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生まれ変わったら曹昂だった。 前世の知識を活かして宛城の戦いで戦死しないで天寿を全うします  作者: 雪国竜
第一章

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陽翟の戦い

 宴が行われた翌日。

 官軍は勝利した勢いに乗って豫州に居る黄巾党を壊滅させる為に出陣した。

 目指すは波才が撤退した先の汝南郡。

 先陣は朱儁。中軍を皇甫嵩。後軍を曹操が率いる形で進軍する。


 長社の戦いで大打撃を受けた波才は汝南郡に居る予備兵力と合流を図った。

 だが、自分が知らない間に譙県に部隊を出して、部隊が壊滅したという報告を聞いた時には目の前が暗くなり倒れそうになった波才。

 予備兵力としてここ汝南郡に配備したというのに、その予備兵力が勝手に行動して壊滅したと聞けば誰でもそうなるだろう。

 お蔭で部隊の再編に時間が掛かり、官軍の進軍の妨害が出来なかった。

 物見からの報告で官軍が近付いてきた頃にはようやく軍の再編を完了する事が出来た。

 波才は再編した黄巾党の全ての兵を率いて、陽翟へと向かう。

 黄巾党の動きを知った官軍も道を変えて陽翟へ向かう。

 

 五月某日。

 豫州潁川郡陽翟。

 その地で官軍四万三千と黄巾党五万の両軍が睨み合う。

 この一戦でこの豫州の支配権が確定する戦となれば意気込まない訳にはいかないだろう。

 官軍は左翼を皇甫嵩。中央を朱儁。右翼は曹操が率いるという形になった。

 睨み合う両軍。

 いつ開戦の命が下るか、今か今かと待ち構える両軍の兵達。

 そして、開戦の命を先に下したのは波才であった。

「中央、前進せよ‼」

 その命令に従い黄巾党の中央軍二万が突撃した。

「「「蒼天は既に死す。黄天まさに立つべし‼」」」

 自分達が信仰する太平道の標語を口に出しながら突撃する黄巾党の兵達。

 突撃してくる黄巾党の兵を見て朱儁率いる官軍一万。

「矢を放ち、近付かせるな‼」

 弓兵に矢を放たせて陣に近付かせない様にした。

 斉射とは言わないが、それなりに纏まった数で放たれた矢は黄巾党の兵達に当たる。

 多くの兵が倒れていくが、それでも突撃は止めない黄巾党の兵達。

「「「蒼天は既に死す。黄天まさに立つべし‼」」」

 自分達が信仰するものの為に戦う信者達には、矢など怯えるものではないと言わんばかりの突撃であった。現に兵達の中には身体に矢が突き刺さっても、抜かないままにするか棒の部分を折って突撃している者達まで居た。

「ええい。先陣の義勇軍には後退するなと伝えろ。義勇軍の奴らが黄巾党の奴らの攻撃を防いでいる間に歩兵は義勇軍の後ろで守りを固めろ。弓兵は歩兵の後方で矢を放て。騎兵は何時でも突撃できる様に待機だ‼」

 朱儁は黄巾党の勢いがあまりに強いので、自軍が損耗を避ける為に劉備率いる義勇軍を捨て駒にする事にした。

 何故、そんな事を考えたのかと言うと、義勇軍に防がせている間にに左翼と右翼が敵を蹴散らしてくれる。仮に義勇軍が先に壊滅したとしても、敵は疲弊しているから其処に自軍が攻めれば勝てると考えたからだ。

 そんな朱儁の考えなど知らない劉備達は、

「防げ、防げ‼ 敵を朱儁将軍に近付かせるな‼」

 戦場の喚声に負けないぐらいの大音声を挙げて率いる義勇軍千を指揮した。

「兄貴。俺達も前線に出るぜ」

「そうだな。良いですか。兄者」

「うむ。頼んだぞ。二人共」

 張飛と関羽が最前線に行くと言い、劉備は躊躇する事無く二人を行かせた。

「しゃああ、暴れてやるぜっ」

 張飛は馬上で矛を振るいながら最前線へと向かった。

「では、兄者。指揮はお任せします」

「ああ、張飛の事は頼んだぞ」

「心得ております」

 関羽は一礼して張飛の後を追い駆けた。

 張飛と関羽の二人が最前線で黄巾党の兵達を倒していくので、義勇軍の兵達の士気は上がる。

 逆に黄巾党の兵達は及び腰になった。

 張飛と関羽の活躍で中央の戦線は膠着状態となった。


 同じ頃。左翼の皇甫嵩率いる二万は、

 中央の戦いが始まったと同時に波才率いる本隊二万を相手に戦っていた。

「押し潰せっ」

 波才の指揮により、指揮下の部隊の兵達は着実に皇甫嵩の部隊に打撃を与えていく。

「敵も中々にやりおるわ」

 流石に波才の直属部隊なだけはあって、兵の練度も武装もそこいらの黄巾党の部隊に比べると一段も二段も上であった。

 皇甫嵩は波才の部隊の戦いぶりに感心していた。

 とは言え、感心ばかりしていられないのか、皇甫嵩は部隊の守りを固めた。

 その指揮により、部隊を壊滅させる程の大打撃を与える事は出来なかった。

 加えて、守るだけではなく、敵軍の隙を見つけると、皇甫嵩は部隊を巧みに動かして、その隙をつく様に攻撃し、打撃を与えて行った。

 両者の指揮により、左翼は一進一退の攻防が行われた。


 右翼の曹操軍一万三千はと言うと、

「突撃‼ 敵陣を食い破れ‼」

 曹操は陣頭に立ち騎兵を先頭に立てて攻撃を命じていた。

 対する黄巾党一万はというと、曹操の突撃を前にして反応が鈍かった。

 それもその筈。波才が軍を再編した際に急遽、部隊長である大方になった者が部隊を率いているのだから。

 今迄は中方の身分で大方の指示に従いながら戦っていた。

 なので、部隊の動かし方が分からない訳ではないのだが、中方に比べて大方の様に方が率いる数が違うので上手く統率が出来ていなかった。

 また、再編されたばかりの寄せ集めという事で、何とか部隊としての形を保っている状態であった。その為か、士気が低かった。

 それが分かっている波才も、

 『敵の攻撃を防いで時間を稼げ。そうしている間に中央か、私の部隊が敵陣を突破する。その動きに合わせろ』

 とだけ命じていた。下手に攻めて部隊が瓦解する可能性があるから、防戦で時間だけ稼いでもらうという考えだ。

 なので、大方はその命令通りに防戦に専念していた。

 曹操は敵が積極的な攻撃に出てこないのを見て、これは罠かと最初は疑った。

 それで囮を出して攻撃を誘ってみたが、敵は動かなかった。

 曹操は、それで自分に対する部隊は時間稼ぎをしているだけだと理解した。

 それが分かった曹操は一気に攻勢に出る。

 官軍騎兵部隊を先頭にその後ろを連れて来た私兵部隊で編制して突撃した。

 この時、官軍の騎兵部隊を先頭に立たせたのは単に官軍だから功績を立てさせる為ではなく、先頭を進ませる事で後退させない為だ。

 もし後退でもしようものなら、曹操の私兵の部隊に踏み潰されるという無言の圧力だ。

 だが、そのお陰で官軍の騎兵は後退する事も出来ず黄巾党の部隊に攻め掛かった。

 その勢いに押され、黄巾党の部隊は守る事が出来ず突破された。

 曹操は黄巾党の部隊を突破すると反転させて、もう一度突撃した。

 一度の突撃で部隊が瓦解している所に突撃されては壊滅必至であった。

「これより、我等は中央の軍の援護に向かう‼ 隊列を編成をし終えたら行軍を行うっ」

 曹操はその突撃で壊滅した黄巾党の部隊を掃討せず、そのまま中央の横っ腹を衝く為に軍を立て直した。

 それが終わると曹操は中央軍の援護に向かった。

 中央では張飛、関羽の両名の働きで何とか戦線を維持していたが、人間である以上疲労する。

「兄貴、・・・・・・そろそろ、キツくなってきたか?」

「馬鹿を言え。お前の方がキツイのだろう」

 息も絶え絶えながらも話す張飛。答える関羽も肩で息をしていた。

 疲労困憊の二人。

 お蔭で戦線が維持できているが、そろそろ限界そうであった。

 このままでは二人共、討たれるのではと思われた。

 其処に黄巾党の方から喚声が聞こえて来た。

「何だ?」

「むっ、・・・・・・喜べ。張飛。援軍だ」

 関羽が指差した先には曹操率いる官軍が黄巾党を攻撃していた。

「ありがてえ、そろそろ倒れそうだったんだ」

「数はほぼ互角であるのに、こうまで早く敵を蹴散らして援護に来るとは。凄まじい手腕。流石は曹孟徳か」

 関羽は曹操の指揮ぶりを見て感心していた。

 そう感心していると、自分達の後方から鬨の声が聞こえて来た。

 関羽達が振り返ると朱儁率いる官軍一万が黄巾党に突撃した。

「ようやく、本隊のお出ましか」

「遅いっての。ったく」

 愚痴る張飛。

 其処に伝令がやって来た。

「玄徳様からの伝令です。義勇軍は後方で待機せよと命が下されたので、我らは後方に下がるとの事です」

「承知した」

「けっ、良い所だけ取るのか。あの将軍様はよ」

「言うな。張飛。下がるぞ」

「へいへい。お前等、後退するぞ」

 関羽達は文句を言いつつも後方に下がった。

 とは言え、疲労困憊であったので助かったとも内心思う二人であった。


 劉備率いる義勇軍が後方に下がっている頃。

 朱儁率いる官軍は曹操率いる官軍と共に中央の黄巾党の部隊を挟撃する。

 その挟撃により黄巾党の部隊は部隊の形を保つ事が出来ず壊滅した。

 中央の黄巾党の部隊が壊滅したのを見て波才は最早戦う事が不可能と判断し撤退したが、時は遅かった。

「今だ。全軍、突撃せよ‼」

 波才が撤退するのを見た皇甫嵩は総攻撃を命じた。

 守勢であった皇甫嵩の部隊は喚声を上げて、波才の部隊に突撃を仕掛けた。

 瞬く間に波才は皇甫嵩、朱儁、曹操に囲まれてしまった。

「ええいっ、血路を開くぞっ」

 波才はそう叫ぶと共に、一か八かの突破を試みた。

 突破する事も出来ず、波才は兵に囲まれてしまい、嬲り殺しにされた。

 波才が討たれたという報告を聞いた皇甫嵩、朱儁、曹操は三人で凱歌をあげた。

 こうして『陽翟の戦い』は終わった。

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[気になる点] 何だか自分の中の朱儁像とは真逆で違和感を感じます…。
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