20、スパイがいっぱい
20、
そういった海外の騒乱に対して、クラツクニのトップたる魔女はというと。
「で? 何でよそのことに我がどうこうせねばならん?」
終始こういう態度であった。
「いや、このクラツクニのせいで色々問題が起こってるわけです?」
何かしらアクションなり声明なりを出しても良いんじゃあないか。
山田氏はそう考えての提言だったわけだが。
「魔法のことでゴチャゴチャ揉めるのはその国の事情だろ。こっちが何かしたところで収まるようなものか?」
「被害を受けている日系人などのことを考えて、何かすべきじゃないですか?」
「何で?」
「何でって……」
「元をたどればこの国の人間かしらんが、今はもう立派にその国の人間なのだろう? そこに我が何か言ったところで何になる。それは、その国の問題だ。口出すことと違う」
と、魔女は手を振って面倒臭そうな態度だった。
それはそうかもしれない。と、山田氏も思わなくもない。
「大体、何と言って口出すんだ? 我が国の人間と先祖は同じだから、いじめるなか?」
「うーむ……」
「かえって火に油を注ぐだけと違うか? 我らと密接な関係ありと宣伝するようなものだ」
「いや、そうかもしれませんが……」
「しれないんじゃなくって、そうだろうが」
口ごもる山田氏に、魔女は呆れ顔だった。
「それとも何か? 今から攻め込んで日系人を救い出すか?」
「それは……」
過激というか、無茶苦茶だ。やれてしまうところがまた恐ろしい。
「ダメ、でしょうね。戦争になるから」
戦争になっても、現状ならば勝つことはできるのだろう。
しかし、それではもう完全に侵略だ。
かといって、これを放置し続けると言うのは山田氏としても心苦しい。
日系人のみならず、他のアジア人もとばっちりを受けているようなのだ。
ある国で白人青年に中国人のビジネスマンが射殺されるという事件も起こった。
「ここに直接攻撃できないから、アジア系にレッテルをはって噛みついてるんだな」
心底どうでも良さそうに魔女は言った。
しかし、この事態はやはり魔女のせいなのだ。
かといって、それをどうこうするべきだという具体案など山田氏にはない。
元が大して学も教養もない三流大学出での安サラリーマンである。
「お前は人道だか人命だかを考慮して言ってるんだろうがな?」
魔女はフッと指を振って、あるネット映像を山田氏の前に展開させた。
その内容は、アジアの一部で強烈な反日運動が盛り上がっている様子。
どうやらこれは反日をすることで、
「我々は日本人とは違う!」
ということを世界にアピールするつもりらしい。
「こんなののために労力を使う意味あるのか。少なくとも我にはない」
山田氏が何も言えずに黙っていると、
「それに我が国に亡命したいとほざく連中も数多くて困っているのだ」
と、魔女は様々な書類を空中に舞わせる。
亡命希望者にはあらゆる人種がいたが、中でもやはりアジア、日系が多いようだ。
「しかしちょっと調べるとこいつらほとんどネズミばかりだ」
「ネズミ?」
「スパイとか工作員とか言うのだったな、確か」
「そりゃあ大変じゃないですか!」
「まあなあ。しかし、まあおかげでよその情報が入ってくるので便利でもある」
「捕まえたスパイから聞き出すんですか?」
「というか、吸い出すんだな、頭から直接」
「それも魔法で」
「いかにも」
確かに魔女の魔法ならばそのくらいのはことは簡単だろう。
「それで捕まえたスパイはどうするんです?」
「まあ基本用はないからそのまま適当に処分するだけだ」
「処分……」
それはどうするんです、と具体的なことを聞きかけた山田氏であったが。
「…………はあ。そうですか」
聞けばまた胃に悪そうなことを知りかねないので、適当に受け流した。
「入ってくるのもそうだが、国内というか日本で外国のネズミになっているヤツも多いな」
「えっ」
スルーしようと矢先、山田氏はまた嫌なことを聞いてしまった。
どうやら日本人で外国のスパイになっている者も多いようだ。
「外国から入ってくるのは、まあ対処が楽だが国内のはちょっとだけ面倒だな」
「一体どういう連中なんです」
「まあ、色々だな。単なる金目当てだったり、それが世のためになると思ってたり」
「ははあ……」
中には自分がスパイだとまったく自覚をしていないのもいるらしかった。
「そういった連中はどうするんです」
「今色々とやってるところだ。捕まえて、見せしめに処刑しても良いんだが」
「それは、ちょっと……」
「まあ適当に泳がせて情報を吸い出すというのがスマートではある。それに」
「それに、何です」
「連中には大したことを知る力はないということだ。知ったところでどうにかなるようなものでもないし」
と、魔女はカラカラ笑うのだった。
「うーん」
山田氏は考えこんでしまう。
「しかし、あなたの弱点とかを聞き出そうとするかもしれませんよ?」
「あるいは、使い魔に対抗する手段とかなあ」
「そんなもの、あったんですか」
山田氏は驚いて、魔女の美しい顔を凝視した。
「そりゃあるわな」
魔女はあっさりと言った。
「一定量の魔力をまとわせた武器で攻撃すれば、我の使い魔といえど傷つく」
「そ、それをもしも他の国が知ったら、えらいことになりますよ」
「なるだろうな」
「だろうなって、今までのワンサイドゲームが一気にひっくり返るかも……」
「そうなったらなったで面白いじゃないか」
魔女の態度はあくまで気楽なものだった。
「しかし、ま。我の魔力に対抗するだけの人材を育成するには相当な時間がかかろうな」
人間の寿命じゃ無理だろ。ドーピングでもせんとな、と魔女は笑うのだった。
「それって、どのくらいですか」
「よほどの天才の持ち主でも、力が熟成するまで千年はかかるなあ」
そう言って魔女は、つまらん話よ、とのびをするのだった。
山田氏はもう何も言えない。




