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黒い純愛

ダークフェニックスの巣とおぼしき洞窟、そのさらに奥、大量の紙と本に囲まれた部屋、そこに居た黒い少女はじっとオレを見つめていた。


「貴方、人間ですの?」


「ああ、君は違うのか?」


「そう、人間ですの・・・・・・」


目の前の少女の気配が濃くなる、明らかに人間の発する気配じゃない。

これはマズったかな?この少女が人間の姿をしていた所為で無意識に油断していたのかもしれない。

もしもの時の為に大星剣メテオラに封じられたスキルの中で密室で使用できる戦闘スキルをピックアップし指輪型のアイテムボックスから痺れ薬をコッソリと手の中に出す。

だが少女の反応は俺の想定外の物だった。


「キャー!! 人間ですわー! 人間!! それもオス、いえ男の子ですわ!!!! とうとう来ましたのね私の王子様が!!!」


「は、はぁぁ!?」


予想と180度反対の方向に少女が反応を示したのでどう対処したものか分からなくなる。


「まさか人間の幼生態が来るとは想定外でしたけれどあの方から頂いたウスイホンにはショタコンと言う子供との恋愛もありましたからアリですわよねアリ!!」


無しにして下さい。


なんだ? このどこかで見たようなリアクションは、懐かしくも関わりになりたくないこの空気……そうだ、この空気、俺は知っているぞ、それは日本の、あの世界だ。


その名は


「ネットのスレ住民のリアクションだ!!」


この異常なテンション、明らかにオタクとかネラーとかいったそっちの世界の住民の反応にそっくりだ。いや、この少女の反応は間違いなく『腐女子』だ。

いったい何故こんな所に腐女子が?

俺はハッとなって近くにある紙の束を手に取る、その文字は見たことも無い文字だったが中級言語読解スペルを発動して解読する。

その恐るべき内容、それは意外にも恋愛小説だった。

ただしそのジャンルは多岐に渡り、想像できる限りのありとあらゆる恋愛が書かれているのではないかと思われた。

これ以上は見てはいけない、正気がゴリゴリと削られる音を聴きながら紙の束を戻して少女に、凄く嫌だが、話しかける。


「君は一体何者なんだ? こんな所で何をしているんだ?」


キャーキャー言っていた少女はオレの声で我に返ったらしく慌ててこちらに向き直る。


「これは失礼いたしましたわ、私初めて殿方と出会ったのでついついはしゃいでしまいましたの」


男と会うのが初めて? と言うことは外から来てココに篭ったか閉じ込められたわけじゃなくて自分の意思でここにいたのか?


「君はココに住んでいるのか? それとも誰かに攫われてここに閉じ込められたのか?」


自分で言っていてそれは無いと確信するが少女はその設定がお気に召したようでトリップを始める。


「誘拐されて王子様が助けてくれる! なんて素敵な展開、あの方から頂いたヴィダルサースン物語のヒロインの様ですわ!!」


よし帰ろう。


これ以上この生き物に関わると何か致命的にマズイ気がしてきた、少女に気付かれないようにそーっと忍び足で外に向かう。

だがオレの決断は少々遅かった。


「その通りですのー!! 私悪い悪党に捕まってココに捕らえられてしまいましたの! 助けてください王子様ぁー!!」


「うぉぉぉぉぅ!!」


少女が後ろからタックルしてきて地面に押し倒される。


「あら? これはもしかして好都合?」


何がだ。


「報酬は前払いでお支払いいたしますわ、お・う・じ・さ・ま」


ヤバイ、コレヤバイ女や。

だがそこに救いの女神来る。


「クーちゃんに何をしているんですか!!」


いつまで待っても帰ってこない俺を心配に思ったのかアルマとレドウが部屋の中に入ってきたのだ。

少女はアルマ達を見ると不機嫌そうな顔を見せる。


「何ですの貴方? ここは私の家でこれから王子様と愛を語り合うんですから帰ってくださいまし」


「そうは行きません!! クーちゃんは渡しませんよ!!」


なにやら女の闘いが勃発しようとしているんだが。


「貴方、この方の何なんですの?」


「妻です!!」


その通りです。

きっぱりと言い切ったアルマに対して少女は表情を買えずに硬直する、数秒を経過した所で表情が歪む。


「妻?妻と言うのは男と女が結婚した時の女の呼称の妻ですの?」


「その妻です」


少女がわなわなと震えだす。マズイな、何を考えているかさっぱり分からんがこのまま逆上してアルマに襲い掛かられたら溜まったもんじゃない。ココは先手必勝で動きを封じさせて貰おう。

手にした痺れ薬のフタを片手で緩めてぶちまけようとしたその時。


「……良い」


「え?」


「良いですわ、素敵ですわ! 愛した殿方が実は他の女のモノだったなんて!まるでモイスチュアの館の男爵とメイドのお話の様ですわ!! ああ、たまりませんわ」


「……この人、一体何なんですか?」


流石のアルマも付いていけないらしい、そして付いて行ける様になって欲しくない。


「かなり残念な人だからそっとしておいてあげて」


「……分かりました」


トリップしている少女の下から這いずりだした俺は、これ以上関わら無い為にアルマ達と共に元来た道を戻ろうとした、だが。


ズズゥン ズズゥン


重い音と共に洞窟が揺れる、コレはまさか・・・・・・


「ちっ、もう戻って来ましたのね、折角王子様が来て下さったというのに」


「だめだ! 出口にはダークフェニックスがいる! このままじゃ出られない!」

出口側に居たレドウがこちらに対して来るなとジェスチャーを見せる。


どうやらそのまさかだったらしい。

外で食事を終えたダークフェニックスは巣に戻ってきたようだ。


「コッソリと出ることは出来ないんですか?」


「ダメだな、ダークフェニックスは巣に近づく者を容赦しない」


俺の意見はあっさりとレドウに却下された。


「だったらダークフェニックスが再び出て行くか寝るまで待つ必要があるな」


「いや、そうも行かない、作業をする為には早く帰らないと、だが一度巣に戻ったダークフェニックスが再び外に出のは何時になるか分からない、何とかして街に帰らなければいけないというのに」


これは困った、とはいえ出られない以上はココに居るしかない訳で。


「いっそココで作業したらどうですか?」


「ココで?」


この物置、いや少女の部屋はそこそこの広さだ、部屋の一角を借りるくらいは頼めるだろう。


「ちょっと頼みがあるんだけど良いかな?」


「何ですの王子様?」


王子様違う。


「ちょっとこの部屋の隅で宝石細工の作業をさせてもらえるかな、外のダークフェニックスが巣から出て行くまでの間でいいからさ」


「それは…構いませんが……」


ちょっと含みを感じるが一応許可は得た、ココはお言葉に甘えて作業をさせてもらうか。


「許可をもらえましたし始めましょうか」


しかしレドウは浮かない顔だ、何か問題でもあるのか?


「工具が無いんだ、採掘用の工具はあるが細工用の工具となると工房に戻らないと」


ああ、そう言うことか、まぁそれなら何とかなるな。


「俺の持ってる工具を貸しますよ」


正直ペンギンのフンを加工するのに使って欲しくないが仕方あるまい。

宝物庫に仕舞ってある作業用の工具を幾つか取り出してレドウに見せる。


「コレでどうです?」


「おお!助かるよ、コレだけの工具があれば十分作業を開始できる! しかしいい工具だな」


ウチの領地にいる職人の鍛えた一品ですからね。

早速レドウは袋の中から水晶を取り出すのだが・・・


「キャアアアアアアア!!! あ、貴方! な!何をしているんでの!?」


おお? 今度は何だ? 少女が急に叫びだした。


「な、なんで、お、おか! う、排泄物をこんな所に持ってきますの!!」


ああ、そう言うことか、確かにこの高圧縮水晶はダークフェニックスのフンだもんな。

しかも素手で掴んでるしなぁ。


「と、とにかく直ぐに外に捨ててきてくださいまし!!」


「いや、無理だって、それに見なよこの水晶、これほど純度の高い水晶はそうそう無いよ」


レドウがフンを握り締め、いかにこのフンが素晴らしいかを熱く語りだす。


「たーだーのー排泄物ですわー!!」


仰るとおり、コレは作業どころじゃないなぁ。


「ソレを捨ててこないのなら今すぐ出て行ってくださいまし!! あ、王子様はずっといて下さって構いませんのよ」


「いやいや、なるべく早くお暇しますので。とりあえず外のダークフェニックスがいなくなるまでご厄介になりたいんだけどいいかな?」


「それは構いませんけど、急いだほうが宜しくてよ」


それは一体どういう事で?


「元獣には変身魔法が使える者もいますのよ、だったら大きさを替える事の出来る元獣がいても不思議ではないのでなくて?」


むむ、確かにウチのドゥーロも人間に変身するし、その可能性もあるか。

って言うかこの少女の正体もなぁ・・・


「なんでしたら私が外に連れて行って差し上げましょうか?」


「え?」


あるのか出口?


「私の願いを叶えてくださるのなら外に出して差し上げてよ」


ふむ、ここで足止めを喰らうよりは頼みを聞いた方が得策か、まずはどんな内容か確認しないとな。


「前向きに検討したいので願いの内容を教えてくれないか?」


オレの言葉を聴いた少女は顔を赤らめてポーズを取る。


「宜しくてよ! 私の願い、それは……」


一拍の間を置いて少女の告げる願い、それは……


「私と共に卵を暖めてくださいまし!!」


真っ赤な顔をして少女は言った。


お前鳥だろ。

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