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【コミカライズ連載中】幼馴染みで悪魔な騎士は、私のことが大嫌い  作者: 編乃肌
番外編

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ロアセル=フィンス奮闘記録 前篇

「急に呼び出してすまぬな、ロアよ」

「いえ、な、なんでございましょうか」


 まだ太陽が顔を見せ始めたばかりの早朝。

 朝の礼拝前におじい……いえ、使徒長・ガウディ=フィンス様に呼ばれた僕・ロアセル=フィンスは今、使徒長様の執務室を訪れております。


 淡い橙の灯の下では、両壁に掛けられた『聖鐘の森の絵』が神々しく輝き、僕を出迎えてくれました。

 子供の頃はこの大好きな絵を見に、気軽に立ち寄っていた場所ですが、今は緊張しかありません。


 な、何を言われてしまうのでしょう?

 わざわざこのような場を設けてのことです。

 僕は何か大きな粗相をしてしまったでしょうか……。


 不安を隠してお言葉を待っていたら、使徒長様が厳かに口を開きました。


「話は聖鐘節に関することじゃ。本年の精霊姫の世話役は……お主に任せたいと思うての」


 「え」、と僕は一瞬驚きで声を失いました。


 我等がお仕えする尊き『精霊女王』様。そのお方との謁見を許された、選ばれし精霊姫様のお世話役。

それはまだ未熟者な僕には身に余る光栄です。


「ぼ、僕でよろしいのでしょうか?」

「うむ。……今年はちと訳ありでな。本代の精霊姫様は、教会の使徒でも貴族の娘でもない。その辺りの事情を深くは詮索せず、だが真摯に職務を全うする信頼出来る者として、お主なら……とわしが独断で選んだのじゃ。無論、そこに身内の贔屓目などは無い。頼まれてくれるかの?」

「は、はい! 勿論でございます。お、お任せください……!」


 吃りながらも、僕は深々と頭を下げて返事をしました。

 教会の長としても、人としても尊敬するおじい様からの信頼。裏切るわけには参りません。

 精霊姫様の世話役、必ずや全うしてみせます!


 意気込む僕に、おじい様は柔らかな笑みを向けてくれました。


 精霊姫様にお会いする日が、少し緊張するけど……楽しみです。



⚫⚫⚫



「――――ようこそおいでくださいました、精霊姫様とその護衛騎士様。教会に居られる間、お二人の世話役を任されております、ロアセル=フィンスと申します」


 なんとか強張った身体を解し、無事にご挨拶を述べれば、本年の精霊姫様であるスーリア様は、とても朗らかな対応を取ってくださいました。

 名前でお呼びするなど本来なら恐れ多いことです。ですが、スーリア様自身が名前呼びを希望されたので、僕も不躾ながらそうお呼びすることになりました。

 綺麗な女性を名前でお呼びするのは緊張します……。

 

 スーリア様は遠くの領から来られたとのこと。長旅でお疲れでしょうに、そんな様子を微塵も見せない快活なお方で、気さくな態度で僕にも接してくれます。ホッと胸を撫で下ろしたのは秘密です。


 そんなスーリア様の護衛についておられる騎士様は、若くして特権騎士団入りをされた才能溢れる青年で、僕と違って背も高く、凛々しくてカッコいいです。

 …………田舎に住む『儚げ美人』と村で評判の母さまに似て、華奢で女の子によく間違えられる僕としては、つい羨望の眼差しを向けてしまいます。


 名前はレイス様とおっしゃるのですが、「護衛騎士と役職で呼べ」と言われたので、こちらは呼び方は騎士様で。


 騎士様は護衛という任務上のこともあってか、どこか常にピリピリとした雰囲気を纏っています。スーリア様と親しい水の精霊もそれに充てられてか、警戒している様子。口数もあまり多い方では無いようで、えっと、その、正直ちょっと怖いところもあります。


 何より、スーリア様とは同郷の幼馴染らしいのですが、どうもお二人の仲は芳しくないよう……。


 現在この王都では、精霊使いが次々と行方不明になるという、奇怪な事件が相次いでおります。その対応に教会側も追われ、何かと落ち着かぬ日々。

 スーリア様の身に、もしものことがあってはなりません。

 出来得る限り、お二人には行動を共にして欲しいのですが……む、難しい顔をされてしまいました。


「今日はもうお疲れでしょうし、部屋でゆっくりとお休みください。荷物等はすでに各お部屋に運んであります」


 ひとまず場を和ませようと笑顔を作ってそう言えば、お二人はすぐに従ってくれました。

 ただ、やはりスーリア様と騎士様の間には、何やら気まずい不穏な雰囲気が漂っております。

 

 各自の部屋へとご案内する際、使徒長様から預かった『精霊水晶』を騎士様にお渡しすれば、騎士様は端整な顔を歪めて眉間に皺を寄せておりました。それについ怯えて肩を揺らせば、またスーリア様が「ロア君を怖がらせないで!」と僕を庇い、騎士様に文句を言って。それに騎士様が舌を打ち、さらに悪化する空気。


 これは完全に僕のせいなので、申し訳なさしかありません。


 「男女の仲は複雑なのじゃ」と以前におじい様も言っていましたし、僕が狼狽えてはいけませんね……。

 でも差し出がましいことは承知の上で、ついお二人の間柄を心配してしまったことは、どうかご容赦頂きたいです。


 とにかく、僕は僕の職務を全うしなければ。事件の解決に尽力することも、スーリア様に誠心誠意お仕えすることも、どちらも僕の使命です。


「頑張りましょう……!」



 ――――その日は、僕は改めて気合を入れ直し、早めに就寝しました。いつものように、まとめて定期的に送っている、母さま宛の近状報告を綴った手紙を書いたあとで。




『母さまへ


 今日は精霊姫様と護衛騎士様とご対面致しました。

 僕がお世話役をすることになった今代の精霊姫様は、明るく素敵な女性です。ちょっとだけ、僕を優しげに見る薄青の瞳が、母さまに似ていたような気もします。


 騎士様の方は凄い美丈夫で、村の奥様方に会わせたら、きっと皆さん騒ぐでしょうね。

 とっても男らしくて、少し羨ましくなりました。

 

 亡くなった父さまのように、僕も成長期になったら背が伸びて、女の子に間違えられることもなくなるから大丈夫って、母さまはよく言うけど。本当に伸びるのか不安です……この前も、街で「お嬢ちゃん、可愛いね」って声を掛けられました。

 反射的に「僕は男です!」と言えば、ものすごく驚かれて……ショックでした。


 ごめんなさい、変なことばかり報告して。

 

 今、王都では行方不明事件が続いております。精霊使いだけを狙った犯行で、原因はまだまだ調査中です。被害者の方々の安否が気遣われます。

 僕も教会の使徒の一人として、一日でも早い事件解決のために、出来ることは何でもするつもりです。


 母さまの方は、大丈夫ですか? 

 お変わりはありませんか? 

 何かありましたら、すぐにご連絡くださいね。


 また、家に帰れる日を楽しみにしています。



 ロアより』

 


●●●



 大量の書類を抱えて、僕は走らないように気をつけながら、速足で教会内の廊下を歩いています。


「ロアさん! 事件関連の報告書がまだ未処理で……!」

「行方不明になった方のご家族が、続々と教会に詰めかけております!」

「王都の騎士団本部から、教会の上層部に繋いで欲しいと……! 対応をお願いします、ロアさん!」


 一つ一つに返事をしながら、脳内では高速で次の行動を組み立てていきます。

 精霊使い連続誘拐事件は継続中。力及ばず、新たな被害者を出し続けており、教会側の焦りと慌ただしさも着実に増しております。

 教会内ではそれなりに高位な地位に居る僕は、特にその渦中で目を回しているところです。


 加えてまだ推測の域を出ておりませんが、一部の霊力の強い使徒達の間では、事件の黒幕は『悪魔』絡みの者ではないか、とも噂されております。

 悪魔は人を惑わせ陥れる、精霊と同じ、だけど対極に位置する人ならざるものです。この国では馴染みが薄く、知る者は限られておりますが、確実に悪魔は存在します。


 事件が悪魔絡みともなれば、また話は変わってくるでしょう。


 いずれにせよ、これ以上の被害を産むわけにはいきません。焦燥感に駆り立てられながら、僕は今日も、教会内を奔走しております。


 ……しかしながら、やはり落ち着きを持つことも大切なようです。


「あっ! ロアさん、あぶな……っ!」

「わっ!」


 ゴチンっと、鈍い音をたてて、僕は柱に激突しました。


 手にしていた書類は散らかり、ローブの裾を踏んで尻餅をつく始末。周囲の使徒の皆様が、「大丈夫ですか!?」と助け起こしてくれましたが、は、恥ずかしくて顔から火が出そうです……。





「はぁ……やらかしてしまいました」


 中庭の長椅子に腰をかけ、僕はジンジンと痛む額を片手で抑えながら、深い溜息を吐きました。

 仕事仲間でもある使徒の皆様に、「ロアさんは少し休んでください!」と強制的に休息を言い渡されたので、僕は現在、ここで少しばかり日向ぼっこをしております。

 

 外はこんなにも良い天気だったのですね。

 太陽の眩しさが目に沁みます……。


 だけどやっぱり、こんなふうにのんびりしている方が落ち着きません。

 僕がこうしている間にも、行方不明者の方がどんな目に遇っているか……まだ無事かどうかの保障も無いのです。ご家族の心労も考えると胸が痛みます。


 僕は、未熟でも教会の使徒です。


 おじい様に憧れ、精霊女王様にお仕えすると決めた時から、この国の民の平穏に身を捧げると誓っております。


 それなのに、柱に顔面を強打して周囲に心配され、仕事まで止められてしまう、この体たらく……。

 最後まで僕を気遣ってくれていた母さまに、「立派な使徒になります!」と宣言して家を出てきたというのに。情けなさ過ぎて、じんわりと瞳に熱が籠ります。

 椅子の背に凭れると地に足が微妙に届かず、宙で爪先が揺れる様子もまた、僕の惨めさを煽るのです。


 このくらいで泣くわけにもいかなくて、ごしごしと白いローブの裾で目許を拭っていた時です。



「あれ? ロア君?」


 

 耳通りの良い女性の声が、頭上から降ってきて。

 顔を上げれば――――スーリア様が、不思議そうな顔で僕を見下ろしておりました。



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