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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十章 海を越えた先での死との邂逅

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魔精偽神

 俺が近づいているのを感じたのだろう。巨大な身体を持つ化け物が上体を起こした。

 女の上半身を持ち、竜の下半身をした異形の怪物──あるいは「神」

 長い髪は赤く光を放ち、ときおり火を流れる光が浮かび上がり、まるで血管のように赤紫色に広がっていく。

 目元は美しい顔立ちをしているが、口には牙がずらりと並び、あんぐりと開いた口腔が不気味な光を放ち出す。


「おいっ……! いきなりか!」

 開いた口から一直線に光り輝く熱線を撃ち出してきた。

 灼熱の力を持った赤い光を、火蛇戦士が盾で受け止める。大きな盾は熱量をある程度は吸収しているようだが、膨大な熱量のすべてを受けきってはくれないらしい。

 俺も魔法反射でそれを弾いたが、横にらすのが精一杯で、焼けつく熱波が障壁なども超えて伝わっている。火神の加護が働き、火傷は負わずに済んだが──防御するのも危険だ。


 すると風の選定者が、俺や火蛇戦士にも魔法の守りを掛けて、熱波から守ろうとしてくれる。

「いくぞっ」

 俺は火蛇戦士に突撃を命じ、魔精偽神へ接近する。

 離れていても、熱線の標的にされるだけだ。

 巨大な化け物に猛然と突っ込んで行くと、背中の光る輪から炎の矢が何十、何百と放たれる。

 まるで雨のように降り注ぐ火の矢を弾きながら、二体の精霊と共に近寄って行く。


 女の上半身をもった魔精偽神が腕を振り上げた。巨人の手が振り下ろされ、地面に叩きつけられる。

 それを横に跳んでかわし、手首を斬りつけた。

「「アァアァァ────ッ」」

 高音と低音が重なって響く奇妙な音が、その口から漏れた。いびつな楽器が狂想曲をかなでるつもりでいるみたいに。

 魔剣の刃で傷を負った腕が持ち上げられ、再び地面を叩いたが、奴はこちらを見てはいない。

 風の力をまとう精霊が前に出て、衝撃を撃ち込む魔法の弾丸を何度も放ち、偽神の胴体や頭部を攻撃した。


「────『氷槍』!」

 火蛇戦士の陰で呪文を詠唱し、三本の大きな氷の槍を投げつける。肋骨の間に突き刺さった二本の氷の槍。

「「オオォアァアァッ」」

 耳障りな悲鳴を響かせる巨人竜。

 火蛇戦士が手にした槍で足に突きかかる。

 鋭い一撃でうろこを貫き、傷をつける蛇の戦士。

 巨人が足を踏み出して攻撃しようとした動きを読み、横に躱すと同時に連続突きを足首に繰り出す。

 幸いというべきか、こいつの動きは緩慢かんまんで、攻撃を予測するのは難しくはなかった。


 ぐるりと腕をぎ払って攻撃してくる。それを察知した俺はふところに入り込んで攻撃を躱したが、火蛇戦士が吹き飛ばされてしまう。

 前のめりになった胴体に向かって剣を斬り上げ、胸元に斬撃を三度、斬りつけた。

「「ヴォォオオァアァゥゥッ」」

 素早く後方に下がり、足の踏みつけを避ける。

 火の盾を構える戦士が俺に駆け寄り、上から降り注ぐ火炎放射みたいな攻撃を、大きな盾で防いだ。


 腕の根本、わきあたりを狙って業魔斬を放つ。連続で二発の大きな斬撃。それが二の腕や関節部分に直撃し、爆発した。

「「ゴゥアァアァァッ」」

 この領域は精気や魔素が偽神に吸い上げられているようだが、魔素は充分に存在している。

 業魔斬の直撃を浴びた巨大な化け物が、身体を横に傾けた。

(効いてる!)

 さらに追撃を考えていると、背中の光輪が赤い輝きを放ち出す。

 強い光が頭上に広がり、身体を照らし出す。俺の足下に濃い影が形作られる。


「なんだっ……まさか!」

 二体の精霊が俺の前に飛び勢いで戻ると、盾や防御障壁を張って俺を守ろうとする。

 灼熱の衝撃波が魔精偽神の身体から放射され、周囲の物を吹き飛ばす。

 俺も魔晶盾を使って身を守ったが、激しく吹き飛ばされ、地面を転がった。

 二体の精霊守護者も傷つき、膝を折っている。

「下がれッ」

 俺は岩の手前に転がり、岩陰に隠れながら精霊たちを呼び戻した。


 こうなれば、やはり切り札を使うしかない。

 今の戦いの中で解析をおこなっていたのだ。

 背中の光輪。あれは上空にある深淵しんえんに力を送っていると同時に、あの穴から力を引き出しているらしい。あのうつろな穴がなんなのかは不明だが、あの光輪をなんとかしなければならない。

 奴はぐるりと向きを変え、こちらに顔を向けると、口から真っ赤な炎を吐き出してきた。

 岩の後ろで盾を構えて俺を守る火蛇戦士。風の選定者も風の防壁を展開して炎を退しりぞける。


 俺は水晶を取り出すと、それを使って呪文を唱える。

「ガデル、アシュゼァム、セグラート、ベレグレァ、シジーグ、凍気の帝政、時をも閉ざし、滅びを謳え、青き破壊の獣、ザリエラの城門を守る獣、氷河の息吹を放て『氷獣エヴェキラス』!」

 魔力と魔法の術式を封入した水晶が砕け散り、青い光が放たれる。

 灼熱の大地に冷気が集中し、巨大な青い氷のかたまりが出現した。

「ゴアァアァァッ!」

 氷の身体を持つ巨獣は頭部から前方に突き出した角を持ち、その四肢ししは太く大きく、鋭く尖った爪を有した足が地面を踏み締めている。

 周囲に冷気を放つ氷の獣は体長八メートルほどで、大きさとしては火の魔精偽神の半分ほどだった。

 しかしその動きは速く、口から炎を噴き出す攻撃をひらりと躱すと、その巨体を軽々と跳躍ちょうやくさせ、巨人女の頭部を激しく殴りつける。


「いいぞ!」

 かなり重い一撃を受け、よろよろと後退する偽神。

「ヴォオォオォッッ!」

 咆哮ほうこうを上げ、口から激しい冷気を吐き出して攻撃する氷獣。

 その間に横から魔精偽神の背中の光輪を観察していると、火を噴き上げている背中になにかあり、それが光輪を発生させているらしい。背中には大きな水晶の柱があるのに気づいた。

「あれか」

 この化け物は精気や魔素を取り込み、上空の穴に送り込んでいる。そしてその上空から魔力や霊的な力を循環させているのだ。

 理由は分からないが、光輪で上空の深淵と結び付いている。あの光の輪が深淵という形をした、魔術領域を展開しているのだろう。


「ドゴォオンッ」

 二撃目の攻撃が偽神の顔面を捉え、氷獣は頭を押さえつけて、腕に食らいついた。

「そのまま押さえていろ!」

 氷獣に呼びかけながら、いつくばる魔精偽神の腕を駆け上がり、背中へと上って行く。

 大きな背中の肩甲骨の間あたりに、黒い水晶の柱が突き出ている。

 その水晶の周辺は、異質な力があふれていた。黒い水晶は危険で邪悪な力に満ちている。 黒い輝きの中に様々な色が、めらめらとほのおのように揺らめいて見える。


「あつっ……!」

 火神の加護はあるのに、その黒い水晶からは──異様な熱を感じるのだ。

(この熱は……物理現象じゃない。──魔術的、霊的な干渉から、熱さを感じさせているのか⁉)

 霊的領域から侵蝕してくる力。

 躊躇ためらってはいられない。魔精偽神を押さえ込んでいる氷獣がうなり声をあげた。

 俺は魔剣で黒い水晶を斬りつける。何度も、何度も。


「「ゴォオァアァアアアァッ‼」」

 水晶はやはり、物質的な形を形成している訳ではなかった。斬りつけるたびに、赤紫色の火花が散る。

「ギシィィンッ、ギィヴィイィィンッ」

 斬ると奇妙な音と共に、熱波と衝撃波を吐き出す黒い水晶。その霊的な刃が俺の霊体を傷つけ、その反響が肉体に傷を作っていく。

「ぐぅうぁあぁぁっ‼」

 振りかぶった魔剣に魔素を集中させ、振り下ろすと業魔斬を放ち、爆発で水晶の柱を打ち砕いた。


「「ギィャァァアァッ!」」

 荒ぶる偽神が地面を打ち、勢いよく起き上がる。

「うぉあぁっ!」

 投げ出された俺は、かなりの高さまで放り上げられ、地面に落下する。

(叩きつけられるっ……!)

 体中の痛みを感じながら、地面すれすれで受け身を取ろうかと考えていると、落下地点の近くに風の選定者が近づき、風の魔法を浴びせてきて、落下を食い止めてくれた。

「たすかった……」

 無事に地上に着地した俺は、上空にあった深淵を見上げる。

 光輪はひび割れて砕け散っていく。

 しかし上空の穴は小さくなったが、消える事なくそこにあった。炎や煙を吸い込みながら、ゴロゴロと雷鳴に似た音を響かせる。




 気脈の力を吸収していた光輪が消え、その巨大な身体から力が抜けて、いくぶん縮んだように見える魔精偽神。

 氷獣をふりほどいた女巨人の口元が一瞬、まぶしい光を放った。口から熱線を照射したのだ。

 しかし、その威力はだいぶ弱くなった感じだ。

 しかも光線は短く、まばらな光弾が飛び、地面にぶつかり爆発する。口からは瓦斯ガスが噴出するような音が漏れ、青と橙色の炎が揺らめく。


「ヴォァアァォオァアッ!」

 今の攻撃で片腕を落とされた氷獣が咆哮する。

 肩口が溶け、身体の一部をじゅうじゅうと融解させながら、片腕で殴りかかった。

 反撃して拳を叩きつける女巨人。

 二つの巨大な獣が殴り合い、辺りに凄まじい衝撃音が鳴り響く。

 火を吐きかけ、吹雪のような風を吹きつけ合う。


「「ォオァアァァッ!」」

 氷獣の腕を掴むと手首を粉砕し、地面に叩きつける。

「「ォオォオオォンンッ──」」

 不気味な勝利の雄叫びのようなものをあげながら、上空を見上げる魔精偽神。傷ついた竜の足で地面を踏み鳴らし、両腕を広げて深淵から力を吸収している。

 光輪を無くしたのに上空の穴は閉じない。

 霊体を傷つけられて負った傷が、火傷のごとくうずく。


「くそったれ……こうなったら……!」

 俺は()()()()()()()()を切る覚悟を決めた。

 まだ魔力は残っている──はずだ。強大な力を行使する魔法……使った事は一度もないが。

 俺が魔法への集中をおこなおうとした時、手首を砕かれた氷獣が肘で地面を押し、上半身を下から上に突き上げた。


「「ヴォァアァァアァァ──ッ!」」

 氷獣の尖った角が、女の胸元を串刺しにし、青黒い光を噴き出させる。

 両腕を振り上げ、指を絡ませて握り締めると、その拳槌けんついを振り下ろし、氷獣の腰を叩き折った。

 氷獣の頭部を払い落としたが──しかし、心臓部を貫いた氷の角は残り、巨人竜を苦しめている。

 傷口からあふれ出る青黒い光が霧散し、煙のようになって空に上っていく。──しかし、まだこの化け物は消滅しないらしい。

 その時、地面が揺れ動いた。


「ゴァッゴゴゴゴゴォオッ」

 地面が崩れ、盛り上がり、地下からなにかが地面を突き破って現れた。

 それは茶色い──大きな木の根。

 それは大蛇のように動き、魔精偽神に襲いかかった。

不気味な姿の「偽りの神」

次話決着!


背中の黒い水晶(っぽい物)は呪いの塊みたいな物でしょうか。

霊的な領域から呪術的な力で反撃するので、魔法の盾などでは防げない(霊的領域に対応した魔術で防ぐ)のです。呪術的防壁を用意する時間はないので、レギはダメージを負う覚悟をして水晶を破壊する事を選んでいます。

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