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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十三章 故郷の立て直しと交易路

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忍び寄る気配

 夕方前に会談が終わった為、それぞれの国の情報を交換し合うような談話が始められた。

 食堂から場所を移し、広い応接間で長椅子に腰かけたりしながら、官僚同士が胸襟きょうきんを開いて話し合っているのを尻目に、俺とケディンは十年分の空白期間について話し合った。──その内容は漠然とした世間話のようなものから、各国で起きた権力闘争や権謀術数についての話にまで及んだ。


 傭兵団「雷鉄狼イグラス・グラウ」の活動は俺が彼らと別れたあとも、かなり幅広くおこなっていたらしい。

 ベグレザのみならず、各地を渡り歩き、いくつかの紛争や魔物との戦いに明け暮れていたようだ。

「領主同士の紛争はどの国でも頻繁に起こるからな。その情報を速やかに得て、どちらに加わるか。──一時的な利益だけでなく、その後の関係についても考慮しつつ判断しないといけない」

 長い付き合いになる場合もあり、領主が好戦的な場合は用心が必要で、傭兵団を駒の一つとして考えるようになると、紛争という範疇はんちゅうでは収まらないような戦いにも投入させられる危険が増すのだ、とケディンは言う。

 頼もしい傭兵団を、自分の武力の一つと勘違いするような領主は危険だという事だろう。


 場合によっては領主が抱える私兵たちと、険悪な関係になる事もあったと言う。

 金で武力も勝利も買えると思っているような者は、戦争で失われる命も平和もなにもかもが、紙の様に薄っぺらい想像力のもとで単純化されてしまうようだ。


「こういった領主に仕える私兵も民衆も、大抵は領主に不満を持っているものだ」

 そうした人々から得られる情報を集めて、どちらの側につくかを考えるのも団長の務めだったと語る。

 領主同士の紛争では勝利よりも、無駄死にしない事を彼は重んじているのだ。

 なにしろ金で雇われただけなのであるから。もちろん戦いになれば全力で敗北を回避する戦いをするが。時には戦略的撤退をして、領主に完全な敗北の前に和睦を勧める事もあったらしい。

「要は勝利でも敗北でも、完全にどちらかが損なわれるような戦いをしない事だ。──戦闘の長期化で無駄に大勢を巻き込むような戦いの推移を避け、民間への配慮も計らう。こうした事も優れた傭兵団と、領主の務めの一つでもある」

 その言葉には、領主との信頼関係を築き上げる事も重要だ、という含みがある。



 ケディンから団長としての貴重な話を聞いていると、迎賓館に誰かがやって来た。

 ベグレザの文官が対応したようだが、なにやら部屋の外が騒がしくなってきた。

「……なにかあったようだな」

 応接室に人が入って来た。

 それはこの場に似つかわしくない、薄汚れた格好の中年男であったが、その体はそこそこ鍛えられており、ただの町人ではなさそうだ。


「ケディン様──、失礼を」

「どうした」

 どうやらケディンの知り合いであるらしい。

 汚れた衣服はまるで戦禍を受けたみたいに、服の一部が切り裂かれていた。

 ズボンのすり切れた感じは馬を駆って、森の中を突っ切って来たように見える。

 男の話を聞いたケディンの表情は、みるみる険しいものになっていった。

 その表情は領主としての顔だろうか、俺には傭兵団の団長に戻ったかのように思えていた。その顔には戦いへの衝動が隠れている。──そんな気がしていた。



「レギ。私に力を貸してくれないか」

 話を終えたケディンが離れた場所から声をかけてきたので、応接室に居る皆に聞こえた。

「なにかあったんですか」

 俺は長椅子から腰を浮かせ、ケディンと部屋に入って来た男のそばに近寄る。


「私が治める領地の村が、小鬼ゴブリンの群れに襲われたらしい。──幸い前日に、小鬼の斥候せっこうの動きに狩人が気づき、村人たちは村を捨ててペギゥルの街に逃げ込んだようだ」

 ペギゥルというのが、現在ケディンが暮らしている街であり、バクシルム領の中でも東側にある街の一つで、山脈に近い位置にあるそうだ。

「アプトゥム村は山脈のすぐそばにあり、交易路を通す山間部にもっとも近い村落だ。……そこに小鬼どもが集結しているとは」

 彼はそう嘆くと「山に棲む小鬼は駆除したのに」という呟きを漏らす。


 離れた場所から集まって来たのか、なにやら作為的なものを感じるが……たぶん、気の所為せいだろう。


「どうしますか、ペギゥルで防衛戦を張りますか? それともアプトゥム村まで出向いて、こちらから仕掛けますか?」

「協力してくれるか」

「もちろん」

 俺は即答する。

 俺の返答に老いた元団長は静かに、感謝の言葉を口にした。

「よし、ではさっそくペギゥルに向かおう」

 このしらせをもたらしてくれた男はこの街で一休みさせ、すぐにでも準備をして出立する事になった。




「レギ殿」

 話を遠巻きに聞いていたベゼルマンが声をかけてきた。

「すまないがここでお別れだな。俺はケディン団──領主ケディンと共に、小鬼狩りに行く」

「そうですか……、どうかご無事で」

「小鬼の群れに敗北するようなら、俺は今ここには居ないよ」

 そう告げて文官と簡単な別れの挨拶を済ませる。



 迎賓館らしき館を出る前に、俺はケディンに土産として持って来ていた葡萄酒ワインを渡し、一緒に彼の乗って来た馬車に乗り込んだ。

「この葡萄酒は、奴らを蹴散らしたあとの祝勝会で開けるとしよう」

「小鬼の群れごとき、俺とあなただけで十分でしょう。祝勝会を挙げるほどでもありませんよ」

「それもそうだ」

 馬車が動き出す。

 武装した護衛の騎馬が四騎、馬車の前方に分かれて移動を始める。


 空は晴れ、白い雲が南東に向かって流れてゆくのが見える。山脈に沿って流れる雲を追うように、街道を走る馬車。

 ペギゥルの街に向かうまでの間ケディンから街を守る兵士の数を聞き、街の防衛は万全だと理解した。

 それになにより、バクシルム領を守る私兵たちは、領主のケディンの手解きを受けた者たちなのだ。

 それぞれが通常の兵士よりも高い戦闘能力と、優れた戦術性を持っていると推測できる。

 優れた武人であると同時に、戦略家でもあったケディン。彼は自分の領土を守る為にとりでの建設や、兵士の育成所を設けて、領地の安全を確保するあらゆる手段を講じたと話す。


「亜人や魔物の群れくらいなら問題ないはずだが」

 彼は焦ってはいないようだが、小鬼がどこから現れたのかについて、地形的な判断から推測しようとしていた。

 小鬼の斥候がアプトゥム村周辺を偵察に来たのは、山脈から続く森を出た場所で、もしかするとエンシア側から移動して来た群れかもしれない、と考えているようだ。

 亜人も魔物や魔獣との勢力争いに負けて、住処すみかを移す事はままある。──しかしその場合、あまり大きな集団である事は少ないはずだった。

 戦わずして逃げ出すほど小鬼などの亜人は、知恵が働く訳でもない。

 一戦交えて被害が出てから、群れの長が逃げるという選択をするのだ。

 せいぜい数で敵の勢力を判断するのが関の山で、優れた戦士と凡庸な戦士の区別がつくような個体は少ないだろう。──それが亜人の知性の限界だった。


 その点、俺やケディンは、多対一の戦闘でも優位に戦えるような技術をいくつも持っている。周囲を敵に囲まれても、圧倒的な力と技術で反撃し、勝利する手段がある。

 相手の数が百を超えるようなら危険だが、数十の小鬼なら、俺とケディンだけでも十分に渡り合えるだろう。

 老いて現役を退いたとはいえ、戦士である事に限界を感じていた訳ではないケディンは、今でも剣の稽古を欠かした事はないはずだ。──体を見れば分かる。


「まったく、小鬼や犬悪鬼どもは、駆除しても駆除しても湧いて出て来る──害虫みたいなものだ」

 ケディンはそう悪態をき、ペギゥルには夕日が空を赤く染める頃に着くだろうと言い、それまで眠ると言って目を閉じた。

 こちらもどうせなら魔術領域で、小鬼狩りに特化した攻撃魔法などを準備しようといくつか確認してみる。


 呪文の詠唱なしに魔法を使うよう設定する数も、かなり増やす事ができた。

 魔神の結晶を取り込んでからというもの、魔法に関する技術は以前とは比べものにならないくらい自由になったと感じる。

 無詠唱で魔法による反撃ができると戦略の幅が変わる。──威力が落ちても、相手が亜人や人間ならなんの問題もない。


 試しに魔術領域の訓練場で、小鬼の群れを相手に戦闘を繰り返してみた。

 剣での攻撃から魔法の攻撃を繋げ、飛びかかって来る小鬼を撃破する──

 剣と魔法を自由自在に使って戦う。

 一度に二十体の小鬼と戦う訓練を重ねたが、傷を負うような場面はなかった。多くの小鬼を一撃で倒し、敵の攻撃を足を使って回避した。魔晶盾アコラスを使って攻撃を弾いたのはたったの一回だった。

 剣で攻撃を受け流すような事もほとんどなく、正確な攻撃と反撃、この二つだけで十分に戦えた。

 小鬼の統制の取れていない単調な攻撃を見切るのは、戦い慣れた戦士にとっては簡単なものだ。

 剣だけでも十分に勝利する事は可能だった。

「もう小鬼相手の訓練は十分だろう」



 空いた時間で修得した語学の知識についてまとめていると、そういえば『出奔しゅっぽん記』発見したあの街──、魔法で隠された廃墟の街は、名前すら分からないままだった。

 あの街について精神領域を探ろうと考えた。

 簡単に探り出せるものではないと思いつつ、光体アウゴエイデスの力も使い、関連する記録はないかと広範囲の探索を開始する。

 この精神領域を高位の領域から視野を広げて覗き見るように──

 魔法による隠蔽もしていたあの街の事柄を探るのだ。精神領域でも同じような力で守られているに違いない。


 そうした防壁を突破するのに、光体のような別次元からの視野があると、発見しやすいのだ。──ただ、光体を低次元に(間接的にとはいえ)干渉させるので、慎重に取り扱わないと、光体の力自体が失われる可能性もある。

 魔力や精神力も消耗するので、迅速な活動が必要だった。


 あの街に関連する反応を求めていると、割とあっさりと見つける事ができた。──やはり光体を手に入れた事で、微細なものにも探知力が反応できるようになったようだ。

 それに長距離(「距離」というのは正確な表現ではないかもしれない)を移動するのも楽になったと感じる。

 ただやはり、あの街に居た魔導師が、街に関連する情報を破壊していたのが明らかになった。過去の記憶に関連する情報が破損し、失われているのだ。


(いったいなにを隠そうとしているのか分からないが)


 だが──発見した記憶の断片の中には、街の権力者らしい者たち数名が会議を開いているような場面が残っていた。

 そこでこの街が「ビラム」と呼ばれている事を知った。


 ビラム、という言葉には、いくつかの意味が隠されているようだ。

 ──古代の事にそこまで詳しいとは言えないので、もしかしたら間違っているかもしれないが。


「ヒラム」というのは「聖なる山」を意味する古代語で、実際にそうした山があったと考えられている。

 そこに神の使者が降り立った──という話があったとか、なかったとか。


「ビレム」という古代語もある。

 地下の宝物庫を意味するらしく、秘匿された宝などに関係する言葉だ。


 この二つの言葉を組み合わせて作ったと思われる街の名。

 ビラムを建設する場所まで逃げて来た三つの貴族。

 彼らには国を捨ててまで残したい「宝物」でも持っていたのだろうか……

小鬼の群れを討伐する事になるレギ。そこには奇妙な因縁が待ち構えていて──


魔法で隠されていた街に関しての情報を探るレギ。

この話がどういった意味を持つかは……まだまだ秘密。

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