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作戦会議

 捕まった奴隷達を見つけた俺達だったが、その中に帝国の皇女がいた為に彼女達を解放する前に自分達の立ち位置を決める必要ができた。

ただの旅の商人兼冒険者として接するのか、それともルジウス王国の貴族として接するのか。

耳に付けたイヤリング形通信機のスイッチを入れてこっそりアルマに語りかける。


『右の部屋で陛下に指示を請うからシュヴェルツェを頼む』


『分かりました、シュヴェルツェさんはこちらで足止めしておきますね』


『頼む』


 ◆


 右の部屋に戻ってきた俺は宝物庫から通信機を出して陛下に通信を送る。

正直かなりいい時間なので気付かれない可能性が高いのだが……


『こんな夜更けにどうしたのだクラフタよ?』


 あ、出た。


『お休み中の所申し訳ありません陛下、火急の報告があってご連絡させて頂きました』


『かまわん、今は休憩中だ』


 こんな夜中に休憩中? なにか緊急の会議でもやっていたのかな?


『これ! 今大事な話をしておるのだから席を外しておれ』


あー……


『うむ、すまんな、続けよ』


『……実はエルーカ国でヴィクツ帝国の王族と思しき女性を保護しました』


『……詳しく話せ』


陛下の言葉に従い事のあらましを告げる、熟考しているのか少しの沈黙の後、陛下が話し出す。


『なるほどの、では本人かの確認はまだしていない訳か』


『はい、幸い眠っていますので先に陛下の指示を仰ごうかと』


『正解だ。良いかクラフタよ今は素性を明かすな、皇女と分かったなら可能な限りお前が帝国に送り届けるよう努力しろ。

帝国に戻る事で皇女に危険があるなら極秘裏に我が国で保護することも考慮する。皇女が安全に帝国に戻れるのなら、その際に正体を明かせ、帝国に恩を売る』


『承知しました』


 陛下の方針は安全に恩を売れか。


『ああ、それとエルーカ国には皇女の事は内密にせよ、確実に手柄を奪われるでの』


『幸いエルーカ国は王が崩御され王位継承者達の間で内戦状態です。皇女がエルーカ国に保護を求めるのを思いとどまらせる理由になるでしょう』


『では皇女が特定の王位継承者の後ろ盾になる事で保護を得る事を阻止せよ、ほかの貴族に対しては正体を明かさ無ければ好きにしてかまわん』


『はっ』


『報告は以上か?』


『ええと、もう一つ問題がありまして……』


『ゆってみよ』


『元獣ダークフェニックスの親子を発見いたしました』


『……もう一度頼む』


『元獣ダークフェニックスの親子を発見いたしました』


『……』


 絶対向こうで頭抱えてる。

そのまま水晶の森で出会った際のいきさつを伝える。


『なぜお主の下には姫と元獣が集まるのだ?』


『それは私にも……』


 更に言えばアンデッドも集まります。


『元獣も気になるが遺跡を調べに来た異世界人も気になるの、その遺跡調べておけ』


『承知いたしました』


『あと、元獣は好きにさせよ。うかつな事をして機嫌を損ねても不味いでの』


この世界において元獣は唯一高貴な魔物と呼ばれる特別な存在、迂闊に手を出せば周辺国家に介入の口実を与えかねない。

まぁウチに一匹いるけどな。


『ああ、あとアルマは元気かの?』


 その後、アルマについての報告という名の親バカ会議を何とか短時間で終わらせた俺は、これまた何故か疲れた顔をしたアルマと合流した。

どうやら俺の見ていない所で苦労があったしい。


 ◆


「それで、これからどうするんですの?」


 探索に飽きたシュヴェルツェが早く帰りたいと言外に伝えてくる。


「当初の予定通り水晶にされた人を元に戻して奴隷を解放する、ただしムド達を糾弾するのは奴隷達にやらせる」


「私達が助けた事にしないんですか?」


 まぁ、アルマの疑問ももっともである。


「俺達が関わるとどうやってここを見つけたのかとか聞かれそうだからな、後ろめたい事をしているわけじゃないがあまり腹を探られたくないのも確かだ」


「それもそうですね」


「そうなんですの?」


 事情を知っているアルマはすぐに納得してくれたが、仲間になったばかりのシュヴェルツェにはピンと来なかったみたいだ。


「色々事情があるんだよ」


「成程、つまり貴方達は……」


 俺達との会話で何か思い当る事があったのかシュヴェルツェが絶壁を逸らせて俺を指さす。

うーん周りに居るのが基本デカいのばかりだから新鮮な気分だなぁ。


「エチゴノチリメンドンヤですわね!!」


 あ、これ絶対意味わかってないわ。


「聞いたことがありますわ、ニホンでは素性を隠して善行をなす時にエチゴノチリメンドンヤの隠居と名のるのでしょう?」


 割と正解である。


「ええ、分かっていますわ、その名を聞いたら分かっていても分からない振りをするのがマナーなのですわよね」


 コイツに間違った日本の知識を教えた奴は一体何者なんだろうなぁ。

なんというか関わりたくない人種のような気がヒシヒシとしてきたぞ。


「そして隠居はオシオキという名目で悪党を手籠めにするまでが流れなのですわ」


 いやそれはおかしい。


「その話もっと詳しくお願いします?」


 話を聞いていたアルマが妙に元気よく手を上げる、いけない、その道は茨の道だ。

なんだか妹の好きそうな話になってきたぞ。

ああ、そういえばアイツもよく友達を家に連れてきて腐女子談義をしていたっけな。

お願いだから俺を変な目で見るのはやめていただきたいものだ。

……まぁ、アイツの俺を見る目はもっと別の……


「……分かっているのなら話は早い、シュヴェルツェも自分の素性はむやみに明かさないでくれよ」


「分かりましたわ。でもそうするとクーがあの二人を手籠めにするんですの? さすがにあれはちょっと……」


「しないからな」


「「しないんですか(ですの)?」」


 いやいやいや、何を考えてるんだお前達は。


「そんな事より、水晶にされた人達を元に戻そう」


 二人の追及を振り切り倉庫においてある水晶像の元に向かう。


 ◆


「この魔法具で人間に戻すんですよね」


 アルマが俺の持っている魔法具を見ながら呟く。


「ああ、復元ボタンを押せば元に戻るらしい」


 赤と青の二つのボタン普通に考えれば前側の赤いボタンが変身魔法をかけるボタンで、後ろ側の青いボタンが復元ボタンだろう。

俺は魔法具の電球? のような面を水晶の彫像に向け青いボタンを押した。

魔法具からは青い光が発せられ水晶の彫像を照らすと水晶の彫像に色が付いていき、やがてその姿は生気を感じされる肌色になった。


「……き、きゃぁぁぁぁぁ!!!」


 するといきなり元に戻った女性が悲鳴を上げた。

どうやら魔法具で変身させられた時に意識が失われていたようだ。

彫像になったから意識を失ったのか、それともこの魔法具を使われると自我がなくなるのか? どっちなんだろう。

まぁ彫像になった時にも意識があったら絶望で発狂していたかもしれないから不幸中の幸いといえる。


「落ち着いてください、俺達は貴方達を助けに着たんです」


可能な限り優しい声音で女性に話しかける。


「え? あ、え? 私あの男に変な光を当てられて……何? 何がどうなってるの?」


自分が今までどうなっていたのか覚えていないらしく軽いパニックに陥っているみたいだ。


「大丈夫ですよ、貴方をここから解放してあげます」


「え……解……放……? 解放って……本当? 本当にここから出してもらえるの?」


「ええ、皆さんをここから出して差し上げます」


「で、でも私、ど、奴隷……」


 奴隷だから逃げられないって言いたいのか、この世界魔法があるから奴隷が主人に抵抗できないように何が仕掛けがしてあるのかもしれないな。

つっても俺は奴隷について何も知らんからなぁ、一度調べたほうが良さそうだな。


「それも何とかなります、だから安心してください」


 実際の所この国は政情不安定だからムド達が犯罪を犯していたからといって彼女達が解放されるという保証はない。

 まぁ最悪俺がこっそり保護すればいいんだがな。


「あ、貴方は一体?」


見た目子供の俺がなぜ自分を助けてくれるのか理解できず問いかけてくる。


「ただの旅の商人ですよ」


「え? 商人?」


「ええ、商人です」


 そう言って残りの彫像も人間に戻していく。

元に戻した人達も最初の女性と同じような反応だ。

慌てずゆっくりと話して気持ちを落ち着かせる。


 最初に助けたのはエリー、典型的な借金のかたで奴隷にされた平民らしい。

その後に助けた女性は4人、アリア、イリス、ウル、オーナ、彼女達は野盗につかまって奴隷にされたらしい。アリアが商人の娘でイリスとウルは護衛、オーナは商隊に便乗していた旅人らしい。


「皆を代表してお礼を言わせて貰います。クーさん、助けていただいて感謝いたします。」


そう行ってアリアが前に出て礼を述べてくる、どうやらアリアがリーダーに当たるようだ。


「いえいえ、たまたま関わっただけですよ、お気になさらず」


「本当ならお礼をするべきなのでしょうが、私達の荷物は全て奪われてしまったので何も差し上げることができなくて本当に申し訳ありません」


申し訳なさそうにアリアが頭を下げてくる。


「気にしないでください、謝礼を求めてやったわけではありませんから」


「貴方は不思議な方ですね」


とそこでオーナが会話に加わってくる。

 オーナは腰まで伸びた長い紫の髪をしており、頭には耳まで隠れる帽子をかぶっていた。

衣装はアイヌ的な民族衣装でスカートの丈も長い、ただ胸はすごいでかい、俺が出会った中で最大級の大きさといえる。


「不思議……ですか?」


「ええ、貴方の気配は太陽の息吹と墓地の静謐さを感じさせます、まるで相反する二つの相を併せ持っているよう、とても興味深い」


 おお? 不思議キャラというか、なんだかこっちのことが見透かされているような変な視線だ。

何だろうな、彼女は俺の何かに感づいているような、そんな気持ちにさせられる。


「貴方は一体何者?」


そう言って顔を近づけてくるオーナ、顔と一緒に胸も近づいてくるので顔が当たるより先に過去最大級に突き出ている胸が俺に接触する。


「おおぅ!」


思わず声が出る。


「クーちゃん?」


アルマの声が冷たい、いやいやいや、浮気じゃないですよ、事故です事故!


「さ、さぁ! 残りの水晶にされた人達も元に戻そう!!」


「逃げました」


「逃げましたわね」


 このままでは色々と不味いことになると悟った俺は、慌てて右の部屋に出て水晶の彫像にされてる人達を助けに戻るのだった。

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