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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
三章 最円桜はヒーローの夢を見る

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1話 母親との電話

 我が妹である最円桜が女優になりたいと言った夜から数日後、俺はアメリカにいる母さんの自宅に国際電話をかけた。


 実は、そのことについては既にメールを送ってあるのだが、二日掛かって返ってきた内容は『直接話しましょう』。


 普段あまり電話を使うことがないため、聞き慣れない呼び出し音が数秒続いたあとに出てきたのは明るい女性の声。


『――Hi?』


ただし、その声を母さんと呼ぶにはあまりにも若かった。


 三分の一外したか……。


 どうやら、母さんが再婚した相手の娘が出てしまったらしい。


 たしか歳は桜と同じ。俺からしてみれば義妹ということになるのだが、顔を合わせたことが殆どないためにそんな感じが全くしない。まぁ、それは向こうも同じだろう。


 親しい感じを出すこともなく、俺の名前と母さんに変わって欲しい旨を伝えたら、明るい声は途端に不機嫌そうな色を帯びた。


『――今さら掛けてきてなんなの? 金でもせびろうってわけ?』


 ……は?


 それだけじゃなく、その声は口の悪い日本語に変わった。


 突然の事に驚いていると、向こうから『聞いてる?』とせっつくような追い打ち。


 番号を間違えてしまったんだろうか? と思ったが、確認したら間違いなく母さんの自宅の番号。


「日本語……通じるのか?」


 思わず呟いたら、


『あなたに文句を言ってやりたくて勉強したの!』


 今度はどこか嬉しそうな声音に変わる。


 なんか動機がヤバすぎる。


「……文句を言うなら英語でもいいだろ。通じるんだから」


 そう返すと電話越しにハッと息を飲む音。直後、通話が向こうから切られた。


「……え?」


 それは文化圏の違いなのか、それとも人間性の違いなのか……。


 切られた理由が全くわからず、俺は呆然と立ち尽くすしかなかったのだ。



 * * *



『――元気にしてた? 薫?』


 二度目の国際電話をかけると、今度は聞き慣れた母さんの声だった。


「いや、さっき掛けたんだが」


『あー、ごめんね? アリスが出たいって言うから』


 母さんが再婚したのは、親父が亡くなった二年後である。


 その間、彼女は親父が死んだ原因でもある映画会社との裁判で疲弊していて、俺と桜が日本に行くことになったのもそれが理由。


 そして、ようやく裁判が終わった報告と共に聞いたのは、再婚のめでたい知らせ。


 相手は、母さんと一緒に戦ってくれた弁護士だった。しかも、向こうも奥さんを事故で亡くした子持ち。


 その子供の名前がアリス。さっき通話を切った本人である。


『それで? 桜が女優になりたいって言ったの?』


「あぁ。昔から海外の映画ばかり見てたし、俺はあまり驚かなかったな?」


『私も驚かないわね。だって、私の子供だもの』


 あまり理由になっていない漠然とした答え。


 にも関わらず、電話越しの声には自信が満ち溢れていた。


「仕事は上手く行ってるのか?」


『それなりにね。でも、昔と比べると全然ダメよ? なにせ、私が一番綺麗だった時代は、結婚と子育てに費やしてしまったから』


 反応しづらいジョークだな……。


「でも、仕事自体はあるんだな」


『そうね? と言っても、最終的に悲劇的な結末を迎える役ばかりだけれど。きっと世間の人たちは、私を物語の中にまで可哀想な人に仕立て上げて、優越感に浸ってるんだわ!』


 怒りが滲んだ主張。それにすらどう答えれば良いのかわからない。


『だから、私は絶対に幸せになってやるの。仕事というより、これは私の人生をかけた復讐なのよ!』


 だが、慰めの言葉なんて必要なかった。そして、それを聞いて安心する。


 あぁ、やっぱこの人が母さんだな、と。


 彼女は親父と撮影現場で出会い、めでたく恋に落ちたあと周囲の反対を押し切って結婚してしまった。その後、女優業は引退したものの、親父が亡くなり裁判で世間からの注目を浴びたあとに再び舞台に立つことを決心した。


 彼女はいつでも強く、誰に対しても公平だった。


 きっと、桜が親父の英雄像を追って変わってしまったのは、そんな彼女のひどく弱りきった姿を見てしまったのせいもあったのかもしれない。


 そんな姿を俺も見ていたから、今の彼女の言葉を聞いて嬉しく思ってしまう。


 彼女が言ったとおり、「一番綺麗な時期を自分たちが奪ってしまった」という考えは、少なからず俺にもあったから。


「それで? 桜はどうしたらいい?」


 話を本題に戻すと、母さんは少し考えたあと、


『こっちに戻るのが一番よ。そういったスクールにも通わせてあげられるし』


 予想通りの答えが返ってきた。


「問題はないのか?」


『問題? 何言ってるの? 問題だらけよ。でも、そんな厄介の一つや二つ、今さら抱え込んだところで関係ないわ。桜が女優になりたいのなら、今すぐにでもこっちに戻るべきね』


「わかった。じゃあ、その方向で頼む」

『薫はどうする? あなたも戻る?』

「学校に入学してしまってるからな。戻るなら卒業後だろ」

『そう? まぁ、一度日本に行くから、話はその時にしましょう』

「いつ来るんだ」

『一ヶ月は待ってて』

「わかった。その間にできることは?」


 真面目にそう聞いたら、最後は予想外の答えが返ってきた。


『日本の観光地を調べといてね?』


 うむ。どうやら普通に遊びにくるつもりらしい。

母親が日本に来るのは四章の予定になります。

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