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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
三章 最円桜はヒーローの夢を見る

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9話 京ヶ峰が協力してくれる理由

「犯人の目星がついたわ」


 教室に戻ってから告げられた得意気な京ヶ峰の言葉に、俺は自分でも驚くほど関心を示せなかった。


「……なに? 信じていないの?」


 それを目ざとく感じとったのか、彼女の表情に影が差す。


「そういうわけじゃない。犯人の目星なら俺にも付いてたからな」


 そう言って財前の名前を出すと、京ヶ峰はふぅんと鼻を鳴らした。


「……まぁ、もともと情報を持ってきたのは最円くんなのだし、犯人がわかっていてもおかしくはないわね。それで? 仕返しはするの?」


 すぐに「仕返し」という単語が出てくるあたり物騒この上ない。普通、俺が分かっていたと理解したのなら、そこは「どうして仕返ししないの?」じゃないだろうか?


 疑問より先に確認をしてくるあたり、京ヶ峰は仕返しをしたいんだろうなぁ。俺の「したい」を大義名分にして。好戦的が過ぎる。


 もし京ヶ峰と恋人になったら、俺が殴られたとき彼女は俺の心配より先に相手に殴りかかるんだろうな。「私の彼氏に何するの?」とか言って。男前が過ぎる。


「仕返しって……俺はまだ何もされてないからな」


「されたじゃない? それを被害と認識しないのは、未遂を罪としないのと同じよ? 彼らの企みは実行されている。結果が出なかったのは、私たちが危機を察知できたからに過ぎないわ」


 京ヶ峰は静かにそう言った。


「だが、それを罪とするのなら裁くのは俺たちじゃないだろ」


 確かに未遂でも罪は罪だ。しかし、それを被害者のモノサシで裁いてしまうのは違う。


 そうやって説き伏せたつもりだったが、京ヶ峰は涼しい顔をしていた。


「あら、私は何も『裁く』なんて言ってないわ。『仕返し』と言っているのよ」


「……お前なに言ってるんだ」


 わけが分からず顔をしかめたが、やはり彼女は変わらぬ表情。むしろそれは微笑にすら見えてくる。


「被害者が復讐したって良いじゃない。世間はそれを間違いだと言うかもしれないけれど、そうしなければ拭えない感情ってあるものよ」


 それを聞いた瞬間、あぁと腑に落ちる。


 京ヶ峰は好戦的なわけじゃなく、そう在らねばならない理由を持っていただけだ、と。


 それが間違いであると認めたうえで、彼女はそれを提案してきていた。


 やはり好戦的が過ぎる。


 それなら、俺も俺の在り方で答えるしかない。


「それでも仕返しはしない」


「なぜ?」


 そんなの決まっている。


「ハッピーエンドじゃないからだ」


 そんな答えに、京ヶ峰は呆れたように笑った。


「あなたもしかして、“復讐は誰も幸せにしない”みたいな……まるで、何の経験もない子供の知ったかぶりみたいな綺麗事を言っているの?」


「別に良いだろ? まるで何の経験もない子供だからこそ、見える綺麗な結末はあるもんだ」


「……それで踏みにじられた自分は諦めて我慢しろということ?」


 彼女の声のトーンが下がった。


 それはただの言い争いだったはずなのに、京ヶ峰の視線は鋭い。


 それに、彼女が言葉に含ませる意味合いも、どこか違ったものに変わっている気がする。


 別に彼女が踏みにじられたわけでも傷つけられた訳でもないのに。

 

「……そういう事を言ってるわけじゃない。自分にできることは、なにも相手を貶めることだけじゃないって話だ」


「じゃあ何を(・・)するというの?」


 その質問に俺はため息を吐く。


 どうやら彼女は、何か(・・)しなくては気がすまないらしい。


 このまま平穏無事に日々を過ごすよりも、今ある情報を使って行動を起こせと急いていた。


 そんなことをするつもりなんて俺にはない。


 だが、そんな考えを一度捨ててみて、行動を起こすことを起点とするのなら、行き着く答えはやはり復讐じゃない。


 ふと、電話越しの母さんの言葉が頭をよぎった。



――だから、私は絶対に幸せになってやるの。仕事というより、これは私の人生をかけた復讐なのよ!



 そうだ。復讐自体が間違っているわけじゃない。それは客観的に見て、多くの場合間違いとされるだけの話。


 なら、正解とされる復讐だってあるはずだ。


 もし、それを選ぶとしたら?

 

「そもそも……そんな手の混んだ企みをしてくるのは、俺を永久的に追放したいからだろ?」


「そうね」


「だったら、俺が一組に戻ればいいだけの話だ。それこそが奴らへの復讐にもなる」


「どうやって? 私が言えたことではないけれど、最円くんの評判は最低辺なのよ?」


「確かにそうだ。だが、そんな評判が最低辺な奴にでも出来ることはある」


 京ヶ峰は首を傾げた。それに俺は続けて一言。


「リコール」


 そう言った途端、彼女の表情が変わった。


 リコールとは、簡単に言ってしまえばクラスリーダーを強制的に辞めさせるよう生徒会へ訴えることだ。


 学校内の組織図的に生徒会はクラスリーダーの上にある機関。


 そこでの決定は、クラスリーダー内での話し合いなんかよりも大きな効力を持つ。


「現一組のクラスリーダーである財前を引きずり下ろせば今されている事がすべて解決するし、なんなら俺が一組に戻れる可能性も高くなる」


 そんな提案に驚いた表情をしていた京ヶ峰は、少し考えたあとにニヤリと笑った。


「……面白いわね?」


 それは一見、俺の提案に対する賛同に思えた。


「言っておくが……これは相手を蹴落とすためじゃなく、俺が一組に戻るための手段としてリコールを提案するんだ」


 そんな京ヶ峰の考えている事を見透かしてしまって俺は困ったように頭を掻くしかない。


 財前をクラスリーダーから引きずり下ろすことを、彼女は『制裁』として受け取ったに違いない。


 しかし、俺は「制裁ではなく俺自身が一組に戻るため」という所を強調しておく。


「やってることは同じでしょう?」


「全然違うな。現に、もし本当に財前を引きずり下ろしたとして、その後の一組をどうするかお前は何も考えてないだろ?」


「嫌な言い方をするのね。私にとっては今一組にいる人たちも同罪だと思っているのだけれど」


「なるほど? だから、その後の事は考えなくていいってことか」


「ええ。それにクラスリーダーがいなくなったくらいで困るのなら、彼らはそれまでということよ」


 そんな彼女の開き直りかたに、思わず笑ってしまいそうになった。


 彼女の言うとおり、クラスリーダーが不在でも困ることはないだろうが、クラスリーダーにしか決められないことは確かにあって、それが突然決められなくなってしまえば困る状況下には陥りやすい。


 例えばテスト週間。


 これは、クラスリーダーがクラスメイトの勉強の進捗状況から担任の先生と相談して決めるため、クラスによっては早めにテスト週間に入ったり、またその逆もある。


 まぁ、クラスリーダー不在なら規定の一週間だろうから、ちゃんと勉強してる奴は困ることはないのだろうが……。


 ともあれ、京ヶ峰が言っている事は集団生活を行う上では自分勝手と思われかねない考えではあった。


 彼女は続けて言う。


「それに、そんなのは「もしも」の話でしょう? リコールを成立させてもいないのに、そんな未来の理想だけ語られても現実的じゃないわ」


「現実的かどうかは問題じゃない。俺は明るい未来のほうが良いから、そういう事を考えるだけだ」


 そう返したら、京ヶ峰は再び口を開き……諦めたのか、ため息で済ませる。


「……」


 それでも気は済まなかったようで、


「私は……あなたのことを考えて、そうした方が良いと考えただけよ」


 視線を俺から逸しながらそう言った。


 それには素直に驚いてしまう。


「……お前、自分以外の奴のこと考えられたのか」


「な、なぜそこで驚くの!?」


 そんなの驚くに決まってるだろ。


 俺が今まで見てきた京ヶ峰冬華という人間は、自分にとって利があるかどうかでしか他人を見れない奴だったのだから。


「とても失礼だわ」


「いや、褒めてるんだが」


「心外だと言っているの。最円くんは私をなんだと思っているの?」


 独裁者……なんて答えたら怒られるのは目に見えていたので止めておきます。


「なんか……悪かったな? 俺はてっきり、お前が好戦的だからそんな事を言ってるんだと思ってた」


「私には何の利益もないのに、わざわざ協力する意味あるかしら?」


「た、たしかに……!」


 京ヶ峰は、自分にとって利があるかどうかでしか他人を見れない。


 であれば、そもそも俺に協力してくれてる時点でおかしいと気づくべきだったのだ。


 つまり、彼女は俺のハッピーエンドを考えて色々と動いてくれていたということになる。


 なんだこいつ。俺のこと好きなのか……?


「それに……あなたには、その……助けてもらった恩があるもの」


 そして、控えめにそう付け足した京ヶ峰。


 あぁ、そういうことか。


 どうやら彼女は、一組に乗り込んだ時の事をまだ気にしていたらしい。良かったぁ、変な質問しなくて。


「ところで、リコールなんて本当にするの?」


 そうやって切り替えた彼女の訝しげな質問に、俺は半々だと答えた。


「生徒会に掛け合っても、前例がなければ取り合ってもらえるかわからないし、なにより俺があまり乗り気じゃない」


 まぁ、前例云々に関してはあまり問題じゃないだろう。なにせ、前回京ヶ峰のぶっ飛んだ発案を受け入れた生徒会だから。


「私は良いと思うけれど? ただ、リコールを通すなら財前宗介がクラスリーダーに適していないと断定できる何かを掴まないといけないわね」


「別に通さなくて良いんじゃないか?」


 俺が言った答えに、彼女の眉間にはさらにしわが寄った。


「通さなくていい?」


「それを声にあげるだけでも効果はある。藪にいる蛇をつつくのは蛇の怖さを知らないからだ。その怖さを知れば、下手に藪をつつこうとはしなくなる」


「牽制としてリコールするということ?」


「まぁ、そういうことだ」


「公に歯向かうことで、奴らが俺に対して舐めたことをすることはなくなるだろうし、勝てば一組に戻れる可能性も高くなる」


「そうかしら? 負ければ最円くんの評判はさらに落ちるだろうし、皆あなたのことを腫れ物みたいに扱う可能性が高い。確実に勝てるリコールじゃないと賛成できないわね」


 さすがは既に腫れ物扱いをされている京ヶ峰。説得力が違う。


「彼に関する弱みを握っているからリコールを言い出したのかと思ったけれど……違うのね」


「そんなものあるわけないだろ」


「そう。なら、私は反対だわ」


 その結論には意外だった。やはり、彼女はただ好戦的なわけじゃなく、俺のためを思って色々と動いてくれていたらしい。


 その善意だけを抽出するのなら、俺は京ヶ峰に対する認識を改めなければならない。


 なんだ。じゃあ、俺が何かする必要なんてないじゃないか。


 半ば、京ヶ峰を納得させるためだけに提案したリコール案だったが、そういうことなら取り下げようと思い直したときだった。


「それでも……最円くんがそうしたい(・・・)というのなら、あなたが勝てるよう情報を集めてみるわ」


 彼女は、反対した主張を覆したのである。


 まるで、さも俺が望んでいるかのような口ぶりで。


「いや、やっぱリコールなんて止めておく。京ヶ峰が言ったことも一理あるしな?」


 それに慌てて否定の意向を伝えてみるが、


「私の意見なんて気にしなくていいのよ。もともとあなたに全面協力をするつもりだったのだし」


 フッと優しげな笑みを浮かべ、諭すように言われてしまった。


「いやいや、マジで乗り気じゃないから」


「言っておくけれど、私に対して「巻き込みたくない」と考えているのならそれは間違い。私はやりたくてやっているのだから」


「俺はやりたくないって言ってるんだ。そもそも、リコールを言い出したのはお前の「仕返し」に対するカウンターだからな?」


 もはや引っ込みがつかなくなる可能性に怯えてリコールを言い出した思惑を白状してしまう。


 しかし、


「……あなたは、そうやっていつも自分を犠牲にするのね?」


 なんだか、「私だけは分かってるから」みたいな眼差しで見られるだけだった。



 その時になって俺はようやく気づいてしまう。



 相手に対して間違った認識をしていたのは俺じゃない。


「でも、もう大丈夫よ。私がついているから」


 間違った認識をしていたのは京ヶ峰のほう。


「弱みなんて今から調べれば良いだけの話」


 その穏やかな口調と微笑みが逆に怖い。


「向こうがまた何か仕掛けてくる前に、こちらで財前宗介のことを徹底的に調べましょう」


 俺はもしかしたら、相談する相手を間違えてしまったのかもしれない……。


 そんな後悔が、今更になって湧き上がってくる。


 しかし、後戻りができず進むしかない状況下では、後悔など風の前の塵に同じ。


 ならば、進んだ先で活路を見出すほかない。


 軽く深呼吸をした俺は、覚悟を決めた。


「ちなみに聞くが京ヶ峰……財前のことはどうやって調べるつもりだ?」


「そうね。まずは仲の良さそうな友達に近づいて聞くのが一番かしら?」


 うつむいて考え事を始めた彼女に、俺は笑いかける。


「俺に良い方法がある」


「……良い方法?」


 顔を上げた彼女に、俺は「あぁ」とゆっくり答えた。


 それは、後戻りができなくなった末に至る最後の手段。


 道徳性を引き換えにし、騙すために人に近づく卑劣な行為。


「俺自身が奴と友達になることだ」


 裏切ることを前提とした友達づくり。


 誠実さの欠片もないそれを、人はこう呼んだ。


――不実ふじつ

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