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12、移住希望者

 12、




「それで、希望者というのはどういう人たちなんです?」


「種族的には人ではない。サバエナスという、まあわかりやすくいえば魔物だ」


「……はあ」


 まあ、そんなものだろうと考えていた山田氏は驚きもしない。

 むしろ魔界クラツクニに住んでいるのだから、魔物というほうが自然である。


「しかし、日本に来て何をしたいんですか」


「砕いて言うなら、ま、婿探しだろう」


「は。むこう?」


「婿だ、婿。男を探したいのさ」


「というと、つまり日本人と結婚とか……」


「結婚とか知らんが、男を探して求めているのは事実だ」


「何か、こう生々しい話ですねえ。そのサバ何とかという人? は、女性が多いと」


「そうではないさ。女しかいない。そういう種族だ」


「はい?」


 冗談のような魔女の言葉に、山田氏は一瞬言葉を失った。


「魔物だからそういうのもをいるんでしょうけど……でも、それだとどうやって子孫を増やすということをするんです? いや、そもそもそんな必要ない? とか?」


「数を増やす繁殖期には、よその世界から男を召喚するのだ」


 そのほうが手っ取り早いからな、と魔女。


「それって、魔法ですか」


「ああ、その程度のことなら我が手を貸さずとも連中はできる」


「まさかこの世界の人間をポンポン召喚してるんじゃあないでしょうね?」


 嫌な予想をして、山田氏は首をすくめた。


「そこまでは知らんが、行方不明になった者の何人かは魔界に召喚されたのかもしれんなあ。ま、これまた我の知ったことではないが――」


「いや、それ大問題でしょう」


 『拉致』というやつではないか。山田氏は気が遠くなる思いがした。


「サバエナスはオーヤシマをはじめクラツクニのあちこちに大勢住んでいる。今回話を持ってきたのはオーヤシマにいる連中からだ。時期に他の地域からも声が出るかもしれぬ」


「それでその移住希望を聞くんですか?」


「さて、それが思案のしどころよ」


 と、魔女は顎をなでながら言うのだった。


「サバエナスどもも我の支援なしでそうそう召喚魔法など使えるわけではない。何しろ異なる世界から召喚するわけだから、色々と手間や魔力消費も大変だ」


 我ならば簡単だが、再々手を貸すのも面倒くさい、などと魔女は笑う。


「だから、男を召喚できぬ時は省エネモードで暮らしたり、長く眠っているのだ」


「余計な消費を抑えるため、ですか」


「そういうことだ。しかし、男がたっぷりいる領土が新しくできたとなればそこに行きたいと思うのは、これまた自然な要望であろう」


「そりゃそうですが、そのサバエナスって人間を食べたいしないでしょうね」


「ない。ただし、ある手段で人間から栄養を受け取る種族ではある」


「それは?」


「人間で言うところの性交渉だな。それで人間の精気を吸うのだ。エネルギー効率は相当良いのだけれど、何しろ貪欲なところもあるからな」


「まるで……サキュバスですねえ……」


 山田氏は首をひねった。

 ゲームなどに登場する夢魔あるいは淫魔とでもいうべきか。


「ああ、オーヤシマ以外の土地ではそういう呼び名をするところもあるな」


 この返答に山田氏は絶句した。


「え、つまり、そのサバエナスというのは……」


「だからサキュバスという土地もある。猫を他の国でキャットというようなもんだ」


 山田氏は困ってしまう。


「しかし、ですよ。その風紀とか色々……問題を起こさないとも限りませんよね?」


 山田氏が想像するような性質の種族ならば、だが。

 よし、と魔女は手を打ちながら、


「じゃあ、どこで試験的に住まわせてみるか。逆にこっちに日本人を移民させるという方法もなくはない。募集をかけてみるとしよう」


「どこかの土地でも開拓させるんですか?」


「そういうのもありだな。ま、サバエナスたちのいる土地なら歓迎されるだろう」


「餌として歓迎されるんじゃないでしょうね?」


「人聞きの悪いことを言うな」


 心外そうに言う魔女だったが、何故か視線は合わせてくれなかった。


「まあ、どっちにしろあなたのやりたいようにやるんでしょう」


「そうだが、そればっかりでもつまらん。やはり外部からの意見がないとな」


「こっちの意見が外部の意見になるんですか?」


 使い魔の身としては、山田氏も立派な魔女側の存在である。


「お前にはそういう部分も期待して使い魔にしているのだよ。それに我も気まぐれだけでこのことを言っているのではない」


 魔女は手を広げながら続ける。


「長い間滋養不足であったがサバエナスどもの要望を無碍にはできんでな。それにだ、日本の男どもにとっても悪い話ではないのだぞ」


 と、魔女は空中に手を振った。

 すると様々な女性を映した映像が浮かび上がり始める。


 ヤギや牛、羊のような色々な角をはやしたコウモリの翼を持つ美女たち。

 皮膚や髪の色は様々だが、いずれも美しく蠱惑的な女ばかりだった。


 映像越しでも、男なら思わずフラフラとなってしまいそうな迫力と妖気である。


「精気だけじゃなくって命を吸われるってことはないんですか」


「過ぎればそういう危険もある。そのへんは奴らも心得ているさ」


 せっかくの栄養補給だしな、と魔女は笑った。


「まあ色々個性もあるでしょうから日本に送るのはできる限り素行の間違いのない者を厳選ということなら。でも女性からの反発も怖いですよ?」


 こんな魅力的な人外女性が増えては普通の日本人女性も穏やかではなかろう。

 だが、山田氏の意見にも魔女は自信満々だ。


「ヤマダよ、そこも考えてある」


 そう言うなり、何かの書類が山田氏の前に。


 内容は、


 ・子供を持つ家庭には毎月一人当たり○○いくらの援助をする。

 ・独身女性は母体保護のために病院などで優遇する。

 ・育児、特に出産の費用は国が負担する。


 大体こんな感じのものだった。


「国民は喜ぶかもしれませんけど、できるんですか?」


「ああ、軽い軽い。我の魔法や使い魔を使えば金もかからん」


「それを言っちゃあおしまいですけど……」


 クラツクニの支配が滞りなく、不満も少なめなのは魔法という反則的な力――

 これにかかっている。


「しかし、他の国との国交も結んでないのが多いし、不満もゼロとは言えませんよ」


 やっぱり不安な山田氏。

 それに反社会的な人間への苛烈な刑罰も良し悪しの声がある。


 とはいえ、以前の日本と比べて良い悪いと言えば…………なのだが。





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