14話 FPS
千代田から教えてもらったFPSのゲームは、俺が思っていた以上に大変なゲームだった。
まずダウンロードに時間がかかったこと。
俺が使っているパソコンは性能的に低くはないが、それでも数時間はかかった。夜ご飯をつくり、桜と共に食べ、お風呂にゆっくり入ってしまえるほどに時間がかかった。まぁ、それはそれでいいのだが、ようやくダウンロードが終わった頃には適度な眠気に襲われた。
――ダウンロード終わった?
しかし、千代田の連絡からは「一緒にやりたい」という欲がなんとなく透けて見えたため寝ることは断念。
――終わったぞ。
そして、ゲーム画面を開いたとき、なぜこんなにもダウンロードに時間がかかったのかを理解する。
現実を追求しているからか、画質が異常に綺麗なのだ。
そして、千代田に教えてもらいながらのゲーム設定変更。これについては正直よくわかっていない。言われたところを言われたとおりの設定に変えただけだ。
そうして、ようやくゲームをプレイできる段階になって既に0時近い。
『まずカジュアル戦いこ』
どうやら、千代田にとってこの時間帯はまだ起きている時間帯らしい。
「そ、そうだな」
そして……ここからが真の地獄だった。
『――攻める。行くよ? ゴー!』
ゲーム内のエリアを歩いていると、突然千代田から報告があり、直後、銃声が響いた。
「えっ、ちょっ、まだ準備が!!」
おもに心の。てか、なに? なんで急に戦闘始めるの??
『遅い』
「いや、急いできたんだけど。というか全滅させたのか」
『相手も足並み揃ってなかったから』
「……次から気をつけますね」
こういったことが度々あった。まだ操作に慣れていないのもあるし、ゲームとはいえ、対面で戦闘をするのにドキドキしてしまうのもある。
だからなのか、いつも俺だけが遅れた。というより、千代田が先を行き過ぎてる気がしてならない。
だが、彼女はFPSが得意というだけあって、不利な状況でも撃ち勝ってしまうことが多いため、弱い俺がなにか言える立場でもない。
そして、千代田が撃ち勝てずチームが半壊し、俺だけが生き残ってしまうとさらなる地獄が待っていた。
死んでしまうとチーム内の視点に切り替えができるのだが、千代田が俺の視点をみながらの指導が始まるからである。
『――なんで足元ばかり見てるの? そこに敵いないけど』
「ばっ! ち、地に足がついてるか確認してんだよ! ほら、生きてく上で大事なことだから!」
『敵殺さないと生き残れないけど。キャラコンができないから移動の確認しながら歩いてるんでしょ? それ癖になるからやめておいたほうがいい』
キャラコン……? キャラメルコーンのこと? あれって、どうしても最後にピーナッツだけが残るよね。
『――そこ射線通る。移動して。違う、そっちじゃない』
「え? どっち?」
『後ろから敵きた。逃げて』
「は? 今、ここ射線通るってッッ! ここ行くの? なら戦ったほうがよくね?」
『戦うなら私が生きてたときにやって欲しかった』
「あー、なるほど。……というか、わりぃ。おれ死んだ」
悪気はないのだろうが、吐かれる言葉はわりと辛辣。知ってる奴じゃなければ心が折れてるレベル。
『――戦闘中にサイトのぞかないで』
え? もしかして度々言われる言葉がわからなくて、用語のサイト覗いてたのバレた? 視点切り替えってパソコン画面までバレるの?
「いや、今はのぞいてない」
『思いきりのぞいてるけど……』
サイトが、エイムを合わせるための照準であったことを知ったのはその後である。
そんな感じでゲームをしていたのだが、時間は瞬く間に溶け、気がつくと時刻は四時になっていた。
もはや朝。まじかよ……。
『疲れたからまた今度にしよ』
そして、ようやく千代田から言われた言葉。だが、その声にはまだ元気があり、彼女の恐ろしいまでのスタミナを知った。
FPSというのは、経験も大事だが知識もかなり重要なゲームであるらしい。俺のような初心者は特に。
それでも、
「悪いな。下手くそで死んでばかりで」
『ううん。楽しかった』
千代田が楽しめたのならそれでいいか、と帰結する。それを聞いたら、なんか俺も楽しかったような気がしてくるし。
結局、苦しいことや辛いことでも誰かがいれば乗り越えられる。
乗り越える必要はなくとも、誰かがいれば後から笑える。
楽しいときに、楽しいと自覚することは難しい。
それらは大抵、あとから「楽しかった」と脳内保管できて初めて楽しい思い出となる。
全ては、終わったあとのほうが重要なのだろう。
だから、死にまくって小言を言われまくった時間だったとしても、楽しかったと言えたなら楽しかったのだ。
たとえそれが俺を気遣った嘘だったとしても、夢中になった時間は嘘じゃない。というか、こんな時間まで必死こいてプレイした時間を嘘とは呼ばせない。
「次はいつにする?」
『明日』
「……明日ですか?」
『うん。おやすみ』
「あっ、おやすみ」
そして切れた通話。
千代田はここから寝るつもりらしいが、どう考えても睡眠時間は一時間くらいしかない気がする。
「朝ごはんの支度するか」
俺は朝食の準備をすることにした。
すこし早いが、ここで寝たら起きられない気がしたからだ。俺は別に良いのだが、お腹を空かせた桜のことを考えたら寝るなんてできない。
そして、千代田が言った「明日」は、本来の意味での明日だと思っていた。
それでも、「スパン早いなぁ」なんて思っていたこの時の俺はバカ。
千代田にとっての日付変更は0時ではなく、寝て起きたら明日なのだと知ったのは今日の夜のこと。
この数時間の地獄が、連日連夜続くことになると理解したのも、その時である。




