表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/117

31:啓示か、偶然か

「――とまぁ、ここまでが僕の報告ね!

 あとは……君から話してくれるかな?」


 アッシュは自分の番はここまでだとし、続きを少年に託した。

 彼も頷きで応え、少しばかり緊張した面持ちで口を開く。


「えっと、ぼくはトマスといいます。

 女神ミル様に仕える道を選び、立派な神官となることを志している身です」


 まずは軽く自己紹介からか。

 ここまで名前も知らなかったんだから、当然だな。


「俺は……アッシュから聞いているみたいだからいいか」


「はい。ここに来るまでに、お2人のことは教えてもらいました。

 それに、キリクさんの名前だけはすでに知っていましたし……。

 あの……そ、そちらの可憐な方が、シュリさんですよね?」


 先ほどの姿を思い出したのか、頬を赤らめるトマス。

 腹と下着が少し見えていた程度だったんだが、そこまで刺激的だったのな。


「可憐だなんてそんな……」


 こっちもまた頬を染めちゃってまぁ……。

 見え透いたお世辞だと思うんだがな

 チラッチラッと俺に視線を向けてくるが、スルーしておこうか。


 しかし、名前だけはすでに知っていたとはどういうことだ?

 有名人になったつもりはないのだが。


「トマスは神官、か。

 ひょっとして、俺達が教会へ行ったときに居たのか?

 そんで司祭かイリスかに、俺の名前を聞いたとか?」


「えっと、聞いたといえばそうなります。

 相手はジャコフ司祭様で……。

 実はその時、一緒にとんでもない話も盗み聞いてしまいまして……」


「その話ってのが、ここに来た理由なわけだよな。

 まどろっこしいのは抜きに、本題だけ話してくれ」


「あ、はい! 簡潔にお話しします!

 今のアルガード大教会は、聖女様にとって危険です!

 聖女様の襲撃を企てたのはある人物で、ジャコフ司祭様も共謀者なんです!」


 おいおい……。

 怪しいってことにはなってたが、どんぴしゃかよ。

 それに共謀者ってことだと、司祭が黒幕じゃないってことだろ。


「聖女様をようやく手に入れた、とか。

 加護を封じる、とか話していました!

 しかも、それは明日の夜に行うらしいんです!」


「それならまだ時間はあるな。

 そこまで大層な話なら、朝一番に、この街に住んでるっていう領主にでも掛け合って――」


「だめです!!」


「うぉっ!? いきなり大声だしてどうしたんだよ……?」


 こちらの案に、急に食いかかるように否定の言葉を吐いたトマス。

 朝まで待っていられない、ということだろうか?


「キリク君。ジャコフ司祭の共謀者ってのが、その領主様らしいんだよ。

 はぁー、ほんとどうしようね……?」


「はぁ? 領主様って……うそだろ?」


「間違いありません。ぼく、確かにこの目で見たんです!

 壷の中から勇気を出して、顔を確認したんですから!」


 お前どんなところにいたんだよ……。


「あのあの、領主様も危険な人なのです?

 なら、誰に助けを求めればいいです?」


「誰にって……」


 相手はここら一帯を統治する貴族だぞ?

 それこそ、さらに上の国にでも訴えかけるしかないんじゃないか?


「街の衛兵に通報しても無駄だろうね。

 間違いなく領主様の耳にまで入って、もみ消されるよ。

 下手すれば僕らがあらぬ疑いで捕まるね。

 言うなれば、この街自体が敵だと思ったほうがいい。

 もちろん、個々の人たちは無関係だろうけどさ」


「ぼくも、聖女様になんとかお伝えしようとしたんです。

 でも常に見張りがついてて……。

 とてもぼく1人では、どうにもならなくて……」


 自分の無力さが不甲斐ないのか、次第に鼻声になっていくトマス。

 だが男である矜持ゆえか、涙を流すのだけは必死に堪えていた。


「思い返せば、ポドロ司祭様がいなくなってから、教会はおかしくなっていったんです。

 良くしてくれていた先輩方は、次々に布教の旅に出されていって……。

 代わりに入ってきた人達は、みんな理不尽な方ばかりで……。

 今じゃあの頃から残ってるのは、ぼくみたいな立場の弱い新米ぐらいなんです」


「……キリク君。前に話した邪教徒の噂、覚えてる?」


「あ? ああ、邪神を崇めてるとかなんとかのやつだろ」


「うん、そう。この地方に、拠点のひとつがあるんじゃないかってやつね。

 これはあくまで、僕の予想なんだけどね?

 その拠点って、この街に……。

 いや、領主様がそうだとしたら、この街自体がそうなのかも」


「それはさすがに話が飛躍しすぎなんじゃ……」


「そういえば、本部からの催促がどうとかも話してましたよ……?」


 なんだよそれ……。

 そんな一言添えられたら、完全にそれっぽいじゃんか。


「キリク様? 難しい顔になってますが、大丈夫です?」


 こちらを覗き込み、不安げな表情を浮かべるシュリ。

 自分の心を落ち着かせるため、彼女の頭をぐりぐりと撫で回した。


「あ〜う〜」


「心配してくれてありがとな、シュリ。

 話のスケールが、どんどん大きくなってきてるのがなー……」


「ま、まぁ、あくまでも僕の勝手な予想だからね?

 それで話を続けるけど、教会も乗っ取られちゃったんじゃないかなって。

 でなきゃ、短期間にそんなにごっそりと、人の入れ替えなんてしないと思うんだ」


「あのあの!

 それでイリス様は、どうして狙われるです?」


「ん〜……対立する宗教のシンボルだから、とか?

 そうおかしくはない理由だとは思うけど……」


 安心できる場所にまで辿りついたと思ったら、そこが一番危険だったなんてな。

 そんなの予想できるかっての……。


「なぁ。言っちゃなんだけどさ、これ俺達には荷が重くないか?」


 相手は教会どころか、領主もだ。

 俺達だけでどうしろってんだよ。


「ぼくも1人じゃ無理だと思いました。

 だから兄に頼んで、隣のヴァンガル領まで連れて行ってもらおうとしてたんです。

 そちらの領主様なら、手を貸してくれるかもって。

 もちろん、それだとかなりの時間がかかってしまうのですが……」


 明日の夜に加護を封じるって話だったものな。

 その阻止は諦めて、助けを求める道を選んだわけか。


 ……いい判断だと思う。

 というより、その選択肢しかないんじゃないか?


「でも、ぼくは皆さんに出会えました! 聖女様と縁のある皆さんに!

 これって、女神ミル様のお導きだと思いませんか!?」


 いや、偶然だと思うが。

 教徒ってどうしてこう、なんでもこじつけるかね。


「僕もあそこでトマス君に出会えて、勇者を志す者として運命を感じちゃったよ。

 これは聖女様を救えっていう、ミル様の啓示だよね!」


「運命とかお導きとかどうでもいいが……。

 それでどうするつもりなんだよ?

 俺としては、トマスがしようとしていたように、隣の領主に助力を請うほうがいいと思うんだが。

 ……さすがに、その領主も仲間でしたってオチはないだろ」


「僕もそうは思うんだけどね。

 でも、それまで聖女様が無事でいられるかだよ。

 隣の領地まで行こうとすれば、片道だけで10日以上もかかるんだよ?

 なにより、聖女様がここから移動させられれば、完全に見失いかねないもの」


「キリク様! わたし、早くイリス様をお助けしたいです!」


「ぼくからもお願いします、キリクさん!

 どうか聖女様を救い出すため、手を貸してください!」


 俺以外の3人は満場一致なわけか。

 もちろん俺だって、この手で助け出したい気持ちはある。

 だが……。


「そこまで言うからには、何か策でもあるのか?

 わかっているとは思うが、正面からなんて無謀だぞ」


「うん。だから僕の案としては、教会に潜入して、こっそり助け出すのはどうかな?

 それで事が済んだら、すぐにこの街を離れる。

 隠密スキルを持つ僕らなら、可能なはずだよ」


 潜入……か。

 少数だからこそ、その手しかないか。


「あ、ぼくも隠密もってますよ! ランクはまだ低いですが……。

 その、よくサボっていたらいつの間にか……てへへ」


「……わたしは持ってないです。足手まといです」


「えーと、ならシュリちゃんは、脱出する準備をしておいてくれるかな?

 僕ら皆がすぐに逃げ出せるようにね」


「は、はいです!」


 とんとん拍子に話が進んでいくな。

 果たしてそう上手くいくものか、俺は不安なんだが。


「……それでどうかな、キリク君?」


「……わかったよ。

 ここまできて、放っておくことなんてできないからな」


 あいつのことだ。

 こっちが見捨てたせいで死んだら、冗談抜きに化けてでそうだしな。


「なら、早速いきましょう! ぼくが案内を務めますから!」


「待てって。決行は明日の深夜、街が寝静まってからだ。

 加護の封印とやらに間に合うかわからないが、作戦を練って、準備を整えてからのほうがいい。

 それに閉じた街門をどうするかっていう問題もある。

 なによりも、もう体力の限界で眠い……!」


「そうだね、僕も賛成だよ。

 すごく疲れてて、瞼が重いからね!」


「わたしはいけるですよ?」


 そりゃシュリはさっきまで寝てたからな……。

 俺とアッシュは、ずっと起きっぱなしなんだっての。


「そう、ですか。いえ、仕方ありませんよね。

 わかりました。ぼくも寝ます!

 それと、門については考えがあるので、任せてください!」


 問題事がひとつなんとかなるのか。

 ならばありがたいものだ。


 今日の話し合いはこれで終わりとし、俺達は明日に備えて寝ることになった。

 先ほど言っていたように、眠さが限界だからな。


 部屋のベッドへと着のままに身を投げる。

 すぐさま襲い来るまどろみ。

 無意味な抵抗などせず、大人しく目を閉じた。


 ちなみにベッドは3人分しかない。

 だからトマスにはシュリと一緒に寝てもらった。

 小柄なもの同士、なんとかなるだろ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ