追憶後編
「それは管理局は脅威にならないってわけね」
「そういうこと。俺が管理局に残っていれば情報もリークし放題だ。そして子飼の装着者を雇えば、ほら簡単に足切りの戦力の出来上がりだ。まぁ一部は調子に乗ってたのもいたけどそこは俺がちょいとお灸を据えればいいだけだ」
全部が全部掌の上というわけではないけど、と付け加える。
「実際問題既存の武装ではエヴォルダー装着者に効果は薄い。そこで管理局にも合体者が必要だった。それもなるべく強い、ね。そこで目を付けたのは君だったんだよ都宮くん」
「私……?」
「そう。戦麗華の仲間に調べてもらって管理局についてくれそうな人間を探していた。君は家を出て生活に困っていただろ? しかもけしかけた合体者を簡単にあしらった」
一姫の脳裏に灰沢と出会った時のことが映る。
確かに当時一般人を襲おうとしていたカマキリ型のエヴォルダーと交戦し、撃退した後に灰沢がやってきてそのままスカウトを受けた。
「実際管理局に君がやってきてくれたおかげで戦麗華と関係ないエヴォルダー事件はどうとでもなった。君は間違いなく天賦の才に恵まれていた」
そのことは今まで見てきた中で間違いないという灰沢には確信があった。
「唯一の欠点と言えば相棒との適合率が比較的低いことだったが、それを補って余りあるほどの強さだった。誇っていい。それにエグゼ以外のエヴォルダーのデータも増えるのはいいことだった。他にも語ることはあるけど……結果としてゼロという人工のエヴォルダーを生み出せるまでに至った。ああ、君たちには感謝しかないとも!」
本心でこれを言っていると一姫とシンザンは理解した。
今までいいように利用されていたことに気づかなかったことに憤った。
しかしまだ疑問はあった。
『ねぇ、どうして剣くんだったの』
『それはさっき彼にも説明したんだが……ま、花奏くんのお眼鏡にかなった人間だったからだ。いやそして実に彼は面白い。本当に無力であったというのに、短期間でかなりの成長を見せている! よもやよもやだ!』
「エグゼ、少しボリューム下げてくれ。耳に響く」
『ああ、いやすまない。だが花奏くんとしては嬉しくなかったかもだが』
「かもね。だけど彼女が所属してくれたおかげで俺たちはこうやって目的を達することもできた。やはりあの男を殺したのは正解だったようだ」
「あの男って……」
『灰沢さんの奥さんと娘さんを殺した犯人?』
「そうともそうとも。彼女と出会ったのもその男に殺されかけていた時だった。そしてもう一人の仇にも制裁は与えた。機密データを命大事さに俺に所長権限でしか手に入れられない機密データを俺に渡し、汚職の証拠を、全て……ようやく上に暴露できた。そして俺と言う人間の離反、謀反。どう足掻いても奴は終わりさ」
灰沢は冷めた笑みを浮かべる。
確かに内部の有能な人間が謀反を起こしたことを許し、加えて汚職が全て暴露されて仕舞えば社会的に抹殺したも同然だ。
「さて、長話はこれくらいでいいかな。紅くんを連れて帰らせてもらうよ。安心しなさい、君と剣くんは殺さないから。ただしばらくは立ち上がれないように、足の健くらいは切らせてもらう」
西洋剣を持ち、灰沢は切っ先を一姫にむけた。




