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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
二章 最円桜は一歩を踏みだす

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24話 京ヶ峰の悪い癖

 ゲームに不正はなかった。ただ、彼女があまりにも強すぎるだけだ。


 静まりかえる会議室内。

 六人の生徒が座るポーカーテーブル。

 その中で、奪ったチップを高々と積み上げるは万願寺優。


 ポーカーというゲームは運要素に見える(・・・)部分が多くあり、そこにこそ公平性を見出す者は、実力で勝ち続ける者に対して指をさした。


「俺たちの手札ハンドが見えてるんだろ! じゃないとこんなに勝てるはずがない!」


 軟式野球部の部長は、立ち上がって怒りの物言い。


 まぁ、実際に万願寺の洞察力はチートにも匹敵する。


 彼女以外の部長たちには、チップが殆ど残されていない。


 それを「運」と呼ぶには、あまりにも明確な差があった。


「言いがかりはやめてもらえますか?」


 それに反論したのは後ろに控える京ヶ峰。


「そもそも、どうやって他の人のカードを知るのか教えてほしいですね」


 相手が先輩だからか敬語を使ってはいるものの、態度や口調は生意気そのもの。怖いもの知らずとは彼女のことをいうのだろう。


 それでも効果はあったようで、先輩は何も言えずに歯ぎしり。


「くだらないこと言ってないでゲームを再開しましょう」


 その言葉で落ち着くと思われた。のだが、


「あの、不正があるかどうかは別として……これがただのゲームでない以上、私たちが納得できる方向に持っていくのは妥当なんじゃ?」


 それは、ダンス部の部長からだった。


「納得って……合意してゲームに参加したのは先輩がたですよね?」


「たしかにそうだけど、こんなに一人勝ちが続くゲームで納得しろっていうほうが無理じゃない? あくまでもこれって予算折衝なんでしょ?」


 それは負け犬の遠吠えにしか聞こえない。だが、そうではないのだと主張するためなのか「予算折衝」という言葉を強く強調してくる。


「みんなもそう思わない?」


 そうして、他の部長たちに投げかけた。


 それに他の部長たちは何も言わず。賛同しかねるが、反論もない……といったところだろう。


 それはやはり、万願寺の一人勝ちに対する不服を示していた。


 もしかしたら、ダンス部の部長はそれを狙っていたのかもしれない。


「ねぇ、こんなのはどう? 次のゲームは全員一発勝負でオールインする。それで勝敗を決める」


 唐突に、そんな提案をしてきた。


「……何を言ってるのかしら? それはもうポーカーじゃないと思うのだけれど?」


 京ヶ峰がいらついた声をだした。しかし、提案者であるダンス部の部長は気にも止めない。


「最初からポーカーじゃないでしょ? これは予算折衝なんだから。みんなが納得できる形をとるのが、話し合いだと思うんだけど」


「それであなたが負けたら納得できるのかしら?」


「私はできるよ? だって、このままやったって勝てそうにないし。他の部長さんはどうかわからないけど」


 そう言うと、ダンス部の部長は自分の手元にある少ないチップ全てを前に置いた。


「そうだな! そもそもこれは運ゲーなんだし、覚悟を決めるのも悪くない!」


 それに、軟式野球部の部長もならってチップを前にだした。


 それに、参加している他の部長たちも目配せをしたあとに、おずおずとチップ全てを前にだす。


「待って。それはあまりにも危険すぎる賭けよ」


「多数決だと、私たちが正義だけど?」


 反論しようとした京ヶ峰を、ダンス部部長は軽くあしらう。


 事の成り行きを見守っていた生徒会長の小金原先輩は、何も言わないがあからさまに焦った表情をしはじめた。


 それはそうだろう。万願寺が勝つことによって上手くいっていた作戦。それが、覆されようとしているのだから。


 しかも、全員がオールインすれば、勝つ確率は6分の1。


 それは、6分の5の確率で予算アップをしなければならないということにもなる。


 だが、先輩から何か言うことはできない。


 この予算折衝において、生徒会は既に場外だったから。


「そもそも……あなたたち何部? これまでの話し合いにいた?」


 そして、弛めることなく攻めてくるダンス部の部長の問い。


「問題解決部です」


 答えたのは万願寺。


「そんな部活あった?」


 そんな疑問に他の部長たちは顔を見合わせたあとで首を捻る。


 ……なんだか雲行きが怪しくなってきたな。


「申請中なんです」


「はぁ!? じゃあ、部活として認められてないの!?」


 万願寺は反論として言ったようだが、それは逆効果だった。


「なんでそんな部が予算折衝に参加してるの? おかしくない?」


 大げさとも思える反応。だが、部活として認められる前提ならば、何もおかしいことではないはず。


「会長、この人たちはゲームから除外するべきなんじゃない?」


「いや、彼女たちは部としての条件は満たしてる。承認されてないだけだ」


「それはおかしくないか? 公式の大会でも部として認められていなければ出ることはできないぞ」


 軟式野球部の部長も反論。


「これは公式の大会でもなんでもない。もし、これを公式というのなら我々生徒会が参加を認めた時点で公式だ」


 苦しい言い訳に聞こえた。だが、確かに生徒会にはそれを決める権限があった。


「部活を存続させるために入部待ちをしている部活があるけれど、それを言うのなら、部員が足りてない部活はその時点で即刻廃部になるのかしら?」


 京ヶ峰も食い下がる。


 それはもはや、予算がどうのこうのという事じゃなく、問題解決部がゲームに参加する資格はあるか否かの議論になっていた。


 まぁ、それもこれも全て、万願寺が強すぎたせい。


 彼女がここまで圧倒的なゲーム展開をしなければ、こんなことにはならなかったはず。


 部長たちの言い分は「負けが込んでいるが故の物言い」に過ぎなかったが、多数派であることと芯を捉えた物言いであることから、問題解決部の参加は否定されつつあった。


 それを決めるのは生徒会だというのに。


 もし、問題解決部がこのままゲーム退場となれば、京ヶ峰の計画は台無しになる。


「私たちはワガママで予算について話し合ってるわけじゃない。部の責任を背負ってここにいるの。それを、部として認められてない人たちと一緒にされるのは我慢できないんだけど?」


 一度は納得しゲームに参加しておいて、状況が悪くなったら文句を言いだす。「部の責任」という言葉を含めてはいるものの、結局は「我慢できない」という感情論が全てだろう。


 それでも……、その感情論は他の部長たちの心を動かすには十分。


「確かにそうだ」

「部として認められてないんじゃ、部長もなにもないじゃないか!」

「彼女たちを外して、ゲームをはじめからやり直したほうがいい」


 それに他の部長たちだけでなく、会議室にきている部員たちも加勢を始めた。


 状況は最悪。どれだけ発言をしようと、彼らの声の方が圧倒的に大きい。


 だから……、俺はてっきり京ヶ峰が折れると思った。


 この劣勢の状況下では、何を言っても賛同を得ることはできない。

 

 それでも別にいいだろう。


 京ヶ峰がやれることはやったのだし、作戦が失敗したとしても生徒会から文句を言われる筋合いはない。


 それは元々、生徒会がどうにかすべき問題だったのだから。


 だが、


「……わかったわ。なら、部活じゃなく、私は自分の時間(・・・・・)を賭けてこのゲームに参加するわ」


――京ヶ峰は折れなかった。


「万願寺さん、交代してもらえるかしら?」


「えっ、でも」


「どうせオールインなのだから、誰がやっても同じことよ」


 そうして京ヶ峰に席を譲る万願寺。


「時間を賭けるってどういう意味?」


 ダンス部部長の疑問に、経ヶ峰は手持ちのチップの束を一つずつ前に出しながら言う。


「私の一年間をここに賭けるのよ」


 それに京ヶ峰以外の者たちがキョトンとした。無論、俺も。こいつは何を言ってるんだ。


「言ってる意味が分からないんだけど?」


 それを言葉にしたのはやはりダンス部部長。


 それに京ヶ峰はため息。


「あなたたち部活生は、青春における一分一秒を費やして活動をしているわ。勉強する時間も、遊ぶ時間さえもを部活に注ぎ込んでいる。だから、私もそうするだけ」


 彼女は最後のチップの束をドンッと前に置いた。


「私の一年間の『投票権』をここに賭けるわ」


「なっ……!?」


 京ヶ峰の発言に、ダンス部部長だけではなく他の部長たちや周囲の生徒たち、なんなら生徒会の役員たちまでもが驚きの表情へと変わる。


 ……そういうことか。


 俺はようやく理解した。


 京ヶ峰は、言ってみれば『青春』を賭けようとしているのだ、と。


 それは、飲食店なんかでお代の代わりに一時間皿洗いをするのと同じだ。お金はないから、それに相当する労働時間で支払う。


 部活生が失う時間を青春に見立て、同じ青春をここで賭けようというのだ。


 それが投票権。


「今日から数えて、一年間の投票回数は六回。私はこの六回の投票権をここに賭けると言っているの」


 もし、この投票権を失えば、京ヶ峰は価値残りシステムの投票には参加できなくなってしまう。


 それはつまり、強制的に六組へと追放されるということ。


 彼女はそれを賭けることにより、今はまだ承認待ちの問題解決部を、無理やり部活としての価値まで引き上げようとしていた。……いやいや力技すぎるだろ。


「あなた、バカなんじゃないの……? そんなことして負けたら、学校行事イベントにも参加できないし、毎日雑務なのよ……?」


 ダンス部の部長は、信じられないという顔。


 だが、京ヶ峰は笑っていた。


「先輩方は欲しくないんですか? 投票権。これがあれば、一回の投票で二回投票することができます。しかも、別の誰かに。同じ人に投票するしかない特票よりも価値あるものだと思いますけど?」


 学年成績や部活動の成績によって学校側から渡される『特票』は、同じ人に二票分入れられるというものだ。


 これで誰かと相互投票を約束したら、相手も特票を使用しない限り、得られるのは一票だけ。


 だが、投票権なら話は別。


 違う誰かと相互投票を約束すれば、確実にニ票を得ることができる。


 一票得たとしてもクラス内での最低投票が一票ならば、追放者がでるまで再投票に臨まなければならない。その危険を回避できる権利ともいえた。


「そうまでして予算がほしいわけ!? 勝てるかどうかもわからないのに!!」


 唖然とする部長たちのなかで、ダンス部部長だけが声を荒らげた。


「賭けるとは言ったけれど渡すつもりなんてないわ? だって、私が勝つもの」


 それに京ヶ峰は平然としている。一体、どこからその余裕が沸いてくるんだ……。


「本当にイカサマしてるんじゃないでしょうね!?」


「そんなことするわけないじゃない」


 彼女は髪を撫で上げながらそう答えた。


 その表情のなかに、俺は恍惚にも似た笑みを見つけてしまう。


「真の強者とは、たとえ窮地に追い込まれても必ず勝つものよ」


 傲慢すぎる態度。そして、興奮する荒い鼻息……。


 俺は確信した。


「さぁ……最高に楽しい勝負をしましょう?」


 これ、京ヶ峰の悪い癖が出てんな……。

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