3話 手荒い歓迎
「そうだ、最円。ついでに自己紹介もしてもらおうか」
遅刻に対するお咎めは後回しとして、すごすごと空席に着こうとした俺に与那国先生が声をかけてくる。
鞄を置いて教室内を見回せば、同じく追放されたあとの四人が窺うように俺を見上げていた。
特に、俺と一番席の近い女子生徒は顔面蒼白になりながら、戦々恐々とした目を俺に向けている。
まるで、不良生徒にでも向けるかのような怯えた瞳。イチャモンでもつけられると思っているのだろうか? あぁ?
もちろん、みんなの幸せを願う善良で人畜無害な俺がそんなことをするわけはないのだが、目があっただけでビクリと肩を震わして視線を逸らされてしまったことに少なからず傷ついた。
どうやら、初日から遅刻というのは完全に悪印象だったらしい。だが、安心してほしい。俺は今後もこの時間帯に登校するつもりだからな! 悪印象も慣れればどうということはないだろう。
ともあれ、今後少なくない日々を彼らと共にしなければならないことを考えれば、早急に悪印象を払拭しておかなければならないことも事実。
そう考えれば、自己紹介の場は逆にチャンスとも言えた。
コホン、と咳払いしてから俺は笑顔をクラスメイトたちに向ける。
「元一組の最円薫です。投票を約束していた親友に裏切られてここに来ました。今後はそうならない関係を皆さんと築き上げたらいいなと思っています」
自虐を交えた簡潔な自己紹介。それでいて友好的な姿勢をしっかりと付け加えておく。完璧じゃないか。
しかし、クラスメイトたちの反応は鈍く、むしろ軽蔑のような視線を送ってくる者までいた。
「……どうやら、君は来るべくしてこのクラスにきたようだね。自分に価値のないことを他人へと責任転嫁する素晴らしい自己紹介だ。そんな君と友達になりたいと思う者は変わり者だろうね? 少なくとも、私と君との関係が教師と生徒で良かったと心底思っているよ」
与那国先生は嬉しそうに拍手をしながらそう言った。
さすがは六組の担当教師である。
彼女も追放者たちに劣らない素晴らしい人格の持ち主らしい。ほんと、教師と生徒で良かったと心底思う。笑いながら誰かを貶すような人間とは友達になれそうもないからだ。
まぁ、そのおかげか教室内にあった緊迫感はかなり弛んだ。
怒っている人を笑わせて和ませようという行為はあまり好きじゃないが、相手が勝手に笑ってくれるのならそれはそれで良い。
怖がっていた女子生徒をチラリと見れば、すこしホッとしたよう。目的は充分に達成できたことを確認する。
「あぁ、それと投票前に票を確約しておく行為は不正だから、次からは発言に気をつけるように。……まぁ、今回は残念ながら企みが失敗しているようなので不問とするがね」
思い出したかのように与那国先生はそう補足した。
そうだった。みんな当たり前のように相互投票を約束しているから忘れていたが、本来は禁止されている行為だった。
とはいえ、相互投票を禁止したら、真に価値ある人間は残るとしても他は完全なランダム投票になってしまう。
つまり、残れるかどうかは運次第。
それを禁止にしているのは、票をめぐって金銭的な取引が行われないようにするため。金で票を買い始めたら貧乏人には勝ち目がないし、インフレを起こしてとんでもないことになりそうだしな。
俺は先生の忠告に頷いて席に着くと、中断していた授業が再開された。
与那国先生の担当は数学。
既に内容はすこし進んでいて、俺のためにまた最初から説明されるなんて甘いことは当然なく、淡々と授業は進められる。
開いた窓からは、他の生徒たちの騒がしい声が遠くから聞こえた。ちょうどホームルームが終わったのだろう。
六組は他のクラスと違い、棟ごと離されている。
一組から五組までが普通教室棟。
六組があるのは特別教室棟だった。
これはもはや隔離と言っても過言ではない。
だからこそ皆が追放されることを嫌がった。
この六組に属してしまうと、青春を代表とされるありとあらゆるイベントから切り離されてしまうからだ。
ただ、静かなこの教室の雰囲気は嫌いじゃない。
日々の面倒事を考えなくても良いというのは、気が楽でもあったから。
まぁ、さすがに長居をする気はないが。




