17、魔女の弟子
17、
「そういうわけで日本に我の弟子を招くとするか」
唐突な魔女の発言に、山田氏はまた当惑させられることとなった。
「それ、どういう意味です?」
「どうも何も言葉のままだ。日本に我の弟子を招く。指導員としてな」
「弟子というと、つまりあなたが何かを教えているという」
「そうだ」
「いたんですか、そんなの」
「いちゃ悪いか」
「悪くはないですけど」
山田氏は嘆息した。
先のインタビューでは魔法を世に広めるという発言をして、物議をかもしている。
今回はキリスト教のみならずイスラムなどからも抗議する声が多い。
科学者たちは肯定的で色んな分野の人間が、自分も学びたいと声をあげていた。
「実際本当に魔法なんか使えるんですか?」
「我が使って見せているだろう」
山田氏の疑問に魔女は不思議そうな顔だ。
「そうなんですけどね」
しかし、とくかくで大掛かりで常識はずれな代物である。
魔法と言うレベルを通り越して神の奇跡みたいなものだ。
あるいは、ふざけたほどに発達した超のつく科学か。
「でもあなたはほら、人間じゃないですし……」
「まあな。でも元は多分人間だから、他の人間でも大丈夫だ。実例もある」
「実例って」
「我の弟子には人間に近い種族がけっこう多いのだ。だからな」
「ははあ」
よくわからない山田氏は曖昧にうなずくしかない。
「それでどんなかたを日本に呼ぶんですか。変なのは困りますよ」
「安心しろ。そのへんも考えてある。ものを教えるのがうまいヤツを呼ぶさ」
そういうようなわけで。
クラツクニ本土から、魔法の教師となる人材が呼び寄せられた。
といっても、魔女の転移魔法により一瞬で東京の空中城に出現するのだが。
やって来たのは、銀髪の若い女性だった。
「先生、おひさしぶりですぅ」
その女性は間延びする声で魔女に挨拶をし、にっこりと笑った。
癖のない銀のロングヘアに、金色の瞳。年齢は二十歳になるか、ならないか。
ただし魔女の弟子・魔法使いということで見た目はあまりあてになるまい。
白人種に近いように思えるが、これも実際どうなのかわからなかった。
「よく来たな、歓迎するぞ。こいつは新しい使い魔のヤマダだ」
魔女は笑い返した後、山田氏を指した。
「はじめまして。リムネと申しますぅ。よろしくお願いしますぅ」
女性は山田氏に愛想良く声をかけて、頭を下げた。
(うーむ)
山田氏はその姿を見て、密かに感心した。
魔女と同じく黒い服だ。ローブに近いが、別物であろう。
手に木の杖を持ち、頭に黒い三角帽をかぶっている。
魔女だ。というか魔法使いそのもの。見本みたいな格好。
これならばまだ魔女の格好のほうが現代の衣服に近い。
「ヤマダと言います。どうぞよろしく」
その後、遅れて山田氏も挨拶を返した。
「……ははぁ」
山田氏を見て、リムネは何か感心したような目つきでうなずいた。
「珍しい魂をお持ちですねぇ。元々は人間……?」
「おわかりで……」
「それなりに勉強をしておりますからぁ」
ギョッとなる山田氏と、いわゆるドヤ顔をするリムネ。
「それで先生。わたしはどういう感じで魔法を教えればよいのでしょう」
「あ、そうだな。いかん、あんまり考えていなかった」
うっかりしていたぞ、と己が頭を叩く魔女。
確かにそういう広報なども行っていない。インタビューで発言しただけだ。
それでも十分世の中にはインパクトを与えたのだが。
「まずは見込みのありそうなのを何人か引っ張ってくるか」
魔女の発言は物騒で、短絡的だった。
「それならちゃんと募集でもかければ、いくらでも集まるんじゃないですかね」
山田氏は、ため息まじりに無難なところを提案するのだった。
「悪くはないが………………。ふむ」
これに魔女は何かを考えるように顎を数度撫で、目を閉じる。
「そうだな。探査の魔法で魔力の資質があるヤツを探し、そいつに報せを送る」
この線で良かろうと、魔女は目を開き、むふふと笑った。
「じゃ、その間わたしはどうしていましょうかぁ? 少し時間かかるでしょう?」
リムネは杖を弄りながら、のんびりとした声で言った。
「部屋を用意させるから、そこで待て」
「はあい」
さて。それからしばらくして。
城内の来客用ホールに、十人近い女の子が集められることなった。
「……一日どころか一時間もかからなかったよ」
その状況を見ながら、山田氏は独り言をたれて目を見開くのだった。
「また強引なことしましたね……」
「電話やメールなどで報せを送った後、使い魔を迎えにやった。感激してたぞ?」
「まさかドラゴンをやったんじゃあ」
「おいおい。それでは肝を潰してしまうだろう。小柄なインプだ」
それならば驚きはしてもショックは少ないだろう。いやかなりショックだろうが。
山田氏が観察したところ、集められたのは全員若い女の子であった。
最年少は十歳くらいで、最年長は十五、六。総じてぽっちゃり型の子が多い。
「何か、少し太った子が多いですね……。これ意味あるんですか?」
「あるぞ。お前に詳しく言ってもわかるまいが、あるのだ」
山田氏の疑問に魔女は断言した。
まさか、太った者のほうが適正があるということなのか。
だが、それなら魔女やリムネの体型はおかしい。
リムネは細い薔薇の茎を思わせるものだし、魔女のほうはくびれのハッキリしたもの。
「まあ、体型自体はそれほど関係ないがな。だが、ある程度脂肪が多いほうが魔力を操る時に有利なのだ。初心者は特にな。例外があるが」
「まさか魔力って脂肪を燃焼させて生み出すんですか?」
冗談半分に山田氏が言うと、
「近いと言えば近い。脂肪に限らず余分なものを燃やす……これは比喩だが、とにかく魔力に変えて操るのが魔法の基本だ。それができんと必要なものまで消耗することとなる。例えば、自分の寿命とか。あるいは魂そのものとか」
恐ろし気なことを淡々と語る魔女。唖然とする山田氏。
それは一歩間違えれば、集められた少女がそうなるということでは。
しかし、抗議の言葉が発せられる前に、最初の授業が始まった。




