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ハッピーエンドじゃないと出られない教室  作者: ナヤカ
二章 最円桜は一歩を踏みだす

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6話 京ヶ峰冬華の本性

「知ってるわ」


 それは、京ヶ峰の口からしれっと出てきた。


「……知ってるって、なにを」


 その光景が理解できず、俺は思わずアホな質問を口走ってしまった。


「なにをって、生徒会が予算案で行き詰まってることよ。今、最円くんがそう説明したじゃない? それとも自分が話したことをもう忘れてしまったの?」


 昼休み。俺は京ヶ峰に生徒会の仕事を手伝ってもらうべく、彼らの事情を説明した。


 だが、彼女は平然とそのことについて「知っていた」と発言したのである。


「どうやって……?」


「生徒総会の資料制作状況を見ていれば分かることよ。逆に、今さらそれを言ってきた事のほうに驚きを隠せないわ」


「じゃあ、なんで生徒会からの仕事を断った? このままだとマズいってこともわかってたんだろ?」


「なぜマズいの? マズいのは生徒会であって、私たちではないはずよ?」


 それは、さも当たり前みたく発言された。


「それに、一ノ瀬さんはそんなこと一言も言わなかったじゃない。言ったのは「私たちの仕事が早かったから他の仕事を持ってきた」のそれだけ。私はそれに対する回答もしたのだし、予算案で切羽詰まってた理由を述べたとしても、私たちが他の仕事を引き受ける理由にはならないわ」


 京ヶ峰はそう言うと、「話は終わり」とばかりに手元の本へと視線を戻す。


「会長は、無事に生徒総会が終わったら何か補償してくれるって言ってたんだが」


「なにかって、なに?」


 再び視線が俺に向けられた。その眼光は鋭い。


「いや……、なにかまでは言ってないが、生徒会が影響できる範囲でって」


「具体的に提示してもらわないと割にあわないんじゃない?」


「お前……」


「なに? 間違ってること言ってるかしら?」


 京ヶ峰はそう言って、好戦的な視線をよこす。


 ああ……間違ってない。それどころか、正しすぎるな。


 俺は頭痛を抑えるかのように、手のひらで額を強く押す。


 そう。京ヶ峰は間違ってなんかいない。彼女の言うとおり、その仕事は生徒会でやるべきことなのだから。


 それを間違っていると思ってしまうのは、きっと俺の主義に反していたからだ。


 それを自覚してから、慎重に口を開いた。


「俺は生徒会を手伝いたいと思っている。それを成功させるには、京ヶ峰の力が必要だ」


 それを彼女は鼻で嘲笑った。


「それはただの甘やかしよ。それで生徒総会を成功させたって、彼らの為にはならないんじゃないかしら? なら、失敗や挫折をここで経験させておくほうが長期的に見て良いことだとは思わない?」


「悪いが全然思わないな。そもそも、俺は生徒会のために手伝ってやりたいわけじゃない。俺がそうしたいから手伝うだけだ」


「なら、最円くんが勝手に手伝えばいいじゃない。あなたの為というのなら、そこに私を巻き込まないでほしいのだけれど?」


「それも断る。なぜなら、俺がやりたいようにやるには、京ヶ峰の力が必要不可欠だからだ」


 そこまで言うと、彼女は大きなため息を吐いた。


「あなたって強欲なのね」


「強欲とは少し違う。自分から求めなければ、何かを手に入れることはできないと知ってるだけ」


「そう……」


 それから京ヶ峰は手元の本をパタンと閉じた。その仕草に、俺はてっきり彼女が折れてくれるのかと思った。


 だが、よくよく考えてみればそんなことはないだろう。


 京ヶ峰が俺に従ったところでなんの利益もない。利益がないとこに彼女が関与するはずがない。


 それでも……何故だろうか? 俺の目には、京ヶ峰が手伝ってくれるような雰囲気を感じてしまう。


 そして、もちろんそれは間違っていた。


「じゃあ、こうしましょう? 今から私とゲームをして、最円くんが勝てたら手伝ってあげる」


「ゲーム?」


「そうよ。報酬は『一つだけ相手を従わせる権利』でどうかしら?」  


 京ヶ峰は利益がなければ動くことはない。だから、それは錯覚だと思っていたのだが、


「なんでも……だと……?」


「えぇ、なんでも(・・・・)


 彼女は、自ら報酬を作り出してしまった。


 それも、かなり危険な報酬を。


「最円くんが勝ったら、一つだけなんでも言うことを聞くわ。もちろん、別に「手伝え」なんて命令じゃなくてもいい」


 京ヶ峰は口元に手を添えて笑う。まるで、この状況を楽しむがごとく。


「私を一度だけあなたの思い通りにできるのよ」


 その、あまりにも魅力的な報酬に、俺は不覚にもゴクリと生唾を飲んでしまった。その下心を見透かすかのように、京ヶ峯は胸を強調する腕組をする。


「どう? とても良い提案だとは思わない?」


「はい! とても良い提案だと思います!!」


 くっそ! 理性で理解する前に本能が答えてしまった。


「じゃあ決まりね? ゲームの内容は私が決めるけどいいわね?」


「仰せのとおりに」


 ぐッッ! 沈まれッッ、俺の本能ぉぉおお!


「ゲームはポーカーにしましょう」


 そう言って京ヶ峯は鞄に本をしまうと、そのままトランプを取り出した。


 そして、続けてポーカーでよく使われるオモチャのチップをも取り出したのである。


 なんでそんなもの学校に……。


 あまりに違和感のあるチップの登場に、俺は唖然としてしまう。


 いや、それよりもである。


「……んふーっ、んふーっ」


 なぜか、鼻息の荒い京ヶ峰のほうに視線が向いてしまう。


「それじゃあ、始めましょうか」


 鼻息だけでなく、興奮しているのか京ヶ峰の頬は紅潮していた。

 俺へと向けられる目の瞳孔は開き、口角までもが吊り上がっている。


 傍から見れば、ちょっとヤバい。というか……かなり怖い。


 彼女はこの状況を楽しんでいるようだった。いや、かなり(たの)しんでいた……。


 その時だった。


「あ、あのさ! 私もやる!」


 それまで見守っていた万願寺が名乗りをあげた。


「やるのなら、万願寺さんも権利を賭けることになるけど?」


「うん。やるよ」


「おい、万願寺」


 止めようとしたら、何故かギロリと睨まれてしまう。


「最円くんが勝ったって何言い出すかわかんないし」


 ……いやぁ、ちゃんと生徒会を手伝わせますよ? ほんとに。いや、ホントホント。


 だが、万願寺は全く俺を信じていないのか、怒ったように眉を寄せると、椅子を持ってきて近くに座る。


「これだとニ対一ね?」


 それに京ヶ峰はふぅと息を吐いてから、寝たフリをしている千代田のほうへと顔を向けた。


「千代田さん。一緒にゲームしましょう?」


「むにゃむにゃ。えぇー? ゲーム?」


 その呼びかけに、千代田は今起きたばかりの演技をしながら目をこすった。


「えぇ。千代田さんとゲームがしたいの。ポーカーだけどできるかしら?」


「んんっ……。眠いけど、しょうがない」


 言いながら、千代田はわざとらしいアクビをしつつ、ウキウキで椅子を持ってきた。


 やるな京ヶ峰……。寝たフリするボッチの心理をうまく掴んでいる……。


「千代田さんは人数合わせだから、負けた場合でも私だけが責任を負うわ」


「それなら、万願寺が負けた場合も俺だけが責任を背負ったほうがいいんじゃないか?」


「万願寺さんは自分から参加すると言ってきたのよ? 千代田さんとは条件が違うわ」


「別によくない? 勝てばいいんだし」


 万願寺のためを思って反論したにも関わらず、彼女は俺へと怒りを露にした。……なんでだよ。


「えぇ。勝てば、ね?」


 それに京ヶ峰は不敵に笑った。


「お前、ポーカーわかるのか?」


 京ヶ峰がカードを切り始めたタイミングで万願寺に聞いてみると、


「わかるわけないじゃん」


 やはり、怒気を孕んだ目で睨みつけられた。


 いや、その感情と返答はおかしいだろ……って、え?


「ま、待て! 京ヶ峰! 万願寺にルールだけ説明するから!」


「……仕方ないわね」


 カードを切っていた京ヶ峰の手が止まる。


 それにホッと息を吐くと、俺は万願寺に簡単なポーカーのルール説明をした。


 とはいえ、初心者ビギナーで勝てるとは思えないポーカーというゲーム。


 なぜ、万願寺が急に名乗りをあげたのかは不明だったが、実質俺と京ヶ峰の対決になりそうではある。


 いや、千代田が京ヶ峰側にいるから、こちらの方が不利か?


「ちなみに……お前が勝ったら何を要求するつもりだ」


 一応、京ヶ峰に聞いてみると、


「そうね。もう私に歯向かう気が起きないよう、パンイチで校内一周でもしてもらおうかしら?」


 とんでもないことを言ってきやがった。


 それはやばい。教師にでも見つかれば停学どころの話じゃない。


「それでもやる? 降りるなら今だけれど?」


 そして、やはり不敵に笑う京ヶ峰。


 俺は少しだけ逡巡したあと、席に座り直す。


 もし、そんな要求をしてきたとして、パンイチ校内一周がバレてしまえば、指示した彼女も無事では済まないだろう。


 楽観的な考えに過ぎないが、頭の良い彼女がそんなこと命令してこない……はず。たぶん、きっと……。


「いいだろう」


「いいわ。なら、始めましょう」


 とんでもない賭けだというのに、彼女はなおも愉しそうなまま。


 そんな彼女の態度に、俺はなにか間違えてしまったのではないかと不安になる。


 うん。たぶん間違えてはいるんだろうが。


「安心して。私はイカサマなんてしないから」


 京ヶ峰は静かに言った。


「すべて、運と実力だけで勝負するのよ。誰にも頼らず、自分の力だけでね」


 そして、やはり嬉しそうにわらうのだ。


 その笑みに釣られて俺まで笑ってしまいそうになる。もちろん楽しんでいるわけじゃなく、精神が安定を求めようとして無意識にでる笑い。


 俺は、目の前の京ヶ峰冬華という人間をすこし理解した気がした。


 こいつは、イカれてやがるぜ……。

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