71. 発見、イェタの新しい特技
魔動タンクたちの偵察に向かったルマールさんと兵士。
休息を取りながら彼らの帰りを待っていると、ブラウニーの従魔、ウニが鳴き声を上げた。
「きゅっ!」
「ルマールさん達、帰ってきたみたいだよ!」
イェタが通訳をしてくれる。
「ただいま戻りましたぞ!」
こちらに歩いてきた彼らに、「ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかける。
「起伏のある場所なので、ここからは見えませんが、それなりの数の魔動タンクに出会いましたな」
ルマールさんの報告。
荒野ではあるが、丘が連なっていて、今ここから見える魔動タンクの数は四台程度。実際には、もっと多くの魔動タンクがいるとか。
「彼らは、ここら辺の地域に散らばっているのか、どのぐらいの数がいるのかはわかりませんでしたが」
文官のユイさんによると、ここら辺一帯に魔動タンクが集まってきていると聞いていた。
あんまり群れで活動するゴーレムではないのか、けっこう広範囲に散らばっているみたいだ。
「魔物も探しましたが、イェタ殿の情報どおり、戦闘力のあるものは見つかりませんでしたな。足あとも見つかりませんでした」
ルマールさんと兵士は、けっこう長時間、偵察をしていた。
その時間で、足あとを見つけるのが得意なルマールさんが、魔物などがいないことをしっかり確認してくれたようだ。
「イェタによると、ここら辺の魔物は、魔動タンク達が倒しているんでしたっけ」
「ええ。帰ってくるとき、最後にイノシシの魔物を一体、見ただけでした。その魔物は、魔動タンクに追いたてられていました」
そんな情報をくれるルマールさん。
「たまたま、こちらに逃げてきたので、その魔物と戦闘をしてみましたが、魔動タンクは警戒しながらも、こちらを見ているだけでした」
武器を出していると、魔動タンク達を刺激し、戦闘になるかもしれないとのことだった。
だが魔物と戦うときは、武器を出しても大丈夫だとイェタは言っていたから……。これも彼女のメッセージの通りだ。
「……そのまま武器を出しっぱなしにしてみたところ、周囲の魔動タンクが集まってきて我々を取り囲み、追い立てられてしまいましたが」
ルマールさんは、危険なテストもしていた様子。
「武器をしまったので戦闘にはなりませんでしたが、魔動タンク達に追い立てられるまま、そこから離れるハメになりました」
「……魔動タンク達と、戦闘にならなくて良かったです」
魔動タンクを一撃で倒せる爆弾は渡してあるが、敵の数によっては危ない。怪我とか死亡とかがなくてよかった。
「良かったーっ!」
「きゅっ!」
「ええ。イェタ殿の言葉は全部正しいようでした。追い立てられたため、魔物の死骸は持ってこれませんでしたが……。すみませぬ」
ルマールさんが頭を下げたが、それはしかたないだろう。
イェタも、ルマールさん達が無事に帰ってきたことを喜んでいるようなので、問題ない。
「私からの報告は以上になります。……こちらの兵士殿は、地図に魔動タンク達の位置を記していたようですが」
その言葉に背中を押されたのか、彼と一緒に偵察に行っていた兵士が一歩進み出る。
「トーマ様……こちらを」
どれどれ、と地図を受け取る。
これを見ると、魔動タンクは、ほうぼうに散らばっている様子。
「三台から八台のチームで活動しているものが多く、あたりをパトロールしているものや、何もせず、ただジッとしているものもおりました」
そんな風になっているのか。
興味深く聞いていると、足元から「きゅっ!」と主張する声が聞こえてきて……
「なんかウニちゃんが、あの丘の向こうを直接、見てみたいって!」
ウニは気配を感じることができるが、直接、丘向こうの、魔動タンク達の様子を視認したいと思っているようだ。
「きゅっ!」
「十秒で戻ってくるから、ひとっ走り、丘の頂上まで行っても良い? って聞いてるけど……」
「……我々二人が攻撃されませんでしたし、戦闘力のない小さな魔物は無視されていました。小人サイズのウニ殿なら、大丈夫でしょう」
兵士の報告が終わったら、ウニも、俺と一緒に魔動タンクたちの様子を見に行くことになるんだが……
まあ、ずっとルマールさん達の帰りを待っていたので飽きちゃったんだろう。
「それなら……」と、うなずくと、お礼を言うようにウニが「きゅっ!」と鳴いた。
「あっ、でも……」
……でも、丘の頂上まではけっこう距離がある。十秒で行って帰るのは難しいんじゃないかな、と言おうとしたのだが――
「きゅっ!」
「行ってくるってー!」
ゆっくり行って、戻ってきて良いのよ、と伝えたかったのだが、その前にウニが走り始めてしまった。
「おお! ブラウニーというのは、ずいぶんと速く走れる生き物なのですね」
ウニのダッシュを見て、兵士が驚いているが、それは俺もだった。
速度が異様に速かったのだ。
小型犬とか猫の全力疾走の速さを二倍にした感じ。
ウニが、ものすごい速度で足元を走りぬけたせいで、魔動タンクの一台がビクっとしていたし……
「あっ、戻ってくるようですな」
三、四秒で頂上についたウニが、あたりをキョロキョロと見回し、こちらにまた走ってきた。
「きゅーっ!」
「ただいまって言ってるよ!」
「きゅっ!」
「魔動タンク、いたって!」
「お帰り……ウニは、足が速いな」
ブラウニーが人間に捕まりにくいのは、この足の速さのおかげもあるのだろう。
そんなことを思っていると、対抗意識を持ったというわけではないだろうが、イェタからの発言が――
「わたしも、ウニちゃんに乗れば速いよ!」
小人サイズの、ウニに乗る?
一瞬、何を言っているかわからなかったが、そういえば城の精霊である彼女は、体重をほとんどゼロにすることができたと思い出す。
「そんなことが、できたのか」
ウニの上に座るのか、ウニの上に立つのかはわからないが、なんとなくバランスを取るのが難しそうである。
「トーマが町に行ったりしている間に、練習した!」
獣人達と一緒に暮らし始める前か後かは知らないが、そんなことをしていたらしい。
どっちかというと、遊びの延長で練習した感じだろうか。
「見てみたい?」
イェタが、ニコニコしながら聞く。
「孫から聞いていましたが、私も実際に見たことはありませんな。見てみたいです!」
「そうですね……」
と、ルマールさんに同意する。
「わかったー!」
「きゅっ!」
そう答え、小人サイズのウニの上に立つ、子どもとはいえ、人間サイズのイェタ。
ざわりと兵士達が驚き、「きゅーっ!」とウニが走り始める。
「おお……。立ったまま、滑るように移動している感じですな」
確かにウニは小さいから、イェタの姿だけを見ると、そんな感じに見える。
足元では、ちょこまかとウニが一生懸命走っているわけだが……
「さすが秘術使いのお弟子さまと、その従魔さまだ!」
そんな声も、兵士の一部から聞こえていたが、あの真似は俺にはできないからな……
俺がウニに乗っている姿も見てみたいとか、彼らに要求されないことを祈るばかりである。
「しかし、器用だな」
イェタは、前傾姿勢になったり、カーブでは左右に傾いたりと、うまくバランスをとって、けっこう速く動けるようだ。
俺の全力疾走よりも、圧倒的に速い。
『戦の角笛』をかければ、イェタやウニでも、かなり防御力が上がる。その防御力に、さらに逃げ足が加わった。
このイェタの新しい特技を発見したおかげで、何かあれば彼女達を逃がすことが容易になったと、心配がちょっと少なくなったんだ。




