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決戦、バギャン再び

「はじめまして、クラフタ=クレイ=マエスタ侯爵」


 名乗りを邪魔されたマリスが改めて挨拶をしてくる。どうやら俺の襲撃はとっくに気付かれていたみたいだ。


 それにしても黒紳士とレットは記憶に新しいがまさかバギャンまで出てくるとは。

 いや、異世界人が相手ならコイツが出てきてもおかしくないっつーか、寧ろ今まで出てこなかったのがおかしいくらいか。

 しっかし、コイツ等全員グルだったのな。


「僕の名前はマリス=グレイアと申します」


「体の名前じゃなくってお前の本名を教えて欲しいね」


 俺の言葉にマリスがニヤリと笑う。


「おや、知っていましたか」


「異世界人、いや、この世界を捨てた元古代人だってな」


 マリスが目を丸くする。どうやらそこまで気付かれているとは想定外だったみたいだ。

 一瞬だが、バギャンも動きが止まっていた。


「驚きですね。誰に聞いたんですか?」


「さあね。それよりもマリスの体を返してくれないか? そいつを返して欲しい奴がいるんだ」


 マリスはゆっくりと首を振って拒否する。


「申し訳ありませんが、お返しする訳には行きません。貴重な体ですから」


「って事はやっぱお前等には帰る体がないんだな?」


 かねてから抱いていた疑問を口にする。

 バギャン達が、自分達の魂を封じたアイテムを装備した人間の体を乗っ取るのは既に分かっている。

 だがそうすると疑問なのは、本来の肉体は何処に行ったのかだ。

 なぜ自分の魂を、アイテムなんかに封じ込める必要がある?

 そこから導き出される推測は一つ。

 答えは『返るべき体が失われている』だ。


「……そこまでご存知でしたか。ですがそれならこの体をお返しできない理由もご理解頂けるでしょう?」


 マリスの前にバギャンが立ちふさがる。黒紳士とレットは左右に展開して俺を威嚇する。


「魔力欠乏症の流行で病気の無い異世界に逃げた、だろ?」


「ええ、その通りです。ですがその試みは失敗しました。異世界に移住した我々の祖先は暫くの間平和に暮らしていました。そしてその間に文明を発展させ、控えめに言っても楽園のごとき生活を送っていたのです。ですが、何時からか、魔力の生成が出来ない子供が生まれ始めました。その病にはあらゆる薬が効かず、次々と子供達の命が失われました。私達は恐怖した。かつて祖先が異世界に逃亡する事で克服したと思っていた病が再び我々に牙を向いてきたのですから」


 確かに、魔力欠乏症って言うのはウイルスが原因じゃないからな。どちらかといえば遺伝子性の疾患みたいなものだ。異世界に転移してもこの世界の人間の遺伝子を持っていればいつか誰かが掛かる可能性は〇じゃあない。

 他にもこの世界の魔力欠乏症とは違う原因の、似たような症状の病気という可能性も否定できないか。


「魔力欠乏症にかかって生まれてきた子供達は、その精神を魔法具に写され、魔法具内のネットワーク世界で暮らしていました。その世界の名をルードといいます」


 ほほう、バギャンの言っていた国とはそういう事か。

 しかし電脳世界で生活とかSFだなぁ。


「けどそれならその魔法具の中の世界で十分暮らして行けたんじゃないのか?


 マリスが首を振る。


「それは外に人がいればの話です。魔力欠乏症の流行で、健康な人間はドンドン減っていき、遂には肉体を持った人間がいなくなりました。初めの内はゴーレム達が魔法具世界を管理していましたが、ゴーレムも何時までも持つモノではありません。そして遂に魔法具世界の管理に必要なゴーレムが故障してしまったのです」


「何で予備を用意しておかなかったんだよ」


「予備も破壊されたからです」


 破壊された?


「偽りの世界に生きるのは自然の摂理に反すると、魔法具内の世界を否定する者達がいたのですよ」


 あー、過激派かー。

 異世界にも居るのね、そう言う人達。


「そうして世界の維持が困難になった我々は、かつて祖先が住んでいた世界に帰還する事を決意しました。過去に住んでいた世界なら人間も我々と同じ体をしている。それなら肉体を乗っ取っても不備は生じないと判断したのです」


 それそっちの都合じゃん。


「しかしそうして帰還しようとした世界には、過去に存在しなかった結界が張られており、巨大なネットワーク世界を構築する魔法具を使っての帰還が不可能でした」


「何!?」


 世界結界が過去には存在しなかった? どういう事だ?

 てっきり世界ができた時とかに神様が創ったと思ってたんだが、実際にはもっと最近に作られたのか。

 また師匠達に聞く事が増えたなぁ。いや、それについては陛下もだな。


「それは一体どういう事なんだ? 結界は誰が作ったんだ?」


「分かりません。ただ、私達の技術では結界に小さな穴を開け、そこから個別の魔法具で少人数を送り込むのが限界なのです。更に魔法具の生産速度には限界があり、こちらの世界の人間を乗っ取ってこちらでも魔法具の量産を行わなければならないのですよ」


 その為に帝国の貴族達の体を乗っ取ったのか。

 魔法具を量産する為の資金を貴族達の財産から支払わせ、おかしな厨二病をでっち上げる事で成り代わりがばれない様にする。そして魔法具をアクセサリと偽って帝国中にばら撒けば、帝国はそのうち異世界の住人に乗っ取られた人間であふれかえるという訳だ。


「ドラゴンカイザーはどうする?」


 そこまですればドラゴン達が黙ってはいないだろう。

 あの松ぼっくりの実力は師匠達以上だ。だとすればこいつ等といえど敵に回したくは無い筈。


「貴方なら既にご存知なのでは? 彼等とは過去に不可侵条約を結んでおります。帝国ついては彼等が動かない範囲での行動に留めていますのでご安心を」


 やっぱそうか。それにしても、ドラゴンが動かない範囲なんてモノがあったのか。

 確かに連中、直接的には関与したくないみたいな事言ってたしなぁ。


「けどどうやって? 異世界人に国民が乗っ取られたら、連中だって放っておかないと思うぞ」


 いやマジでな。どのへんが動かない範囲なんだろうか?


「新しい肉体が決まるまでの仮宿として使わせてもらうだけです」


 そういう事か。

 あくまで帝国は魔法具量産の為の工場。

 帝国の住民という車で移動して、気に入った人間がいたらそいつに乗り換えるのがこいつらの真の目的って訳だ。


「死刑の決まっている罪人の体とかじゃ駄目なのか?」


 一応平和的な方法を提案してみる。

 本来だったら速攻でマリスを捕獲して勝負を決めるつもりだったが、バギャンが居るんじゃそうも行かない。

 黒紳士もその実力は未知数だ。少なくとも弱くはないだろう。

 レットも以前戦った時はそれ程でもなかったが、強力な魔法具を装備している可能性もある。

 それに異世界人がどれだけの数居るのか分からない以上、こいつ等を排除しても帝国の外にいる連中までは対処できないし、ドラゴン達も帝国の外には興味を示さない。

 もし外に逃げた連中が復讐してきたら、俺は24時間テロリストに狙われるようなもんだ。

 昨日まで味方だと思っていた連中が突然乗っ取られていたなんて事になったら目も充てられない。

 ただ敵対するだけならともかく、乗っ取った人間の体を使って俺を罠に嵌めようとする可能性もあるからだ。

 もしかして、そこまで理解させる為に丁寧に説明してくれたのだろうか?


「その様な不浄の者の体などに入りたくありません」


 俺の言葉にマリスは憤慨した様に拒否の言葉を投げつけてくる。

 まぁ分からんでもない。


「平和的な交渉はできないのか?」


 交渉できる情報が引き出せないかもうちょっと粘ってみよう。

 何しろ戦いになったらマリスの体を傷つけず回収できるか分からないからな。


「私達の目的は、ネットワーク魔法具が完全に機能を停止する前に、同胞達の精神を魔法具に移動させこの世界に迎え入れる事。そして同胞達の体を用意する事です」


 移住、いや、帰還が目的か。アリスの言った通りになったな。


「ところで、仮にその試みが成功して帝国の外の人間の体を乗っ取ったとして、その後はどうする? 肉体が老いて死んだ後は? そのまま肉体と一緒に死ぬつもりか?」


「まさか。新たな肉体を得るだけです」


 OK、コイツ等は敵だ。永遠に他人の肉体を乗っ取って、好きに生き続けようとか無いわ。

 いつか俺とアルマの間に子供ができたら、その子供や孫達も狙われる可能性が滅茶苦茶高い。

 平和的に解決できないのなら力ずくで解決する事も覚悟しないとな。

 最悪マリスの体は薬で治せば良い。

 けど問題が一つ。

 黒紳士がそうだった様に、異世界人が既に国外に脱出しているとしたら、こちらとしては対策の取り様が無いぞ。

 和平での解決が望めないとなると長期的な戦闘になるのは必然だ。

 マジで面倒くさい事になってきたな。

 こういうのがイヤだから国を留守にして旅行に出たってーのによー。


「質問は以上ですか?」


「戦わずに和平を結ぶ方法は?」


「私達の邪魔をしない事です」


 うーん、無理。

 俺の態度から敵対するしかないと悟ったバギャン達が三方に散って俺を囲む。

 マリスは黒紳士の後ろで待機したままだ。

 俺は宝物庫から七天夜杖ではなく、手榴弾のような道具を取り出した。


「お前達を放置は出来ない」


「では戦闘です」


 黒紳士が頭に載せていたシルクハットから大量のゴーレムを吐き出す。

 バギャンとレットが左右から突撃してくる。

 俺はバックステップをしながら二人の攻撃を回避。

 そして両手に持った手榴弾を地面にたたきつける。

 たたきつけられた手榴弾から閃光が放たれ、直後に煙が噴出す。


「!? げほっげほっ!」


 レットが目と口を覆いのた打ち回る。

 閃光手榴弾に目潰しと麻痺薬と睡眠薬をブレンドした暴徒鎮圧用のスタングレネードだ。

 これでレットは使い物にならない。

 黒紳士とマリスも閃光にやられて目を覆っている。

 すぐに二人の下にもガスが届くだろう。


「効かん!!」


 煙の中から飛び出したのはバギャンだ。


「前回の敗北を教訓に空気清浄機能付きのガスマスクを始めとした対毒機能を搭載した。もう薬の類は通用せんぞ!」


 そりゃご立派。だが強くなったのはそっちだけじゃない。こっちだって色々と強化してるんだ。

 俺は七天夜杖と大星剣メテオラを装備してバギャンを迎え撃つ。


 バギャンが抜刀し、七天夜杖と切り結ぶ。

 大星剣メテオラが星を生み出し後ろにいるマリス達に攻撃を放つ。

 さぁどう動く?


「ゴーレム達、皆を守れ!!」


 何と!

 黒紳士が呼び出したゴーレム達が身を呈してマリス達をかばう。


「ご老体、姫を頼む。私はこの少年を抑える!」


「ごほ、確かに。ここは任せた方がよさそうだ。この様な不覚をとるとは年はとりたくないものだ。二人共、撤退しますぞ」


 ゴーレムがマリスとレットを連れて下がろうとする。


「逃すか!」


「させん!!」


 バギャンが俺の前に回りこんで道を塞ぐ。


「この先へは行かせん」


 バギャンが剣を構える。

 コレは来るか!?


「レーザーセーバー」


 バギャンの剣が周囲の光を奪っていく。

 やはりそれか。

 この次に来るのはバギャンのスキル『固定』だ。アレを喰らったら俺と言えど抵抗できなくなる。

 というのは前回までの話だ。

 今回の俺は違う。

 測定のスキルはバギャンが『固定』のスキルしか持っていない事を教えてくれる。

 俺はスーツに仕込んだ防御魔法を連続で起動させる。その全てが上級防御魔法だ。

 更に大星剣メテオラの中にある防御スキルも発動。


 周囲の光が失われ、一帯が夜になる。

 光る物はバギャンの鎧の宝石と、眩く輝く剣のみ。

 バギャンの双眸が輝く。


 そして俺の体は動かなくなった。


「バギャン! ブレイクゥ!!」


 一点に収束された光が縦一文字に走る。

 光の刃が俺を守る漆黒のスーツを切り裂く。

 そして核を持たずに放たれたエネルギーは、己を維持できず崩壊する。


 爆散。


 帝宮の一角が文字通り吹き飛んだ。

 爆発の余波で帝城を形作っていた壁や柱が天高く吹き飛んでいく。

 爆風が抜け、辺りを覆っていた煙が霧散してくると、爆心地に銀色の鎧が姿を見せる。


「前回の借りは返したぞ」


 最大の奥義を放った事でバギャンの体がよろめく。

 それは最大の力を放っていた。

 己が纏う超技術の鎧のエネルギー、そして乗っ取った肉体の魔力、新たに用意した剣に蓄えられた力。

 それらの全てを放出して究極の「先に殴って倒す」を実践したのだ。

 全ては前回の敗北を繰り返さない為に。


 しかし、それは全て知られていた。

 進化した『測定』のスキルはバギャンの肉体の能力も、武器も、鎧も、全ての力を理解されていた。

 だから俺は受けた。

 バギャンの攻撃に間違いなく耐えられると確信したから。


「残念でした」


 煙なかから現れた俺を見てバギャンが驚愕する。


「馬鹿な!?」


「スパークカッター!!」

 

 バギャンが動揺した隙を狙って魔法を炸裂させる。

 再び爆音が鳴り響く。


「さて、捕獲するか」


 バギャンは地面に倒れていた。金属の鎧を伝って内部の肉体が麻痺しているのだ。

 俺は手短に『切断』のスキルを発動してバギャンの鎧を解体する。

 『測定』のスキルを発動させ、頭痛を我慢しながら鎧を調べるとすぐにバギャンの本体である魔法具を発見した。俺は魔法具を取り出し宝物庫にしまう。ついでにバギャンの装備も放り込む。

 後は元バギャンの中身だが、こっちは善人かどうかは今の段階では判別できないので転移装置で馬車屋敷の牢屋に放り込もう。

 後はゴーレムに世話をさせるか。

 だがいつまでもここにいたら人がやって来る。

 一旦別の場所に移動してからマーカーを置いて、それからコイツを置いてこよう。


 ◆


 元バギャンを置いてきた俺は『領域』スキルを発動させて帝城内の人の動きを確認する。

 多くの反応があちこち動き回っている。コレは騎士団の予備役だろう。

 偵察用の動物型ゴーレム達からは異世界人に乗っ取られた連中に逃げる様子はないと連絡が来た。

 俺はゴーレム達に二、三命令を下してからマリス達を追う事にした。

 襲撃はこっそりとやるつもりだったんだが、バギャンの必殺技が余りにも派手すぎたから予定変更だ。

 あとはマリス達だが、連中はゴーレム達が配置されていない場所へと逃亡していた。


 そう、ゴーレム達が入った事の無い場所、皇族の逃亡用地下通路だ。

 それは以前バギャン達がルジオス王国を襲った時に陛下達が隠れた場所と同じ物だった。

 俺はゴーレム達の案内で秘密通路のある場所へと案内される。

 装備を整え戦闘準備は万端だ。


「さて、それじゃあ逃げた連中を追いかけますか」

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