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66:ひと時の休息を終えて……

 アルバトロス討伐を終えてから、早いもので五日が経った。

 その間はずっと村に滞在し、世話になっている。命に別状はないまでも、負傷者が多数でてしまったのだ。イリスも療養が必要であり、すぐには旅を再開できなかった。


 あの日、討伐が済んでからは村人にも協力を仰ぎ、総出で屍骸の処理を行った。おかげで連日連夜、食卓には鳥肉料理が供され、それでも食いきれぬほどの残りは、日持ちする干し肉へと加工されることに。これらは当面の間、村人たちの腹を満たす糧となる。


 後日には冒険者のスミスを筆頭に、動ける者達だけで念のために森を捜索。聞き及んでいた通り、酷く荒らされた森は生き物の鳴き声ひとつせず、不気味な静けさが広がっていた。

 群れの残りはとっくに逃げ去ったのか、もしくは討伐したものが全てだったのか。一羽たりとて発見できず、跡形もなく姿を消している。

 さらに進んだ奥地の開けた場所で、鳥らしく木の枝で組まれた籠状の巣を発見。大きな体躯を乗せるに適しただけの大木がないからか、巣は浅く掘られた地面に拵えられていた。

 巣の中には卵の殻や抜け落ちた羽、さまざまな動物の骨。そして……犠牲になったスミスの冒険者仲間、彼らの遺品だけが放置されてあったのだ。

 スミスは黙したままに、転がるそれらを一心不乱に拾い集める。仲間の形見を抱きしめ、蹲った彼の背。声を押し殺し咽び泣く背中に、誰も声をかけられなかった。


 翌日、彼ら冒険者の二人は仲間の形見とともに、一足先に村を発っていった。ギルドを介さず受けた依頼であるが、王級討伐と、犠牲になったギルド所属員の報告をしなくてはならないのだと。

 見送った彼らの背は哀愁に溢れ、今も印象強く心に焼きついている。




 さて、話を現在に戻そう。

 イリスは順調に快復し、今ではすっかり元気を取り戻している。体調さえある程度戻ってしまえば、あとは自分に神聖術を施すだけ。復調した彼女は、怪我の治りきらぬ兵達に治癒を施し、次々と全快させていった。

 あの日、イリスが取りこぼした一人の命。ずっと気に病んでいるのではないかと心配だった。普段通り明るく振舞っているが、やはりふとした拍子に思い出すらしい。時折彼女の顔に影が差すのを、気付かないほど間抜けではない。

 しかし無闇に掘り返す話ではなく、あえて励ましはしていない。だがもしイリス自身が、感情を抑えきれなくなった際には、俺の胸でよければ貸すつもりでいる。


 そして五日目の今日。ようやく仕度が整い、村を発つ日がやってきた。


「ふぇぇ、また魔導車に乗る日が来ちゃったんですね……。うぅ、もっとベッドで寝ていればよかったですよぅ……」


「イリス様、頑張ってくださいなのです!」


 魔導車はイリスにとって地獄の揺り籠。しかし乗らないという選択肢はないので、我慢してもらうほかない。

 とはいえ、このままでは先の二の舞になる。だからイリスへの配慮として、休憩の頻度を多くし一日の移動時間も短くすると、あらかじめ決められた。負担を少しでも減らせるようにとの心がけだ。

 勿論、その分王都に着くのに時間がかかる。だがそれであっても、魔導車ならば馬車より早く着ける見通しなのだそうだ。


「皆様、お世話になりやした。村を代表する長として、礼を言わせてくだせぇ」


 村長は頭頂部が寂しくなった頭を下げ、何度も礼を述べた。それはもう放っておけば腰を痛めかねない勢いであり、見かねたカルナリア嬢が止めるまで、彼のお辞儀は繰り返された。


「おかげで当面食料の心配もなくなり、本当に助かりやした。しかしよろしかったんで? 肉以外にも、羽毛や爪などの素材までいただいてしまって……」


「気にしないで頂戴な。どのみち、王級の素材だけで荷物は一杯ですもの。それに作物が全部駄目になって、このままじゃ税を納められないでしょう?」


 食料不足はなんとかなっても、村の収入源である作物が全滅した事実は変わらない。領主に収めるべき税が、彼らには残されていないのだ。村の規模からしても、万一の際に対する備えがあるように思えない。

 勿論嘆願すれば、免除や減税といった処置はあるだろう。だが、すべては領主の匙加減。ベルゼス領を統治する領主の人柄は知らないが、嘆願が聞き入れられなかった場合、この村の人たちは身売りでもしなければ立ち行かなくなる。


 そこで先日討伐した、アルバトロスから得た素材の出番となる。アルバトロス自体は低級の魔物ゆえ、一羽からとれる素材の量では大した額にならない。だが今回は大量にあるわけで。

 特に羽毛は、寝具や防寒着にと需要が高い。全て売り払えば、彼らが失った作物の分を賄って余りあるはず。

 こちら側も協力して討伐に当たった冒険者組も、王級を始めとした必要なだけの素材はすでに確保してあるからな。処分に困るほど余った素材が、有効利用されるのなら御の字だ。


 村総出で見送られながら、カルナリア嬢は魔導車へ乗り込む。ダリルさんは全員が乗車したのを確認すると、出発の合図に声を張り上げた。

 走り出した魔導車は徐々に速度をあげ、間もなくして、振り返っても村は見えなくなってしまう。


「予想外の災難に見舞われましたが、ここからは順調にいきたいですね」


「そうね。あ、でも聖女様。辛くなったら、すぐに仰ってくださいな。魔導車を止め、休憩をとりますので……」


「はい、お気遣いありがとうございます。でも今のところ大丈夫ですから、ガンガン進んじゃってください!」


 本当か? 自分の責任で時間を喰ったからと、強がっているんじゃないか?

 しかし顔色を窺うも血色がよく、特にこれといって気分を崩してはいない。以前ならば、とうに青くなっている頃合なのだが。


「イリス、まだなんともないのか?」


「んー、少し気分が悪い感じはありますが、十分我慢できます。なんだか、前に乗ったときよりも楽ですねー」


 人って慣れるんですねー、と呑気にしているが、果たしてそう簡単に克服できるもんかね。もしかすると時間の経過によって、封じられていた加護が戻りつつある兆候か?


「なにより、これ以上皆さんに御迷惑をかけたくないですし。それに……ほら!」


 イリスは自分に神聖術を施し、大丈夫だとアピールをした。治癒の光は病んでいたときと違い、普段の頼もしい輝きを放っている。


「こうすれは元通りです! なので、私に構わず先を急ぎましょう!」


 気分が悪くなり始めたら、その都度自分に神聖術をかける。重篤な状態に陥る前に対処すれば、いつまでも乗っていられると、前回の教訓から学んだらしい。


 とはいえ、この手段はどの道イリスに負担を強いることに変わりはない。何度も神聖術を行使するのだから、マナの消耗が著しいはず。さらには心なしか、徐々に術の頻度も高くなってきている。途中から数えだして、すでに回数は二十を超えてしまった。

 短時間での過剰な術の行使は、別の意味で気分を悪くする。トマスのようにマナが限界まで枯渇し、白目を向いてぶっ倒れるイリスなんて見たくないぞ。


 だが何度具合を尋ねてみても、本人は「大丈夫」の一点張り。顔色を確認するも、強がっている様子は窺えない。


「イリスさん、すごいマナの量だねー。さすが聖女様、なのかな?」


「ふぇ? そうでしょうか? 王都の教会にいた頃は、毎日百人近い人達に神聖術を施しておりましたし、このくらいどうってことないですよー」


 おぉう……。そりゃそれだけ行使できるのなら、例え五十回だろうと問題にもならないか。イリスの胃袋が底なしであるように、保有するマナの量もまた桁違いなのな。

 しかし神聖術を施す間隔が短くなっているあたり、体は正直らしい。


 ほどなくして、カルナリア嬢が休息を取るべきと判断。見晴らしのいい場所で魔導車を停車させた。イリスだけじゃなく、操縦を務めるダリルさんや後続車の兵士も、安全のためには適度に休みを入れる必要がある。


 そうして幾度かの休息を挟みつつ、気がつけばあっという間に夜。

 昼休憩の際、イリスは普段通りに昼食を平らげてたし、道中は本当に問題のない様子だった。

 夕食も早々に終え、今は焚き火を囲いながら就寝まで憩いの時を過ごしている最中。


「……キリク様、その綺麗な石はなんなのです?」


 そうシュリに問いかけられた物は、俺が手に持ち、焚き火の灯りに翳して眺めていた魔石。

 手の平からはみでるほどの大きさであり、深緑の色具合から、純度の高い代物だと素人目にも判断がつく。


「これか? これは先日討伐した、アルバトロスロードの魔石だ」


 さすがは王級とあってか、元がDランクのアルバトロスとは思えない質の魔石。以前入手し、売る機会を逃したままになっていたゴブリンロードの魔石も取り出し、見比べてみる。……はは、まるで小石だな。


 この魔石は本来、討伐証明の品としてスミスに渡すつもりであった。だが、彼は受け取りを拒否。討伐の功労者である、俺が所有すべきと主張したのだ。代わりにスミスは腕程も太い、アルバトロスロードの鉤爪を持っていった。確かのあの大きい爪であれば、十分王級の証明となりえる。


「……シュリも気になるか? ほれ」


 見惚れるように横で眺めていたシュリ。手にとって見たいのだろうと察し、投げ渡す。彼女はわたわたと取り零しそうになりながらも、両手でしっかりと受け取った。


「ふわぁ~……綺麗なのです……!」


「ほんと、とても立派ね。この大きさだと、Aランクの魔物から採れる魔石並かしら。純度も高いみたいだから、最低でも白金貨以上の価値があると思うわよ」


 向かい側に腰掛けていたカルナリア嬢が、自分のわかる範囲で魔石を評する。

 彼女の目利きが正しければ、つまりあのアルバトロスロードは、Aランク相当の力を持つ個体だったと考えられる。元の種を鑑みれば随分な出世だ。


「ねぇキリク君。その魔石どうするの? 売るの?」


「そうだなぁ……。ま、必要な機会がくるまで、手元に置いておこうかな」


 すぐ売らなくてはいけないほど、懐は切羽詰まっちゃいない。ならいざというときのため、温存しておけばいい。

 そういえば、魔装具は魔石を重要な素材として用い作られると、後々ギルドマスターから教わった。となればこの魔石を材料に使い、新しい魔装具を拵えるのもありだな。王都ならば、腕のいい職人がいるに違いない。

 ギルドマスターの使った盾や、カルナリア嬢が持つ槍のような、特殊な力を備えた武器にしようか? もしくは防具に用いれば、あの風の鎧を再現できるかも。……自分が纏ったら、逆に投げる邪魔になりかねないか。


 なんてことを考えながら、シュリから返された魔石を大事に仕舞っておく。

 夜も更けてきたので、いい加減寝付こう。明日も朝早いからな。

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