22、しばらくたって
22、
魔女が日本を支配して、一年がたった。
山田氏はその日、許可をもらって外出をする。
かつて自分が死ぬ前に住んでいたアパート。
部屋はすでに見知らぬ人が入っており、街の様子も少し変わっていた。
ただそれは日本全体に言えることでもある。
魔法を操る異世界の魔女に支配されているのだ。今までどおりではいられまい。
じゃあ、勤めていた会社はどうか。
行ってみると、倒産していた。
どうやら、色々と黒いことをしていたために社長が逮捕されたらしい。
山田氏も特に未練があったわけでもないので、詳しくは調べなかった。
続いて、自分の生家に行ってみる。
家族はそれなりに平穏に暮らしているようだった。
いや、若干以前よりもリッチになっている気がする。
よくはわからないが、経済的に困っていることはなさそうだ。
家の中には山田氏の遺影が置いてあった。
家族も悲嘆して泣き暮れているというわけでもない。
まあ、普通だ。
死んでから一年以上たっているのだから、そんなものかもしれない。
一人っ子というわけでもなかったのだし。
こんなものだろうと予想はしていたが、存外変わりないので、
(何だかなあ)
山田氏は少々肩透かしを食らったようながした。
別に人間として生き返りたいという欲求が強くなるでもない。
不幸というほどではなかったが、さほど恵まれた人生でもなかった。
底意地の悪い上司にどやされる日々よりも、美しい魔女に翻弄される。
そのほうがいくらかマシかもしれないではないか。
空を飛ぶ自由というか快感も得られたのだし。
(これはこれで良しとしようか)
そんなことを考えながら、山田氏は街の上を飛ぶのだった。
都会の変化は激しいが、さらに早く激しくなっているようだ。
異世界の住人が行き来したりしているのだから、当然か。
今年からは魔法を教える学校が設立される。
来年からは全国に同じような魔法学校が作られるらしい。
すでに成人になっている人間からも、希望者は殺到している。
しかし、やはりこういうものは若いうちのほうがやりやすいらしい。
大人になってからも学べることは学べるようだが、
「やっぱり若いうちから勉強した子には負けるわねぇ」
これはリムネの言っていた話である。
ただ少し困ったことが、ひとつあった。
これのせいで山田氏はしてもい意味のない心労を受けている。
それは何かというと――
魔法は、女性にしか使えないのだ。
その事実は世界中で波紋を起こしている。
大仰ながら奇跡とも言える魔法。
しかし、扱えるのは女性のみ。
どうしてそうなのかは、魔女にもよくわからないらしかった。
別に興味もないのだろう。
「それが何か問題か?」
「女性にはできて、男性にはできないこともある。こりゃあ大きいですよ」
「そんなもの、子供を産むのだってそうだろうが」
「でも、あれは男もいなけりゃできないもんでしょう?」
「あ、そうか」
「そのせいで変な気になった女性陣があちこちでよからぬことをしてるんですよ」
よからぬこと言うのはどうなのか、と言った後山田氏は思う。
しかし、この日本でも魔法を錦の旗にして女性の偉大さを叫ぶ人間が急増した。
魔女はそういうものは一切関知していない。
だが、最近では週一くらいであちこちで起こっているデモ隊連中などは大きな魔女の写真を先頭にして、
「偉大なる女王陛下のもと、我々女性は今こそ男の支配打ち砕かねばならない!」
という、わかったようなわからんようなことを主張している。
一応役所にも届けがあるし、暴力的なデモでもないから放置状態だ。
中には政治家連中にも妙な策動をしているのが多い。
現状の国会議員は、ほとんど権力なんかないがそれでも過去のコネは、
「完全になくなってはいない……」
ということを、他の使い魔によって報告されている。
かといって、それで魔女に何かできるようなことはないのだが。
今のところ魔法をちゃんと学べるのはクラツクニ……この世界では日本のみ。
他国でも学べる場所を造りたいようだが、色々あってうまくはいってない。
もちろん日本に学びにきている外国人も多い。
しかし、前述したように男では習得できないし、女性でも現状では、
「まあ卵にもなってないレベルだなあ」
と、魔女はやや失望したように言った。
数こそ多いものの、これでは魔女に相手にはなるまい。
それどころか、ランクの低い使い魔にすら及ばないようだ。
世界の研究者は真面目にやっているのだが、世論や宗教界が、
「悪魔の力を許すな!」
と、大反対したりして、足を引っ張っている国も目立つ。
しかし、今や世界最強とも言っても良い大国の持つ技術である。
何だかんだ言っても多くの国が魔法を欲し、動いていた。
けれど、副作用も多い。
下手に知れば知るほど魔女の持つ力の強大さを嫌でも実感してしまうのだ。
だからこそ、アレルギー反応のように魔法を忌み嫌う人々も増えていく。
が、魔法を持つ国と持たぬ国の格差は徐々に広がっていった。
しかし、それも先の科学技術への応用が可能であればの話。
現状では地球人の魔法では、魔女のそれには到底及ばなかった。
かと言って科学技術のみでも通用しない。
だが。
魔女が日本以外にはほとんど興味を示さないことも手伝って、世界は次第に静かに――
いや、元の状態に戻りつつもあった。
要するにクラツクニにさえ関わりあわねばいいのである。
各国をそれに応じた動きを見せ始め、再び新たな争いが起こり始める。
中には一発逆転を狙ってクラツクニへ侵略を目論む国もあった。
だが、それは手ひどい報復を受けて全て瓦解する。
魔法排除運動はあちこちで続いているが、クラツクニ自体には何の影響もない。
他国内部での誹謗中傷や密告が繰り返されているだけである。
そうこうするうちに。
時は流れ、日本で最初の魔法使いと呼べる女性たちが登場した。
魔法学校の卒業生たちだ。
やがて、月にクラツクニの旗と前線基地が建設されて……。




