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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
三章 最円桜はヒーローの夢を見る

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10話 偽物だらけの世の中で

 作られた噂、偽物の恋人、偽善のヒーロー、そして今度は密偵の友達。


 この学校は嘘だらけだ。


 一度嘘を吐けば、人は何度でも嘘を吐くようになるというが、そうやってコミュニティというのは創られてきたのだろう。


 それに慣れきってしまった者たちは途端に世渡りが上手くなり、まるで自分が成長したかのような錯覚をする。


 そして、今度はそれが未だできぬ不器用な者たちを嘲笑い、嘘に慣れきってしまうことこそを価値ある生徒として肯定しようとした。


 だからこそ、嘘を吐けない者たちは無価値とされ否定されて六組に追放される。


 果たしてそれは正義だろうか?


 もし、そんな質問をされたら俺は真っ先にこう答えるだろう。


 正義である、と。……ただし、学校内に限る。


 だが、俺はなにも、これが学校内で最も推奨されているやり方だから正義としているわけじゃない。


 たとえそれが嘘であったとしても、人が他人を想って関わることこそがハッピーエンドに通じると信じているだけだ。


 なぜなら、幸せとは人と人が交わる社会の中にしか存在しないものだから。


 そのためならきっと……俺は詐欺師にだってなれてしまうのだろうな?


「――お断りします」


「ですよね……」


 財前宗介と友達になるために最初に考えたのは、彼と繋がりがある胡兆に仲を取り持ってもらうことだった。


 しかし、その提案はすぐに断られてしまう。まぁ、予想の範疇。


「俺を紹介なんかしたら、情報をくれたのがバレるもんな……?」


「そういうことではありません。彼は他人から紹介されたものにあまり興味を示さないので」


「興味を示さない?」


 俺のオウム返しに、彼女は静かに頷く。


「というより、そういった事が多すぎるのだと思います。財前くんとお近づきになりたいという人はたくさんいるので」


「あぁ、そういうことか」


 思っていた返答とは違ったものの、その説明で納得。まぁ、クラスリーダーになるくらい人気なのだから近づきたい奴等は男女問わずいるのだろう。あと、イケメンだし。


「それに、私が最円くんに情報を教えたのはバレる覚悟でやったことです。そこは気にしないでください」


 淡々とそう言った胡兆に、俺は少し感動してしまう。


「お前、良い奴だな……」


 そしたら、彼女は固い表情をふっと緩めた。


「それは私のセリフです。私が良い人なのではなく、最円くんが良い人なんですよ」


 それから胡兆は困ったように笑う。


「桜さんのお兄さん……というのも、私があなたをヒイキする理由ですね」


「なるほど。桜には感謝しないとな?」


 たぶん、胡兆が言う「良い人」に俺は属してなんかいない。


 俺が良くしたいと思うのは、彼女が桜の友達だからだ。


 桜にとって大事な人を大事にするのは当たり前のことであり、そうじゃない奴には興味すら抱けない。


 俺が良い人だったわけじゃなく、たまたま胡兆が俺にとって良くするべき人間だったというだけ。


 まぁ、それは奇しくも「桜さんのお兄さんだから」という理由と被ってしまうわけなのだが。


「じゃあ逆に聞くが、胡兆はどうやって財前と仲良くなった?」


「私は成績が良くて友達も多いので、仲良くしておけば得しかない存在です」


 即答だった。


「お、おう……そうか」


 なんか圧倒的な力で殴られた気がする。俺には絶対手にできない……ヒエラルキー的な何かで。


「それに、私はクラスリーダーにもなり得る存在なので、仲良くしておくことでクラス内のバランスを取っているんだと思います」


「お前……案外自己肯定感高いんだな」


「私が自己肯定感高いのではなく、最円くんの自己肯定感が低いのだと思いますよ」


「……」


「まぁ、桜さんと一緒に暮らしてたらそうなるのも無理ないですね。近くに天才がいると自分が馬鹿であることを自覚しやすいですから」


「前言撤回。やっぱお前良い奴じゃないな……?」


「だから、そう言ってるじゃないですか」


 そう言って胡兆は微笑んだ。


「財前くんと友達になりたいのなら、彼にとって『得』な存在になるしかありません」


「難しいな……」


 それに俺が頭を悩ませていると、彼女もなにか思い詰めたように口を開く。


「……一つ、アドバイスはできるかもしれません」


「アドバイス?」


 そして、胡兆はおずおずと口を開いた。


「その前に……最円くんは、本当に同じクラスの子と付き合ってるんですか?」


 躊躇いながらも問われた唐突な質問に、俺は首を傾げながらも「あぁ」と頷く。


「そうですか……。実は、財前くんにも付き合っている女の子がいるんですが、デートを二人きりでしたくないらしくて理由をつけて断ってるみたいなんです」


 そう説明されても、何の話なのか皆目検討がつかない。


「だからなんだよ?」


 その言葉に彼女はもどかしそうな表情をしてから、やがてため息。


「ですから……、財前くんは今、その女の子に付きまとわれて『損』をしているんです」


「別れさせろってことか?」


 考えてたどり着いた結論。だが、それに彼女は首を振る。


「もともとその女の子と付き合いだしたのは、他の女子に言い寄られない為だと彼は言ってました。別れたら振り出しに戻るだけです」


「言ってる意味がわからない。俺は何をすれば奴にとって得になるんだ?」


「財前くんがその女の子とのデートを断ってるのは楽しくないからなんです。だから、それを楽しいと思わせられるなら、彼にとって『得』になると思います」


「……財前ってクズ男なのか?」


「それはあなたもじゃありませんか?」


 思わず洩れた感想に、胡兆は訝しげな視線を向けてくる。そういえば、俺にもクズ男の噂が流れてるんだった。おのれ財前……許すまじ。


 奴への怒りに震えていると、彼女は再び大きなため息を吐いた。


「簡単に言えば、ダブルデートってことです」


 そして、予想より斜め上の答えを白状した。


「ダブル……デート?」


「はい。二人きりのデートが楽しくないのなら、楽しくなる人を混ぜればいい。ですが、デートに一人を混ぜると角が立ちます」


「だから、ダブルデート?」


「そうです。それくらいのお膳立てならしてあげられます」


 そう言った彼女はどこか釈然としない顔を浮かべている。


「じゃあ、俺は財前とダブルデートをして奴を楽しませればいいって事か?」


「端的に言えばそういうことです。今私に思いつくのはこれくらいですね」


 胡兆が言葉を濁していた意味をようやく理解する。


 それはつまり、デート相手の女の子を利用して財前と友達になれ……ということだからだ。まぁ、光のほうは偽の恋人だから百歩譲って許してくれたとしても、可哀想なのは財前のお相手である。


「ちなみに……財前が付き合ってる女の子って誰なんだ」


十文字(じゅうもんじ)早紀(さき)。三組の女子生徒です」


「どんな子かわかるか?」


 それに胡兆は「あまりよく知りません」と肩を竦めた。


「今六組にいる元三組だった子に聞いたほうが早いと思いますけど?」


 そんな彼女の提案に俺は納得。……ん? そういえば元三組って誰だ?


 元一組は俺だし、万願寺は元二組である。五組から来た奴は退学して今は空席。


 となると、残っているのは京ヶ峰か光。


「京ヶ峰のほうかな?」


 なんて、予想を呟いたら胡兆が「え?」と反応。


「京ヶ峰さんは元四組ですよ?」


「そうなのか」


「はい」


 消去法。ということはどうやら光らしい。なんだ。光なら十文字って女子のこと知ってるだろうし、ダブルデートも上手くやれるかもしれない。


「なら、その話進めてもらっていいか?」


「良いんですか……?」


 それに俺は頷く。次の投票までの時間も少ない。なら、やれることはやるべきだろう。


「その……自分で言っておいてアレですが、あまり良い提案とは思えません」


 胡兆の言いたいことはわかる。これが、とても汚いやり方だということも。


 なにせ、純粋な女子の恋心を利用して財前と友達になるということなのだから。


「その女子からすれば、財前に避けられ続けてるデートができるチャンスでもあるわけだろ? なら、罪悪感に囚われる必要はない」


「それは、まぁ……」


「それに両想いから始まる恋なんてほうが珍しいんじゃないか? そのデートで財前が本気でその子を好きになるかもしれない」


「……たしかに」


 少し考えていた胡兆は、小さくそう呟いた。


「安心していいぞ。目的は財前と友達になる事だが、ダブルデートをする以上、俺はみんなを楽しませるつもりでやる」


 そう笑顔で言ってやると安心したのか、胡兆の顔に笑みが浮かんだ。


「……わかりました。財前くんに話をしてみます」


「頼んだ」


 そうして、俺はこの件を一旦胡兆に預けた。


 上手くいくかは分からないが、やってみる価値はあるだろう。


 そして、その前に十文字という女子について光から色々と聞いて置かなければならない。


 あとは――、


「デートって……何すればいいんだ?」


 デートについても、色々と調べなければならなかった。 

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