攻略方法
朝から射撃場に行き、ハーデストに挑戦したのだが難易度が二つ上がっただけのことはあり、的の速度が三倍速になり動きも不規則でかなり苦戦した。
「お疲れ様でした! ハーデストランキングの結果は四位です」
一位を取れなかったのは残念だったがキョウラクは五万も増えたので、この調子なら二十日もあれば百万ポイントを達成するのか。
俺よりランキングが上位の連中は的が出てくる場所も動きのパターンもすべて記憶しているのだろう。ゲームは覚えることが最重要なのは、あのダンジョンで嫌というほど学んだからな。
他の施設も経験しておくか。まずは闘技場かな、俺の想像しているシステムなら理想的な展開なのだが調べてみる価値はある。
住民NPCに場所を訊ね向かった先は天井のない円形の建物だった。ローマか何処かにあったコロッセウムという闘技場に瓜二つだ。
ゲームやアニメで闘技場といえば十中八九このデザインだよな。
入り口を見つけたので中に入ると、建物を外壁に沿うように通路があったのだが受付らしき場所を発見したので歩み寄る。
「お客様は初めてのご利用でしょうか」
「ああ、説明してもらえるとありがたいが」
「はい、ご説明いたします。まずは闘技者として参加されるか、賭博をされるかを選んでいただきます」
やはり参加する方も選べたか。
「じゃあ、闘技者の方を教えて欲しい」
「では、闘技者の方はまずこの三つのコースから選んでもらうことになります。勝ち抜き戦、一対一、トーナメントです。勝ち抜き戦は弱い相手から戦っていただき、負けるまで戦闘が続きます。一対一は相手の強さを選んで戦うことができます。その強さに応じて支払われるキョウラクが変わります。トーナメントは二十人の猛者が参加する勝ち抜き戦です。報酬も多いのですが週に一回しか開催されません」
なるほど。基本は勝ち抜きが良さそうだけど、負けた時のデメリットと勝敗方法が気になる。そこは訊いておかないとな。
「勝敗の決定方法はどうなっている」
「各自の頭の上にHPバーが表示されますので、それが全て無くなれば負けとなります。実際のダメージの蓄積はありませんので負傷することも死ぬこともありませんので、ご安心ください」
安全設計だな。これが本当なら安心して戦えるが、未だにこの町も邪神も信用しきれていない。念の為に様子を見たが良さそうだな。
「賭博も参加もせずに、取りあえず見学というのはありだろうか」
「はい、大丈夫です。そこの扉の先が観客席になっていますので、ご自由にご利用ください」
「ありがとう」
軽く頭を下げてから、観客席に向かった。
扉の先には野球場やサッカー場のような観客席があり、中心部に円形の石らしきリングがある。想像通りの闘技場なのだが観客の大半が、ほぼ同じデザインのNPCの群衆なのはやめて欲しい。
プレイヤーも数人いるな。あの修羅場を越えてきた者とは思えないぐらい緩んだ表情に寛いだ態度。本当にこのエリアは危険性がないようだ。
この人たちが邪神の塔攻略に復帰する日は二度と訪れないのだろう。まだ全員と出会った訳じゃないが、今のところ闘争心が残っているプレイヤーに遭遇したことがない。
……変な期待はやめておく。誰かに頼るのは止めたのだから、どうでもいいことだと割り切ろう。
「紳士淑女の皆様方、お待たせいたしました」
町中で何度も聞いたことのある声が響いている。やっぱり、もう少し声の種類を増やして欲しい。
司会進行役の台詞を適当に聞き流していると、闘技場のステージ両脇の扉が開き二体の魔物が姿を現した。
弛んだ体に豚の頭の化け物と体が緑色で角の生えた大男。ファンタジー世界で定番のオークとオーガか。今後出てくる可能性があるかもしれないので、その強さを調べるには適した場所だな。
試合が始まり二体が手にした武器で殴りあっている。本当にHPバーが頭上に出ているのか。
オークは斧、オーガは両手剣を手にしているのだが、あれで斬りつけられて怪我を負わなければ嘘だ……怪我しないな。
これは意外といい鍛錬になるかもしれない。ただ、相手を殺せないので魔素を取り込むことができないのがネックか。魂技を鍛えるのには使えそうだが。
オーガが勝利を収めたが際どい勝負だった。戦力差はさほどないのかもしれないが、個体差があるのかもしれないと考え、その後も十試合を見続けた。
ここで出てくる魔物はファンタジー定番のゲームでよく見る魔物ばかりで、オリジナルの魔物は一体も出てこない。この町限定の魔物だとしたら何の役にも立たない情報だ。
もう見る必要もないと席を立ちかけていたが、最後の十試合目の対戦者を見て腰を下ろした。ここまで観戦してきたことが無駄ではなかったと思わせてもらえそうだ。
敵は口から炎を吐き出す漆黒の犬、ヘルハウンド。
対するのは、とび職の人が愛用しているニッカポッカを少し細くしたようなズボンに、袖のないシャツという姿の女性プレイヤーだった。
肩から腕に掛けて筋肉が浮き出ていて、ピッタリと体に張り付くシャツ越しに見える背筋も見事なものだ。
胸も大きいのだが、そんなことよりも磨き上げられた肉体美の方に目がいく。
髪は短く切りそろえられていて、光の加減で薄い茶色に見える。
手に手甲のような物を装着しているだけで武器は所有していない。手甲と頑丈そうなブーツと鍛え上げられた体が武器の格闘家のようだ。
身長もあるな……俺よりも大きいぞ。二メートルまではいかないが百八十は越えていてもおかしくない。
口元に笑みを浮かべ怖気づくことなく自信満々で魔物を見下す態度に、ヘルハウンドも気づいたようで唸り声を上げている。
勝負は一瞬だった。
試合開始の合図と共に飛び掛かったヘルハウンドを避けることなく、正面から迎え撃った女性は、相手の顎に下からすくい上げた拳を打ち付ける。
顎を粉砕され上体が仰け反るヘルハウンドの無防備に晒された胸元へ、手甲に守られた拳を叩きつけた。
耳を覆いたくなるような鈍い音が闘技場を満たすと、ヘルハウンドは床に崩れ落ちた。
圧勝だな。あの動き、まだ余力があるように見えたことを考慮しても、一対一で戦えば勝てるかどうか怪しい。こんな人がまだいたのか。
ヘルハウンドの歪に折れ曲がったように見えた身体も砕かれた筈の顎も元に戻っている。本当に怪我を負うことなく、すぐさま修復されるようだ。
よいものを観させてもらった。勝者である女性に惜しみない拍手を注ぐと、俺は受付に戻る。
「いらっしゃいませ。どちらにするかお決まりでしょうか」
受付嬢は笑みを浮かべているが、常に顔に張り付いている笑顔なので嬉しくもなんともない。逆に無表情の方が人間味を感じるかもしれないな、これなら。
「勝ち抜き戦に闘技者として参加したい。途中でやめたいときは、参ったとでも言えばいいのか」
「はい、負けたら自動的に終わりますが、自ら棄権したいときは参ったと口にしていただければ、そこで試合終了となります」
途中棄権も許されるなら、問題なく戦えそうだ。
大体のシステムは観戦して理解したので、後は実際に経験してみるのが一番。
「では、あちらの闘技者入場口からお進みください」
観客席へ向かう扉の脇に新たに扉が出現した。参加を望まない限り、扉が現れることがない仕組みなのか。
長く薄暗い通路を抜けると闘技者の待合室の様な場所があり、そこにも職員らしき人物が書類を手にして突っ立っている。
それ以外にはさっき戦い終えたプレイヤーらしき女性が長椅子に腰かけていた。やはり、女性にしては大きい。やはり、俺よりも少し身長が高いようだ。
視線が合うと姿勢を正し、軽く会釈してきた。
あれ? 豪放な性格をイメージしていたのだが、格闘家は礼儀作法を叩き込むところもあるから、そういうところで学んでいたのかもしれないな。
「先程の試合お見事でした」
「いえ、そんな、たいしたことないです……」
視線を逸らして照れながら首を振っている。
ん? 何だこのお淑やかな素振りと声は。あの勇猛な戦いぶりを見せつけた当人とは思えないぞ。
話が通じそうな人のようだから、ここで情報を収集しておくか。
「ここに来てまだ二日目なのですが、貴女は滞在してから長いのでしょうか」
「ええと、もう一年近くになります」
充分ベテランだな。一年も居るということは、ここに腰を据えることを決めた人なのか。
「百万キョウラクを貯めるのはそんなにも難しいのでしょうか」
「あ、いえ。私はあるアイテムが欲しくて五千万キョウラクが必要でしたので」
なるほど。あの高額アイテムを狙って地道に稼いでいたということか。これは、物によってはかなり優秀なプレイヤーかもしれない。
「そのアイテムとはどのような物なのですか? っと、そんなことを初対面で訊くのは失礼でしたね、忘れてください」
ここで一旦引くような言動を見せて相手の反応を窺おう。
強引に話を進めると相手に警戒されることもあるからな。大人しそうな人なら、柔らかい物腰の相手の方が話しやすいだろうし。
「あ、いえ。隠すような物ではありませんので。欲しかったのは完全回復薬です。欠損した部位も完全再生できるとのことでしたので……四階の追跡者との逃走劇の最中に腕を一本失いまして、それを元に戻したかったのです」
腕を欠損したのか。今は見事に鍛え上げられた両腕があるということは、五千万キョウラクを稼ぎ終えたということだよな。
「ということは、既に貯め終わり再生した後なのですね」
「はい。一か月前に目標金額に達したので、それで腕が元に戻りました。今は違和感を埋める為にこうやって闘技場で戦っています」
一年近く腕を失った状態であれば、慣れるまでに時間は必要か。この口振りだとクリアーに必要な百万キョウラクは既に貯まっているようだ。
これ以上の相手のことに関しての質問は止めておくか。人と接するのに慣れていないらしく、若干挙動不審だしな。
もう少し打ち解けるには……自分のことを話してみよう。
「私は今から勝ち抜き戦に挑むのですが、何かコツがあったりします?」
「ええと、続けて戦うことになるので体力の温存を注意した方が。あとダメージが蓄積されるので回避が重要です」
おっと、戦いのことに関する問いかけだと照れが消えるようだ。俺を正面から見据え口調もしっかりしている。
この女性との会話は戦闘に関することだと話が弾むのか、覚えておこう。
「山岸網綱様。そろそろ、出番となります。こちらへお越しください」
「どうやら、順番が来たようです。アドバイスありがとうございました」
「いえ、頑張ってくださいね」
あのダンジョンをクリアーしたにしては物腰の柔らかい人だったな。日頃はあんな感じで戦闘中は意識の切り替えができる人なのかもしれない。
さっきの態度が芝居の可能性もあるから、断定するのは早いが。
職員から軽く説明を聞くと扉が開き、歓声と光が流れ込んでくる。急な階段を上りきると、俺をぐるっと取り囲む観衆が見下ろしている。
足下の石床を軽く蹴って感触を確かめながら周囲を見回してみると、プレイヤーらしき一行が十人程度集まって見物している一帯を発見した。
あのオープンテラスで話しかけてきた、成金プレイヤーの姿が見える。幸も近くに居ると思ったのだが、いないな。またカジノで散財でもしているのだろう。
対面方向の扉が開いたので視線を向けると、頭に一本も髪の毛がなく耳が異様に長い、身長の低い人型の魔物が現れた。
「やっぱり、ファンタジーといえばゴブリンだよな」
視線は相手の頭の上に向いているのだが、そこにはHPバーが表示されていて、その上に対象の名前が載っている。
わかりやすくて結構なのだが、若干気になる。ゴブリンが動く度にHPバーも揺れるから、つい目がいってしまう。
「第一試合開始致します。レディーゴー!」
カーンと開始のゴングが鳴り響くと、ゴブリンが手にした粗末な棍棒を振り上げて駆け寄ってくる。
さーて、この享楽の町にいる敵の実力を試させてもらうぞ。




