13、サバエナスことサキュバスたち
13、
それからしばらくして、サバエナスことサキュバスたちが日本にやってきた。
東京をはじめとした大都市、過疎気味の田舎。
いくつかの街を選んで厳選した者たちを選んで受け入れる形に。
もちろん批判もあったが、それ以上に未知の種族に対する好奇心も強かった。
滞りなく迎えの準備がすまされ、当日は盛大な歓迎会が開かれる。
そして、魔法陣のゲートをくぐってやって来た見知らぬ魔族。
一見すれば魔女の使い魔であるインプ型に似た容姿であった。
様々個性ある角をはやした、コウモリの翼の美女たち。
中には三十路くらい見えるものから、どう見ても子供のようなものまで。
大小個性は色々だったが、共通しているのは皆美しい姿であるということ。
魔女の意向ということもあり、日本人はまあまあ歓迎ムードだった。
特に男性陣は内心悪く思う者は少なかったと断言しておこう。
同時に女性たちの内心がどうであったかは、言わずが花。
向こうで十分な研修を受け、試験にクリアしてきただけあってか。
サバエナスたちの日本生活に支障はなく、すぐに馴染んでしまった。
ある田舎町では生徒数の少ない学校に転入する者もいて、男子たちの多感な心臓を無遠慮にドキドキさせることも。
とはいえ、目立った問題も起こらず、文化や言葉の違いも大きな摩擦を起こさなかった。
(心配することもなかったかな?)
状況を見守っていた山田氏も安心することできたのだった。
やがて時間は過ぎ――
クラツクニ本土から送られる取材のニュースや他国との外交などなど。
山田氏や魔女が諸事に時間を費やしていた矢先のことである。
問題が起こった。
サバエナスの移住したある街でのことだが……。
突如PTAなど保護者の一部がサバエナスに対する抗議を始めたのだ。
「どういうことだろ?」
山田氏がちょっと調べてみると、話はわりと単純で。
街の若い男子たちが軒並みサバエナスと恋愛関係になってしまった。
と、いうことである。
それなら別にどうということもないだろうが、問題は起こるべくして怒ってしまったことと言うか、ごく自然な流れと言おうか。
男子たちがサバエナスとの性的関係に夢中になってしまい、猿のようになってしまった。
ぶっちゃけると、こんなものらしい。
仕方ないと言えば仕方ないことなのだろうが、親としては放置できない。
「青少年の健全な育成に悪い!」
そんなことを言いながら、色んな所へ抗議しまくること多数。
これが色んな文化人やらマスコミやらにも広がって、排斥運動みたいなものなっていく。
面白いのは、以前国際交流がどうとか親善がどうのと言っていた連中が、サバエナス問題に関しては急に国粋右翼みたいになっていたことだった。
そのことはネットなどでも指摘されるが、本人は知らぬ顔。
本当ならば、こんなこと魔女の判断で一気に弾圧することも可能ではある。
「やってもいいが、それだといささかつまらんなあ」
魔女はのんきなことを言いながら、事態を静観している感じ。
それだから調子に乗ったのか、国会で問題にするという動きにもなってきた。
今の議員たちに魔女に物申す力はないのだが、長年の習慣というやつか。
だが、そんな運動を嘲笑うようにサバエナスは日本に溶け込み始めていた。
特に都会に住んだ者は風俗店で仕事を初め、その美貌とサービスの良さでたちまち大人気となって大金を稼ぐ者が多く現れる。
店としてもあまり手がかからず、お客を多く呼んでくれるサバエナスを喜んだ。
サバエナスは食事ができてついでに金が稼げるということで、一石二鳥。
というか、元々魔法を器用に操り、衣食住に金を必要としないのだ。
だから、多少安めの給料でも文句は言わない。
風俗産業界は、もっとサバエナスを呼べないか――とまで言い出す始末。
その効果があってか、クラツクニ本土への移住を希望する人間もかなり増えた。
形式上は開拓民のような立場であるが、
「向こうでは不便のないようにしてやるか」
と、専用の住居を魔女が造らせ、それも大々的に宣伝させる。
これが大当たりだった。
日本にあまり先行きがないと思った若者や職を失った人間などが好条件に惹かれて、相当数応募してきたのだ。
募集をかけてからそう日数のたたないうちに、第一弾の移住者がクラツクニに渡る。
同時にサバエナスの退去を申し立てる婦人団体などのデモも活発化した。
「まあ、今回は放っておくか」
と、魔女が放置したためか、全国ので沸き起こるデモ。
人数自体はそれぞれ大したことはないが、何せあちこちで起こるから始末が悪い。
中にはサバエナスが学校に行けないように道をふさいだり、悪質なものになると教師が妨害行為を行うこともあった。
さすがにそういう教師はすぐに退職処分となったが、なかなか勢いは消えない。
ついでとばかりに、クラツクニに併合されてからはほったらかしになっていた漫画などへの規制を叫ぶ声も飛び交い始める。
もっとも魔女はこれに対して、
「却下」
と、一蹴して、現状維持を命じた。
こうなるといくら婦人団体や著名人が喚こうとどうにもならない。
出版社へ抗議したり、作家に嫌がらせをするのが関の山であった。
それでもあまり過激なものは速攻でお縄をちょうだいすることになるので、暴走することもなかったようである。
さて、サバエナスへのデモがだんだんと鎮静化していったの同時に、クラツクニ本土からの情報もさらに入ってくるようになり、世間の目はそっちに向かっていった。
オーヤシマ地域の他にも西の大陸や北海などなど。
地球よりも広大な世界は人々の冒険心やロマンを駆り立てずにはおかなかった。
とはいえ、危険生物の多く住む場所も多く、取材できる範囲はわずかだったが。
「それにしても、デモには驚きましたね」
「なかなか面白かった。我の支配がもう少し弱ければもっと面白いことになったのにな」
失敗したかもしれん、と魔女は物騒な感想を言うのだった。
「しかし、ネットでもテロみたいなことを呼び掛けているグループもあるようですよ。日本の純血を守るとかどうのと言って……」
「その逆にサバエナスを教化して吸精をやめさせようというバカな連中もいるな。狼を草食化させようと言ってるのと同じだ」
「無理なんですか?」
「無理だな。少なくとも人間には」
「じゃあ、あなたなら……」
「できるぞ。しかし、何でそんなことをせねばならん。誰も損をしとらんぞ?」
「男性が気軽に性的欲求を解消されると困る人もいるようなんですよ」
「知ったことか――」
「言うと思いました」
「それは良かったなあ」
投やりに言う山田氏に対して、魔女はクスクスと笑うのだった。




