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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十四章 魔術師の陰謀

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キオロス島の歴史や魔術

 再び寝台ベッドに横になると精神世界への門を開いて、キオロス島に関係する情報を探ろうと闇の世界を飛翔する。

 まずはユフレスクの研究者がなんらかの書物を出していないか探したが、キオロス島にジギンネイス国が侵略した事に関する報告書みたいな物しか見つけられなかった。

 そこに載っている地図も信用のならない物らしく、主に島の南側について描かれているだけの物だった。


 島の南側に人が多く住み、島の北側には山脈や氷河があるのだ。そこには凍てついた大地だけではなく、植物の生える環境もあるのだとか。雪に覆われた山脈のどこかに巨人が住んでいるとされているが、キオロス島の住人でも巨人を見たという人は少ないらしい。

 そうした事が報告書の一部に記載されていた。


(どうやらジギンネイスはキオロス島の人々を、南方人と同じように奴隷として使いたいらしい)


 報告書には軍のおこなった事柄が客観的に記されていた。

 ジギンネイスは武装や兵士の数でまさっていたが、冬季が近づくと兵士のみならず馬も役には立たず、苦戦をいられているようだ。

 キオロス島の戦士たちは奇襲や夜襲によってジギンネイス軍を揺さぶり、寒さに慣れた彼らの屈強な軍馬を使った攻撃や、時には手懐てなずけた雪狼を戦場に投入するなど、キオロス島ならではの戦い方で大軍の侵攻を食い止めているのだ。


(おっと、神話や伝承についてなにかないかな)


 なにより巨人の伝承が俺の中では色濃いものがある。──しかもその巨人に関係した幽鬼兵が俺の手の中にあるのだ。

 その糸を手繰たぐりつつ、キオロス島の神話や魔術に関連するものを求めて活動を続ける。


 魔術に関わるものの多くは精神世界の深い階層、もしくは逆に高い階層にあると思われる。──実際に上下の関係性があるというのではなく、精神の領域にある危険なゆがみや穴(うろ)。それらを避ける形で存在する領域があるという事だ。

 この歪みは巨大な蛇の胴体や竜巻の様にあらゆる方向に移動し、うねり、絡み合い、形を変えているのである。

 その歪みを越えた先にある領域の異なる闇。

 それらが階層を思わせるのだ。


 周囲に満ちる闇が記憶の光を受けて彩る色彩も、ただの黒ではないように見える事もある。

 そうした領域を探して飛翔していると、歪みのそばを通過した。──影や罠が待ち構えている可能性が高い場所──そこを警戒しながら通り過ぎ、キオロス島の魔術に関係する光を見つけ出した。


(おっ、こんなに簡単に見つかるとは)


 警戒しつつ、意気揚々(いきようよう)とその光に近づいて行く。

 それはキオロス島の海と魔術的儀式に関する情報。──これは低級の、卑属な儀式に関するものだった。言わば一般人が魔術とは知らずにおこなっているような祈りの儀式。

 元々は海上での安全を祈願し、豊漁を授かる為に漁師が漁業で生活する市民にわれ、多くの魔術師が海の女神に対して豊漁を願う祝詞のりとであったもののようだ。

 今ではその祝詞自体がすたれ、唱えられなくなったようだが。


(与えられる事に慣れ過ぎると人は感謝を忘れ、軽々しく恩義をも忘れるのだな)


 この儀式の変遷へんせんを辿る経路パスが残っていたので調べてみると──、この祈りの儀式はかなり本格的な魔術だった事が理解できた。ただそれだけに、素人には儀式の複雑さや、そなえ物に対する理解が得られなくなっていったのだ。

 つまり年代を重ねるごとに儀式は縮小、簡略化されていった。

 祝詞もかなり内容が変わり、しかも最初は古代語で唱えられていた祝詞も、現代語に変わっていったのだ。


 かろうじて海の女神をまつほこらは残されているようだが、港町のいくつかで儀式の名残が残されているような状態であるらしい。

 かなり高度な儀式様式を、魔術の指揮者なしに存続させるのは不可能だったようだ。


 六、七人の魔術師は請われて儀式を作ったはいいが、それを維持させるのは民衆たちの努力しだいだと教えたはず。

 魔術師にとっては必要のない儀式だったのだ。

 要は漁師や漁業で生活する人たちが心変わりした結果、この儀式は廃れていったのである。──代わりに簡単な、女神を讃える祭を開く事で済ませてしまうほどに。


(年に一度の魔術儀式の実行もできないのか)


 俺は市民の怠惰な姿勢に呆れ、ともかく知り得るだけの情報をそこから引き出すと、記憶の光から離れて行った。


 キオロス島の魔術師について、彼らの存在を追跡する事はできなかった──防衛魔術による接触や解析を阻止する力が働く──が、市民の中には他にもいくつか魔術的な暗示や、生活に必要とされる事象への干渉を目的とした魔術や呪術が浸透していたようだ。

 それらはかなり古い形式の魔術であり、洗練され、多少は簡略化された近代の魔術形式とは異なるものだった。

 どうやら近代になってもキオロス島の市民が関わる魔術的な力は、古い時代のものがそのまま現在でも残っているか、あるいはそもそも魔術師が民衆との関わりを捨てたらしく、新しい形式の魔術や魔法といったものが浸透していない様子だ。



 ──だが、奇妙な反応を発見した。



 それは魔術の中の一つだが、あまりに複雑な技術を要する、高い次元の魔術の痕跡が残されていた。


(むっ、これは──。精霊界との接点を持つ魔術か?)


 それは市民の間で生活する魔術師崩れのような、遠大な理想や意志を持たずにただ魔術を生活の為に使っているような、下位の魔術師が集まって生み出されたもののようだ。


 それは凍てつく力に満ちた極北の世界の精霊に干渉する高度な魔術。

 氷と氷雪と吹雪の悪霊を鎮める儀式であったり、寒さの中でも作物が育つよう精霊に嘆願し、その力を当てにする魔術のようだ。


 キオロス島の一部の住人は、こうした精霊に関係する魔術を行使し、なんとか凍害などを弱めようと試行錯誤してきたらしい。──中にはあまり効果のないものもあっただろう。


 川の水が凍りつき、井戸すらも凍ってしまうような事もあったらしい。彼らはなんとか水や氷の精霊といった、周囲の環境に適応する力の根源に呼びかけ、冷気の被害を収めようと試みてきた歴史があるのだ。

 現在でも一部の部族の中では、こうした精霊に干渉する魔術がおこなわれているらしい。


 キオロス島にはいくつかの部族集団があり、今なお南側に定住している民衆と違って、島の中央部の平地から山脈の近くを移動して生活する遊牧民に似た、狩猟民族が居るようだ。

 過酷な自然環境の中で生活する狩猟民族の間では、氷の精霊は死の使いともされているようで、おそれ敬われているのが理解できた。

 もちろん彼らの生活圏内に氷の精霊が具現化して現れている訳ではないだろうが。


 ──と、思ったが。どうやら北にある雪と氷に閉ざされた山々には、氷の精霊が存在しているらしい。

 それも氷の精霊だけでなく、氷の魔精霊も山の近くで度々(たびたび)目撃されるようだ。──キオロス島の山岳地では巨人だけでなく、そうした精霊との接触にも注意を払わなければならないのか。


 もしこれらの情報が人伝ひとづてに聞いた話だったら、たぶん眉唾物の話として聞き流してしまっただろう。巨人だけでなく精霊まで闊歩かっぽしているなど、大陸ではそうそうない事だ。

 しかもこの極北の地に存在するという巨人は森巨人などと違って、人間に近い姿形をしているという。

 どこかに巨人に関わる人の記憶があるかもしれないが、今回の探索では見つけられなかった。



 精霊との交信を基礎とした魔術の広まり以外にも、この島には大陸とは違った系統の魔術があるようだ。──しかもその中には、なにやら危険な種類の、邪悪な力に関係する魔術が含まれているのを予感させるものがあった。


 この島で古くから伝わる伝承。そこに残っている邪悪な魔法使いの話。


 それは地域によって内容が異なるようだが、その魔法使いないし魔術師に対する恐怖や怒りがあり。キオロス島に暮らす多くの人々を巻き込んだ争いが起こったのは間違いない。


 ファナルーンという部族がかつて、キオロス島を征服しようとしたらしい。

 この部族の族長は怪しい力を使い、他の部族を支配して領土を広げていったという。

 この族長は妖術師と呼ばれたり、魔女ともされているようだった。──いくつもの伝承の共通点を照らし合わせると、女性の妖術師という線が濃厚だった──

 元々は巫女だったとする伝承もあり、なんらかの神と交信するような存在だったと推測された。


 この妖術師を中心とした勢力は支配域を拡大していったが、それに対して危機感を覚えた各部族が一致団結し、このファナルーンという一大勢力に対し立ち向かったのだ。


 彼らはなんとかこの妖術師を倒し、その一族を島の南側から追いやる事ができたようだが──その後の行方は曖昧あいまいで、正確な情報は手に入らなかった。現在でもその一族が生き残っているかもしれない。

 最近では南側に定住する民衆はこの伝承の魔法使いよりも、海の向こうからやって来る侵略者に対して警戒する想いが強くなっているが、それでもこの伝説的な魔法使いへの恐怖は色濃く残っているようだ。

 なにしろこの魔法使いは妖術とも言える術を使い、殺害した人々を不死者へと変えて自軍の兵士に加えていたというのだ。


(冥界の力を行使する術者だったのか──?)


 どの程度死を操る力を持った存在だったかは定かではないが、かなり高度な技術を持つ術師だったのは間違いないだろう。

 殺した敵兵を蘇らせる力──

 その力について考えていると、魔神ラウヴァレアシュの事を思い出した。

 あの神が千年も前に、ある魔術師に与えた力。

 生けにえを捧げ、自らを死霊へと変えた力。

 死霊の王となった術者は攻めてくる敵を不死者へと変え、自らの勢力へと取り込んで反撃したという。


 まさかラウヴァレアシュが……?

 いや──そうとは限るまい。

 冥界のことわりに触れる技術は高度なものであり、並みの術者には到底扱えるものではないが、魔神の協力以外でもそうした死の力を行使する術を手にする機会はあるはずだ。──可能性は限りなくゼロに近いが──


(まさか──)


 まさか、死導者グジャビベムトの力を行使する術者だったのだろうか? だが、それを調べるすべはない。

 このキオロス島に居た魔法使いに関する情報は、民間に伝わっている話以外には探せそうにない。

 運良く精神世界でファナルーンという部族の人間の精神と接触できれば、可能性はあるかもしれないが。


 だが現状ではこれ以上調査をしても、言い伝え以上のものは知り得る機会はなさそうだ。

 俺はもう一度、極北の地にある寒冷地特有の魔法などについて探る事にした。

 北の局地に住む魔術師が残した魔術なり、魔法なりを求めて精神世界を探ってみたが、凍結を退ける魔術や、雪を使って構造物を造り出す魔法などの、北の地でしか使えないようなものばかりを得る事しかできなかった。


(どうやら内陸に住む民族ほど、古い形式の魔術をそのまま継承しているらしい)


 雪の柱や壁を造る魔法は、吹雪を避けるのに使ったり、白銀の世界の中で身を隠すのに適してはいるが、初めから雪がある状況でのみ使える魔法な為、実用的ではないだろう。

 たぶん雪の中を移動する狩猟民族の間で使われていた魔法なのだ。

 術者の技量によるが、かなり細かな建造物が造れそうだ。雪を硬く固めたり、氷塊に変える力もある。


(ツェルエルヴァールムにもらった水質変化の魔法に近いかな)


 そんな事を思いつつ、精神世界を離れる事にした。

年に一度の魔術儀式とは簡単に言えば「お祭り」の事。ただ儀式としての地味な繰り返しの動作があったり、長い沈黙を必要とするなどの制約がある。祭儀によっては「火を絶やさない」とかいうものもありますが、海の神への祈りの儀式なので火は使わないでしょう。

内陸に住む人は魔術がないと命も生活もままならない所為か、難しい儀式も継続している民族が多い。


妖術師については外伝とも言える『蛇は卵を呑む』でも触れています。

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