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婚約パーティのあと、アデルはジョセフィーヌ夫人にたくさんのハグとキスを受け、幸せな気分のままランベール家へ戻った。
玄関に足を踏み入れると、使用人たちの笑顔がアデルを迎えてくれる。
祝福の言葉を受けながらも、アデルは父とマリエルたちのことが気になっていた。
屋敷内がやけに静かなのを気にかけながら、自室へと戻る。
部屋に入ると、緊張が解けたのか体が一気に重くなった。
着替えを終え、すぐにベッドに倒れ込む。
今日のパーティで起こった数々の出来事を思い返しているうちに、いつの間にか眠りに落ちていた。
翌朝。
扉を叩く音でアデルは目覚めた。
カーテン越しに朝日が差し込んでいる。
聞きなれないノックの音にそうっと扉を開けると、そこには父が立っていた。
その顔は、一晩で別人のように老け込んで見えた。
父は部屋に入るなり、深々と頭を下げる。
「すまないアデル」
「お父様、やめてください」
「お前が辛い思いをしていたことに気付かなかったのも、マリエルがあんな風に育ったのも、全て私の責任だ」
その声はかすれていた。
父はずっと、継母との仲が良好だと信じていたらしい。
マリエルを幼いころから可愛がっていたことも知っていたので、まさかあのような関係になっているとは思いもしなかったのだろう。
「本当に情けない、セレスティーヌに顔向けが出来ない」
「顔をあげてくださいお父様。私はたくさん愛情をもらって育ちました。それに……マリエルのことは、昨日気持ちの整理がつきました。だから、本当に大丈夫です」
「アデル……」
顔をあげた父は、力なく笑顔を見せた。
アデルはその胸に思いきり飛び込み、父もまた娘を強く抱きしめた。
少しして、父は穏やかな声で話し始めた。
「お前の結婚式には、マリエルとイルダは参列させないことにした。すでに、二人を東の森の近くにある狩猟用の別邸へ送っている。当分そこで過ごしてもらうつもりだ」
アデルは驚きに目を見開いた。
しかし、父のその決断を理解し、静かに頷く。
「結婚式までは、父娘ふたりきりになるがそれでもいいかい?」
「もちろん!」
言葉を返すより先に、アデルはもう一度父の胸に飛び込んでいた。




