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【完結】『平民の血』と蔑まれた令嬢は、真実に守られる  作者: 群青こちか@愛しい婚約者が悪女だなんて~発売中


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6


公爵家に到着し、アデルはリオンと一緒に部屋へ向かった。

二人の後ろを、ランベール侯爵が静かに歩いている。

部屋の扉が開いた瞬間、リオンの母ジョセフィーヌが声をあげ、アデルに駆け寄った。


「まあ! まあ! その美しい瞳の色、セレスティーヌにそっくり」

「母上!」

「ごめんなさい、私ったらもう、ずっとあなたに会いたかったものだから」

「はじめまして。アデル・ランベールです」


アデルは優雅なカーテシーでジョセフィーヌに敬意を示した。

ジョセフィーヌは優しい笑みでそれに応え、後ろに立つランベール侯爵へと視線を向けた。


「懐かしいわ、ランベール侯爵。お久しぶりですわね」

「夫人もお変わりなく。そして、この度は大変ありがとうございます」

「うふふ、こちらこそよ。本当に素敵なお嬢様ね」


ジョセフィーヌは、アデルを見つめて目を細める。

アデルは、夫人の華やかな美しさに圧倒されていた。

リオンにもどこか似たその笑顔に、少し緊張してしまう。

楽しそうにしている妻に、エナン公爵がそっと近づき肩に手を置いた。


「あら、ごめんなさい」


我に返ったジョセフィーヌは、愛おしそうに夫を見上げて微笑む。


「では、そろそろ席に着くとしましょう」


部屋の中央にある机に、両家は向かい合って腰を下ろした。

机の上には誓約書と羽ペン、インク瓶が並んでいる。

両家は婚約誓約書に署名を交わし、アデルとリオンは顔を見合わせて微笑んだ。

その様子を見て、エナン公爵は静かに頷く。


「一か月後に、二人の婚約パーティを開きたいと考えています。ドレスや準備は全てこちらで手配するので、いかがだろうか」

「なんと! ありがとうございます」


ランベール侯爵は、深く頭を下げて感謝を述べた。

嬉しそうな二人を、ジョセフィーヌ夫人が穏やかな眼差しで見つめている。


やがて、侍女たちによってお茶と焼き菓子が運ばれ、広間は甘い香りに包まれた。

和やかな笑い声が溢れ、楽しい時間はゆっくりと過ぎていった。


――その夜。


アデルは、父ランベール侯爵から書斎に呼び出された。

不安げな表情を見せる娘に、父は優しく声をかける。


「今日はいい日だったな……」

「ええ」

「エナン家に嫁ぐ前に、お前の母セレスティーヌのことを話しておこうと思う」

「お母さまについて?」


思いがけない言葉に、アデルは大きく目を見開いた。

亡き母の話は、継母が不機嫌になるからあまり聞く機会がなかったのだ。

期待に瞳を輝かせる娘を見て、ランベール侯爵は小さく頷き、ゆっくりと話し始めた。


アデルの母セレスティーヌは、かつて小国の王女だった。

だが国王である父が暗殺され、命を狙われた彼女は、王妃と六歳上の兄とともに国外へ脱出した。

母や兄とは別の行動を取り、セレスティーヌだけが近衛隊長たちとともにベレリア国へ逃れたという。


彼女を支援したのは、彼女の国の教皇と旧知の仲だったベレリア国の司祭。

その司祭がリオンの母ジョセフィーヌの縁者であり、二人は自然と親しい関係になった。


セレスティーヌの国は、国を奪った宰相によってドミネア国と名を変えられた。

しかし、国王が暗殺されたと知った民は、次々に国を去り、今では荒れ果てているという。

奇しくも、マリエルの母イルダは、そのドミネア国の出身だった。


「お母さまが、王女だったなんて……他の国に行った王妃様達はどうなったの?」


アデルの問いに、父は静かに頷く。


「実は数年前、セレスティーヌの兄から手紙が届いたんだ」

「手紙?」

「ああ。『移り住んだ地で国を築き、民は平和に暮らしている。もう危険はない。セレスティーヌに会える。可能なら呼びよせたい』――そう書かれていた。でも、その手紙が届いた時には、お前の母はもういなかった……」


父は悲しげに視線を落とした。


「セレスティーヌが亡くなったことを知らせたあと、たくさんの百合を贈ってくれたんだ。覚えているかいアデル? 玄関ホールいっぱいに百合の花が飾られたことがあっただろう。あれは、お前の母の兄からの贈り物だったんだ」


アデルの脳裏に子供の頃の記憶が蘇る。

大輪の百合が、玄関ホールを埋め尽くすように飾られた日。

あまりの美しさにマリエルと喜んだが、継母がひどく嫌がっていたことまで鮮明に思い出していた。


思い出に沈むアデルの前に、父が見慣れない天鵞絨張りの箱を差し出した。

蓋を開くと、薄紫の宝石に繊細な透かし彫りの紋章が刻まれたネックレスが収められている。


「この宝石が、お前の母が王家の人間だった証だ。嫁ぐときに持たせるつもりだった……アデル、どうか幸せになってほしい」

「ありがとうお父様。お母さまのことを聞けて嬉しい。私、きっと幸せになる……」


アデルが言い終わる前に、父はその体を強く抱きしめた。

その腕の中で、アデルは心の奥が満たされていくのを感じていた。


読んでいただきありがとうございます。

応援やブクマいただけると嬉しいです。

短期連載あと半分です(∗ˊᵕ`∗)

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