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暗殺思考の狂戦士(ベルセルク)  作者: 昼熊
一章

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伸ばす手の価値

 伸縮自在の棍を使って一気に地上まで降りる。

 魔物に尾行していることを気づかれないように『暗殺』の技能をフル活用するか。

 気配を完全に殺し、風景と同化する。まるで、敵地に侵入するゲームのように全身が周囲の風景と同一化した。わかり易く言えばカメレオンみたいなものだ。

 この状態で忍び足を持つ俺は全く足音を立てずに敵の背後を取ることができる。

 魔物の走る速度は相当なものだが俺の方が速いな。距離が徐々に詰まっていく際に最後尾の魔物を一体ずつ葬っていく。

 死体を追い越す前に矢は拾っておくのを忘れない。矢は有限だからな。


 前方に見えるのは魔物の背中が四つ、少し離れた先にもう二体いた。合計六体がプレイヤー三人を追っている。

 さて、どうしようか。このまま殲滅させてもいいのだが、プレイヤーの三人の実力と人間性を確かめる為にあえて残しておこうか。

 見捨てる気は毛頭ないが、ここでは人を信頼する=死に繋がる場合がある。

 偽善で助けるにしても対象がどういった人物であるかを把握しておくことは必須だ。


 一定の距離を保ちながら尾行を続けていると、豪邸跡の前で魔物たちが足を止めた。先行していた二体と合流して六体で中に入るつもりのようだ。

 廃墟の中からプレイヤーの気配が三つある。動きがないということは迎え撃つつもりか。

 忍び足で魔物たちに近寄っていくが反応がない。その距離が五メートルを切ったところで、六体は中へと入っていった。

 様子見をしている場合じゃないか。扉付近にワイヤーを仕掛けてから俺も入り口を潜る。

 魔物がプレイヤーに襲い掛かかろうとしているな。なら、その無防備な後頭部に矢をプレゼントしよう。

 まず、二体の頭に矢を叩き込む。あっさりと絶命した魔物が崩れ落ちた。


「どうなっていやがる、他に気配はしないぞ!?」


「もしかして、誰か助けて……」


 プレイヤーの声がする。そっちの対応は全て片付けてからだ。

 もう一体も射殺すと魔物も異常事態に気づいたようでこっちに振り返った。

 このまま、全部倒してもいいけど折角張ったワイヤーを有効活用したいよな。

つがえていた矢を外して構えを解いて、わざとらしく大欠伸をしてみた。おっ、挑発を理解したみたいだ、魔物の大きな口が怒りに歪んでいる。


「バカにされていることぐらいはわかるのか」


 一体が飛び出してきたので後方に軽く跳ぶ、もちろん仕掛けてあるワイヤーに引っかからないように気を付けて。

 俺を捕えられると口元を愉悦に歪めた八目猿の顔が胴体から離れていく。地面に転がった頭の代わりに、首からは血が勢いよく噴き上がっている。


「ワイヤートラップかっ」


 正解だよ、迷彩服の人。

 残った二体が動揺しているようで落ち着きがないな。人間相手にここまで追い詰められるとは思っていなかったみたいだ。

 なら、ドロップアイテムとして手に入れた毒薬試してみるか。毒と書かれたラベルが貼っている小瓶をポケットから取り出し、顔面に投げつけた。

 俺と獲物のどちらにも気を配っていたのが災いして魔物の顔面に命中した。おー、顔面を抑えてのたうち回っている。あっ、口から泡を吐いて痙攣を始めた。


「この臭い……毒よっ!」


 女性が鼻をひくひくさせている。臭いを嗅ぎ取る魂技を持っていそうだな。

 さて、残り一体となったがどうやって倒すか。普通に殴り倒してもいいのだけど、それをやると俺の実力を警戒されかねない――プレイヤーに。

 ここは遠距離と罠が得意な奴だと思いこませた方が、後々都合が良さそうだ。

 ポケットに手を入れて縮めておいた伸縮自在の石の棍を手に取り、代わりにコンパウンドボウを地面に落とした。


「あんた、弓を拾え!」


 刀を持った学生服の青年が叫んでいる。そんなに焦らなくても大丈夫だよ。

 戦力差を見せつけたのに、こんな安い挑発にまだ引っかかってくれるのか。

 跳び込んできた魔物を眺めながら、そんなことを考えつつ手に隠し持っていた石の棍を伸ばした。

 斜めの角度を付けた棍の末端は床に突き刺さり、先端は魔物の喉を捉えた。自ら床に固定された棒に突っ込んだようなものだ。

 喉を貫かれた魔物は口から大量の血を零しながら絶命した。

 プレイヤーの三人は眼球が零れ落ちそうな程、目を見開いて口をポカーンと開いている。驚き過ぎの気もするが、自分たちが逃走を選んだ強敵を一人で倒したら、こうなるのも無理はないか。


「た、助かったぜ。あんたもプレイヤーだったのか」


 学生服の青年が若干だけど頬が引きつったまま、無理のある笑顔を浮かべて声を掛けてきた。怯えと警戒が手に取るようにわかるよ。


「ああ、そうだ」


 友好的な対応をすると舐めて見られる場合があるから、不愛想な感じを演じてみるか。


「じゃあ、俺たちの後輩って奴か。それにしても見事な腕だな、罠と射撃だったがそれでも大したもんだ」


「そうか」


 もうちょっと愛想良くするべきだったか、三人の眉根が寄った。いらっとさせてしまったようだ。


「しかし、助けてもらっておいてなんだが、お人好しだな。その性格であのゲームを良くクリアーできたもんだ」


「ああ」


 今更、砕けた対応をするのも変だから、このキャラを貫こう。


「助けてもらっておいて重ね重ね悪いんだが、食料が乏しくてな。もし、余裕があるならほんの少しでいいから分けて欲しい」


「構わない。入り口の近くにバックパックを置いている。取ってくるから、ちょっと待ってくれ」


 食料が不足しているのか。敵を倒したら落とす筈だが食べきってしまったのだろう。それとも、あまり敵を倒さずに進んできたのか。

 いや、俺たちがこの塔にやってくるまで、前のプレイヤーとは日数が開き過ぎているから、食料不足になるのも当たり前だとも考えられる。

 というか、この人たちはこの三階をずっとうろついていたのだろうか。下手したら何か月もかけて、まだ三階までしかいけてないってことだよな。

 そんなことを考えていると、バックパックを取りに向かっている俺の背後から不穏な気配がした。


 おっと、本性を現してくれたようだ。こういった場合、良い人の振りを続けて土壇場で裏切られる方が厄介だからな。わかり易くて結構。

 三つの気配が俺へ突進してくる。

 気配を消滅させて体を風景の一部としてから、横に跳んで軽々と避けた。


「そうくるよな」


 まずは無防備に側頭部を晒している刀を持った青年から静かにさせるか。

 俺を見失って慌てふためている頭に蹴りを叩き込んだ。棍で殴っても良かったのだが、それだと殺してしまう可能性があるから。

 思ったより軽い手応えで壁際まで吹っ飛んだ。手加減したつもりだが、死んでないといいけど。


「なっ、あんたっ」


 男女平等アタック。三又の槍を持った女性の脇腹に棍をそっと突き刺す。胃液を撒き散らして女性が崩れた。

 痙攣しているから、死んでない……と思う。

 さて残りは迷彩服の彼か。この銃はアサルトライフルかな。そんな物を突きつけられても、弾速は把握しているから当たることはない。

 しっかし、見事なまでに怯えられている。動悸息切れが激しいな。

 返り討ちの覚悟もないのに人を襲ったらいかんよ。あのダンジョンで嫌と言う程、学んだだろうに。


「あ、あんた、近距離戦もやれるのか……それだけ強いのに、何であんな姑息な戦い方を」


「姑息か。勝つ為に最善を尽くすだけだ。傷を負わずに楽に勝てるなら、それに越したことはないだろ。それに、ああいう戦い方を見せると油断してくれる輩がいるからな」


 確かに姑息に見えるよな。でも、安全第一だと俺は思うわけで。


「な、何で、俺たちが襲うとわかった。魂技の力か」


 あー、相手の嘘を見抜く魂技とかあったからな。そっちと誤解しているのか。


「そんな便利な魂技は所有してないな。ただ、初めから信用していなかっただけだ」


「な、なら、何故助けた! 信用できないなら助けなければいいだろ!」


 正論だな。思わず頷きそうになった。

 まあ、深い考えがあった訳でもないから、反論が難しい。


「誰にも期待はしていない。ただやりたいことを……したまでだ」


「お前、お前は何なんだよっ!」


 何なんだと言われても、「山岸網綱24歳、独身です」と答えたら怒られそうだ。


「そいつらも死んでない筈だ、後は勝手にしろ。ただし、二度と俺の前に現れるな。今度は一切の躊躇なく……殺すぞ」


 相手が勝手に思い描いていそうなキャラを貫こう。助けてやったのに殺そうとした奴らと慣れあうつもりもないからな。

 抵抗する気もないようなので、背を向けてその場から立ち去る。ここで背中に銃弾を撃ち込んで来たら、こいつも吹っ飛ばそう。

 そう思っていたのだが動く気力もないのか、萎んだ気配がいつまでもそこに留まっていた。

 扉を抜けて扉脇に置いてあったバックパックをを持って行こうとしたのだが、自分が吹き飛ばした二人のことが気になってしまう。


 殺しにきた相手を返り討ちにしただけなので正当防衛なのだが、これで死なれても目覚めが悪い。確か食料が不足しているとか話していたか。

 バックパックの中から袋を取り出し、そこに回復薬と携帯食料を詰めて地面に置く。

 回復薬の効果と携帯食料の安全性を確かめたかったし、丁度いいだろう。

 少し離れた場所の瓦礫の裏に陣取り、豪邸の入り口を見張っていると迷彩服の男が出てきた。

 袋に気づいてくれたようだ。中を確認して、膝を突いた。あれ、どうしたんだ?


「ああっ、くそっ、くそがああっ!」


 何か号泣しているぞ。おまけに、泣きながら罵倒された。

 あれか、憐れみを掛けられてプライドが傷ついたのか。自分たちを叩きのめした相手から施しを受けたら、そりゃ腹も立つよな。

 もう少し愛想よく対応するべきだったか。こっちも利用するつもりだから、それぐらいの気持ちでいてもらった方がいいか。

 袋を抱えて中に戻っていったな。俺も一定の距離を保ったまま、そっと中へと侵入する。

 仲間が二人床に並べて寝かされている。学生服の青年の上半身を起こして、回復薬を飲ませているようだ。

 なるほど、回復薬は飲んで使うのか。っと、少しだけ中身を残らせているな、袖をめくって回復薬の残りを腕にぶっかけた。切り傷があっという間に塞がっていく。

 飲んでも直接傷口に掛けてもいいのか。俺の攻撃は内臓と骨をやったからな、ああいう場合は飲むのがいいのか覚えておこう。


 二人ともあっさりと回復したようだ。回復薬の治癒力は尋常じゃないな。少々の怪我なら恐れる必要はなくなった。

 完治した二人と一緒に三人で携帯食料を口にしている。

 暫く様子を窺っていたが、毒で苦しむような素振りもない。

 これで、回復薬の効果と使い方。携帯食料の安全性が立証された。これだけでも三人を助けた甲斐があるってものだ。

 さてこれからどうするか。床に座り込み、ボーっとしている三人を眺めながら、自分の生存率を高める方法を模索していた。


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