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18、魔法の授業を見学す

 18、




 それは椅子も机もない広い部屋だった。

 真っ白な床と天井の部屋を十数人の乙女たちがいる。


 授業の様子を山田氏は若干拍子抜けして見守っていた。

 それは強制的に集められた生徒たちも同じだったかもしれない。


 リムネはぴょこぴょこと生徒一同の前に立ち、


「クラツクニからやって来ました、リムネと言いますぅ。皆さん、よろしくぅ」


 相変わらずの間延びする声で挨拶をした。

 それから彼女が始めたことは、おどろおどろしい魔術の講義でも、生贄を捧げるおぞましい儀式でもない。


「はい、それは背伸びをして……深呼吸~~」


 やっていることは延々三十分夏休みのラジオ体操な運動ばかり。

 生徒たちも変な子をしていたが、とりあえず逆らう様子はない。


 まあ、独裁者である魔女の命令を授業を受けているのだから、当然か。

 やがて体操が終わると、リムネは次には呼吸に関してアレコレ話し始めた。


 生徒たちが独特のリズムで呼吸を始めると、うむ、と銀髪の魔法使いはうなずく。

 それから、おもむろに杖を持ち上げた。


 ぽん、杖の先から透明の球形のものが出現する。

 2メートルくらいの高さに浮遊していた球は、やがてゆっくりと床に着地した。


「はい、それでは、これに入ってくれる人はいませんかぁ?」


 いきなりリムネはそんなことを言い出す。

 当然生徒たちは困惑して顔を見合わすばかり。


 ハッキリ言って胡散臭いし、怖いのだろう。


「誰もいませんかぁ。では、わたしが入りますねぇ」


 リムネは特に気を悪くした様子もなく、透明な球に近づいた。

 そのままスルリと彼女の体は球の中に入り込んでしまう。


 球は少し大きくなったようだが、割れることも破れることもなさそうだ。


「では、行きますねぇ」


 リムネが言うと、玉は彼女を内包したまま宙にふわりと浮きあがる。

 あっと生徒たちが声をあげた。


 ドラゴンだの何だのと凄まじいものを知っている彼女たちだが、やっぱり自分の眼でこんなものを見るのはショックがあるのだろう。

 球はリムネを入れたまま、ゆっくりと生徒たちの上を旋回する。


 しかる後に、またゆっくりと床に着地するのだった。


「はい。やってみたい人はいますかぁ?」


 球体から出た後、もう一度リムネは生徒たちに尋ねる。

 しばらくして、おずおずと何人かが手を上げた。


「はい、それではあなたから、順番にやってもらいますねぇ」


 リムネは穏やかな声と表情で生徒たちを指導する。

 やがて最初の一人が球体に入り、同じように空中を浮遊した。


 といっても、部屋の中をウロウロとするだけだ。

 速度は歩いたほうが速いだろうと思うほどにゆっくりである。


 どうやら球体は中にいる者に自由に動かせるらしい。


 やがて。


 旋回したり、上下したりとだんだん入る者によって動きが違ってきた。

 手を上げなかった者も、


「あの、私もいいですか」


 と、志願をしてくるようになる。


「はいはい。順番、みんなにやってもらいましょうねぇ」


 リムネは若干幼児をあやすような口調で言うのだった。

 そして、ついに生徒たち全員が球体に乗って浮遊する体験を終えた。


「ええ、これは飛行球と言って、簡単に言うと移動するための道具ですぅ。魔法力がかかっているので、日本語では魔法具と言うのが良いでしょうねぇ」


 リムネは球体を撫でながら、講釈をするのだった。


「これは初心者用ですので、制限をしてますがぁ。もっと早く飛べるものもありますぅ」


 最初はおっかなびっくりだった生徒たちは、だんだん真剣になっている。


「他にも徒歩などで移動しにくい場所を探索したりと、用途はたくさんありますぅ。魔法力をチャージすれば魔法を使えない人でも扱えるので便利ですよぉ」


 と、リムネは球体から手を放し、くいっと人差し指を持ち上げた。

 同時に球体がふわりと天井ギリギリまで浮き上がる。


「皆さんも微弱ながら魔法力がありますが、まだこれを一人でに扱うには不十分ですぅ。最初体験した通り、ほんの少し浮かんだり移動したりするのが精一杯ですねぇ」


 なので、とリムネは咳払いをした。


「これから皆さんにやっていただくのは魔力を高める作業とぉ、それを精密に操作するための練習ですねぇ。大変かもしれませんが、大事な基礎ですのでじっくりやっていきましょぉ」


 リムネの言葉に生徒たちは沈黙した。

 恐怖というよりも、状況をうまく捉えきれていないのかもしれない。


「あの先生……」


 一人の生徒が遠慮がちに手を上げた。


「はい、なんでしょぉ」


「あの、魔法を習って私たちはどうすればいいんでしょうか?」


「それは聞いてないですねぇ。何をしてもいいんじゃないでしょうかぁ」


 何をしてもいい、と言われても困る。

 事実生徒たちは困っているようだった。


「あの、魔法ってどんなことができるんでしょうか?」


「それは個人差がありますねぇ。女王陛下ならば大抵のことはできるでしょけどぉ」


「じゃあ、先生なら……?」


「わたしですかぁ? わたしもできることは知れてますねぇ。色々作ったりできますがぁ」


 リムネは少し考えてから、杖を掲げた。

 杖の先端から光が走り、一人の女子生徒を捉えた。


 と、女子生徒の来ていた服がふわりと輝き、白いシックなドレスへと変化する。


「こんな感じのことができますねぇ」


 リムネは相変わらずの眠そうな顔でそう言うのだった。


「ひゃあ……」


「すごい……」


 生徒たちはドレスの見事な美しさに目を輝かせ、総立ちになる。


「あの、こんな感じにもできたりします?」


 一人の女子生徒はタブレットに服の画像を出しながら質問する。


「私の髪、くせっ毛なんですけど、治したりとかは?」


 だんだん興奮気味になり、詰め寄り始める生徒たち。


「あああ~。みんな落ちついて? そういうことが自力でできるように、これからがんばっていきましょうねぇ?」


 リムネは生徒たちを抑えながら、若干焦っている。

 その後も講義は続くが、生徒たちの真剣さは最初よりも上がっていった。


 魔法を体得するにはまず魔力を操る力を得なければいけないらしい。

 しかし、これがなかなか大変そうだが、手品に毛の生えたようなことなら初心者でも多少はできるようなので、モチベーションは維持できそうだ。


 特別意識というのも働くだろう。


 ――しかし、これがどういう風に転んでいくか……。


 山田氏はなかなか安穏な気分にはなれないのであった。





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