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魔導の探索者レギの冒険譚  作者: 荒野ヒロ
第八章 失墜した者ども

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ゼクアの町で一泊。ラポラースと会う

 街道を馬で移動し続け、空を流れる薄雲が朱色に燃え上がり始めた頃に、ゼクアの町に辿り着いた。

 この町もしっかりと石を積み上げて造られた壁に囲まれており、半円状の出っ張り(外殻塔)が壁から迫り出して、その上から周囲を警戒する兵士の姿があった。

 門も頑丈そうな分厚い扉が開かれ、兵士の数もそろっている感じだ。


 町に入るのにやはり通行税を取られたが、仕方がない。

 この税は町の維持費というよりは、もっと具体的に──町を守る兵士たちを雇う金銭、という意味が強いように思う。領地を守る領主によるが──騎士を囲うだけでなく、傭兵を雇う者も居る。国境に近い場所ほど、こうした武力の維持が必要になるという訳だ。

「魔物よりも人間の方が怖いというやつだな」


 町を侵略するのは人間だけだと思っていたが、最近では人間の真似まねをしてか、魔物や亜人どもが街を襲撃するというのだからたまらない。領主にとってはどちらの危険も見過ごせない。


 宿屋と戦士ギルドを見つけると、俺は厩舎付きの宿屋に泊まる事にして、一泊する予定を立てた。

 荷物を部屋に置くと、鍛冶屋に出向く為に外へ出る。人通りの少ない通りに入ると、俺は影の中から蜥蜴とかげ戦士から手に入れた大振りの曲刀を取り出し、鍛冶屋にそれを持って行くと、砥石を使わせてくれと機械の前に座り込む。

 鍛冶師の親父は「勝手に使ってくれ」と言って鎧の調整を続ける。


 そういえばこの砥石機──足で板を踏み、円形の砥石を回転させて使う機械──があると便利だなと考えた。これを天使から手に入れた神霊領域に設置しておけば、いつでも本格的な武器の手入れができそうだ。なんなら鍛冶場をそのまま再現する事も……


 おっと、それよりも武器の手入れだ。

 曲刀はすぐに刃の輝きを取り戻した。切れ味も回復し、寝かせた刃に紙をさっとすべらせただけで、紙が切れるほどになった。

「見事な武器だ」

 その様子を見ていた鍛冶師の親父が言う。

「だが、鞘の痛みがひどいな。手入れがなっていないという程度じゃない」

「ああ、これは蜥蜴戦士から奪った物なので、その所為せいですね」

 俺が答えると、親父は「そうか」と言いながら鞘を手にする。

「もし良ければ新しい鞘を作ってくれませんか」

 そう言うと鍛冶師はうなずきながら「ちょうどいいのがある」と言って、店の奥に消えた。


 彼が戻って来ると、その手には見事な革張りの鞘があった。確かに形だけ見ると、曲刀の鞘と同じ大きさの物だ。

「つけてみろ」

 研ぎ終えて、乾いた布で拭いている俺に鞘を差し出す。

 曲刀を新しい鞘に入れると、刃の一部が鞘とこすれているようだ。

「鞘当てしてますね、直せますか? 直せたらこの鞘を買い取りましょう」

 鍛冶師は肩をすくめた。まるで「何年この仕事をやってきたと思っている」といった態度で。


 彼が作業台を前にして鞘と曲刀をいじっているので、俺は小さな短刀を取り出した。今は亡きトゥーレント国産の芸術的な短刀。

 それの刃を砥石にかけ、水で洗って乾拭からぶきしていると、鞘を調整し終えた鍛冶屋がやって来て大きな声を上げる。

「おいあんた……それは、トゥーレントの短刀じゃないか!」

「ええ、ご存じでしたか」

「当たり前だ! いや、しかし……なかなか見事な状態の短刀だな」

 鞘にしまった短刀を見て、鍛冶屋の親父はしきりに頷いている。

「それほどの逸品いっぴんなら、貴族相手に十万ルートベリアでも売れるかもしれんぞ」

 親父はいくぶん冷静になって言いながら、曲刀と鞘を差し出してくる。

 曲刀をしまうと鞘当てもせず、しっかりと鞘に納まった。


「いいですね、買い取りましょう」

 そう言いながらルートベリア銀貨を一枚渡すと、銅貨のお釣りが二枚戻ってきた。

「古い鞘は処分しておこう」

 そう言う鍛冶師に聞くと、トゥーレントの武器は「アルスゼールの街」にある骨董品店などでなら高く売れるんじゃないか、という事だった。

 俺は鍛冶師に礼を言って、革帯を肩に通して曲刀を背負い、鍛冶屋を出て行く。




 宿屋に戻る前に場末の料理屋に入り、ルシュタールの定番家庭料理だという「ラニジェア」というものを食べた。

 牛酪バターと、ラニという樹木の果実から採った油を器に入れて、その中に肉や野菜を沈めて器ごと熱した豪快な料理だ。

 ラニ油はルシュタールの料理の基礎であり、油と言えばこのラニ油なのだそうだ。独特な匂いがあるが、どこか果物を思い起こさせる香りがあり、さわやかさのある油だとも言える。


 この地方のパンも個性的で、香草ハーブを入れた小さな丸パンや、大きな円形のパンを切り分けた物を出された。

 文化の違いを感じつつ、地図を確認してアルスゼールまでの道のりを考える。──北にあるゼクアから、南の海へ向かう途中に通過する経路にある都市だ。

「アルスゼールで短刀を売り、ギルドの昇級試験もそこで受けるとしよう」

 そう決めて宿屋へ戻ると、曲刀を影の中にしまい込んだりして、ゆっくりと寝台ベッドに体を落ち着ける事にした。




 眠りに就き、魔術の門を開くと──まずは、水鏡のドアを使って冥府の街ソルムスに向かって。

 双子の館に入ると部屋を出て、通路を歩いて行く。相変わらずどこか不気味な薄暗い廊下を通っていると、若い侍女の姿が見えたので声をかける。

「すまない──ラポラースに会いたいのだが」

 指に結わってくれた髪の毛の力で死なずに済んだのだ、彼女には大きな借りができてしまったな。

 少女らしい小柄な侍女は、青白い顔にある緑色の瞳を落ち着きなく、きょろきょろとさせながら「こ、こちらへ」と先導し始めた。


 その白い髪はラポラースのそれを思わせるが髪は短く、おどおどした表情は怯えた小動物といった感じを受ける。

 少女について行くと客間に案内された。

「ここでお待ちください……」

 そう言い残してどこかへ主を捜しに行ってしまう。

 この領域──冥府では影の魔術が使えなかった。その理由を探ろうと長椅子に腰かけて、影に触れながら影の魔術を使おうとすると、霊的なからだ死導者グジャビベムトの霊核が反応し、するりと影の中に手が入り込む。


「おっ、……なるほど。死に関する力を自在に操れるようになってきたからか、冥府でもそれなりの魔法や魔術が使えそうだな」

 ひとまず安心材料が増えた。現世と同じくらいに魔法が使えるようになれば、ここでもそこそこ戦える。

 それに冥府で魔術や魔法の研究をすれば、生や死に関わる力を解明する示唆しさが得られるかもしれない。死を知れば自ずと、その反対側にあるものが見えてくるはずだ。


 死霊術や退霊術を手に入れた事なども影響し、死に関する力への干渉力が増大した。死王の魔剣を使って死体を操る技術も、今までよりももっと効果的に、長時間に渡って操る事ができるようになる。

 自分の指を見ながら、そこには存在しないものを見る。

「死を退ける魔術──ラポラースの施した髪の毛の魔術は、いったいどんなものなのか……」

 あの力を扱えれば、潰された心臓をも再生する力を手に入れられたなら──


「呼んだ?」

 すぐそばから声が聞こえ、俺はびくっと体を反応させる。

「おっ、おどかすな……!」

 いつの間にか隣に座っていたラポラース。

 白髪の少女はケラケラと楽しそうに笑い出す。

「あはははは、ごめんなさい。なにか考え事をしているようだったから──で、なんの話?」

「いま考えていたのは、あの髪の毛の事だ。──あれのお陰で命拾いをした、ありがとう」

 俺は礼を言って頭を下げる。少女はにっこりと笑って「どういたしまして」と応えた。


 部屋のドアが開き、先ほどの侍女が台車を押して入って来た。台車の上に載せた物を手にすると、それを持ってテーブルに近づいて来る。──緊張しているのだろう、ぎこちない動きだ。

「どうぞ」

 少女はなんとか失敗せずに紅茶を注ぎ入れると、台車を押して部屋を出て行った。

「彼女、新入りの娘ね。最近──魔物に命を奪われる人間が増えたみたい。それでグラーシャが、たまたまあの娘を気に入って連れて来たの」

 野良猫じゃないんだから……と、愚痴みたいにこぼすラポラース。

 彼女らがどうやって死者をこの館に連れて来るのか知らないが、割と好き勝手にやっているらしい。


 にしても、魔物に命を奪われる人が増えた、か──

 それはエッジャの町で起きたような事が原因なのだろうか、あれが各地で起きているとなると、そろそろあらゆる国や戦士ギルドは本腰を入れて、亜人や魔物の討伐におもむく事になるだろう。

「それで、あの髪の毛の魔術はどんな原理なのかを知りたくて──」

 話を戻そうとすると、ラポラースは一瞬、目を泳がせた。

「ぁあ──、あれね。私のような、冥界に長く居るもの特有の魔術よ。原理は──そうね、()()()()()()する呪法……とでも言うのかしら? 生きている者には行使できない力でしょう」

 彼女の言葉は簡潔であったが、なにか言いようのない、秘密に触れるような──隠された力の源がある気がした。


「それよりも、危険な状況になったら逃げなさいと言っておいたでしょう。──あのまじないを掛けておいて正解だったわ」

 死の力を還元するとは、死から発生した活動力エネルギーを使用するという事だろうか? そうだとすると無限機関のように、死の力を利用して死を回避できてしまうのではないだろうか。──そんな抜け穴が現世にあるとはとても思えないが。

 現世のことわりを冥府の理で打ち破るような、法則をじ曲げる魔術。──それは決定的に、現世に生きる人間が使用できる領域を遥かに越え出ている。

 神の業とも思える、異質な魔導の深淵を覗いた気がした。

 冥府の双子と呼ばれる彼女らは、現世の魔女などからも恐れられるほどに、他に類を見ない力を体現しているのであろう。


「──とにかく、油断しては駄目よ」

 そう言うと紅茶を口にし、少女は眉を寄せる。

「あの娘には、紅茶の入れ方というものを教えないとダメね」

 ふと、彼女が俺の顔を覗き込み、眉をひそめた。

「……なにか、まだ──あなたをつけ狙っている者が居るみたいね」

「死の感覚」を感じているのだろうか、ラポラースは改めて注意するようにと警告する。




 俺が紅茶に手を伸ばすと、少女はやめておいた方がいい、と茶碗ティーカップに手で蓋をする。まあ別に喉が渇いている訳でもないので温和おとなしく手を引っ込めると、冥府についていくつかの質問をぶつけてみた。

 彼女は話せない事も多いと言っていたが、冥府にある階層的な世界について語ってくれ、幽鬼や邪霊などがあふれ出る領域や、人間の魂が洗浄されて消滅する奈落などについて聞かせてくれた。


「魔術の領域みたいに、そうした幽鬼や邪霊を取り込んで、使役する事も可能なのかな」

 するとラポラースは即座に「やめておきなさい」と強い口調で警告する。

「現世からそうした領域に入り込み、邪霊と盟約を結んだ魔導師も居るけれど、そうした魔導師はたいてい死に引き込まれやすくなる。よほど注意深く己の無意識領域を守っていなければ、そうした存在を使役するのは──」

 そこまで言ったが、少女はそのあとでこう口にした。

「あなたはすでに『闇の精霊』と契約している訳だし、問題はないでしょうが」


 不気味な巨人の姿をした魔神オグマギゲイアから奪った力。しかしあの精霊は、新月などの月明かりの弱い夜中にしか呼び出せないという欠点があるのだ。

「できれば幽鬼などの存在も使役したいところだが」

 そう訴えるとラポラースは、考えるような素振りを見せる。

「……そうね、わかった。二体の幽鬼をあなたの力としましょう」


 彼女はそう言うと立ち上がり、ついて来るよううながす。

 長椅子から腰を上げ、小柄な彼女の後ろをついて行く。

 彼女は廊下に出ると階段に向かい、階段横の扉を開けて地下に続く階段を降りて行った。

次話はラポラースとの○○な描写があります。

見た目は少女でも中身は大人ですから。

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― 新着の感想 ―
[一言] >次話はラポラースとの○○な描写があります。 まぁ、エッチぃの予告w、楽しみです。 作者様。12月も後半に折り返しました、年末年始に向けて多忙かとは思いますが、体調には気を付けてレギの冒険譚…
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