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ペンギンとウマ

ラストに消し忘れた文字が残っていたので削除いたしました。

「私と共に卵を暖めてくださいまし!!」


少女は言った、『卵』と。

ダークフェニックスの巣の片隅にある小さな部屋、そんな怪しい場所に住む正体不明の少女からの衝撃的な申し出。

そして元獣は人間に変身できる。

真っ黒である、少女の着ている服の様に真っ黒だ。


「あー、確認させてもらいたい事があるんだけど」


「クェェェェェェ」


「おおっ!?」


少女に確認しようとしたその時、部屋の外からマイクで拡声したような大ボリュームで鳥の鳴き声が響き渡った。考えるまでも無い、ダークフェニックスの鳴き声だ。


「なんだ一体?」


「拙いですわ、気付かれましたの! 直ぐにここから脱出しますのよ!」


「お、おい」


状況が分からず戸惑う俺達を放置して少女は紙の束を掻き分けて部屋の奥に進んでいく。


「ここから外に脱出できますわ、急いで!!」


少女が進んだ先には小さなドアがあった、子供サイズの小さなドアだ。


「なんだか分からないけど外に出られるのなら従ったほうが良いんじゃないかな?」


レドウは少女に従う事に賛成の様だ、まぁ彼の場合早く町に帰りたいだろうしな。

俺としても成体の元獣と戦うのは避けたい。


少女に従って小さなドアに入る、そこは細長い通路になっていてずっと奥まで続いていた。

ドアを閉めると真っ暗になるので灯りの魔法具で周囲を照らす。

するとそこは意外にも綺麗に整備された道だった。


「急ぎますわよ」


少女に促されて奥に進んでいく、灯りの魔法具で照らしても光は途中で途切れてしまい果てが見えない。


「狭いなー、あ痛っ」


子供である俺達には問題ないが、唯一の大人であるレドウにはこの通路は狭いようだ、何度も頭をぶつけている。


「もう少し歩いたら出口がありますの、そこまで我慢してくださいまし」


そう言われた俺達は大人しく少女の後ろに従って通路を歩いていく、


「なぁ、一体なんで逃げ出したんだ?」


「おか、ダークフェニックスは異物の存在に敏感ですの、巣の中に人間がいれば直ぐに気付かれますわ」


自分は異物で無いと言外に語っているんですけど、やっぱりこの少女の正体って……


とはいえ今は逃げている最中、出口が分からない以上余り少女を刺激しないほうが良いか。

こうして通路を右に曲がり左に曲がり坂を下り坂を上がりようやく出口とおぼしきドアに辿り着く。


「出口ですわ」


「これでやっと頭をぶつけずに済む」


さっきから何度も頭をぶつけていたレドウが歓喜の声を上げる。

ドアを開けると日の光が差し込んでくる、外はもう夕方だった。


「ずっと暗い場所にいたから眩しいな」


「でもとっても綺麗です」


アルマの言うとおりだった。

夕日に照らされた森の水晶がキラキラと輝き夕暮れの光を乱反射している。

これは凄いな、魔物さえいなければ観光名所として繁盛するだろう。


「そうだ水晶! まだ足りないんだった」


レドウが慌てて手ごろな大きさの水晶を探してあっちこっち動き回るが直ぐにへたり込んでしまう。


「ダメだ、どれもこれも属性石になってる」


「ここって森のどの当たりなんだ?」


落ち込んでるレドウを尻目に少女に現在地を尋ねる。


「このあたりは森の外れですわね」


ああ、それじゃ水晶は無いわ、外周にある水晶は大半が採掘され尽くしているらしいからまた森の奥に戻る必要がある。

とはいえ、そろそろ夜だ、夜に魔物と戦いながら採掘するのはぞっとしない、負ける事は無いだろうが今はレドウがいる、無理は禁物だ。レドウに見つからない様に隠れながら宝物庫からタブレット風のプレートを取り出す。

これは馬車のマーカーを確認する為の受信機だ、受信機を起動すると画面が光り赤い光点が灯る、これが現在位置で東に少し離れた位置に青い光点が灯る、ここが馬車の位置だ。

浮島の研究所で新たに観測した地図データをインストールしてあるので町から森の距離を見て馬車までのおおよその距離が予測できる。

馬車の位置はここから約30分ってとこか。


念のため先まで歩いてきた通路の片隅に転移マーカーを配置して置く。

ここは後できっと来る事になるからだ。



皆の所に戻ってくるとレドウは未だに水晶を探していた。


「暗くなりますから一端馬車に戻るべきです、水晶を探すのは翌日にしましょう」


「……確かに、暗くなったら魔物が活性化するから明るいうちに戻ったほうが良いか、ここからじゃ馬車の場所も分からないし急いだほうがいいね」


「じゃあ行きましょう」



「な、何だアレ!?」


レドウが素っ頓狂な声を上げる。


洞窟の出口から馬車を目指して出発した俺達は適当に歩いている振りをしながらレドウを誘導し馬車に辿り着いたのだった。


そこには……


「ウ、馬が二本足で立って魔物を殴っている!?」


レドウの言うとおり俺の馬車を引いていた馬が襲ってきたのであろう魔物達を両の蹄でボコボコにしていた。

その姿はまるでプロボクサーの様で高速のジャブを放って魔物達を打ち倒してゆく。

そこに馬の5倍はあろうかという大型の魔物が襲ってくる、青い宝石の体をしたザリガニだ。

サバでも食ったんだろうかと言いたくなるほど青い。


「あ!アレはブルーロブスター! この森でも五指に入る危険な魔物だ! 馬が危ない!!」


感覚が麻痺してしまったのか、レドウは馬が二本足で戦っている事には突っ込まなくなっていた。

どれ、ちょっと鑑定するか。


『ブルーロブスター

 サファイアの甲殻を纏ったロブスターの魔物。

 肉食で大変危険。

 甲殻を傷つけずに採取すると大変な価値の宝石として取引される。

 身はやや大味だが美味い』


「『勁』で攻撃しろ! 傷をつけるな!」


馬に対して即座に命令をする、これは金になる。そして今夜の晩飯だ。

馬は俺を見ると頷いて腰を落とし腕を引いた構えをとる。

馬の肩からヒジ、手首、そして蹄へと魔力が流れてゆく。

馬の後ろ足の接する地面が陽炎を立ち上らせ魔力が収束して蹄と地面との間の接地面がスパークした。


その瞬間ハサミを突き出してきたブルーロブスターをロケットのごとき勢いで走り出した馬が回避する。

馬は前傾姿勢になり二本足で地面を跳躍するように踏み込み駆ける。

ブルーロブスターが反対のハサミで2撃目を放とうとするが馬は既にハサミの間合いの内側、無理に攻撃をすればブルーロブスターは自分を傷つけてしまうほどに接近していた。


「ヒヒィィィィィン!!」


馬が前足の蹄をブルーロブスターの腹に押し当てた瞬間、全身の魔力がブルーロブスターに向かって放射、余剰魔力が後ろ足をアース代わりにして大地に放出し後ろ足の蹄がスパークする。

ブルーロブスターの体が宙に舞った。

馬は気絶して落ちてきたブルーロブスターが傷つかないよう蹄でそっと受け止める。


馬が行なった攻撃、それは中国拳法で有名な発勁を模した攻撃だ。

障害物の向こう側を攻撃する様にプログラムした魔法術式で、俺が作ったゴーレム馬に内臓してある兵装の一つだ、ビームも撃てるよ。


「ヒヒィン!」


俺に対して任務完了とばかりに蹄を向けてくる、恐らく親指を立てたサムズアップをしているつもりなのだろう。


「ご苦労様」


「ヒヒィィィィン!!」


馬を労うと誇らしげに嘶きを上げる馬。


「・・・馬・・・・・・」


「ヒヒィン?」


状況に流され続けたレドウがポツリと呟くとようやく部外者がいる事に気付いた馬は慌てて馬車に戻って接続具を器用に繋げ直してから四足歩行に戻った。


その姿を見ていたレドウは頭を抱えながらグネグネとのた打ち回りやがて言った。


「あれは馬なんだよね」


「ええ、馬です」


頭にゴーレムってつく馬だけどな。


「馬って二本足で立って戦う生き物だっけ?」


「父が遠方の国の商人から買った馬なんです、向こうの馬は武闘派だそうで」


「そうなんだ・・・・・・異国の馬って凄いんだね・・・」


許容量を超えてしまったのかレドウはそう言うモノだと思い込む事にしたようだ。

まぁそのほうがこちらにとっても都合が良いからほっとこう。


「ここだと危ないからもう少し森の外に出て野宿をしよう」


「……そうだね、正直もう少し水晶が欲しいから明日の朝に水晶を採掘して、そしたらまっすぐ町まで戻ろう」


パニックから回復したレドウが賛成したので馬車を森の外に出してから野宿の準備を始める。

大きい石を円形に組んで簡易かまどを作りその中に薪に偽装した火を起こす魔法具を置く。

この魔法具は魔力を与えてキーワードを唱えると発火する仕組みだ、魔法具なので普通の薪と違い何度でも使えるし火力調整も可能という家計に優しい仕組みだ。


「アルル、水を頼む」


「はい、ウォータースフィア」


アルマが水魔法で出した小さな水の弾を鍋に入れてもらい、更に町で買っておいた野菜とブルーロブスターの切り身を追加して火にくべる。

作りかけのスープを一口飲んでみたがイマイチ味が薄かったので濃い目の味付けをした魚の干物を出汁にして味付けを調整する、どうやらブルーロブスターの切り身の味は淡白なようだ。

ついでにバターを取り出してこれまた町で買っておいたパンに切れ目を入れてパターを塗りこむ。

そうしてスープが暖まったら皆で夕飯を頂く。


「頂きまーす」


「暖かい食事はありがたいねぇ」


「これが人間の食事ですの」


「冷めないうちにどうぞ」


全員が思い思いに食事を口にする、特別美味いわけじゃないが暖かい食事と言うのはそれだけで美味く感じる。


「なんですのコレ!」


おや?少女のお口には合わなかったか?


「美味し過ぎますわ! 人間はこんな美味しい物を毎日食べていますの!?」


いやーどちらかといえばそんなに美味くは無いんだけどねー。


「これなら人間の世界も中々悪くないと言えますわね」


食事がお気にめした少女はお代わりを三倍してようやく満足してくれた。


「人間最高ですわー」


これでアリスの魔王料理を食べたらどうなってしまうんだろう。

文字通り食の奴隷になってしまうのだろうか? 料理漫画的な意味で。



食事を終えた俺達はお茶を飲みながら雑談に興じていた。


「そういえば君の名前を聞いてなかったな」


「名前ですの? そう言うものは殿方から名乗るものですわ」


ふむ、まぁ聞いた方から先に名乗るのは礼儀か。


「俺はクー、こっちは妻のアルル」


「アルルです、よろしくお願いします」


「僕はレドウだよ」


「私の名はシュヴェルツェ! ドイツ語で闇と言う意味ですわ!」


ブホッ!!!


「キャァァァァッ!! き、汚いですわ! 一体なんですの!?」


「ド、ドイツ語!?」


「そうですの、最も荘厳な言語を用いる遠い異国の言葉だそうですわ。とある旅のお方に名付けていただきましたの」


ドドドドドドイツ語で闇とかコイツはクセェぜ!! プンプン匂う。恐らくダークフェニックスだから闇なのだろうが、これは洞窟の部屋の中で言っていたあの方とかいうヤツの仕業に違いない。

腐女子全開の発言といい、どう考えても日本人の仕業だ。

正直頭が痛くなってきた、マックスのおっちゃん、カイン、リリス、日本人が関わると碌な事が起きない。今回もあの方とか言うヤツが騒動の原因になるんだろう。

それはさておき、気になる事が……


「えーっと、シュヴェルツェ……さん?」


「シュヴェルツェで良いですわ、王子様」


「あー俺もクーで良いから」


「はい、クー」


語尾にハートマークがつきそうなニュアンスでシュヴェルツェが俺の名前を呼ぶ。


瞬間激痛が走る!


「ッ!」


「どうしましたの?」


「い、いや何でも」


激痛の正体、それはオレの尻をつねるアルマだった。

これは嫉妬なのか? 嫉妬なのか?

だが当のアルマは平然とした顔で俺の横に座っている、この若さでポーカーフェイスを身に付けるなんて恐ろしい子!!

いやまぁ、アルマは小さい時から病の苦痛を知られないように気を使っていたみたいだから寧ろ本心を悟られない様にするのに長けているのは当然なのかもしれない。

そう考えるとオレの尻をつねるのは俺にだけは本心をさらけ出すという信頼の証なのかもしれない、そう思おう。

尻が痛い。

アルマの機嫌を伺うためでは談じてないがアルマを抱き寄せ頭を撫でる。

すると体に掛かる体重が増していき尻の痛みが和らいでいく。


「な、何ですのコレ? 私見せ付けられてますの? 正妻と愛人の超えられない壁なんですの!?」


そもそも愛人ですらない。


「ああ、気にしないでくれ、ただのスキンシップだから」


只のと言った瞬間、痛みが蘇ったが直ぐに消えた、コエー・・・・・・


「ところで君に聞きたい事があるんだ」


「なんですの?」


「君のいた部屋、アレは昔から在った物なのかい?」


「私の部屋ですの? 確かにあの部屋は私が生まれた時からありましたわ、それが何か?」


と言うことはあの洞窟は人工的に作られた建造物の一部で元々何かの施設だったのかも知れないな。

そしてそんな施設が危険な魔物がウヨウヨする場所にある理由といえば。


「君の言うあの方と言う人物は君の部屋、そしてその奥の通路を調べに来たんじゃないかい?」


俺がカマをかけて聞くとシュヴェルツェは目を大きく見開いてオレを見る。


「何で分かりましたの?」


「色々とね」


分からいでか、今までの経験から言って面倒事の起きる時は必ず古代魔法文明の何かしらが関わっていたからだ、恐らくあの洞窟も古代人が何らかの目的を持って作った施設なんだろう。


「君のであった人間、恐らく女性だろうが。その人物は何を求めてこの森に来たんだい?」


「……貴方、一体何者ですの?」


俺の矢継ぎ早の質問にシュヴェルツェが身を硬くして警戒する。

ちょっと急ぎすぎたか、だがやってしまった事は仕方が無い、このまま質問を続けるのみだ。


「同じような物に関わって大変な目にあってね、ソレを求めてやって来た連中に迷惑をかけられたんだ。

だから君の知っている人物が同じ人物でないか気になってね」


「そう、ですの……、そう言うことなら」


完全に信頼してくれた訳じゃなくて納得出来ないことも無い理由だから一応受け入れたといった所か。


「私の出会った方はニホンと言う国から来た方です」


「聞いたことの無い国だなぁ」


何気に聞いていたらしいレドウが会話に加わってくる。


「とても器用な人達が多い国で、日夜様々な創作活動に明け暮れているそうですわ」


「いいなぁ、一度会ってみたいな」


レドウは水晶職人として異国の職人の技が見たいのだろう、だが間違いなくシュヴェルツェの言う創作活動とはレドウの考えているモノとはベクトルの違う創作活動だろう。


「私の執筆活動もその方の影響ですのよ」


だろうな。


「その方は古代の遺跡について調べていると言っていましたわ」


学者ってことか。


「そして私の住んでいた洞窟も古代の遺跡、天の玉座と言うモノかもしれないと」


「っ!」


「どうかされましたの?」


「いや、別に」


天の玉座、それは俺が受け継いだ研究所と同じ魔法の力で空を飛ぶ島。

だとすればその人物が望むのは恐らく古代の技術だろう。

また迷惑なヤツが騒動を引き起こすのだろうか?


「その人が来たのって何時ごろ?」


「去年の夏ですわ」


意外に最近だな。


「それで、成果はあった訳?」


オレの疑問にシュヴェルツェは首を横に振る。


「分かりませんわ、でもここで知りたい事はすべて調べ終わったと言っていましたわ」


なんとも玉虫色の回答だ、果たしてお目当てのモノはあったのだろうか?

どちらにしろ後であの洞窟は調べなおしたほうが良さそうだ。



夜、食事も終わり明日の為に皆が寝静まった頃。


「……」


暗い森の中から複数の影が現れる。

魔物ではない、鎧を着込み武器を構えた姿、明らかに人間だ。

彼らは無言で馬車を囲む、馬車の外には誰も居ない、全員馬車の中で眠っている。


リーダーと思しき男がハンドサインで指示を出すと全員が動きだす、馬車の中に襲撃を仕掛けるつもりだろう。


「サイレントボール」


手にした魔法具が起動する。

サイレントボール、半径50m圏内の音の振動を止め強制的に無音状態にする魔法具。

浮島の研究所にあった資料に載っていたモノだ、元は工事現場の音を消すためのものだったが魔法使いを無効化できる危険なシロモノでもある。

今回は前者、戦闘の音を消す用途で使用する。


『無力化しろ』


イヤリング型の通信機を使って思念で馬に命令をする。

周囲から音が無くなった事に動揺し警戒を始めた襲撃者達だったが時既に遅く、背後から襲ってきた馬によって瞬く間に意識を刈り取られていった。

……自分で作っておいてなんだが馬強くね?

この馬は俺が作った最新型ゴーレムなのだが、荷物運びだけでなく戦闘もこなせるように通常のゴーレムよりも強化してある。

今も襲撃者達に無慈悲なマシンライクで冷徹な右ストレートを叩き込んでいる。

二本足で立って襲ってくる馬に襲撃者達は恐慌状態に陥り襲撃どころでは無くなっていた。

蜘蛛の子を散らす様に逃げ出す襲撃者達だったが生憎と最高時速200キロを叩き出す馬に追いつかれて殴り倒されていった。


そしてとうとう最後の一人が二足歩行する馬によって打ち倒されたのだった。

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