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水晶の街

新章始まります。

マエスタ領の運営をミヤ達家臣にまかせ俺とアルマは新婚旅行に出ることにした。

転移装置を使って数百kmの距離を転移した異国なら俺達の素性がばれる心配も無いだろうが念のため変装をしておく。

オレは髪の色を緑に変えて服も冒険者の物に替える、アルマは髪の色をピンクに変えて髪型も三つ編みにしてある、衣装はいつものドレスではなく冒険がしやすい様に活動的なパンツルックになっている。

もちろんアルマの服はゴーレムドレスと同じ物だがでこれまでの物と比べて30%性能が向上している。

パワーアシストだけでなく、対物理、対魔法、対毒防御をそなえ幾つかのポケットは宝物庫と同じ機能を持っているので何個でも荷物が入る。

更に靴や髪飾りも魔法具だ、もし俺とはぐれてもいざと言う時は一人で戦えるレベルの装備になっている。

俺も新しい武器や防具を目立たないように地味なデザインにして装備している。

なるべく魔法具と分からないよう効力の装備で固める。

切れ味を自由に選べる魔法の剣、見た目只の鉄板つき柔皮鎧だが実際は内側にランドドラゴンの皮を張ったなんちゃって柔皮鎧だ、鉄板も金属コーティングしたランドドラゴンの鱗なので相当高性能だったりする。更に靴にはストームドラゴンの羽皮を貼り付けてあり速度が上がるようになっている。


そんな俺達は見た目オンボロ馬車に乗った行商人と言う設定だ。


「クーちゃん、町が見えてきましたよ」


いま俺をクーちゃんと言ったのはアルマだ、クラフタの名前は売れすぎたので誰が知っているとも限らない、だからこの旅ではクーと言う名前の平民として行動する事にした。


「分かった、打ち合わせとおりな、アルル」


「はい」


アルマはアルルと名乗る事にしたようだ。

街の入り口が見えて来たところで門番が止まる様に指示を出してくる。


「お前達、この町に何の・・・・・・って子供?」


馬車を覗いたら子供しかいなかったので門番も驚いたようだ。


「俺達は仲間と一緒に行商人をしていたんですが途中野党に襲われて俺達だけが逃げ延びたんです」


「そ、そうだったのか・・・・・・」


門番が気の毒そうに俺達を見てくる、実際馬車には幾つもの切り傷や魔法で付いた燃え跡がある、野党に襲われたと言う説得力になる。

なおこの馬車を傷つける際には説得力を持たせる為にウチの街を活動拠点にしていて信用の置ける古参冒険者連中に全力でやってもらった。

流石に危ないのでアルマは乗せなかったが全力で馬を走らせて逃げる俺に対して全員が本気で全力攻撃してきたのは気のせいではなかったような気もする。

全員一度タイマンで話し合う必要が在ると確信した、肉体言語でな。


「それで、どうするんだ? かわいそうだが国に泣き付いてもどうしようも無いと思うぞ」


それは承知している、むしろそう言う国だからこそここを最初のスタート地点に選んだのだ。

この国エルーカは直径50kmほどの小国、驚くほど小さいが中世ならばそれもおかしくない。

政治的意図であえて侵略されなかった国というのは割とあるのだ。

今現在この国は国王が死んで王位継承者達が血で血を洗う政治闘争の真っ最中だ。上がそんなだから国も混乱して正常などできる訳がなく、その混乱を好機と見た悪党達が大暴れしていた。

そんなわけでこの国は俺達の設定の様に家族を失った者達がいてもなんらおかしくない情勢なのだ。

なにしろ身内同士の小競り合いの所為で騎士団は街道にでる盗賊退治もできない有様だ。

同じ貴族として思う所が無い訳でもないがこれはあくまで他国の話だ、俺がでしゃばるのは筋違いというか内政干渉になってしまう。


「殆どの荷物は奪われてしまいましたが馬車といくらかの荷物が無事なのでこのまま行商を続けたいと思っています、商売の許可を戴きたいんですがどこに行けば良いですか?」


「若いのにしっかりしてるんだな」


「じいちゃんが魔物に殺された時に父さんが言ってたんです、生きてるなら物を売って旅を続けろって」


「そうかそうか」


俺達の作り話に同情した門番は商売の手続きをする場所だけでなく安くて安全に馬車を止めれる宿も教えてくれた。


「この街は今祭りの真っ最中だ、たっぷり楽しんでいってくれ・・・っと!言い忘れていた、その分スリやら何やらがいるから気をつけろよ」


「ありがとうございます」


「応、妹さんとも仲良くな」


門番は入門料の銅貨10枚を受け取るとアルマ、いやアルルの頭をなでて言う。


「妹じゃなくて妻ですよ、俺達夫婦なんです」


「へ?」


門番の動きが止まる。


「行商をしていた父さん達が決めた許婚だったんですよ」


「そりゃ、なんというか、お幸せに」


「ありがとうございます」


アルマが優しく微笑んでお礼を言った所で俺は馬車を進める。

なにやら後ろの方で


「あんな子供が結婚してるのにお前はなぁ」


「うるせぇ!!」


とか聞こえるがそっとしておこう。


「ふふ」


隣でアルマが笑っている。


「どうした?」


俺が聞くとアルマは上機嫌で応える。


「お幸せにですって、ふふ、初めて言われました」


そのままアルマは上機嫌で笑い続ける。

そういえば俺達の結婚式の時はもっと損得勘定に満ちた祝いの言葉ばかりだったからなぁ。


「改めて結婚式挙げるか?」


「え?」


「結婚式、今度は二人だけで平民として結婚するんだ」


「・・・・・・」


あれ?リアクションが無い、もしかして呆れられたか?


「ん?興味なかったか、じゃあ止めと・・・」


「結婚式! したいです!!」


アルマがオレの肩を掴んで求めてくる。


「おおおぅ!!」


あっぶねー、危うく馬車の操作をとちる所だった。


「結婚式挙げてくださるんですか!?」


「アルルが望むならな」


「是非!!」


かなり喰い気味で賛同してくれた、やはり欲得に満ちた貴族の結婚式では無い純粋な結婚式に憧れがあったようだ、そういえばよく街で行なわれる結婚式を見ていたな。

ふむ、約束したことだし折を見て結婚式を挙げるか。


「じゃあ今度結婚式するか」


「はい!」


門がゆっくりと開き俺は馬車を進める。


「中に入ったら驚くぜぇ」


そう言って別の門番が俺達を見送る、門に入って気付いたが不思議な事にこの門の中は細長く「く」の字に進む構造となっていた。


「なんでこんな変な構造にしたんだ?」


「盗賊除けでしょうか?」


アルマの解釈も理解できるがソレだけなら「門」と「街壁」だけで十分ではないだろうか?

そもそもくの字では通すことの出来る荷の大きさに限界がある、もちろんそれを理解した大きさではあるのだろうが。

だが門番の言った言葉の意味、そしてこの門の構造、それは門を抜けた先の光景が強制的に理解させてくれた。


そこに広がるのは万華鏡だった。


キラキラと七色に輝く万華鏡の街、町中が宝石で輝いていた。


「綺麗・・・・・・」


アルマがため息を漏らしながら呟く、「綺麗」文字通りその言葉しかなかった。

町中にキラキラ輝くと花、鳥、魚、水、動物が飾り立ててある、それはまるで御伽話の様に幻想的だった。


「驚いたかい旅人さん」


「うぇっ!?」


惚けていた時に突然声をかけられたので体がビクリと固まる。


「おお、驚かせちまったか、悪い悪い」


見ると外に居た門番と同じ格好をした男が立っていた、どうやら街の住人の様だ。


「ようこそ、グライトの街へ。この時期に来た客人が良く事故を起こしかけるんでね、こうして中で声をかけているのさ」


なるほど、確かにコレは事故るわ、これだけ意識を持っていかれる光景を見れば誰でも注意力散漫になってしまうというものである。


「お心遣い痛み入ります」


「ああ、たっぷり楽しんでいってくれよ」


どうやらあの門の構造はこうやって中に入った人間が驚くように設計されていたらしい、もっとも驚いた客がそのまま事故を起こすことまでは想定外だったようだが。



とりあえずは宿だ、門番に教えて貰った道を通って紹介された宿に向かおう。


「ホント綺麗、姉様にも見せてあげたい」


「フィリッカがいたら今頃飛び出していってるだろうな」


「ふふ、そうですね」


フィリッカは今頃王都に戻る旅路の途中だ、なにしろ今までずっとマエスタ領で視察と言う名目で遊び惚けていたのだから、陛下からそろそろ返せと直接クレームがきたくらいだ。

なお、今回の新婚旅行という名の出奔は陛下の許可を得ている。

通信機による定期的な報告と旅先で集めた情報を報告する事が条件だ、表向きは。


今回の暴泳族の件で表ざたになったのだがやはり平民上がりの、しかも子供が目立つのは色々と反発を生む、たとえそれが王国にとって多大な利益をもたらすとしてもだ。

オーリー山の鉱山、モネ湖の水産資源、イージガン平原の土地と新たな街、そして偶然発掘した魔王食ダンジョン(仮)、どれ一つとっても王国にとっては有益な資源であると同時に税の徴収源だ。

領主として俺が得た税の一部はそのまま国に流れていく、さらに人材紹介や交易で他の貴族も潤っている。

しかしそれとこれとは違う、とメンツを何より重要視する連中に俺の存在は目障りなようで。

なお、そういった連中もしっかり利権に食い込んで潤っている模様、これもまたそれはそれコレはコレと言う訳らしい。

なのでほとぼりが冷めるまでは姿を消すことにしたのだ、そこにいなければ目立ちようがないからな。

とはいえ領主が長期間留守にするのはマズイので一応表向きはマエスタ領にいることになっている、その為に第一の家臣であるミヤや護衛のレンは置いてきた。

護衛の仕事ができないとレンはかなりゴネたが何とか説得した、護衛であるレンを街に置く事で俺も近くにいると思わせる変則的な護衛と言うことで納得して貰った、割と強引に。

なおドゥーロは貴重な観光資源なのでこれまた置いてきた、キャッスルトータス姿のドゥーロは観光の目玉の一つなのである、いわゆる客寄せパンダだ、お爺ちゃんお婆ちゃんがお供え物を供えて拝んでいくらしい。


なので俺達が国外に出ていることを知っているのは陛下、ミヤ、そして護衛のレンだけだ。ドゥーロに政治的なことは理解できなので教えていない。

家臣達にバレないはずも無いがそこはそれ、彼らはミヤにしっかり調教されているので問題ない。


アリスは店があるので来れないが珍しい食材があったら販路も含めて確保するように頼まれている、貴重な空気の読める女である。


一応有事の際を考えて師匠達に留守を伝えたんだがついでとばかりに面倒なお使いを頼まれてしまった、が、それはまたの機会に話そう。

と言う訳で今回の旅行は本当に俺とアルマの二人っきりなのである、邪魔が入らないという意味でな。



さきほど門番に教えられた宿パンコ亭を見つけたのでさっそく中にはいって部屋を借りる事にする。


「部屋を取ってくるから馬車を頼む」


「はい!」


ご機嫌なアルマに馬車を任せた俺は宿に入って部屋を取ろうとしたのだが・・・


「くそ!ここも駄目かよ!!」


勢い良く宿のドアが開かれ中から不機嫌そうな2人組の男が現れた。


「しょうがないよ、この時期だもん」


「くっそ、町まで来て野宿とかたまんねぇぜ!! 戻ったらあいつ等になんて嫌味言われるか」


中から現れたのはリーゼント風の髪形をしたヤンキーっぽい兄ちゃんだった。

なにやらご立腹の様だ。


「あれ? 君もここに部屋を借りに来たの?」


二人組の不機嫌ではなさそうな方が俺に気付いて声をかけてくる。

人懐っこそうなやわらかい笑顔の男だ。


「え、ええ」


「だったら無駄足みたいだよ、僕達も満室だからって断られちゃってね」


「そうだったんですか、教えて頂きありがとうございます」


「どういたしまして」


どうやらこの宿は満室の様だ、これは無駄足だっただろうか?

とはいえ一応紹介して貰えたのだから聞くだけ聞いておこう、あとで俺達がこなかったと分かったら門番も良い気分ではないだろうからな。


宿に入るとカウンターには無愛想な感じのする老人がいるだけだった。


「すいませーん」


「悪いけど満室だよって、子供がなんの様だい?」


断ろうとしたカウンターの老人は俺の姿を見て言葉を変えた。

やはり子供の旅人は珍しいのだろう。


「宿を借りたいのならここに行けって門番のモリアと言う方に教えていただきました」


「モリアか、悪いが今は祭りの時期だから部屋が無くてな」


「そうですか、それは失礼しました」


「ああ待て、何人だ?女子供だけならまぁ融通できん事も無いが」


なるほど、複数人の家族連れだと思われたわけだ。


「俺を入れて二人です」


「親子旅か、それなら構わんぞ、狭い部屋でよければな」


「ありがとうございます、馬車を預けても宜しいですか?」


「ああ、店の左隣に馬小屋があるからそこに入れてくれ」


「分かりました、あと訂正ですが親子ではなく夫婦です」


「へ?」


本日2度目の「へ?」頂きました。

ポカンとしている老人に2人分の宿代を渡し馬車を馬小屋に入れる。



「はぁ、その年で結婚たぁ恐れ入ったぜ、異国の子供は進んでるんだな」


「親の決めた許婚なんですよ」


嘘は言っていない、過去形の婚約者だが。

馬車を止めた俺達は老人に案内されて部屋に向かう。


「悪いが残ってる部屋は屋根裏の狭い部屋だけなんだ、まぁ子供二人なら十分な広さだろう、その分代金は勉強してやるよ、今日の夕飯は期待しとけ」


「ありがとうございます」


この宿は基本泊まるだけだが金さえ出せば料理も出してくれるそうだ。

門番の人の話によると味は中々のモノらしい。


「この部屋だ」


老人に案内された部屋は本当に屋根裏部屋だった、狭い部屋に申し訳程度に小さなベッドが置いてある。


「小さいベッドだが問題なさそうだな、ああ先に言っとくが壁は厚くないから夜に運動する時は気をつけな」


余計なお世話である、ほらアルマが顔を真っ赤にして俯いているじゃないか。

俺が軽く睨むと「冗談だ」と笑って部屋を出て行った。


「新婚旅行ですものね」


「いやいやいや」


真に受けないで欲しい。


「とりあえず商工会に行って商売の許可を貰おう」


まずは身元をハッキリさせるためにも商工会で商人という身分が必要だ、子供が二人で旅をするもっともらしい理由が無いと何かあった時色々と不審がられてしまうからな。

二人で散歩がてら登録に行くとしよう、カウンターの老人に挨拶をして出かけようよしたのだがふと気になったことがあったので聞いてみる。


「そういえば祭りって言ってたけど何かあるんですか?」


「お? ああ、今は年に一度の水晶祭の時期だからな」


「水晶祭?」


「聞いた事が無いお祭りです」


「水晶祭を知らないって事はお前さん達外国から来たのか?」


どうやらこの国ではメジャーな祭りの様だ。

俺達が知らないと応えると老人は物語でも聞かせるように話し始める。


この町は水晶がよく摂れる事で有名な町で水晶を加工した水晶細工が名産として有名らしい。

そして年に一度町中の職人が作った水晶細工を使った祭りが行なわれる、それが水晶祭りだそうだ。


「お前さん達は運が良い、普通なら1週間前には殆どの宿が満室になっちまうからな」


なにやら俺達の借りた部屋を使っていた客が急な用事でチェックアウトした直後だったらしい。

俺達の前に来た二人組は人数の関係で部屋を借りれなかったみたいだ。


「折角だし今日は商工会で登録をするだけにして明日は祭りを目一杯楽しむ事にしようか」


「はい!」


初めての旅行で偶然遭遇した年に一度の祭り、これはなかなか楽しめそうである。

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