し、会場に向かって声を張り上げた。


「皆様! エナン公爵家嫡男リオネル様、ランベール侯爵令嬢アデル様のお見えでございます!」


大広間のざわめきが一瞬静まり、次の瞬間、盛大な拍手が大広間に響き渡った。


ペールブルーの揃いの正装に身を包んだ二人は、ゆっくりと中央へ足を進める。

たくさんの祝福の言葉が飛び交い、あちこちから感嘆の声が聞こえてくる。

皆の視線が自分に向けられるたび、アデルの頬は熱くなっていた。


降り注ぐような拍手の中、突然アデルの視界に真っ白なドレスが飛び込んできた。


「マリエル……?」


その呟きにリオンも視線を向ける。

会場の中央、ここにいる誰よりも華やかな装いのマリエルが、男性と楽しげに話をしている。

アデルの胸に一瞬、微かな不安がよぎった。


マリエルと話していた若い貴族は、主役の二人が自分たちを見ていることに気付き、深々と頭を下げた。

アデルの緊張を感じとったリオンは、軽く会釈を返してくるりと方向を変える。


しかし、突然目の前に人影が現れ、二人は立ち止まった。

マリエル同様、場違いなほど華やかに着飾ったその女性は、まっすぐアデルを見つめて微笑んでいる。

その笑顔に、リオンは違和感を覚えた。


「お継母(かあ)さま・・・・・・」


アデルの口から小さな声が漏れた。

リオンはあらためて、その女性の顔を確認する。

以前、ランベール家で眉をしかめていた暗い表情とは、まるで別人のように華やかな笑顔。

目の前にいるのは、アデルの継母であるランベール侯爵夫人に間違いなかった。


「アデル、遅くなってごめんなさいね。リオネル様、ご挨拶が遅れまして。アデルの母でございます。本日は誠におめでとうございます」

「ありがとうございます、ランベール侯爵夫人」

「リオネル様、アデルは貴方様のような素晴らしい方とご一緒できて、本当に光栄ですわ!」


笑顔を崩さないランベール侯爵夫人に、リオンは「ご丁寧に……恐縮です」と静かに返した。


アデルは何も言わず、ただ、継母のイヤリングを見つめていた。

大ぶりな宝石を揺らしながら、興奮した様子で継母はリオンに話しかけ続ける。


「こんな素敵なパーティ初めてですわ。この会場の美しさったら、さすが公爵家ですわね」

「ありがとうございます」

「あの大きな絵画は、誰の作品ですの? 素晴らしいですわ」

「詳しい使用人がおりますので、ご紹介いたします」

「ああ、いえいえ、いいんですの!」


露骨に浮かれる継母の様子を見て、アデルは早くこの場を離れたいと思った。

そのとき、後ろから左腕が引っ張られる感じがした。

驚いて振り返ると、そこには人形のような笑顔のマリエルがいた。


本日の更新はここまでです。

お読みいただき、ありがとうございました。

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