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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
二章 最円桜は一歩を踏みだす

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29話 飲み物一杯で店に居座る客

 数日によって行われている筆跡鑑定は困難を極めていた。


 というか……あまりにも量が多すぎた。


 最も精神にくるのは、かなり似ている筆跡文字を見つけたあとに、絶対違う筆跡を見つけてしまったとき。


 終わりを期待させられたあとで、おあずけを食らうのが一番絶望する。なんなら、「そんなはずないだろぉおお!」という思いでノートの文字全てをもう一度確認し、その徒労にすら絶望した。


「……例えるなら、パソコンで書いてたレポートのデータが全て消えてしまったときのような感覚だ」


「何を言ってるの? 消去法ができたのだから進歩してるじゃない。それは言いすぎよ」


「というか、もうこいつ犯人でいいんじゃね? この文字以外ぜんぶ似てるし」


「あまりにもずさんな捜査ね。少なくともそれは、全てのノートを確認してから言うべきセリフよ」


「全部確認するのか? 筆跡が一致したらそこで終わりじゃなく??」


「当たり前じゃない。つべこべ言ってないで作業を進めて」


「こんなの頭おかしくなるって!!」


 もはや、京ヶ峰との会話にとりとめがなくなるくらいには狂い始めていた。近くを通った店のスタッフが怪訝そうな視線を向けてくる。


 まぁ、飲み物一杯だけで連日長いこと居座っているのだからそんな視線を向けられても仕方ない。京ヶ峰に至っては、気にしてすらいない。


 そんな地獄のような作業が終わる時刻になると、いつものようにいつもの言葉。


「明日も頼めるかしら?」


「あぁ」


 それに空返事をして別れる。もはや日課にすらなりつつあるのだからいちいち承諾なんて取らなくていいのに。律儀な奴だ。


 なんて思いながら帰宅すると、自宅マンションには万願寺が来ていた。


「……なんで居るんだ」


「なんでって、来るって言ってたけど?」


 予想外の訪問者に戸惑ったが、どうやら事前に言ってあったらしい。……本当か?


「お兄ちゃん言ってたよ? 今日、優お姉ちゃん来るって」


 そんな万願寺を擁護するように桜が言う。ふむ、それなら本当か。


 事前連絡なしの訪問を俺は断っていた。


 何かあった時に困るからである。親がいればアポなしでも構わないのだが、うちはそうじゃない。まだ社会的責任が伴わない学生の身であるため、その辺は万願寺にも徹底してもらっていた。


 ……ん?


 そうして、俺は思いだす。


 万願寺が来ることを予告していた日について。


「……今日ってまさか金曜日か?」

「そうだね?」

「金曜ってことは明日は土曜日だよ、な?」

「そうだね?」

「明日って学校ないよな?」

「何言ってんの? 当たり前じゃん」


 その瞬間に俺は、なぜ京ヶ峰が別れ際に明日の確認をしたかの真相を知る。


 ……休みの日もやるのかよ。


 俺はふっつーに、明日も平日だと勘違いしていた。


「あー、ってかさ……。最円くん、こんな時間まで何してたわけ?」


 そんな事実に絶望していると、万願寺が伏し目がちで聞いてきた。


「京ヶ峰と犯人捜ししてた」


「犯人捜し?」


 答えてやると、パッと顔をあげて疑問符。


「生徒総会準備のとき六組への酷い意見あっただろ。あれの犯人捜しだ」


「あー!!!」


 突然の大声に思わず驚いてしまう。


「そっか! そうじゃん!!」


 彼女は、その声量のままひとりで納得をし、


「うっわぁ、マジでうち勘違いしてた!! はっず!」


 その声量のまま独り言を言い、


「だよねー! 最円くんモテるわけないもんねー!」


 笑いながら失礼なことを言ったのである。おい。


「その反応……俺が京ヶ峰と一緒にいること知ってただろ?」


「あー、うん。でも、あまり関わっちゃいけないことなのかなぁって思ったら聞きづらくてさ」


「雑務でもないし、個人的なことだから他の奴には頼んでないらしい」


「そうなんだ? でもさ、それだと最円くんも頼まれなくない?」


「問題解決部の採決をしたときに、俺だけ拍手したのが決め手だと言ってたな? 京ヶ峰の目には、俺がはやく問題を解決したい勘違い少年探偵団員にでも見えてるんだろ」

 

「ふーん……」


 その説明に納得したはずの万願寺は、何故か疑わしげな視線を送ってくる。


「嘘は言ってない」


「わかってる。怪しんでるのは最円くんじゃないし」


「俺じゃない?」


「と、とにかくさ、犯人捜しならうちも手伝うよ」


 それは、ありがたい申し出。断る理由なんてない。


「そうか。なら、明日もあるから」


「明日もやるの!?」


 やはり、休み返上で犯人捜しをすることに万願寺も驚いたらしい。


「どこでやるの? 何時から?」


「場所は学校近くにある喫茶店で、時間は……」


 あれ? 何時からやるんだ? たしか、京ヶ峰は「明日も頼めるかしら?」としか言ってなかった。そこには時間の指定はない。


「最円くん?」


 そうして、少し考えた俺はとある可能性に思い至ってしまい苦笑い。


 いや、まさかな……。


「時間は言ってなかったからいつもみたく学校が終わる頃からだと思ってるんだが……一応午前中に行って確認してみる」


「午前中って? 一日中やるってこと?」


「一応、確認するだけだ。……一応、な」


 おそらく、京ヶ峯は時間を言うのを忘れていただけだろう。


 そうに違いない。いや、そうであってくれ。


 翌日――。


 そんな願い虚しく、俺は喫茶店の前で呆然と立ち尽くすことになった。


 時刻は朝の八時。


 店内が見えるガラスの奥には、いつもの場所でノートに向かう京ヶ峰がひとり。


 開店して間もない店内には、彼女以外の人はいなかった。


「……まじかよ」


 こいつッッ、飲み物一杯で一日中ここに居座るつもりかッッ!

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