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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第十章 海を越えた先での死との邂逅

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神殺しと魔神の魂

 神霊領域に入ると、影の倉庫にしまったくわすきを取り出し、岩の上に置いた。

 畑を作る時に利用するのだが──今はそれどころではない。


 まずはネブロムの結晶体を解析し、その力を自分の力に組み込めないかを探る。魔力の器と似たものとして使えているが、その中に入っている神々の記憶や魔法を読み取ろうとすると、やはり妨害が入る。

 神々が人間の魂に仕掛けた、上位存在に関わる事柄との接触を退ける障壁──あるいは断絶。

「くそっ……神殺しで奪ったものにも影響するのか」

 ネブロムがあらかじめ渡そうとしていた、いくつかの力については入手できたが、高位の力はいまだに障壁で封じられている。


 それでも解析を通じて障壁を部分的に無力化し、その結晶体──魔神結晶──から習得できるいくつかの力を読み出し、それを「魔法」として自分の魔術領域に組み込む作業に入った。

 光体アウゴエイデスを持たない俺には、扱えないものも多かった。

 ネブロムの持っていた高位の魔法になると、生身の状態ではそのまま使うのは難しい。複雑な術式と呪文を使用しなければならず、実践的ではなかった(魔術領域に組み込めば、いちおう使用できる)。


 ネブロムの魔神結晶は俺の魔力と接続された、別領域(別次元)にある魔力の器として取り込む事ができた。その際、今まで魔物や邪神から手に入れた、魔晶石などを純化して作った魔力の器も取り込んで、一つの大きな魔力の根源とした。

 これであの忌々(いまいま)しい障壁が外せれば──人間の身でも(弱体化するだろうが)、魔神の力を奮う事ができるはずだ。

 ネブロムの力の根源から伝わってくる力。これが自分を強化しているのを感じる。

「弱っていたとはいえ、さすがは魔神の力だ」


 もう一つの魔神ファギウベテスの魔神結晶を解析し、なんとかその魔神の力を──ネブロムの魔力領域を介して──取り込む事ができた。


 未熟な力で魔神の力を取り込もうとしても、逆にその力に飲み込まれ、自我を失い。魔物や──邪神と化したパーサッシャのような、上位存在と人間の記憶が混濁した、異形の化け物になるのが落ちだろう。

 魔神ネブロムが俺に、その力を譲渡しようとしたので、割とすんなりと自分の力に組み込めたが、この複雑な魔法と魔力の融合した力。上位存在の霊的な領域のことわりに踏み入るのは、並の術者では不可能だ。




 ファギウベテスの結晶体から「獣霊支配ドゥマ・ラグラス」などの力を得ると、それを下位の──人間の使用できる──魔法技術に当てはめて使えるようにする。

「獣霊支配」の力とは、魔術にある動物を操る呪術に似ている。霊的な支配力を行使し、自在に動物を操れる力。獣霊支配はその上位互換のような魔法になった。


 こうした作業(上位の魔法を下位に当てはめる作業)にも高い魔導の技術が必要で、繊細な思慮深さも必須だった。魔法の感覚と言うべきか。

 細かく術式に当てはめて──上位存在の魔法を、下位領域の存在である人間の魔法に当てはめて作製する作業。

 だが二(はしら)の魔神結晶には、まだ俺が読み込む事のできない魔法がある。

 魔神ファギウベテスの力は、霊魂などに関係するものが多いらしい。呪いや魔法の力で、敵の戦力を弱体化させるような呪法を得意とし、幻惑なども得意としていたようだ。


 あとは魔術の庭で引き続き、二柱の魔神の力を解析していこう。

 俺が光体の一部でも手に入れられたら、上位存在の使う魔法も、自由に操れるようになるのだが。

 魔神の力を自らのものにするというのは、想像よりも困難なものであった。

 その力を取り込むだけの技量を備えた術者なら、魔神を倒したすぐあとに能力を奪えたのだろうが。


 魔神の力を接続した事で──俺の精神的な力、魔力。こうしたものが強化された。精神的な力は肉体に対する影響も持つので、瞬発的な筋力の解放をし、動きを速く、攻撃を重くするなど──戦闘に有利な力を発揮できる。

 これらの作業で、精神力を相当に消費したと感じた。時間もかなり経ってしまっただろう。




 神霊領域から宿屋の部屋に戻ると、寝台ベッドに腰かけて、そのまま倒れ込むみたいに横になった。

 疲労を感じながら、自分の魔力総量がかなり大きなものになったのを理解する。

(この肉体と結びついた魔力──蓄えられた力を感じる)

 それはとても大きな容器だ。

 優れた魔法使いでも、ここまで大きな魔力の器を持ってはいないはずだ。固有の次元領域を持つ魔神の魔力領域を、自分のものにできたのは幸運だった。


 魔神の記憶の断片が残されており、それのいくつかを見る事ができるようになった。

 だがそれは──まるで本を開いても、ページになにも書かれておらず、しばらく白い頁を睨みつけていると、そこにぼんやりと浮かび上がるみたいな──記憶の映像。

 それらを読み続けるのは困難で、精神が疲弊ひへいする感覚。


 魔神ネブロムは「摂理の(プロディア・)執行者(アルマシス)」として人間を監視したり、時には人間に手を貸していたようだ。

 彼はあまりに人間に入れ込み過ぎ、人間の生や死に関わりをもつようになったのが原因で、彼はその役職を剥奪されてしまった。

 優しき魔神(ネブロム)の元々の姿というものは──判然としなかったが、彼の誠実さが悪を憎み、罪深い人間の魂を奪い去り、幻夢界に閉じ込めるという行動に駆り立てたのだ。


 次に精神的な疲労を感じながらも、魔神ファギウベテスの記憶を探ろうとすると──

「ぐああぁっ⁉」

 強烈な感情、あるいは怨嗟えんさ呪詛じゅそにまみれた不吉な怨念が流れ込んでくる。


(────ばかなっ………! 消滅した魔神の記憶に何故ここまで……!)


 魔人と化したディオダルキスのものとは違い、霊的な魂を侵蝕してくるような、精神汚染に似た感覚。

 俺は一瞬でその記憶領域から離れたが、魔神の記憶の一端を知る事ができた。




 それはファギウベテスを含めた、多くの神の使い──天使と呼ばれる存在が、神の国からちた場面の記憶。

 強大な力を持つ一柱の神の使いが失墜し、多くの者がその存在に随伴するように、天上の神々に挑んでいく──そんな映像が確認できたのだ。


(なんという──いったい、なにがあったのだ)


 鮮明に映像が見えた。

 魔神と化したファギウベテスのみならず、その周囲に存在していたであろう上位存在も、凄まじい激憤の念に駆られていたらしい。

 上位存在の霊的な力。その魂と呼べる根源の力は──やはり凄まじい。魔神ネブロムや死導者グジャビベムトの力を取り込んでいなければ、魔神の記憶を覗き込んだ影響で、魂や霊体が傷つけられていたかもしれなかった。




 気づけば俺の意識は魔術領域から離れ、現世に戻されていた。──危なかった。精神汚染が魔術領域に広まっていれば、厄介な副作用を抱え込んだかもしれない。

 確認したが、精神汚染は浸透していなかった。表層の記憶に対し、魔神の記憶が脳に焼き付いた事で、拒絶反応に似た感覚が出たのだ。

「魔神の激情のようなものは、人間にとって──その存在を焼き焦がすような、強い思念をもっているのか」

 ただの感情ではなく、それ以上の──他の霊的な存在まで飲み込もうとするみたいな、情念の塊。記憶の断片にすらそんな力があるとは。


 だが、ともかく二柱の魔神の力を取り込み──その一部とはいえ、力を自分のものとして奮えるようになった。これで格段に俺は強くなっただろう。──肉体的にも魔力的にも、精神的、霊的にもだ。


「時間は──もう夕方か」

 神霊領域でずいぶんと時間を使ってしまった。あそこは現世の時間と同調しているのだ。もしかするとそれすらも変更できるかもしれないが。

「今度ためしてみよう」

 寝台から起き上がると、ぐらぐらと世界が揺れた。魔力の強化やなにやらで、霊的な性質が変わり、それがさらに肉体にも影響したのだ。


 寝台に腰かけると、まずは己の肉体と霊体の均衡バランスを調整する。強力な力を一度に手に入れ過ぎた──これが嬉しい誤算というものか。

「ふっ、ふふふふふっ」

 魔力に触れていると、自分が急激に強くなったのだと改めて思い、そのみなぎる力に興奮してくる。

(もはや下級天使くらいなら恐れるに足らんな)

 下級魔法もよほど威力を抑えて使わないと、並の魔法使いの数倍の威力で魔法を行使してしまうかもしれない。

「注意するとしよう」

 あまり目立つのは危険だ。

 他の冒険者のやっかみくらいならどうという事もないが、どこぞの魔狩りの連中に目を付けられたくはない。


 早めに風呂に入り、体を休めてから夕食にすると決め、準備をすると一階へと降りる。魔剣は影の倉庫にしまっておいた。

 この安宿には風呂場は無く、近くにある公衆浴場を紹介された。アケリュースには公衆浴場が三つもあり、それぞれが船乗りや市民が行く浴場、少し高級な浴場など──特色があるみたいだ。

「夕食も外でどうぞ」

 そんな具合にほったらかしにされてしまう。

 安宿はそんなものだと考え、はじめから期待しないし──長く旅を続けていると、そうした応対にいちいち腹は立たなくなるものだ。

 むしろ自由に夕食を食べる場所を決める事ができるのだと、前向きに捉えた。


 それに──新たな力を自分のものとし、最高に機嫌がいい。

「少し高級な公衆浴場に行き、ゆったりとくつろごう」

 なにしろ明日は海を渡り、魔神が居る島へと向かうのだ。危険な旅が明日には待っている。


 宿の外に出ると、薄暗くなった港町の通りを歩く。

 波打つ音を耳にしながら、町ゆく人の姿を見、夜になっても活気のある港町に、人間じみた安心感のようなものを感じながら、俺は公衆浴場へと向かう。




 そこは広場に面した場所にある、高級感のある外観をした公衆浴場。

 大きな入り口の左右には武装した番兵が立っており、なにやら物々しい。不埒ふらちな輩は近づけぬという圧力のある浴場だった。

 入り口には受付のような場所もあり、そこに向かうと使用人から声をかけられた。

 男のそばには屈強な女性の番兵も控えていて、使用人はその笑顔の裏に、人を値踏みするようにうかがっている視線を送ってくる。


「失礼ですが、お客様。身分を証明する──階級章などはございますでしょうか?」

「身分証──? これじゃ駄目かな?」

 そう言って首から下げた赤い印章を見せると、使用人はにっこりと作り笑いを浮かべた。

「いえ、結構でございます。こちら、鉄階級以下の冒険者の方にはご遠慮いただいているもので」

 ()()()()()()()()()()浴場に入ってください。そう告げられた。


 ルシュタールは冒険者の階級について、赤鉄階級以上の者を贔屓ひいきするような慣習があるのだろうか。思えば図書館でもそうだったが。

 あえてその事には触れず入り口を通過し、広々とした談話室ラウンジを兼ねた脱衣所に入った。

 そこでは大きな暖炉が設置され、裸の男女が立ちながら、あるいは椅子に腰かけて談笑している。

 客の数は多くはなかったが、下級貴族や中級貴族といった高い身分の人間も、この浴場を利用している様子だ。

 長い船旅からおかに戻った貴人に、汚れを落とす場所を提供する為の公衆浴場なのだろう。


 体の汚れを石鹸で落とし、大きな湯船に入ろうとすると──なにやら周囲から視線を感じる。それも、どうやら女の視線が俺に集まっていた。

(なんなんだ?)

 他に居る男たちは冒険者ではなく、体に余分な肉が付いたような男たちばかりだと気づいたが、それが理由なのだろうか?

 俺はともかく湯船にかって、旅の疲れを癒そうと考えた。

 するとどうだろう。俺の周囲に女たちが数人、こそこそするみたいに近寄って来たではないか。


「あの……もし、あなたは名のある冒険者の方では?」

「灰銀色の髪は……きっと、エト様では?」

 などと興味津々(きょうみしんしん)の様子で迫ってくる。

「いや……俺はピアネスから来た冒険者ですが」

 そう応えると数人は一気に興味をなくしたようだったが、その他の女たちは俺のそばに寄って来て、どのような旅をして来られたのかと、熱心に聞き出そうとする。


 どうやらこの公衆浴場では貴族と、上級に位置する冒険者との接点を持たせる場でもあったようだ。

 貴族との接点を持ちたい冒険者と、若くたくましい男との愉楽を得たいと望む貴族の女たちが、ひっそりと公衆浴場で密会し、どこかで落ち合う算段を立てる訳だ。


 生憎あいにくと性欲は満たされているし、この場に居た乳の垂れた女に魅力を感じなかった俺は、やんわりと彼女らの好奇の目を避けて、湯船を出たのである。

神霊領域に農機具を置いたり──ここで農園を開くつもりか(笑)

薬草などを植えるつもりでいるレギですが、果たしてどうなるか。


魔神を倒したからといって、人間には簡単にその力を手に入れられる訳じゃありません。

上位の力を下位存在である人間が使うには、その力の範囲に落とし込めなければなりません。

上位の力をそのまま使うと霊的に負荷がかかり、それは肉体や生命に深刻な害を及ぼす事も。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作者様おはようございます。 >薬草などを植えるつもりでいるレギですが、果たしてどうなるか。 ・植えた結果、霊草に変質する株もありそうな気がします。 >上位の力をそのまま使うと霊的に負荷がか…
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