表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/89

71. 発見、イェタの新しい特技

 魔動タンクたちの偵察に向かったルマールさんと兵士。


 休息を取りながら彼らの帰りを待っていると、ブラウニーの従魔、ウニが鳴き声を上げた。


「きゅっ!」

「ルマールさん達、帰ってきたみたいだよ!」


 イェタが通訳をしてくれる。


「ただいま戻りましたぞ!」


 こちらに歩いてきた彼らに、「ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかける。


「起伏のある場所なので、ここからは見えませんが、それなりの数の魔動タンクに出会いましたな」


 ルマールさんの報告。


 荒野ではあるが、丘が連なっていて、今ここから見える魔動タンクの数は四台程度。実際には、もっと多くの魔動タンクがいるとか。


「彼らは、ここら辺の地域に散らばっているのか、どのぐらいの数がいるのかはわかりませんでしたが」


 文官のユイさんによると、ここら辺一帯に魔動タンクが集まってきていると聞いていた。


 あんまり群れで活動するゴーレムではないのか、けっこう広範囲に散らばっているみたいだ。


「魔物も探しましたが、イェタ殿の情報どおり、戦闘力のあるものは見つかりませんでしたな。足あとも見つかりませんでした」


 ルマールさんと兵士は、けっこう長時間、偵察をしていた。


 その時間で、足あとを見つけるのが得意なルマールさんが、魔物などがいないことをしっかり確認してくれたようだ。


「イェタによると、ここら辺の魔物は、魔動タンク達が倒しているんでしたっけ」


「ええ。帰ってくるとき、最後にイノシシの魔物を一体、見ただけでした。その魔物は、魔動タンクに追いたてられていました」


 そんな情報をくれるルマールさん。


「たまたま、こちらに逃げてきたので、その魔物と戦闘をしてみましたが、魔動タンクは警戒しながらも、こちらを見ているだけでした」


 武器を出していると、魔動タンク達を刺激し、戦闘になるかもしれないとのことだった。


 だが魔物と戦うときは、武器を出しても大丈夫だとイェタは言っていたから……。これも彼女のメッセージの通りだ。


「……そのまま武器を出しっぱなしにしてみたところ、周囲の魔動タンクが集まってきて我々を取り囲み、追い立てられてしまいましたが」


 ルマールさんは、危険なテストもしていた様子。


「武器をしまったので戦闘にはなりませんでしたが、魔動タンク達に追い立てられるまま、そこから離れるハメになりました」


「……魔動タンク達と、戦闘にならなくて良かったです」


 魔動タンクを一撃で倒せる爆弾は渡してあるが、敵の数によっては危ない。怪我とか死亡とかがなくてよかった。


「良かったーっ!」

「きゅっ!」


「ええ。イェタ殿の言葉は全部正しいようでした。追い立てられたため、魔物の死骸は持ってこれませんでしたが……。すみませぬ」


 ルマールさんが頭を下げたが、それはしかたないだろう。


 イェタも、ルマールさん達が無事に帰ってきたことを喜んでいるようなので、問題ない。


「私からの報告は以上になります。……こちらの兵士殿は、地図に魔動タンク達の位置を記していたようですが」


 その言葉に背中を押されたのか、彼と一緒に偵察に行っていた兵士が一歩進み出る。


「トーマ様……こちらを」


 どれどれ、と地図を受け取る。


 これを見ると、魔動タンクは、ほうぼうに散らばっている様子。


「三台から八台のチームで活動しているものが多く、あたりをパトロールしているものや、何もせず、ただジッとしているものもおりました」


 そんな風になっているのか。


 興味深く聞いていると、足元から「きゅっ!」と主張する声が聞こえてきて……


「なんかウニちゃんが、あの丘の向こうを直接、見てみたいって!」


 ウニは気配を感じることができるが、直接、丘向こうの、魔動タンク達の様子を視認したいと思っているようだ。


「きゅっ!」


「十秒で戻ってくるから、ひとっ走り、丘の頂上まで行っても良い? って聞いてるけど……」


「……我々二人が攻撃されませんでしたし、戦闘力のない小さな魔物は無視されていました。小人サイズのウニ殿なら、大丈夫でしょう」


 兵士の報告が終わったら、ウニも、俺と一緒に魔動タンクたちの様子を見に行くことになるんだが……


 まあ、ずっとルマールさん達の帰りを待っていたので飽きちゃったんだろう。


「それなら……」と、うなずくと、お礼を言うようにウニが「きゅっ!」と鳴いた。


「あっ、でも……」


 ……でも、丘の頂上まではけっこう距離がある。十秒で行って帰るのは難しいんじゃないかな、と言おうとしたのだが――


「きゅっ!」

「行ってくるってー!」


 ゆっくり行って、戻ってきて良いのよ、と伝えたかったのだが、その前にウニが走り始めてしまった。


「おお! ブラウニーというのは、ずいぶんと速く走れる生き物なのですね」


 ウニのダッシュを見て、兵士が驚いているが、それは俺もだった。


 速度が異様に速かったのだ。


 小型犬とか猫の全力疾走の速さを二倍にした感じ。


 ウニが、ものすごい速度で足元を走りぬけたせいで、魔動タンクの一台がビクっとしていたし……


「あっ、戻ってくるようですな」


 三、四秒で頂上についたウニが、あたりをキョロキョロと見回し、こちらにまた走ってきた。


「きゅーっ!」

「ただいまって言ってるよ!」

「きゅっ!」

「魔動タンク、いたって!」


「お帰り……ウニは、足が速いな」


 ブラウニーが人間に捕まりにくいのは、この足の速さのおかげもあるのだろう。


 そんなことを思っていると、対抗意識を持ったというわけではないだろうが、イェタからの発言が――


「わたしも、ウニちゃんに乗れば速いよ!」


 小人サイズの、ウニに乗る?


 一瞬、何を言っているかわからなかったが、そういえば城の精霊である彼女は、体重をほとんどゼロにすることができたと思い出す。


「そんなことが、できたのか」


 ウニの上に座るのか、ウニの上に立つのかはわからないが、なんとなくバランスを取るのが難しそうである。


「トーマが町に行ったりしている間に、練習した!」


 獣人達と一緒に暮らし始める前か後かは知らないが、そんなことをしていたらしい。


 どっちかというと、遊びの延長で練習した感じだろうか。


「見てみたい?」


 イェタが、ニコニコしながら聞く。


「孫から聞いていましたが、私も実際に見たことはありませんな。見てみたいです!」


「そうですね……」


 と、ルマールさんに同意する。


「わかったー!」

「きゅっ!」


 そう答え、小人サイズのウニの上に立つ、子どもとはいえ、人間サイズのイェタ。


 ざわりと兵士達が驚き、「きゅーっ!」とウニが走り始める。


「おお……。立ったまま、滑るように移動している感じですな」


 確かにウニは小さいから、イェタの姿だけを見ると、そんな感じに見える。


 足元では、ちょこまかとウニが一生懸命走っているわけだが……


「さすが秘術使いのお弟子さまと、その従魔さまだ!」


 そんな声も、兵士の一部から聞こえていたが、あの真似は俺にはできないからな……


 俺がウニに乗っている姿も見てみたいとか、彼らに要求されないことを祈るばかりである。


「しかし、器用だな」


 イェタは、前傾姿勢になったり、カーブでは左右に傾いたりと、うまくバランスをとって、けっこう速く動けるようだ。


 俺の全力疾走よりも、圧倒的に速い。


 『戦の角笛』をかければ、イェタやウニでも、かなり防御力が上がる。その防御力に、さらに逃げ足が加わった。


 このイェタの新しい特技を発見したおかげで、何かあれば彼女達を逃がすことが容易になったと、心配がちょっと少なくなったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ