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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十七章 魔神の欠片を巡る光と影

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魔法の高次元領域

後半の魔法に関するうんちくは難解を越えて理解不能かもしれないので、あまりじっくりと読まないように。人間の扱う魔法と、上位存在の使う力の差異について語ってます。

「うぐわっ」

 凄い勢いで投げ出された俺の体は、石床の上を転がった。

 どうやら元居た神殿の中に戻されたらしい。

 辺りの冷気と暗闇が俺を出迎えてくれたが、石床に叩きつけられて目眩めまいがする。


「いってェ……」

 なにも見えない真の闇の中で、俺は回復魔法を使い、次に灯明の魔法で辺りの闇を振り払う。

 役目を終えたと考えたのか、魔眼はその覚醒した力を閉じてしまっていた。──だが、魔眼が開放した力の扉は、俺の中に残されている。

 魔眼が俺を高次元の力と結びつけてくれた為に、俺の力の届く範囲でなら、高次元の魔法の力を行使できそうだ。

 神にも匹敵する領域に手が届き、俺は魔導の新たなる極致を手にするきっかけを得たのを感じた。



 喜びを胸にしまい、明かりを使って周囲を見回し、例の魔導器を探そうと祭壇の方を見た。

 そこに立っていた石像は崩れ落ちていた。

 祭壇に近づき台座に上がると、台座の端っこに丸い石の塊が落ちていた。

 それは老人の石像の頭部で、かっと目を見開いた好戦的な表情のまま、あらぬ方向を向いていた。

 石像の体は粉々に崩れ落ち、封神器を手にしていた腕も見つからない。


 試しにその石となった男の首を持ち上げ、残留思念を読み取ろうとしたが無駄だった。そこには思念の欠片も残されてはいない。──どうやら封神器を起動した状態のまま、ここに石像として放置されていたらしい。

 だが、その老人の死体(?)に死導者グジャビベムトの力を使ってみると、この老人の素性と、最期の場面を知る事ができた。



 この石と化した老人は、神官かなにかの役職に就いていた者だった。

 ところが彼はどういう訳か、兵士から追われる身となり、この神殿に逃げて来たのだ。複数の信者である兵士らと共に。

 神殿が造られていた理由は不明だが、この老神官が関わっていたのは間違いなさそうだ。


 男はどうやら元々はこの大陸に居た者ではなく、北の海を越えた先にあるキオロス島からやって来た北方人らしかった。

 老人が大陸にやって来た時には、すでに封神器を手にしていた。その魔導器をどうやって手に入れたかは分からなかったが、老人はその封神器の力を使って国王の信頼を得る事に成功したようだ。


 ──だが、それも長続きはしなかったらしい。彼が元居たキオロス島を逃げ出したのと同じように、また逃亡する羽目になり、そして神殿の中で追っ手の魔法使いが放った魔法を浴び、石になってしまったのだ。

 石化の魔法も、魔法使いが持っていたなんらかの魔導器によるものだったらしく、その痕跡を辿る事はできなかった。

 もっと深く探るには、精神世界をもぐるしかなさそうだ。だがそれは、今やるべき事ではない。



 老神官について調べながら祭壇の上をうろうろした挙げ句、やっと封神器を見つけた──が、それは壊れていた。

 銀の装飾部分は折れ、破断し、真ん中にあった宝石は砕け散っていて、石像の破片の中に混じっている。

 これでは拾い集めてもなんにもならない。

 俺は歪んだ銀の装飾品を投げ捨てると、祭壇から下りて部屋を出る事にした。


 思わぬ事態に巻き込まれ、危険な状況に追い立てられてしまったが、なんとか目的は達成した。


 どこまでも続く通路を進みながら、魔神ディス=タシュを調べようとしたが、魔眼を通じても封印された魔神に接触する事はできなかった。

 ディス=タシュの力の一端でも行使できるようになればと考えたのだが、ラウヴァレアシュはそれを許さない構えのようだ。


「ふぅ──」

 吐き出す息が白く凍りつく。

 まあ、魔神ディス=タシュの力を解析したところで、その力を奪えるとは到底思えない。

 過去の影像らしい幻視を見たあとでは、余計にそう思えた。


 あの幻視が本当にあった事なら、魔神ディス=タシュが古代都市の一つを壊滅させたのは間違いない。俺の見たものの中には、大きな城が風の力で破壊されていく姿がはっきりと残っている。

 それに何本もの大きな竜巻を広範囲に生み出していたようだった。あれでは大陸中の国が被害を受けていてもおかしくはない。


 なぜ世界はあのような巨大な竜の襲撃を受けるに至ったのだろうか。

 なぜ魔神は地上に降臨し、あれだけの天災をもたらすに至ったのだろうか。


 せめてその理由を知りたいところだが、それすらもラウヴァレアシュは拒んでいるように感じる。

 大陸に破滅を齎した巨大な竜が、どのようにして封印されたかも気になるが、今はあの巨大な竜に勝利し、命がある事に満足するとしよう。



 それに高次元の魔法領域に接続された事で、俺はその領域を観測し、力を引き出す機会を得た。

 多くの魔導師が望み、その中の数人のみが達し得た魔法の地平に、俺は足を踏み入れた。魔眼という上位存在からの贈り物を得て、初めてその望外の力に触れた。

 それは驚くべき魔法の根源的な力のであり、上位存在のみが行使できるであろう力の到達点だ。


 あれを下界(物質界)で自由自在に使えるとしたら、多くの魔術師が魔神に接触しようとしていたのもうなずける。──だが実際は、それほど強力な力を得られたという報告はないが。

 それでも不可視の、体得不可能と思われた上位世界の、究極の力の一端に触れられるというのなら、探究者である魔術師は、進んで人間をやめるだろう。


 ──そこが俺と、多くの魔術師の違いだった。


 俺は人間としての、矮小わいしょうな存在部分を無くそうとは考えない。

 もちろん獣性など、無意識領域にある太古から続く、人間性とは異なる精神活動に対しては、意思の分割統治を決断し、不毛な欲望に対しては上位支配(高位精神による獣性支配)を徹底させるが。──理性というものは、動物的な意識からの脱却から生まれる──


 そうした人間的な意識にとって危険な獣性すらも、魔術という働きの中では必要になる場合もある。魔術とは本質的に人間性ではなく、性(野生・自然)に関するものから成り立っているからだ。

 生物が生きる拠り所にしている獣性は、人間にとっても立脚する場になる──ならざるを得ない──。たとえそれが不安定な足場であっても。その地平を正して(整地して)耕作したり、建物を建造する事で人間(魔術師)になるのだ。

 下位存在の領域では。


 しかし上位の世界でのそれは、高位魔法領域での人間知性というものは、限定的な意味合いしか持たないようだった。

 高次元にある魔法の世界は限定的(個別的)で、そして無限だった。

 下界から持ち寄った知性は、そこでは大した意味をなさないだろうと思われた。下位世界で魔術や魔法を行使するには重要な知性が、高次元では役に立たない。

 いや、正確に言えば、下位世界の知性など、上位世界の魔法領域ではそのほとんどが通用しないのだ。


 高位の、高次元の魔法領域では、魔法との感覚的接合がおこなわれる。ある意味でそれは知性を越えた、直接的な智との融合であり、物や事を分けている、思考による間接的な智(理解)ではなく、直接に物事の真理に触れる智の獲得だった。


 そこでは想像力は事象として顕現され、想像するものが創造されるものになり得る世界。

 高次元の魔法領域は、下位世界の魔法の行使とは異なり、魔法との一体化にあるようだ。

 物質界で肉体を操るがごとく、高位魔法領域では、魔法を手足を動かすのごとくに操るのだ。

 魔法を自らの体の中に取り込み、それを発するように。


 下位世界で言葉を学び、それを思考の枠組みで組み上げ、言葉を発するように、我々は魔法を知性によって学び、意志をもって行使する。思考力によって難解な術式や呪文を利用し、魔法を行使していた。

 しかし高位世界では魔法を感覚的に駆使し、手足を振るうかのように扱うのだ。それは思考という知性の枠よりも、霊的(神的)な存在としての在り方が、より高い智と結び付いた存在だからこそ可能な、神威の存在(世界)に他ならない。

 それは簡単に説明すれば、自己を魔法と同一化してしまうというものだった。


 下位世界で高次元の魔法を完全な形で行使するのは不可能だったが、それでも強力な魔法を、呪文も魔法陣も必要とせずに振るう事ができた。

 高位魔法領域の力が自在に振るえるとしたら、呪文の無詠唱など比べものにならない。

 念じたものが力として顕現けんげんするなど、それは神の力と言ってしまっていいだろう。

 だがそれをおこなうには、俺の力では不可能だった。──まだ、今の自分の実力では。

 肉体に縛られた俺にとって、魔眼の補助なしに、純粋な高次元の力を振るうのは、まだまだ先になるだろう。


「俺は上位世界の神秘に到達し、魔導師となったと考えていたが、上位世界には遠大な神秘が隠されているようだ」

 高次元の魔法領域は、神々の領域に触れた俺にとっても、新たな神秘だった。今まで魔法は、魔力体を介して上位世界の力の根源から魔法の力を授かり、または借り受けていると思っていたが、それはある意味では下位世界の魔法領域での事だったのだ。


 魔法にもいくつもの次元が存在する。

 魔法の等級を表す位階などではなく、魔法の実体──具現化させる魔法の前段階にある、魔法の根源であるもの──の世界は、上位世界の深奥にある「神の領域」にある力そのものだ。

 我々が「魔法」と呼んでいたものは、その本質的な力の一部に過ぎなかったと言っても過言ではない。


 魔法の領域にはさらなる高次元の魔法領域が広がっていた。そうした領域が存在すると語った魔術師も居たが、それはあくまで仮定の、推測されたものに過ぎなかった。

 神々の域にも匹敵する魔法の真理に迫ろうと欲し、魔眼を求めた探究者も居ただろう。しかし彼らが、その超越的世界の報告をしたという事実は、俺の知る限りではない。

 それも不思議ではなかった。


 あの高次元の魔法。知性ではなく感覚──高次元の精神体による直知──によるものに近いのだ。感覚的知覚は個人の受け取りによって異なる。それと同じで高次元の魔法領域を説明するには、言葉では不十分なのだ。


 神秘の力に関する情報は、言葉で説明できるものではない。それはどちらかと言えば感覚的なものであり、直接的に真理に触れる(理解する)事だった。



 例えるなら高次元の魔法領域と低次元の魔法領域は、光と物体と影の関係に似ている。

 魔術師や魔法使いが扱っていた魔法は、上位存在()が扱う魔法(物体)の影に過ぎないものだった。


 我々は地上(下位世界)に落ちた影(魔法領域の一部)を見て、それを扱おうと試み、下位の世界で模倣した上位存在の力を駆使していたに過ぎない。──まるで子供のままごとのように。

 そう、今まで上位存在の力を借りていたと思っていたもの(魔法)は、実は影に過ぎなかったのだ。それでは本当の力を発現できる訳がない。


 俺は魔神の力を獲得し、魔力の総量が大きくなった事で魔法の威力が上がったのだと思っていたが、実際は、上位世界である魔法領域との接合が為され、魔法の本質的な力を引き出せるようになっていたのだ。


「下位世界で神々が自由に活動できないのには、そうした理由もあるのだろう」

 彼らが本来ある領域の力は、下位世界では抑制される。光体アウゴエイデスがそうであるように、下位世界に交わる事は本質的に負荷を負うのだ。

 今まで様々な魔神やその配下と接触してきたが、彼らの圧倒的な力も実際は、その本来の力の一部に過ぎないものだったのだろう。


 下界のことわりは、上位存在であってもくつがえす事は簡単ではないのかもしれない。

 まあこうした考察も、俺の体験した事からの推論に過ぎず、神々の領域の事柄を俺は、まだ厳密には知り得ていない(直知していない)のだ。

「高次元にある魔法の世界は限定的(個別的)で、そして無限」

力のあるものなら自由に同質の力に干渉し得るが、それは個別的であると同時に、他の存在にも共有される。個体の力として個別的だが、それは秘匿される訳ではない。同じ水準の力を持つものなら、その力を扱う事は可能。

要は下位世界の知性とは根本的に違う「知性」を持っているのが上位存在だという事。


「想像力は事象として顕現され」

もちろんここで言う「想像力」は下位世界のそれとは違い、上位世界の理内での想像力の事。人間の想像力とは根本から違う。

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