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30:酔いどれの行く先

「ふぅ。遅くなっちゃってごめんね?

 いやー、いろいろあってさー」


「お疲れさん。さっそく、報告を聞きたいところなんだが……。

 ……そいつ誰?」


 宿の玄関を開き、待ち人を招き入れる。

 すると、彼の後ろには大きな荷物を背負い、外套で身を隠した小柄な姿があった。


「ああ、この子ね。途中で拾ったんだ」


「拾ったって……。捨てられてたペットじゃあるまいし。

 うちでは飼えないから、落ちてた場所に返してこいよ」


「まぁそう言わないでよー。

 キリク君が思っているよりずっと、この子は重要なんだよ?」


 重要? いったいどういうことだ?

 どう見ても、家出してきた子供にしか見えないんだが……。

 絶対シュリよりも幼いだろこいつ。


「あ、あの! とても大事な話があるんです!

 アッシュさんから、あなたが聖女様をここまで護衛してきたのだと聞きました!

 お願いですから、邪険にせず、話だけでも聞いてくれませんか!?」


 フードをおろし、こちらへと素顔を晒す家出っ子。

 現れたのは、くりくりのくせっ毛をした、年端もいかない少年。

 だがその顔つきは真剣で、垂れ気味の目は使命感に満ちていた。


「……わかったよ。とにかく、ここじゃなんだから部屋にいこう。

 アッシュも疲れたろ? 一息ついてから話を聞かせてくれ」


 時はもうすでに深夜。

 仮に家出少年であったにしても、今から帰すのは可哀想だろう。

 それにあの必死な顔つきからして、大事な話があるのは本当のようだしな。


 宿の主人に言いつけられていたとおり、しっかりと玄関の施錠を行う。

 それから自分達の部屋へと、2人を連れて戻った。


 部屋の中では、いまだベッドでお休み中のシュリ。

 服がめくれ腹をだし、女性としてあられもない姿を晒していた。


 少年はそんな少女の姿を目撃し、顔を真っ赤に染め慌てて背を向ける。

 その様は初々しく、見ていて微笑ましいものだ。

 ……俺はといえば、見慣れてしまったのでなんともだが。


「シュリ、起きろ。

 アッシュが戻ってきたぞ。お客さんも一緒だ」


「……んぅ〜……」


 よほど深く寝入ってしまったのか、一向に目を覚ます気配がない。


「……しょうがないか」


 おもむろにシュリの鼻を摘む。ついでに口も塞いでやった。

 これで息ができないから、嫌でも起きるだろ。


「そのまま寝かせておいてあげないんだね……」


「起こしてくれって、頼んだのはこいつだからな。

 俺は約束を守るだけさ」


「ん……んー……んー! ぷはぁっ!?

 はぁ、はぁ、はふぅ……。

 ひ、ひどいですキリク様! 死ぬかと思ったです!

 おかげで、楽しかった夢がひどいオチになっちゃたです!」


 肩で息を吸い、恨みがましくこちらへと抗議するシュリ。

 どんな夢を見ていたのかなんて、俺の知ったこっちゃないな。


「やっと起きたか。アッシュが戻ってきたぞ。

 これで役者も揃った事だし、それじゃ話してくれるか?」


 いまだにうーうー言っているシュリを、ひとまずは放置。

 アッシュへと、探ってきた内容を話すよう促す。


「ご愁傷様、シュリちゃん。

 んとね、それじゃあ話を始めるね?

 あ、この子については後で紹介するよ」


 今紹介してくれてもいいものなのだが。

 もったいぶるところを見るに、タイミングが重要なのだろう。


「じゃあ、あの男を追って店をでたところから話すね――」




 ――店を出てからすぐ、僕はあの男を見つけた。

 可能な限り自分の存在感を消し、彼の尾行を開始。


 男は酔っているせいで、ふらふらとおぼつかない足取り。

 見ているこっちが不安になるよ。


 どこに向かうのか、さっぱり見当もつかないまま道なりに歩いていく。

 しばらく進んだところで、彼は一軒の飲み屋に入っていった。

 小さな店だったから、気付かれる可能性を考慮し、僕は外で待つことに。


「……遅いなー。まさかまた寝てたりしない……よね?」


 もうすっかり日も落ちており、辺りは暗い。

 そのせいか、すこしばかり肌寒くなってきたんだよね。

 今がまだ暖かい季節で良かった。

 本当にそう思うよ……。


 こっそり中を覗いてみようかな?

 そう思った時、ようやくあの男が店から出てきた。

 出てきた、というよりは、店の主人に追い出されたが正しいね。


 今度はぶつぶつと、何かを愚痴りながらまたもふらふら。

 途中、彼は路地裏にふらりと入っていった。


 僕も慌てて追いかけ、そろり路地を覗き込む。

 そこで彼は壁に手をついて……うぷっ。

 酸味の利いた臭いがここまで漂ってきており、最悪な気分。

 ほんと、嫌なもの見ちゃったよ……。


 彼は一通り吐きだして、おかげですっきりしたみたい。

 足取りがさっきまでと比べ、幾分マシになっているね。

 気分が良くなったってことは、また別の店にいくんじゃ……?


 僕はそう思ったものの、その考えは杞憂に終わってくれた。

 彼はさすがにもう十分なのか、あるいは所持金が底を尽きたのか。

 今度は目的を持って進んでいる様子。


「ようやく家に帰るのかな? でもこの方向って……。

 キリク君。君の嫌な予感、当たっちゃってるんじゃないかなー……」


 男が進む道は、今日の夕食前に僕らが歩いた道。

 見覚えのある道であり、その先には特徴ある2つの建物が並んでいた。


「あちゃー、やっぱりー……」


 辿り着いた先は教会。

 隣に立つ鐘楼は、キリク君とシュリちゃんが一緒になって見上げてたっけ。


 男はなんの気兼ねもなく、堂々と教会の敷地へと入っていく。

 見張りに立っている教会の守衛達も、通り過ぎる彼になにも言わない。


「つまり、今も彼は教会関係者であるってことだよね」


 教会をかこむ柵を迂回し、敷地の外から男を追っていく。

 どうやら、裏手にある修道院が目的地みたい。

 辿りついた彼は、気兼ねなしに扉を開き、なかへと入っていった。


「これ以上探るのはちょっと危険かなー。

 なにより、多分ここには寝に帰っただけだろうし。

 でも、やっぱり教会側はちょっと怪しい、よね」


 本部からの護衛を失った、と司祭様は言っていたものね。

 それなのに、護衛だった彼が今、あそこに存在しているんだもの。


 彼が保身のために、この教会にやって来て嘘の報告をした。

 そういう可能性もなくはない。

 それならば、司祭様が襲撃の事を知っていたのも頷けるからね。


 だけどその場合、今もまだここに居座っているのはおかしいはず。

 被害者である聖女様。その本人がやってきてしまったんだから。


 彼女が真実を述べれば、すぐに男の嘘なんて露見する。

 そうなれば捕まって、拷問されてから処刑になるだろうしね。

 そのくらい考えればすぐにわかるはず。


「なんにしても、これ以上は憶測だけでなにもわからないなー。

 明日衛兵の詰め所か、領主様の館にでも行って、相談してみるしかないっか」


 聖女様関連のことだからね。

 少なくとも、話ぐらいは聞いてくれるはず。


 そう考え、その場を引き返して宿へと向かおうとした時。

 修道院の窓から、なにやら不審な影が飛び出してきた。


「……なんだろう? ちょっと怪しいな。

 ついでだし、探ってみようか」


 遠目から見る影は、なにやら辺りを警戒し、見つからないよう努めている様子。

 影は柵までやってくると、外側へと背負っていた荷物を放り投げた。

 そして自身も一息によじ登り、敷地の外へ。


 そろりと近づき、物陰から姿を確認する。

 その影は小柄な体格で、まるで子供のようだね。

 暗がりの中で、さらに外套を纏っているから、断定はできないけども。


「よ、よし! 誰にもばれてないよね……?」


 声からして、男の子……なのかな?

 少年はキョロキョロと周りを確認し、気付かれていないと安堵の様子。


「とりあえず兄さんのところに行って、協力してもらおう!

 僕ひとりじゃ、とても聖女様を助けられなかったし……」


 多分、目的を再確認するつもりで口から出たんだと思う。

 でも僕はその言葉を聞き逃さなかった。


「……聖女様を助ける? どういうことだろう?

 まさか、なにか大変なことにでもなって……?」


 この少年の零した言葉が、どういった意味を持つのか。

 ここは思い切って声をかけて、問いただしてみよう。

 相手は子供のようだし、さっきの発言からも悪意はなさそうだしね。


「ねぇ君。ちょっといいかな?」


「ひぃっ!?

 ごめんなさい違うんです決して逃げようとしていたわけではなくて!」


 よほど驚き慌てたのか、一息に捲したてる少年。

 安心していたところに、突然声をかけられたんだもんね。


「落ち着いて。僕は悪い人じゃないよ?

 教会の人でもないからさ」


「……へ? あ、ほんとだ。見たことない人……」


 安心はしたようだけれど、こちらへの警戒は解いていない少年。

 でも少なくとも、教会の人間ではないとわかってもらえたみたい。


 さて。この子から、いったいどんな話が聞きだせるだろうね?

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