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アルマ先生の答え合わせ。キュウリにハチミツかけた風授業。(甘いとは言っていない)

エメラルダとの交渉が終わった後、気を取り直した俺は改めて少女達と話し合う機会を設けた。

人前で言い難い理由のある娘は後で個別に相談に乗る事にする。


俺の元から速く解放されたい少女達は見入りが良いが危険だったりキツイ仕事をして貰い、俺の元で終身雇用を望む娘はミヤやアリスの訓練を受けて事務仕事や技能職についてもらう予定だ。

 もちろん個人の適正もあるのでその辺りはこっそりと練習を兼ねて制限を課した『看破』スキルで調べてみようと思う。アルマ達に見た派生クラスというのも気になるからな。


 俺が助けた34人の少女達の望み。


 これが意外にも俺の元で働き続けたいと言う娘が7割を超えていた。

 孤児や訳ありの家庭で故郷に帰る場所の無い娘だったり、単純に俺の提示した雇用条件に涎を垂らして受けた。(比喩では無く実際に垂らした娘もいた、物理的に尻尾を振った娘も居た)


 そしてこれまた当然ながら速く解放されたいと言う娘も居た。

 こちらは単純に冒険者や旅人だったり、とにかく自由になって奴隷にされた事を忘れたい娘、そして帰る場所のある娘だ。アリア、イルス、ウル達もそうだ。オーナは俺の所に残りたいと言ってきた。


「貴方の気配はとても興味深いです。しばらくはお傍に居させて頂きます。とりあえず100年程」


 それ一生やん。

 とまぁ、そんな娘達が2割。

 だが未だに答えを出してくれない娘達が一割。

 その一割の娘達はほぼ全員が貴族の娘達だった。

 彼女達の家は没落している訳じゃなく、ちゃんと存在している貴族だ。

 逆に没落した貴族の娘達は俺の元で働く事を望んだ、没落した事で家族を失ったり借金のカタに売られた事でお金の大切さを理解したらしい。

 で、一割ちゃん達については本人達や地元民しか知らないような情報を教えてもらってから、通信機でミヤに連絡、転移装置で現地に飛んでもらって、偵察用動物ゴーレムで情報収集を行い確認を取ったからほぼ間違いない。

 以前から無差別に転移装置のマーカーを鳥ゴーレム達にばら撒かせていたおかげだ。いずれは世界中のあらゆる場所に転移できるようにしたいもんだ。その為にも、一回の転移距離を伸ばしたい所だ。

 っと、話が逸れた。

 そう言う訳で俺は答えを出さなかった少女達と個別で話し合う事にした。


 ◆


 話し合いは俺の部屋で行なう事にした。 本来ならアルマと二人で暮らす部屋なのだが、少女達との話し合いの間は邪魔にならない様にと席を外してくれる事になった。

 えらい気を利かせてくれるが、正直アルマの真意が分からなくて戸惑っている。

 本音を言うと本心を聞かせて欲しいのだが、しかしアルマは信じて欲しいと言われている訳で……


「それでは私はシュヴェルツェさんとお祭りに行ってきますね」


 今日は一日シュヴェルツェと一緒に水晶祭を楽しんで来るみたいだ。

 ああ、そういえばシュヴェルツェの今後の目的も確認しておかないとな。

 人間世界を満喫したら森に帰るのか、それともこのまま外の世界で暮らすつもりなのか? いっぺん聞いておかないと。


「クラフタ様」


 出かける前にアルマが俺に声を掛ける。


「どのような答えを選んでも、私はクラフタ様のお傍に居ますから」


 その言葉を聴いた瞬間、


「あの、クラフタ様?」


「あ、いや、その……」


 俺は反射的にアルマの腕を掴んでいた。


「どうかなされたのですか?」


うぁぁぁぁぁぁぁぁ! やっぱ駄目だ!!


「あの……教えてくれないか?」


「何をですか?」


 首をかしげて問い返してくるアルマ。


「いや、だからさ……エメラルダの事だよ、なんで彼女が俺の嫁になるのを許可したんだ?」


 正直エメラルダに無茶振りをしたのは、彼女が次期皇帝である以上冒険は出来ないと踏んだからだ。

 皇位継承者としての自覚のある彼女は個人では無く、国を率いる者として判断を下す筈。

 だから俺の言葉から、自分が次期皇帝である以上それを捨てねば望みは無いと理解してもらう意図が有った。心を読める彼女ならそのくらい容易に分かる、向こうの真意が分からない以上、上手い話は話半分の価値しかない。エメラルダには皇帝の座、俺は見返りとしての財宝と言うビジネスライクな関係を築き上げる、その予定だった。

 その予定はアルマの許可によって脆くも崩れ去った。

 結果として俺はエメラルダを第二夫人として受け入れる事がほぼ確定した。

 だが一体何を考えてアルマは俺が側室を持つ事を許したのだろうか?

 さっきまでは嫉妬からあんなにも禍々しい魔力を放っていたというのに……


「信じてくださらないのですか?」


 アルマが傷ついた顔を見せる、これは甘んじて受けなければならない痛みだ。

 俺が他の女の方をフラフラと向いた所為なのだから。


「いや、その……スマ……」


「なーんて、冗談ですよ」


 てへっとか擬音が付きそうな軽い感じでアルマが笑顔を見せる。


「……はい?」


 それはどういう意味ですか?


「突然私があんな事を言って驚かれた事でしょう。そしてその疑問を解消しない事にはもやもやとした気持ちが晴れないと、そう言う事ですね?」


「あ、うん」


 サクサクと話を展開させるアルマさん。おじさん若い娘のテンションに付いていけないなぁ。


「私がエメラルダ様を第二婦人とする事に賛成した理由、それは……」


 アルマの顔から微笑が消え、氷のように冷たい視線が俺に突き刺さる。


「それは?……」


 何だこの空気? まさか胸を押し付けられてデレデレした事と何か因果関係が?

 実家に帰りますフラグか!? さっきまでのはフェイントとか!?


「最後の最後にクラフタ様と添い遂げる事が出来るのは私以外に無いからです」


「へ?」


 その答えは、俺の考えた最悪のとは180度反対の言葉だった。


「ど、どういう意味だ?」


 アルマは肘に手を付いて俺に解説を始める。


「良いですか? クラフタ様は不死者です。つまり普通の人よりもとても長生きです」


「ああ、そうだな」


「で、エメラルダ様を始めとした今回の貴族の令嬢たちですが、彼女達は皆人間、もしくは人間と大差ない寿命の種族です」


「そ、そうなんだ……?」


 正直この世界の種族の平均寿命はよく分からん。


「ですから、いずれ皆さんはクラフタ様よりも先に逝かれます」


 そう考えるとなんだか悲しいな、自分だけが一人生き続けるんだから。


「ですが私は違います。私はクラフタ様の魔力を受け、クラフタ様と同じ不死者になったのです。

 つまりクラフタ様と最も長く添い遂げる事ができるのはこの私だけなのです!!」


 どやぁ!! とアルマが胸を張って説明を終えた。


「……」


 正直驚いた。まさかアルマからこんな前向きかつ逞しい台詞が聞けるとは。

 立派になったなぁ。


「ですのでクラフタ様が貴族の務めとして側室を持つ事に異論はございません。

 帝国がいかに強大であろうとも人間の統治はせいぜい数百年。この件で王国が帝国に飲み込まれても私達が生きていればいずれ帝国は新たな王国になります。そう言う意味でも父様は文句を言われないでしょう。責任ある上位貴族と平民の違い、それは10年100年先を見据える事が出来るか否かです。

もっともこれはお父様の言葉ですけれど」


 えー、つまりエメラルダを食って未来の帝国をのっとってしまえと?


「エメラルダ様と縁を結べば帝国とは親戚の関係になります。

 そうなれば王国を侵略する事は帝国の外聞的に愚策となり、同盟国として手を結ぶあたりがお互いにとって無難な線として考えられます。エメラルダ様との婚姻に関しても皇女を救った異国の貴族とのラブロマンスと言う事で話題性は十分です」


「いや、そこで話題性は関係ないんじゃ?」


「いえいえ、実は大有りです。今頃帝国の重鎮達は大パニックですよ。王族で一番ましな皇女が行方不明になった責任を誰に取らせるかで」


 なんとなく見えてきました。


「責任の所在をうやむやにするか最小限の処罰に抑えるために、ドラマ性を盛り上げる事で世論の視線の矛先を変えるって訳か」


「はい、そして皇位継承権を持ったライバルの方々は政敵が自分からドロップアウトする事を知って大喜びで賛同してくださるでしょう。既にドラゴンカイザーから皇帝に即位する事を許可されている事も知らず」


 なるほど、エメラルダ突然の帰還、その直後即座に俺との婚約発表を行い大々的に宣伝した後にドラゴンカイザーからの許可を公表して皇帝に即位するって訳か。


「でもそんな事をしてドラゴンカイザーの怒りを買わないのか? 理由は分からんが帝国を存続させる事を重視してるんだろ? あと皇帝の意思完全無視しているよな」


「皇帝の意思は龍の試練をクリアした時点で何とでもできます。ドラゴンカイザーの機嫌に関しましてはご本人がドラゴンである事を考えれば何とかなる目算が高いので大丈夫だと思います」


「目算?」


「はい。ドラゴンの方はお宝が大好きだそうですので」


 いや、それは俗信であってだな。


「ストームドラゴンが財宝を持っていたのは偶然で全てのドラゴンが宝が好きなわけじゃないぞ」


「いえ、それに関してはエメラルダさんに先ほど確認を取りました。上級のドラゴンほどお宝を溜め込む趣味があると」


 ああ、さっきのもしょもしょの時に聞いたのか。


「ドラゴンの王が喜ぶ宝っていわれてもなぁ」


 むこうにとっちゃ普通の金銀財宝なんて珍しくも無いだろう。

 神器は珍しいけど他にも存在するみたいだし、俺は金は有るが貴重な宝はあまり無い。

 ストームドラゴンの財宝に貴重な品はあったが、それでも役不足だろうなぁ。


「だったら作ってしまってはいかがですか?」


 はい?


「ドラゴンの王が喜ばれる新しい財宝をクラフタ様が作り出すのです!!」


 おっとー、無茶振りが来ましたよ。


「まさか、さっきの目算って言うのは……」


「はい、クラフタ様ならドラゴンの王でも満足のいく宝を作り出せると確信しているからです」


 む、無茶言うなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 と、心の中で絶叫しつつも嫁の前で無理とは言えないチキンな俺。


「先ほども言いましたが人間の統治には限界があります。ドラゴンが手を貸してもいずれ破綻する日が来るでしょう。ドラゴンが何故帝国に手を貸すのかは分かりませんが、帝国以上にドラゴンの気を引く宝を見せれば交渉の余地は出来ます。最終的に二つの国が一つになってもドラゴンの望む形で国が残れば良しとしてくれるかもしれません」


 その辺りの交渉は当事者であるエメラルダに任せるとの事だった。

 何気にエメラルダも無茶振りされてるなぁ。


「だからクラフタ様は遠慮なく側室を持てるように帝国を物にしちゃってください、そうすれば将来の私達の未来も、そしてこれから生まれる子供達の未来も安泰です!」


 アンデッドの先輩である俺よりも未来を見据えたアルマの将来設計。

 正直俺よりも向いてるんじゃないだろうか? それともアルマの言葉通り、これが本物の上級貴族と平民上がりの俺との違いなんだろうか。

 アンデッドになった事を受け入れる所か完全にメリットとして捉えられていらっしゃる。


「あ、でもエルフさん達のような長寿族の方はミヤさんやアリスさん達だけにしてくださいね!」


 おっと、抜け目ない。


「っつーかアリスって長生きするのか?」


「さぁ? でも魔王と言う位なのですから長生きなのでは?」


「まぁそれもそうか」


 ドゥーロの名前が無かったのは幼いからまだライバルとして認識されていないからなのか?


「そういえばシュヴェルツェはライバル認定しなくていいのか? アレ確実に長寿だと思うぞ」


 俺の言葉にアルマはあさっての方向を向く。


「あの方は放置しておくのが一番良い気がします」


 正解である。腐女子であるシュヴェルツェは適当に本でも買い与えておけば無害っぽい。

 腐女子を知らないアルマも、少なくとも俺が本気で好きになるような相手では無いと無意識に悟ったのだろう。


 俺の従者として立場をわきまえているミヤは受け入れ、他の長寿ライバルさえ居なければ良しとかホンマ逞しくなったわー。


「では私はシュヴェルツェさんとお祭りに行ってきますので、クラフタ様は頑張ってくださいね」


 さりげなくとんでもない宿題を俺に押し付けたアルマはさらりと祭りに出かけていった。

 ドラゴンの王が喜ぶような宝とかどうやって作れば良いんだよ。

 こうして、悩みが晴れた筈なのに新たな悩みに頭を悩ませる事になったのだった。 

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